噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

46 殺戮者は最強に至る

 武器商人の隠し工房で半日ほど眠っていた殺戮者は、金鎚のカンカンカンという心地良い音で目を覚ます。
「ふぁぁ~~」
大きな欠伸をし、眠気眼のまま周囲を見回して洗面所へと向かう。他人の家でこんなにも図々しいことができるのは殺戮者くらいのクズだけだろう。その間も軽快な金鎚の音は響き続けている。
「え~と、飯は~」
なんと、勝手に冷蔵庫まであさりはじめ、これまた勝手に調理をして独りで食っている。
そんな事をしつつ暇をつぶし、武器商人の仕事があがるまで待ち続ける。

 そして一時間後、武器商人は仕事を終えてリビングへ戻ってきた。手には黒布で包まれた大きめの何かを持っている。
「できたのか!」
「まあ、そう慌てるな」
新しい玩具を与えられて喜ぶ子どものように今の殺戮者はウキウキしている。そしてそれをたしなめる武器商人。まるで親子のようだ………この二人は絶対に嫌がるだろうが、実際そうとしか思えないのもまた事実なのである。
そしてようやく、お披露目タイムだ。
「ほら、抜いてみろ」
武器商人は黒布をとって柄の部分を殺戮者に向けた。殺戮者は手を伸ばし左手で柄を握る。
そしてゆっくり引き抜くと…

 黒い刀身が露わになり、刀の内部からオーラのようなものが一気に解き放たれる!
そのオーラは人間には全く感じられないが、神には理解できてしまうものだった。

『死神本部日本支部長室にて』
木戸は突然の殺気とも悪寒とも言えない謎の気配の襲来に驚き、本能的に『ドレッドノート』を構えていた。
「な、なんじゃ!この気配は!」
数分間周囲を警戒し続けるが、他に異常はなく渋々といった感じで構えを解く。
チィリリリリリリリリリリン…チィリリリリリリリリリリン…
そして今度は室内に黒電話の着信音が響き渡る。おそらく本部上層からの連絡だろう。
「儂だ」
受話器を取って、通信を繋ぐ。
『木戸…先程の謎の気配について緊急会議を10分後に開く、遅れるなよ』
「わかっておるよ」
『話は以上だ』
死神本部上層は先程のオーラを重大視し、緊急会議を開くようだ。それ程までに神達にとっては危機的状況なのである。

刀を抜いた殺戮者はその芸術的なまでに綺麗な刀身に、
「おぉぉぉ!」
感嘆の声を上げていた。実に楽しそうである。
しばらくして、武器商人がドヤ顔で刀の銘を言う。
「その刀は、【神話否定武装・神薙の剣しんわひていぶそう・かむなぎのつるぎ】だ」
「草薙をパクったな?」
「失礼な!リスペクトだリスペクト!」
やいやい言いながらも双方嬉しそうである。
「しっかし、アダマンタイトだから紅くなると思ってたんだが?」
「アダマンタイトだけで刀が成り立つ訳ないだろう。他の金属も溶かし合わせてある」
「強度は?」
「無茶な使い方をせん限り折れることは無いだろう」
「流石だな」
殺戮者のほめ言葉に武器商人は満更でもない様子だ。

 【神薙】をしばらく鑑賞してから、殺戮者は大切なことを思い出す。
「そういえば、こっちの準備も出来てるんだったな」
「ん?鬼になるのか?」
武器商人は殺戮者の事情を把握しているので特に驚くことなく聴く。
「鬼になるんじゃない、鬼を覚ますんだよ」
「なんか違うのか?」
どうやら把握はしているが、理解はしていないようだ。殺戮者はため息をつき、説明する。
「俺の鬼は心に巣食っているからな、あとはそれを起こして文字通り"覚醒"って感じだな」
説明したが、かなりざっくりだった。
「じゃ、そういう訳で鬼起こすわー」
「お、おう」
すごく軽い感じで言う殺戮者に対し、武器商人は唖然としている。まあ、起こすと言っても前回のように契約文を唱えるだけなので、そんなに大したことはない。だがそれを武器商人は知らないので、唖然とするのも無理はないだろう。
そうこうしているうちに殺戮者は気を高め終えて、契約文を唱える。あの恥ずい文を…

「我が心に巣食う、最低最悪、そして最強最凶の鬼よ…これより、とm------!」
                               ッドゴォォォオオオオオン!!!!!!
詠唱中に突然何かが落ちてきたような地響きがなり詠唱は中断させられる。それと同時に桜島周辺に無数の気配が現れる。
「な、なんだ!」
「チッもうバレたか!武器商人、落ち着いて聞け、神の襲撃だ…」
「ハ?!んなもん落ち着いてられるか!?」
武器商人は殺戮者の胸ぐらをつかみ、グラグラユサユサしている。
「と、取り敢えず外にでるぞ…此処にいたら最悪生き埋めだからな」
「まったく、お前と関わるといつもこうだ!」
悪態をつきつつも、外への階段を駆け上がる二人。表情で察すれば、とても余裕そうだった。

数十秒、夢中で階段を上り、ようやく外にでる。が…
「すでに包囲されてるな…どうする、戦うか?」
「お前は脳筋か?」
武器商人の真面目な問いをふざけて問い返す殺戮者。まあ答えは言うまでもない、ということにしておこう。
「まあ冗談は置いといて、全員殺すに決まってんだろ?俺は殺戮者だぞ?」
「ハハ愚問だったな…作戦は?」
「ふむ。敵は丁度500人だな、なら俺は5分の4殺す。武器商人は5分の1殺してくれ」
「わかった。100柱だな」
簡単に作戦?を確認しあって、それぞれ戦闘準備を始める。殺戮者は【神薙】を抜き放ち構え、武器商人は---
「アンリミテッド・ウェポンワークス!」
その言葉にとっさに反応する殺戮者。
「やっぱパクりか?」
「ち、違う!名前を決めてなかったから適当に言ってみただけだ!」
すると武器商人の周りに剣、刀、両手銃、盾、槍の五種類の武器が召喚される。断じて固有結界ではない、あの某運命の英単語でお馴染みの無限の剣製ではない。断じて!

そしてあーだこーだ言いながらも、準備を済ませる二人。直に戦闘の火蓋が切って落とされるだろう。



いつもお読みいただき誠にありがとうございます。

補足しておきますが、世界調停機関の《最強》は、人類最強という意味です。
それに対して、殺戮者は化け物最強です。
いずれも壱月にとって強敵なのは変わりませんが…
50話までに一段落出来るよう書いていきたいと思います!

これからもよろしくお願い致します。

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