選ばれし100年の最弱剣士~100年前まで最強でしたが今や最弱採取係です~
第22話 ノブレス・オブリージュ
渋々二人分の代金を支払ったイールは、喫茶店を後にして帰路に就いていた。
ぶつぶつとお金についての愚痴を溢しながら歩くと、意外と周りのガヤガヤが気にならないものである。
しかし、彼がギルドの前を通りかかったとき、その喧騒は愚痴を超えて彼の聴覚を刺激した。
「本当なんだってフラート!でっかいムルットみたいな奴が13層に現れたんだ!」
一人の男の声が他より一層大きく聞こえてきた。それはただ大きいのではなく、震えていて涙声にも聞こえる。
「落ち着けって。今までそんな報告はなかった。見間違いじゃないのか?」
男の話と返事の声を考えると、フラートが返したのだと分かった。
気になったイールはギルドの入り口をくぐると、二人を見つけて声をかける。
「何かあったのか?」
「あぁ、イールか。実は13層で不思議なモンスターの目撃情報があってな。」
そう言うと、汗で頭をテカらせたフラートは目撃した男に目をやる。イールに説明してくれと頼むように。
気付いた男はイールを見て怪訝そうな顔をしつつも、13層での出来事を語り始めた。
「ムルットは分かるよな。毒性の強い30センチくらいのコウモリだ。でも13層にいた奴は普通のムルットの何倍もの大きさで、闇属性のブレスを吐いてた。しかも13層のモンスターを何匹も、尋常じゃない速さで襲って喰っちまったんだ!」
男の恐怖に怯える表情を見て、説明は嘘でないことが分かる。男の汗や体の震えから、相当な恐怖を植え付けられたことが容易に想像できるからだ。
しかし、イールには1つ引っ掛かる所があった。
ダンジョン内のモンスターは、基本的にはダンジョンの壁から染み出る汁を飲んでいれば生きていけるはずだ。
たとえ群れをなさないモンスターでも、自らが死ぬのを恐れて他の個体を攻撃したり、餌にしたりはしない。
にもかかわらず、でかいムルットやらはモンスターを捕食した。
理由は分からないが、それはモンスターの間に明らかな戦力差があったことを示す。
___そこから考えられる可能性は
「…下層のモンスターが上層に移動した?」
イールの言葉に、フラートは目を見開いて分かりやすく驚いた。
坊主頭がさっきよりもテカっている。
わなわな震えた男を気にする余裕もなく、彼は答えを急かした。
「それってもしかして、286層の…」
「…あぁ、多分な。」
それを聞いた男は、震える身体を抱いてしゃがみこんだ。
尚も震える身体を押さえようと必死に締め付ける。
「あぁぁ…あんたらのせいだ…。あんたらが始末を怠ったから…」
その通りだ。
イールのパーティーがエイナを助けたことで慢心を抱いていなければ、こんなことにはならなかった。
返す言葉もない。
唇を噛み締め、ぶつけようもない感情が漏れるのを押し殺していると、ギルドの扉が開いて新たな声が響いた。
「フラートはいるか!コイツが13層でモンスターに襲われた!至急対処してほしい!」
入り口に視線を移すと、一人の男が、腹から血を流した女を抱えて立っていた。
女は腹を押さえているが、出血量が多過ぎて止まる気配がない。
彼女自身も虫の息で、死ぬのは時間の問題だろう。顔は真っ白になっており、目も虚ろになりかけている。
意識を保っていることすら、今の彼女には辛いことかもしれない。
彼女が弱々しく呼吸をする度に、イールに罪悪感がのしかかる。
思わず目を逸らしてしまいたくなるが、自らの責任から逃げることはできないことを思い出し、今自分がするべきことを考えた。
「フラートさん!俺の家に置いてあるクリシュタルスのペアはどこにある?」
ビクッと肩を上げたフラートは、突然2つの事を要求されたからかイールと入り口を交互に見る。
彼も相当焦っているらしい。
しかし彼の返事を待つ二人の男には、彼に迷う暇を与えない。
「「早く!!」」
もう一度肩をびくつかせたフラートは、正気を取り戻したのか自分の両頬を平手で叩き、一息ついた。
「はぁ。クリシュタルスは受付の棚だ!」
まずは受付を指差し、イールの問に答える。
そして入り口に向き直り、受付の奥にある処置室の方へ親指を向けた。
「彼女はそっちに運べ!取り敢えず応急処置だ!俺も手伝う!」
すまんと一言言って、男は処置室へ向かった。それに続くようにフラートも走り出す。
ギルドの中は今の騒動で一瞬静かになっていたが、状況を把握できない者たちが再び口を開き、ざわつき始めた。
「イール、できるだけ早く頼む。」
処置室に入る直前、フラートはイールにそう言った。
どうやら彼にはイールの意図はお見通しだったらしい。
イールはクリシュタルスを見つけ、すぐに家のものと繋いだ。
ライが何故か、座っているユキの胸ぐらを掴み揺さぶっているのが浮かび上がる。
そんな様子に一瞬気が緩みそうになったが、事の重大さを思い出してクリシュタルス向かってに思いっきり叫んだ。
「レイ!すぐにギルドに来てくれ!他はダンジョンの前に集合だ!エイナも!」
その声があちらにも聞こえ、何処からかレイが顔を覗かせた。
不思議そうに「イール?」と問う彼女に、時間がない今、少し苛立ちを感じる。
それを伝えようと、イールは全ての感情をこめて腹から声を出した。
「大至急だ!」
その叫びで、再びギルドに沈黙が訪れた。
ぶつぶつとお金についての愚痴を溢しながら歩くと、意外と周りのガヤガヤが気にならないものである。
しかし、彼がギルドの前を通りかかったとき、その喧騒は愚痴を超えて彼の聴覚を刺激した。
「本当なんだってフラート!でっかいムルットみたいな奴が13層に現れたんだ!」
一人の男の声が他より一層大きく聞こえてきた。それはただ大きいのではなく、震えていて涙声にも聞こえる。
「落ち着けって。今までそんな報告はなかった。見間違いじゃないのか?」
男の話と返事の声を考えると、フラートが返したのだと分かった。
気になったイールはギルドの入り口をくぐると、二人を見つけて声をかける。
「何かあったのか?」
「あぁ、イールか。実は13層で不思議なモンスターの目撃情報があってな。」
そう言うと、汗で頭をテカらせたフラートは目撃した男に目をやる。イールに説明してくれと頼むように。
気付いた男はイールを見て怪訝そうな顔をしつつも、13層での出来事を語り始めた。
「ムルットは分かるよな。毒性の強い30センチくらいのコウモリだ。でも13層にいた奴は普通のムルットの何倍もの大きさで、闇属性のブレスを吐いてた。しかも13層のモンスターを何匹も、尋常じゃない速さで襲って喰っちまったんだ!」
男の恐怖に怯える表情を見て、説明は嘘でないことが分かる。男の汗や体の震えから、相当な恐怖を植え付けられたことが容易に想像できるからだ。
しかし、イールには1つ引っ掛かる所があった。
ダンジョン内のモンスターは、基本的にはダンジョンの壁から染み出る汁を飲んでいれば生きていけるはずだ。
たとえ群れをなさないモンスターでも、自らが死ぬのを恐れて他の個体を攻撃したり、餌にしたりはしない。
にもかかわらず、でかいムルットやらはモンスターを捕食した。
理由は分からないが、それはモンスターの間に明らかな戦力差があったことを示す。
___そこから考えられる可能性は
「…下層のモンスターが上層に移動した?」
イールの言葉に、フラートは目を見開いて分かりやすく驚いた。
坊主頭がさっきよりもテカっている。
わなわな震えた男を気にする余裕もなく、彼は答えを急かした。
「それってもしかして、286層の…」
「…あぁ、多分な。」
それを聞いた男は、震える身体を抱いてしゃがみこんだ。
尚も震える身体を押さえようと必死に締め付ける。
「あぁぁ…あんたらのせいだ…。あんたらが始末を怠ったから…」
その通りだ。
イールのパーティーがエイナを助けたことで慢心を抱いていなければ、こんなことにはならなかった。
返す言葉もない。
唇を噛み締め、ぶつけようもない感情が漏れるのを押し殺していると、ギルドの扉が開いて新たな声が響いた。
「フラートはいるか!コイツが13層でモンスターに襲われた!至急対処してほしい!」
入り口に視線を移すと、一人の男が、腹から血を流した女を抱えて立っていた。
女は腹を押さえているが、出血量が多過ぎて止まる気配がない。
彼女自身も虫の息で、死ぬのは時間の問題だろう。顔は真っ白になっており、目も虚ろになりかけている。
意識を保っていることすら、今の彼女には辛いことかもしれない。
彼女が弱々しく呼吸をする度に、イールに罪悪感がのしかかる。
思わず目を逸らしてしまいたくなるが、自らの責任から逃げることはできないことを思い出し、今自分がするべきことを考えた。
「フラートさん!俺の家に置いてあるクリシュタルスのペアはどこにある?」
ビクッと肩を上げたフラートは、突然2つの事を要求されたからかイールと入り口を交互に見る。
彼も相当焦っているらしい。
しかし彼の返事を待つ二人の男には、彼に迷う暇を与えない。
「「早く!!」」
もう一度肩をびくつかせたフラートは、正気を取り戻したのか自分の両頬を平手で叩き、一息ついた。
「はぁ。クリシュタルスは受付の棚だ!」
まずは受付を指差し、イールの問に答える。
そして入り口に向き直り、受付の奥にある処置室の方へ親指を向けた。
「彼女はそっちに運べ!取り敢えず応急処置だ!俺も手伝う!」
すまんと一言言って、男は処置室へ向かった。それに続くようにフラートも走り出す。
ギルドの中は今の騒動で一瞬静かになっていたが、状況を把握できない者たちが再び口を開き、ざわつき始めた。
「イール、できるだけ早く頼む。」
処置室に入る直前、フラートはイールにそう言った。
どうやら彼にはイールの意図はお見通しだったらしい。
イールはクリシュタルスを見つけ、すぐに家のものと繋いだ。
ライが何故か、座っているユキの胸ぐらを掴み揺さぶっているのが浮かび上がる。
そんな様子に一瞬気が緩みそうになったが、事の重大さを思い出してクリシュタルス向かってに思いっきり叫んだ。
「レイ!すぐにギルドに来てくれ!他はダンジョンの前に集合だ!エイナも!」
その声があちらにも聞こえ、何処からかレイが顔を覗かせた。
不思議そうに「イール?」と問う彼女に、時間がない今、少し苛立ちを感じる。
それを伝えようと、イールは全ての感情をこめて腹から声を出した。
「大至急だ!」
その叫びで、再びギルドに沈黙が訪れた。
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