噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

47 殺戮日和

 私、相模治郎は日本の規律を守る誇り高き死神だ。今年で20年目になる、世間一般ではもうベテランと言ってもいいのではないだろうか。そしてそんな私に今回下された命令はとても過酷なものだった。それは死神500名を動員した「殺戮者の討伐」だ。どうやらその殺戮者という男は人間をすでに1000人以上殺害し、また神も1人殺しているらしい。危険度レベルはとっくの昔に10だ、なので今回の討伐戦には特別対策課も参戦している。だが【致死概念付与武装】を持っているとされる若い死神が出てきていないため、私は勝率が0だと判断している。奇跡も希望もありはしない、此処にいる500名の死神は本部に捨て駒にされたのだ。それでも、誰も逃亡を図ろうとしないのは、これが私達の使命だからだ!

(敵前逃亡は、士道不覚悟!)

だから私は、たとえ希望がなくとも全力で戦い抜くと決めた……はずなのだが…



 そうこうしているうちに、戦いは始まった。直後、10名の死神が瞬殺される、殺戮者によって。桜島周辺に包囲網を張っているため、悲鳴が上がっているところはまだほんの一部だけだ。「まだやれる…」そんな呪文のような言葉がつい口からこぼれてしまう。反対側から悲鳴が聞こえる、死神が空に向かって斬り飛ばされる、海に斬り落とされる、木っ端みじんにされる。
 今彼らは桜島の反対側にいるはずなのに、何故か不思議と今の状況をわかってしまう、理解できてしまう。そして今度は私達の方に来るのだろう、と予想してしまう。そんな私が此処にはいた。恐怖で動けないわけではない、ただ考えてしまうだけだ。最悪を。未来を。敗北を。そしてこの悲劇はやがて世界へと広がっていくのだろう。

「ゥゥゥ……」

その事を考えると何故か涙が出てきた。ああ、そうか。私はあれをあの怪物を、化け物を、世界に解き放ってしまうのか…。そんな悔しさとも、悲しさともとれる、涙と嗚咽が止まらない。

「ゥ…すまない。あれを止めることが出来なくてすまない…」

気がつけば、私は誰もいない虚空に向かって謝っていた、頭を下げて謝罪していた。ふと思う。これは誰へ対する謝罪だろうか?世界?神々?人類?…それとも全て?………わからない。わかるはずがない。わかるわけがない!

「こんなものはただの言い訳だ……使命を全う出来ない自分に対する言い訳だ…」

自分で問いかけ、自分で納得する。端から見れば、自問自答。だがこの時既に私は壊れていた、いやもしかしたらもっと前から壊れていたのかもしれない。死神になって人を殺し、または死人を冥府に誘ってきたことで、心が麻痺していたのかもしれない。そしてそんな脆い心は今日一瞬で壊れ、崩れ、無くなったのだろう。私はもう心が死んでいる。なら後はこの身体だけだ。
 いつからか私は警戒を解き、空を見上げていた。快晴だった。今日のような日に死ねることは幸福だろうか?幸せだろうか?
そんな考えが頭をよぎり、口から勝手に言葉として出て行く。

「さっさと…殺してくれ…」
「ああ…安らかに眠れ…」

答えを求めていた訳ではなかったが、偶然にも返される。その事に特に驚きはせず、「ああ、時が来たんだな…」と納得する私。
そして次の瞬間、痛みは無くただ身体の力が抜けていく。私はその感覚に身を任せ、死を受け入れた…



 戦闘が始まって約一時間後、既に決着は着いていた。死神側の全滅という形で。
「しっかし、こいつヤバいな!」
殺戮者は【神薙】を手入れしながら、素直な感想を述べる。
「ああ、そうだなー」
一方、武器商人は棒読みだ。彼からは感情が抜けきっていた。
原因はたった一つ、死神を殺した数だ。なんと1人!その外の499人は全て、殺戮者が殺している。武器商人は己の弱さに軽く絶望していた。一時間で1人はありえない、と。
まあ、そんなわけで今は武器商人の工房で一緒に酒を飲んで宴会状態なのである。しばらくはゆっくりできるだろう。

だが、世界はゆっくりなどできるはずがなく、今回の討伐隊全滅の件は神々、人類関係なく一気に各国で広がった。そしてこれまで殺戮者の事件を規制していた国連、政府、世界調停機関、死神界は人類側の抗議や反乱もあり、緊急の会議を開くことになるのだが…
それは壱月達の方で語られるだろう。



いつもお読みいただき誠にありがとうございます。

殺戮者側、今回は被害者目線で書いてみたのですが、どうだったでしょうか。
普通に殺戮を楽しみにしていた方々、本当にすみません。
まだまだ、殺戮者には暴れてもらうつもりですので、お楽しみに。

これからもよろしくお願い致します。

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