噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

49 九重桜夜は、己を知る

 辺りを神秘的な光で包まれたとある神社の境内で僕、九重桜夜は一人呆けていた。それはもう「ぼけー」っとしていた、自分で自覚してしまう程に。その原因は眼前に開かれた一つの書物だ。今もなお不思議な光を放ち続けている。これだけでは到底理解できないだろうから、順を追って説明しましょう。
 
 時は少し遡る。二週間前、僕は殺戮者と遭遇し命からがら逃げ出すことに成功し、安堵と共に自宅へと帰った。だが、事態は収束することなく被害は際限なく広がっていくのだった。一週間後、ある男が僕の家を訪ねてきた。その男は神の使いで、僕をスカウトしに来たらしい、殺戮者と戦う神の尖兵として。なお、この国では25年くらい前から神の御言葉は絶対となっているため、断ることはできない。なので僕は涙を流す両親に見送られ、家を出て神のご意志に従うことになった。それがつい二日前のことだ。
 
 僕は神の使いと一緒に1日かけて姫路から出雲へと移動した。因みに"神々の再降臨''が起こってから、日本の首都は東京から島根に移り、島根は出雲と改名され、現在に至る、と昔小学校の先生が言っていた。そして僕が今いるのは大しめ縄で有名な出雲大社、今では日本の中枢で、毎年11月に通常国会が開かれていたりする。昔は何もないと言われていたりいなかったりしていた出雲(島根)は、信じられないほどの発展を遂げ、今や日本一の都市になっているらしいです。昔を知らないので僕はなんとも言えないんですが…

 そして僕は神様達から神秘帳という一冊の分厚い書物を渡され、神様達に「念じてみよ」と言われたので、言葉通りに念じたら書物が光り出し、一つの文字列が眼前に大きく表示され、今に至るって感じです。説明分かり難くてすみません…
 なぜ僕が呆けたのか、それはこの文字列が示した単語が『主人公補正』だったからです。誰だって君には主人公補正が掛かっているよ、と言われて呆けない人間はいないと思います。それに『主人公補正』ってどんな補正なのかいまいちわからないのも事実です。あと、周りを伺っていると先程から、神様達の感嘆の声があがっていたり、また我等の希望だと言っていたり、結構喜ばれてる(?)みたいです。

「その神秘帳には、特定の誰かの神秘を調べる機能が付いていてな…
 まあ、結果的にお前の神秘は『主人公補正』ということだ」
「あの~それってどういう補正なんでしょうか?」

僕が解説してくれた神様に恐る恐る尋ねると…

「具体的には我もわからん」
「そ…そうですよね~」

 どうやら神様も補正については、何もわからないみたいです。第一、『主人公補正』って神秘なんでしょうか?アニメや漫画でよく聞いたりする単語ですが、神秘さは全然ない気がします。そうなってくると、この神秘帳とやらもかなり胡散臭いのですが、他のページをあけてみると『魔神』やら『狂人』、果てには『遊び人』などなど、神秘なのか神秘じゃないのかはっきりしないものが数多くあり、判断できません。
 そんな風に僕が一人、この神秘帳を疑っていると神様達の間で何か決まったらしく、一柱の神様が僕に近づいてきました。その神様は僕の目の前に立ち、

「今日からお前の師匠になった。よろしくな」
「……え?」

いきなりの師匠宣言に僕は思わず聞き返しました。第一声がこれなのですから、仕方ないと思います!

「だから、俺様が今日からお前を鍛えるための師匠になった」
「し、師匠ですか?」

どうやら聞き間違いでも空耳でもなかったようです。またも僕は呆け出すところでしたが…

「ぼけっとするな!行くぞ!」
「え!?行くってどこにですか?」

首根っこを掴まれ、僕はずるずると引きずられています。僕の質問に神様は答えてくれませんでした…

 

 しばらくすると僕は引きずりから解放されて、とある山奥に放り出されました。訳が分からず、僕が神様の方へと顔を向けると…

「これから一週間、ここで修行する。最初の三日間は俺様との組み手だな!」
「い、いきなり組み手ですか!?僕、やったことありませんよ!」
「まあ、『主人公補正』があるなら大丈夫だろ」

師匠はつべこべ言わず掛かってこいと身構えています。でも確かに、『主人公補正』が本当に存在するなら、どうにかなるのでは?と浅はかな期待をしてしまう僕。数分後、後悔しました…

「では、行きます!」
「来い!」

 桜夜は右腕を振りかぶり、ストレートを放つがかわされ、横から蹴りを入れられ吹っ飛ぶ。数秒後立ち上がり、今度は左足で蹴り上げるが紙一重でかわされ、右足を引っ掛けられてストンと転ぶ。立ち上がり、殴りかかって殴り返され吹っ飛ぶ。立ち上がり、体当たりするもその力を利用され吹っ飛ぶ。立ち上がり、蹴りかかって蹴り返され吹っ飛ぶ。etc.
 五分後、そこには痣だらけで倒れ伏した桜夜がいた。

「全然ダメだな」
「うっ」

師匠に『主人公補正』が使えないと評価され、凹む僕。まず使い方なんて知らない!

「神秘っつうのは常時発動しているもんなんだがなぁ
 それに主人公って一体何の主人公なんだ?
 いったい何に補正がかかるんだ?」

どうやら神様も疑問だらけのようです。でも僕には一つ実体験があります。そう、殺戮者から逃げ切ったことです。あれこそが『主人公補正』だったのではないでしょうか?その事が気になり、神様にも話してみました。

「殺戮者から逃げ切れる補正…かぁ…
 うーん…ああーそうだ。じゃあ今度は俺様の攻撃を避けてみてくれ」
「は、はい」

 避けるだけならなんとかなる、とちょっとだけ気合いを入れ直す桜夜。
まず最初に真っ直ぐ打ち込まれる左ストレートをすれ違うようにして避け、反動を利用した右の回し蹴りをしゃがんでかわす。次に右の手刀を手首を掴んで逸らし、左の拳もいなしていく。たまにくる蹴りを跳躍か距離を取ることで回避し、すぐさま間合いを詰められれば、股下をスライディングですり抜け、背後をとる。
 そんなこんなでどうにか三分耐え抜く桜夜。果たして『主人公補正』は発動しているのか?

「全ッッ然わからん!」
「そうですねー」

微妙すぎて発動しているのか否か、全くわからない師匠。僕はもう既に棒読みです。

「ああ、全くわからんから今度は本気で行くぞぉ!」
「え!?ちょっまっ!…ウボォ…」

本気の師匠に殴られすぐさま吹っ飛ぶ僕。『主人公補正』を使いこなせるようになるのは、いつになるのでしょう。
九重桜夜の修行は続く…



いつもお読みいただき誠にありがとうございます。

微妙な感じですが、桜夜の神秘は『主人公補正』になりました。
私はこれ以上主人公を増やしていったい何をするつもりなのか!? 全然考えておりません!

これからもよろしくお願い致します。

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