噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

30 殺戮者の北海道二日間〈夜明け〉

 まず俺は相手を観察し、こいつがどの神話の神かを探る。神名の予測はとても大切でそこから弱点や権能を看破し、攻略する。それが神殺しの基本中の基本だ。

 殺戮者は神が付けている装飾品に注目し、一つの結論を出す。

(やはり、こいつはアイヌ関連の神ではないらしい)

 北海道はもともとアイヌ民族の土地なので、アイヌ関連の神が北海道を治めるのが普通なのだが、目の前にいるこいつはおそらく日本神話の神だ。

「どうやら日本神話が北海道を侵略したという噂は本当らしいな」

 神に揺さぶりをかけ少しでも多くの情報を吐かせる。そんな狙いのある問いかけだったが…

「フッばかばかしい」

 一笑されてしまった。

(こいつの神名がわからない以上迂闊に攻撃にでるのは危険だが…)

 殺戮者は攻略するための筋道を考えるが、今度は向こうから問いがきた。

「どうした、我を殺すのではなかったのか?それとも我に恐怖を抱いたか?」

 あからさまな挑発だ。こんな挑発に乗るほど殺戮者は安くないが…

(こいつに俺を侮らせるため、ここはわざと挑発に乗ってやろう)
「お前が怖い?ハハッそれこそ馬鹿だな。ちゃんと殺してやるから安心しろ」
「フハハハハハハハハハ、良い度胸だ」

 売り言葉に買い言葉、互いの策略が混ざり合い問答は激しさを増していく、先に言葉が尽きるのはどちらだろうか。

「そんな事を言っていられるのも今のうちだぞ、クソ神」
「貴様にこの我が殺されるはずがないだろう?」
「そういう傲慢なところが嫌いなんだよ」
「貴様はいつまでその減らず口がたたけるかな?」
「はあ?」
「その様子ではまだ分かっていないと見える」
「何がだ?」
「我の神名だよ」
「ッ!――――」
(クソ!バレたか!)

 心の中で悪態をつくが、現実は変わらない。つまり、ここで殺戮者の言葉が尽きた。

(どうする!?特攻をかけるか…それとも…)
「このまま問答を続けるか?」
「!?…」(心を読まれた!?いや、そんなはずは…)
「フッフハハハハ…我は神だぞ?人間の考えそうなことぐらい簡単に予測できるわ!馬鹿者」
「チッゴチャゴチャ五月蠅いんだよ!テメェの神名がわからなくとも殺すことに変わりはない!」

 そう宣言し、刀を中段に構え体勢を低くして駆け出す!
未だ神の手には武器らしき物は握られていないが、手に持つ武器以外の場合も考え間合いをとる。
 そして神の間合いに入った瞬間…

「【死角顕在】!」

得意技である【死角顕在】を発動し神の死角だと思われる背後に現れ…

「……!!」

突き刺そうとするが…

キィィイイイイイイン!

不可視の結界に防がれる。

(なにッ!?)
「その程度の攻撃など、我には効かぬ」

 神は正面を向いたまま、殺戮者を笑う。

(やはり、神名を暴かないことにはどうしようもない!が…)

 それでもなお殺戮者は刀を振り、返す刀で斬り、さらに様々な角度から斬り落とし斬り上げ、結界の性質を探り、これがこの神の権能かまたは魔法・魔術による加護かを戦いながら検討する。だが結論はでない。

(こうなったら、あれを使うしかないらしい…な!)

 どうやら殺戮者にはまだ策が残っているようだ。
気合いと共に結界を斬りつけ、その反動で後ろに跳ぶ。
 神の真正面でもう一度刀を構える。

「どうした、斬るのは終わったのか?」

 神が笑いながら問うてくる。

「いいや、まだだ!」

 その返答にこちらも笑って応える。

「クソ神、折角だから良いもん見せてやるよ」
「ほほう。良かろう、待っておいてやるから我を楽しませてみよ!」

 殺戮者は構えていた刀から右手を離し、左手だけで持ちそのまま頭上に掲げる。
 最後にニヤッと笑い、言葉を紡ぐ。

「我が剣よ!我が声に応えよ!」

 その言葉と同時に殺戮者の刀が黒く輝きだす。

「汝、その真価を…ここに示せ!!」

 続く言葉で一際大きく輝き、周囲を黒で塗りつぶす!

剣能けんのう………解放!!」

 最後の言葉とともに輝きが収束し、ある力が解き放たれた…
奇しくも、その現象と同時に夜が明けるのだった。

コメント

  • 鬼崎

    祝30話!

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