選ばれし100年の最弱剣士~100年前まで最強でしたが今や最弱採取係です~

海野藻屑

第24話 それぞれの課題

バタンと大きな音を立ててギルドの扉が開かれた。
そこには息を切らして肩を上下させる青い髪の少女がいる。
彼女が誰かを探すようにギルドを見回していると、一人の男が声をかけた。

「レイちゃん…!」

沈んだ表情のフラートが処置室から顔を出していた。
それに気付き、レイは乱れる呼吸を整えることなく歩を進める。

処置室に入った彼女の視界に入ってきたのは、腹から血を流し絶命した女の姿だった。

「…応急処置はしたんだが、間に合わなかった。すまない…」

女の隣で立ち尽くすフラートが、合わせる顔がないといった様子でレイに謝罪する。
その顔は罪悪感で満ちていた。
その側には女の手を握り締めて啜り泣く男の姿があった。

二人とも完全に諦めていて、今にも罪悪感で押し潰されそうな様子だ。

しかしそんな中、駆け付けたレイの瞳だけは、まだ光を失っていなかった。

「大丈夫、まだ助かる!ううん、助ける!」

レイが発したその言葉は俄に信じがたかったのだろう。二人は言葉を失った。
だがそれでも、彼らには雄一の希望だった。




隠し部屋に入ったユキは、全体を見渡して状況を把握している。
部屋の中央にあった3mほどだったはずの穴が、いつの間にか倍ほどの大きさにまで範囲を広げていた。

「土属性魔法なら塞げる」

そう言って魔法を発動させようとしたまさにその時、落とし穴の闇の中にたしかに、大きな影を発見した。
その影は壊されてガタガタになった穴の縁に勢いよくぶつかり、その勢いのまま抉って13層に現れた。

「…アドムルット」

現れたのは、先日286層に訪れたときに何頭か倒したアドムルットだった。
体長は約4m。猛毒の霧を吐き、それを体現させたかのような紫色の体毛で全身を覆っている。
暗闇を好むためか視力は退化しており、縁に激突したのもそのせいだろう。

仕事が1つ増えたと思い、ユキは俯いて短いため息をつく。
そして壁に張り付いているアドムルットに視線を移した。

「あっちはもっと大変。これくらいはすぐ片付ける…」

隠し部屋の外で、モンスターの咆哮が響いた。




モンスターの咆哮が反響し、その音はより大きく聞こえる。
だが、ライは怯まずに一歩前へ踏み出した。
砂埃が舞う。

「とりあえず、お手並み拝見かな!」

高速移動を使ったライは既にモンスターの背後にいた。
そして胴体を薙ぎ払おうと剣が空を切る。

しかしライの剣が胴体に当たる前に、金属同士がぶつかったような音が響く。
受けたのは、あの長く鋭い爪だった。

「こりゃ、一筋縄じゃいかなそうだな。」

ライは爪を弾き、その勢いで後退する。

「まさかこんなに速いとはね。さて、次はどう行こうかな。」

再び剣先をモンスターへ向ける。
その顔は期待に満ち溢れて笑っていた。

再び砂埃が舞う。
背後に回ったライは、先程と変わらず胴体に向かって剣を振るう。
だがやはり、モンスターはそれに気付いて爪でガードした。

そして衝突する寸前、

ライは剣を放した。

器用に床と壁を蹴り返し、ライがモンスターの頭上を舞う。
まるで踊っているようだった。
刹那を永遠と思わせるような可憐さを纏っていた。

この緊迫した場面で、イールは能天気にも魅了されてしまった。

ライは体を捻らせて勢いをつけ、拳に力を込めた。

「ペルクートッ!」

彼女の拳は刺さるようにモンスターの頭に命中し、そのまま地面に叩きつけた。

地面にはヒビが入り、モンスターの頭はその中央で埋まっている。
ピクリとも動かない。

「なーんだ弱いじゃん。つか同じ事二回するわけないっつーの。少しは対処してほしかったわ。」

落とした剣を広いながら、ライはそんな事を言っている。
剣を鞘に納めると、ライは頭に手を回して悦に入る。

「掃除かんりょ~う。みんなのとこ行こーぜ、イール。」

その言葉に、不満そうにおうと応えたイールだったが、モンスターに背を向ける瞬間、
目の端に映っていたモンスターの頭に赤い光が現れるのを見逃さなかった。

「ライ!伏せろ!」

「へぇ?」

イールの声に素っ頓狂な反応をしたライは、結局状況が掴めずすぐには伏せなかった。
そしてやっと気付いたときには、既に黒いブレスが彼女の目の前まで迫っていた。

対処し切れず、ライはそのまま壁に叩き付けられ、口から血を吐く。
その体は弾かれてうつ伏せに倒れこんだ。

「ライ!」

伏せていたイールは起き上がり、ライのもとへ走る。
その間、何度か背後にブレスが迫ったが、この採取係は何故だか綺麗に避けてライの側まで駆け寄った。

「おい、大丈夫か?」

顔を伏せたまま、ライは指で○を作る。

「大丈夫大丈夫、オールオッケー。」

腕を立て、膝を立て、ライは服に着いた埃を叩く。

「あとは任せて。」

そう言って剣を抜き、いつもとは違って片手で構えた。

「必殺技、見せてやるよ。」

深呼吸をして、ゆっくりと一歩踏み出した。




ここまで長くなるとは自分でも思ってなかったです(笑)
次回も戦闘シーンは続きます!
もちろん、ユキの戦闘も書くつもりです!

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