選ばれし100年の最弱剣士~100年前まで最強でしたが今や最弱採取係です~

海野藻屑

第10話 いちばんの敵は油断です…。

妖精の国、アルフア。そこは自然が豊かであり、主にエルフが暮らしている。
エルフは近接戦闘よりも魔法を得意とする種族だ。魔法だけなら人類最強の魔法士であるレイやユキをも凌ぐ。
だが約100年前の出来事によって人類が生活場所を移したために、お互いの生活場所が離れ、長い間この2種族間では交易すら行われていない。
何故そんなアルフアがイギアから直線距離で2kmもしない場所にあるのか。

「ハル、冗談だろ?アルフアがこんなに近いわけないじゃないか。つーかライ、なんで手ぇ離したんだよ?俺にとってはそっちの方が大事な案件だ。」

振り向いてハルに反論する青年。違和感を最初に指摘したのはイールだったが、本人はそれよりも重要な事があるようだ。
未だ首に右手を当てて、横に曲げたり前後に曲げたり。余った左手は膝を擦っている。何バウンド目かでぶつけたのだろう。

「わ、悪かったって。でもレイが突然驚いて目ぇ開けたんだよ。それで何かあるのかと思ったから止まったんだけど、手が離れて……。でも、結局イールは外に出れたし、何も無かったみたいだな~。いやぁ、悪い悪い。」

苦笑いを浮かべて後頭部を掻きながら弁解するライの姿は、それほど反省しているようには見えない。途中妹のせいにしたのも引っ掛かるが。

「あ、そうなの。出口の1m前くらいのところに、何か見えない壁みたいな……。そんな感じのものをギリギリで認知したからつい驚いちゃって、空間認知やめちゃったんだよね。」

どうやらライの言ったことは本当のようだ。だが、イール自身はそんなものに当たった感覚は全くなく、もちろん他の四人もそのようなものは分からなかったらしい。

「……トかも……。」

ユキが小声で何か呟いた。それを聞いた途端ハルは目を大きくして納得した。どうやらハルには聞き取れたらしい。

「たしかに、ゲートなら……っ!」

そこまで言った時、五人は何かに気付いて戦闘体勢に入った。

しかしその読みは見事に外れたのか、何も起こらない。先ほどのさえずりすら聞こえないほど、静かなままだ。
聞こえるのは風が森の木々を揺らす音だけ。

恐ろしいほど平和な数秒間だった。まるで何かが起こる前兆のような、それくらいの平和だった。
その平和にボケて剣から手を離した者が一人。

「何だったんだろうな、今の。」

魔法やスキルは使えないものの、戦闘の基礎だけは一人前に備えた採取係だったが、やはり久方ぶりの実戦の予感を把握していられるのは数秒間だったらしい。
いちばん最初に気が抜けたのはイールだ。

それにつられて3人が気を抜いた瞬間。

崖の下から直径2mくらいの炎の玉が1つ確認できた。
が、確認した時にはもう遅く、既にそれは五人を襲っていた。

ドーン!ドン!ドンドン!

平和は崩壊した。
合計4回の爆発音が、森の動物たち(と言っても人間が知る見た目のものではないが)を驚かせた。
爆発の現場は洞窟の前の崖。正面からは洞窟が確認できないほどの土煙が舞っている。

土煙が納まると、そこには大きな半球が確認できた。地上にできた半透明な半球だ。
その中には五人の人がいるのがわかる。

半球が解除され、呆れた人物が口を開く。

「気抜くの早すぎ。死にたい?」

ただ一人、イールにつられずに集中していたユキだ。彼女が「防御(絶)」を発動したのは適当な判断だっただろう。さすがにこの五人でもさっきの攻撃では大ダメージを食らっていたはずだ。
他の四人が正気に戻ると、横から聞いたことのない声が聞こえてきた。

「まさか俺の魔法を完璧にガードするとは、大した奴だな、黒髪。お前、本当に人類か?」

上から目線の喋り方の主はどこにも確認できない。
声のする方を向くと、5mほど先の崖の淵にはここへ続く階段があるようで、徐々に足音も聞こえるようになったことから、声の主は今階段を上っているのだと五人は確信できた。
その声は続ける。

「それと、ゲートってのもご名答だ。」

一歩一歩、階段を上ってくるのが見える。徐々に現れたのは金髪で身長の高い青年。しかし、その頭には1つ、人間とは違う特徴がある。
尖った耳、エルフの特徴だ。
彼は感心するように腕を組み、うんうんと頷いている。

その様子を見て流石に五人とも再び気を引き締めた。剣に手をかける三人と、両手を前に出す二人。その様子を見たエルフの青年は笑顔で口を開く。

「そんなに構えないでくれよ。俺はペットを見に来ただけだ。そこの赤いのは俺のペットなんだよ。」

そう言って、さっきのさえずりを奏でた赤いものを指さす。よく見ると、それは羽の生えた熊のように思える。なんと言うか、少々合ってない気がする。

「なぁ、ベアリー?俺はお前を見に来ただけだよな?」

「嘘つくなエルフ。お前さっきユキの防御に感心してただろ。それはお前があの魔法で攻撃してきたからじゃねえのか?」

誰よりも早く剣を抜き、いちばん後ろで戦闘体勢に入っているライが問うと、ベアリーと呼ばれた赤い熊から視線を戻したエルフは溜め息をついた。

「はぁ…。バレてんなら仕方ないか。でも、あんたら俺に勝てると思って…」

ビュン!

ハルとイールの間に物凄い風が吹いた。砂埃が舞う。その風はエルフまで届き、彼の金髪を揺らしていた。

「お前はエルフなんだから、勝つにはもっと距離をとらないとな。」

自分の首に剣の感触を覚えたエルフは諦めたのか、分かりやすく肩を落とし、苦笑いで両手を挙げた。
それをエルフの後ろで見たライは、少し剣に力を入れてエルフの首に傷をつけた。赤い血が流れるが、それに対してエルフは何も言わない。痛がる様子もなく、ただ反省して、降参している。
ライの念押しは効果絶大のようだ。

「ライ、もういいんじゃない?それよりも、色々と聞く方が先でしょ。」

レイに諭されたライは大人しく剣を納めてエルフを楽にさせた。エルフは深呼吸して思いっきり脱力する。その様子を見た五人は、気を引き締めつつも安心していた。
エルフの正面に立った五人には、各々いくつか疑問があるようだ。

「とりあえず、ここはアルフアなんだよな。だけどなんでイギアの地中の塔とゲートで繋がってるんだ?」

最初に聞くべきであろう疑問をぶつけたのはイールだった。交易ができないほど国が遠くなっしまったはずなのだ。疑問に思うのも納得できる。
エルフの青年は少し考えてから口を開いた。

「あ、それは…」

「それらの問にはワシが答えよう。」

またも階段から声が聞こえた。口調とは変わって子供のような可愛い声だ。
そして見えてきた声の主もまた、子供のような容姿をしている。やはり尖った耳を持つ、白髪の少女エルフ。身長は145cmほどだが、その身長と顔立ちに合わない豊乳が、一歩進む毎に小さく揺れている。

「久しぶりじゃな、イール・ファート。」

白い歯を見せて満面の笑みを浮かべるロリ巨乳。その姿を足の先から頭の上までしっかり見たイールは、手を顎に当てて少し考える。

「白髪のロリ巨乳エルフ……。お前、まさか!」

そう言ってロリ巨乳に目を向けて、彼女の名を思い出した。

「アスフィか!?」

その大きな声は再び森の動物たちを驚かせた。




プチコーナー

ハル「私より小さいのに巨乳…。くたばれ……。」

レイ「だ、大丈夫!ハルは十分可愛いよ!えと、サイズも。」

ハル「あぁあぁあぁあ!」

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