選ばれし100年の最弱剣士~100年前まで最強でしたが今や最弱採取係です~
第9話 見たことのない風景は感動よりも疑問が強いです。
ハルの問いに最初に答えたのは珍しく腰に剣を提げた採取係。
「行ってみるか…?」
「いえ、計画無しでは危険です。そうですね。とりあえず、レイ。空間認知魔法を使ってみてください。」
ハルの指示通り、レイは空間認知をする。空間認知では、そのエリアの形を知ることができる。レイはこれを得意としていて、かなり正確な形がわかるのだ。今回は抜け穴の中に使っているようだ。
「この穴、1km以上は続いてるみたい。それも真っ直ぐ。でも、これ以上は何とも言えないかな。」
この魔法は半径1kmまでを確認できる。レイの言い方から、空間認知では一本道の洞窟のような形として捉えたのだろう。
「そうですか。ではユキ。敵をサーチしてください。」
「もうした。この入り口から1kmまでにはいない。」
仕事が早いユキである。ユキのサーチは信頼できる。存在だけでなく、その敵の形や動きまでも探知するのだ。
「ハル。どーすんの?行くの?」
ライは行きたいのだろう。さっきからそわそわしていて落ち着いていない様子だ。しかし、その根底にあるのは、冒険者への罪悪感のようにも思える。
「行ってみますか。」
それを聞いたライの目はキラキラと輝いていて、餌を前にした子犬のようだ。訂正、罪悪感とか忘れてるわこの人。
「と言っても、一度ギルドに報告してからでないといけません。どれくらいの時間がかかるかわかりませんから。」
むぅぅと言ってライの首が縮こまる。
「まあいいじゃない。ここに冒険者さんがいないってことは、まだ死んではないだろうし、時間に余裕ができたってことで。」
レイがライの肩を優しく叩く。落ち込む姉の慰め方をよく知るのは妹だ。こうして見ると、姉は完全にレイなのだが。
結局五人はワープで上がり、ギルドに報告することにした。
「じゃあ俺はフラートさんに言ってくるから、みんなは必要なものとか準備しておいてくれ。」
「「りょーかーい」」
様々な感情を見せる四人の顔は、後ろを向いて見えなくなった。四人が家へ向かうのを確認したイールは、急いでギルドへ向かう。あの四人だ。準備することは殆どないだろうし、レイはああ言っていたが責任を感じているのは変わっていないだろう。皆が頭を抱えてしまう前に、できるだけ早く戻りたかった。
「あと少しだけ待っててくれ。」
普段は通らない近道の裏路地を抜け、商店街を抜け、歩く人々の肩の間を抜け、やっとギルドへ辿り着いた。
「フラートさん!」
勢いよく扉を開けたイールには、多くの視線が向けられている。そして数秒経つと、いつもと変わらずひそひそ話が始まる。
「どーした、イール。駆け出しは見つかったか?」
息が荒いまま、「報告」と書いた看板の下にいるフラートの方へ歩く。自らの息の音でひそひそ話が殆ど聞こえないほどだ。フラートの前に着くと唾をのみ、やっと口を開いた。
「いいや、悪いがまだだ。落とし穴はやっぱり286層まで続いていた。でも、そこには血すら残っていなかった。だから多分、その駆け出しは突撃する直前に風魔法でも使ったんだろう。」
「そうか。でも見つかってないって…?」
「ああ、その隠し部屋には1つの抜け穴みたいなのがあった。普通のフロアに続いてる穴じゃない。レイとユキが確認したけど、先に何があるのかはわからなかった。だから今からそこへ向かう。その報告のために来たんだ。」
一度は驚いた表情を見せたフラートだったが、イールの話を聞いて落ち着いたようだ。そして口角を少し上げて、
「そうか。お前たちなら安心だ。暫くは落とし穴に見張りをつけさせて、誰にも近づかせないようにしておくから、お前たちも安心して行け。」
そう言ったフラートの顔には期待の色がちらついている。坊主であり普段は強面だが、今はとても優しい表情だ。
「頑張ってこいよ!」
「っ!」
弟を送り出す兄のように、イールの肩をポンポンと叩くフラートの姿は、イールに昔のことを思い出させた。もう忘れてしまったはずの遠い過去の出来事を。
思わず止まってしまったイールの目には、フラートとは全く別の人物が一瞬映り込んだような気がした。
「ああ、行ってくる!」
「ルークス。」
イールが帰った後、直ぐにワープをして286層へ来た五人は、真っ直ぐ隠し部屋へ向かった。どこからか光が差し込んでいる部屋だが、流石に抜け穴は真っ暗なため、ちょうどレイがルークスで光をつけたところである。
「行きますか。とりあえず1kmは安全ですし。念のため、レイとユキは空間認知とサーチを使い続けていて下さい。」
穴の中は部屋よりも涼しい。全員が長袖だから大丈夫なものの、半袖だったら寒いくらいだ。先程までの部屋とは違い、壁はゴツゴツしていない。人工的に作られた穴としか思えないほど整っている。触れてみるとツルツルしていて、癖になってしまいそうだ。
「一体何のための穴なんだろう。」
イールの一人言には誰も反応しない。イールが壁を触っている内に、四人はかなり先へ行ってしまったからだ。急いでイールが追い付くと、目を瞑って空間認知をしていたレイが口を開いた。
「800m先が右に曲がってる。綺麗に直角に。その先もずっと真っ直ぐ。」
500mほど歩いたので、入り口からは1.3kmくらいの場所を言っている。直角というのを聞くと、やはり誰かが意図的に作ったとしか思えない構造だ。
「じゃあそこまで一気に飛ばすぞ!アタシはレイとイール持つから、ハルはユキをお願い。」
「分かりました。」
ライは空間認知を続けるレイのお腹に左腕を一周させ、宙に浮かせた。同じ扱いをされると思っていたイールだったが、その期待は見事に裏切られ、余った右手で何故か襟を握られている。ハルは同じく目を瞑ったユキをおんぶする。ユキの身長が低いのもあって、こちらの方は年の離れた姉妹のようだ。
「「身体強化!」」
そう言って二人は思いっきり踏み出した。直後、イールの足は宙に浮く。高速移動ほどではないが、かなりのスピードを出して広くない穴を駆け抜ける。壁際に持たれているイールは、痛くはないが何度か靴が壁に当たっている。
「お前ら双子、俺の襟を丈夫だと思いすぎだよ!千切れる!まじで千切れる!」
「大丈夫大丈夫!千切れても死なないようにするからー!」
笑顔でとんでもない事を言い出すライは、落とし穴の時のレイよりも恐ろしい。
800m進んだのだろう。スピードを緩めることなく、器用に壁と床を蹴り返して二人は90度曲がった。
すると、レイが口を開く。
「あ、1km先に出口があるような…。」
それを聞いたハルとライは、更にスピードを上げる。確かに小さな光が差し込んでいるのが、イールの目にも見えている。その光は、物凄いスピードで大きくなる。その光が10mほど先に見えた瞬間、イールの襟にあった手はするっと離れていった。
「え…?」
流石にあの勢いで未知の外へ出るのは危険と判断したのだろう。急ブレーキをかけたライの姿が、イールには反転して見える。多少ライが踏んばったため、イールのスピードはかなり落ちているが、それでも外へ出るのは避けられないだろう。
反転しているライの顔には、焦りがうかがえる。正確な表情は分からないのだが。
「グヘッ!」
首から地面に突っ込んだイールは2、3度バウンドして、遂に外へ出てしまった。首をおさえて顔をあげ、重い瞼を開くと、イールの目には見たこともない光景が飛び込んできた。
そこは崖であった。
下には手をつけられていない森が広がっている。
その森は数十m続いたあと、半径1kmほどの円を描くように伐採されており、その中心には高さ500mはあるであろう大樹がある。いちばん上は雲で隠れており、正確な高さは分からないが。
大樹の枝には家屋のようなものが見え、それもあってか大きなパワーを感じる。
大樹の下にはそれを囲むように湖がある。そこには船などは確認できない。大樹とその外を繋ぐ橋のようなものが掛かっているだけだ。
湖の外には街があるように見える。どの道も、最後には湖に繋がるように作られている。
混乱するなか、全体を見渡し終わったイールの耳に、心地よい囀りが聞こえた。その方を見ると、そこにいたのは可愛い小鳥……ではなく、背中に翼をもった10cmほどの何か赤いもの。
「……ここ…は?」
後ろから聞こえる足音は、イールの後ろでとまり、直後上から答えが返ってきた。
「おそらく、妖精の国、アルフア……ですね。」
「行ってみるか…?」
「いえ、計画無しでは危険です。そうですね。とりあえず、レイ。空間認知魔法を使ってみてください。」
ハルの指示通り、レイは空間認知をする。空間認知では、そのエリアの形を知ることができる。レイはこれを得意としていて、かなり正確な形がわかるのだ。今回は抜け穴の中に使っているようだ。
「この穴、1km以上は続いてるみたい。それも真っ直ぐ。でも、これ以上は何とも言えないかな。」
この魔法は半径1kmまでを確認できる。レイの言い方から、空間認知では一本道の洞窟のような形として捉えたのだろう。
「そうですか。ではユキ。敵をサーチしてください。」
「もうした。この入り口から1kmまでにはいない。」
仕事が早いユキである。ユキのサーチは信頼できる。存在だけでなく、その敵の形や動きまでも探知するのだ。
「ハル。どーすんの?行くの?」
ライは行きたいのだろう。さっきからそわそわしていて落ち着いていない様子だ。しかし、その根底にあるのは、冒険者への罪悪感のようにも思える。
「行ってみますか。」
それを聞いたライの目はキラキラと輝いていて、餌を前にした子犬のようだ。訂正、罪悪感とか忘れてるわこの人。
「と言っても、一度ギルドに報告してからでないといけません。どれくらいの時間がかかるかわかりませんから。」
むぅぅと言ってライの首が縮こまる。
「まあいいじゃない。ここに冒険者さんがいないってことは、まだ死んではないだろうし、時間に余裕ができたってことで。」
レイがライの肩を優しく叩く。落ち込む姉の慰め方をよく知るのは妹だ。こうして見ると、姉は完全にレイなのだが。
結局五人はワープで上がり、ギルドに報告することにした。
「じゃあ俺はフラートさんに言ってくるから、みんなは必要なものとか準備しておいてくれ。」
「「りょーかーい」」
様々な感情を見せる四人の顔は、後ろを向いて見えなくなった。四人が家へ向かうのを確認したイールは、急いでギルドへ向かう。あの四人だ。準備することは殆どないだろうし、レイはああ言っていたが責任を感じているのは変わっていないだろう。皆が頭を抱えてしまう前に、できるだけ早く戻りたかった。
「あと少しだけ待っててくれ。」
普段は通らない近道の裏路地を抜け、商店街を抜け、歩く人々の肩の間を抜け、やっとギルドへ辿り着いた。
「フラートさん!」
勢いよく扉を開けたイールには、多くの視線が向けられている。そして数秒経つと、いつもと変わらずひそひそ話が始まる。
「どーした、イール。駆け出しは見つかったか?」
息が荒いまま、「報告」と書いた看板の下にいるフラートの方へ歩く。自らの息の音でひそひそ話が殆ど聞こえないほどだ。フラートの前に着くと唾をのみ、やっと口を開いた。
「いいや、悪いがまだだ。落とし穴はやっぱり286層まで続いていた。でも、そこには血すら残っていなかった。だから多分、その駆け出しは突撃する直前に風魔法でも使ったんだろう。」
「そうか。でも見つかってないって…?」
「ああ、その隠し部屋には1つの抜け穴みたいなのがあった。普通のフロアに続いてる穴じゃない。レイとユキが確認したけど、先に何があるのかはわからなかった。だから今からそこへ向かう。その報告のために来たんだ。」
一度は驚いた表情を見せたフラートだったが、イールの話を聞いて落ち着いたようだ。そして口角を少し上げて、
「そうか。お前たちなら安心だ。暫くは落とし穴に見張りをつけさせて、誰にも近づかせないようにしておくから、お前たちも安心して行け。」
そう言ったフラートの顔には期待の色がちらついている。坊主であり普段は強面だが、今はとても優しい表情だ。
「頑張ってこいよ!」
「っ!」
弟を送り出す兄のように、イールの肩をポンポンと叩くフラートの姿は、イールに昔のことを思い出させた。もう忘れてしまったはずの遠い過去の出来事を。
思わず止まってしまったイールの目には、フラートとは全く別の人物が一瞬映り込んだような気がした。
「ああ、行ってくる!」
「ルークス。」
イールが帰った後、直ぐにワープをして286層へ来た五人は、真っ直ぐ隠し部屋へ向かった。どこからか光が差し込んでいる部屋だが、流石に抜け穴は真っ暗なため、ちょうどレイがルークスで光をつけたところである。
「行きますか。とりあえず1kmは安全ですし。念のため、レイとユキは空間認知とサーチを使い続けていて下さい。」
穴の中は部屋よりも涼しい。全員が長袖だから大丈夫なものの、半袖だったら寒いくらいだ。先程までの部屋とは違い、壁はゴツゴツしていない。人工的に作られた穴としか思えないほど整っている。触れてみるとツルツルしていて、癖になってしまいそうだ。
「一体何のための穴なんだろう。」
イールの一人言には誰も反応しない。イールが壁を触っている内に、四人はかなり先へ行ってしまったからだ。急いでイールが追い付くと、目を瞑って空間認知をしていたレイが口を開いた。
「800m先が右に曲がってる。綺麗に直角に。その先もずっと真っ直ぐ。」
500mほど歩いたので、入り口からは1.3kmくらいの場所を言っている。直角というのを聞くと、やはり誰かが意図的に作ったとしか思えない構造だ。
「じゃあそこまで一気に飛ばすぞ!アタシはレイとイール持つから、ハルはユキをお願い。」
「分かりました。」
ライは空間認知を続けるレイのお腹に左腕を一周させ、宙に浮かせた。同じ扱いをされると思っていたイールだったが、その期待は見事に裏切られ、余った右手で何故か襟を握られている。ハルは同じく目を瞑ったユキをおんぶする。ユキの身長が低いのもあって、こちらの方は年の離れた姉妹のようだ。
「「身体強化!」」
そう言って二人は思いっきり踏み出した。直後、イールの足は宙に浮く。高速移動ほどではないが、かなりのスピードを出して広くない穴を駆け抜ける。壁際に持たれているイールは、痛くはないが何度か靴が壁に当たっている。
「お前ら双子、俺の襟を丈夫だと思いすぎだよ!千切れる!まじで千切れる!」
「大丈夫大丈夫!千切れても死なないようにするからー!」
笑顔でとんでもない事を言い出すライは、落とし穴の時のレイよりも恐ろしい。
800m進んだのだろう。スピードを緩めることなく、器用に壁と床を蹴り返して二人は90度曲がった。
すると、レイが口を開く。
「あ、1km先に出口があるような…。」
それを聞いたハルとライは、更にスピードを上げる。確かに小さな光が差し込んでいるのが、イールの目にも見えている。その光は、物凄いスピードで大きくなる。その光が10mほど先に見えた瞬間、イールの襟にあった手はするっと離れていった。
「え…?」
流石にあの勢いで未知の外へ出るのは危険と判断したのだろう。急ブレーキをかけたライの姿が、イールには反転して見える。多少ライが踏んばったため、イールのスピードはかなり落ちているが、それでも外へ出るのは避けられないだろう。
反転しているライの顔には、焦りがうかがえる。正確な表情は分からないのだが。
「グヘッ!」
首から地面に突っ込んだイールは2、3度バウンドして、遂に外へ出てしまった。首をおさえて顔をあげ、重い瞼を開くと、イールの目には見たこともない光景が飛び込んできた。
そこは崖であった。
下には手をつけられていない森が広がっている。
その森は数十m続いたあと、半径1kmほどの円を描くように伐採されており、その中心には高さ500mはあるであろう大樹がある。いちばん上は雲で隠れており、正確な高さは分からないが。
大樹の枝には家屋のようなものが見え、それもあってか大きなパワーを感じる。
大樹の下にはそれを囲むように湖がある。そこには船などは確認できない。大樹とその外を繋ぐ橋のようなものが掛かっているだけだ。
湖の外には街があるように見える。どの道も、最後には湖に繋がるように作られている。
混乱するなか、全体を見渡し終わったイールの耳に、心地よい囀りが聞こえた。その方を見ると、そこにいたのは可愛い小鳥……ではなく、背中に翼をもった10cmほどの何か赤いもの。
「……ここ…は?」
後ろから聞こえる足音は、イールの後ろでとまり、直後上から答えが返ってきた。
「おそらく、妖精の国、アルフア……ですね。」
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