噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

21 団欒

 夜になり斎藤家では久しぶりに一家そろって、晩御飯を食べていた。一家そろって、と言ったがもちろんここには巴音もいる。何故かというと、壱月の両親が明日から始まる任務のことや巴音自身のことを深く知りたがったからだ。まあそのおかげで壱月はいろいろ巴音の事を知れたのだが、自分の事も何かとバラされたようだ。

(まあ、あの気まずい雰囲気では聞けないから、ちょうどよかったが…)
「任務に関係ないことまでしゃべらなくていいだろう!」
「あら、そんなわけにはいかないわよ、だって明日から二人一緒に行動することが多いんでしょ?だったら任務に関係ないことでも相手を知っておかないと」
「そうだぞ壱月、戦場では何があるかわからんからな」
「そうよねぇ、でも巴音ちゃんが狙撃手スナイパーっていうのはビックリしたわ」

 そう実は巴音は狙撃手なのである。そして死神では珍しい付与魔法狙撃エンチャントスナイプの使い手なのだ。この技術はかなりの高難易度で通常ならば二人で役割を分担し、行うものだが、巴音の場合それらを一人でこなす事ができるのである。それも両方の質(狙撃と付与)を一切落とすことなく、さらに二人の時よりも早く。このレベルの付与魔法狙撃手は死神界には巴音しかいないのだが…

「しかも壱月はその事を知らないときたもんだ、お前…明日からどうするつもりだったんだよ」
「そうだな、二人が俺に冥府を経由して行く方法を教えてくれてなかったら、飛行機の予約してたよ」

 皮肉混じりにそう答えるが…

「それはすまんかったと、さっきから謝っているじゃないか」
「というか、死神本部でもそんな事、教えられたことないぞ」
「そりゃ、一般常識だし教わらないだろうな」

 その通り、冥府経由で世界各地に行けるというのは、死神では一般常識だ。理屈的には、世界各地から死者が冥府に来るんだから、死神はその逆も行けるんじゃね?って感じだ。それで実際、挑戦してみたら行けたみたいだ。まあ、そんなこともあって今では子どもの死神でも知っている、一般常識なのだ……ついさっきまで知らない奴もいたようだが…どこにでも例外はある。
 そしてまた話が進み、今度は『ドレッドノート』の事について話し出した。

「ねぇ、壱月に渡された致死概念付与武装あるじゃない?」
「ああ、【死雨】のことか?」
「そうそれ、それは『ドレッドノート』とはどう違うの?」
「ざっくり言うと万能じゃない、だな」
「なら、『ドレッドノート』で【死雨】を再現する事はできないの?」
「できるけど…」
「それなら【死雨】はなんで必要なの?」
「え?なんでって言われても…」
「多分母さんは、万能であるはずの『ドレッドノート』が【死雨】を再現できるのに、なんでわざわざ貰ってきたの?って事だと思うぞ」
「ああそういうこと」

 どうやら今までピンときてなかった壱月は父の言葉で母の言いたいことがわかったらしい。

「母さん、『ドレッドノート』が再現できるのは、【死雨】の形までなんだ。」
「そうなの?」
「本当に再現してほしいのは、致死概念付与のところなんだけど、『ドレッドノート』は付与魔法・魔術の全属性に適正があるだけで、それ自体を再現する事はできない。まあもう一個『ドレッドノート』を使って付与魔法・魔術兵装を作って再現してもいいんだけど、その場合、魔力が倍以上喰われることになるから誰もやらないし、巴音さんのように魔力に余裕がある人は自分で付与できるけど、俺みたいな余裕がない奴には付与できても逆にそれが負担になる。だから常時最高純度の付与がされてる武装があると俺達は助かる、という考えで生まれたのが致死概念付与武装なんだよ、わかった?」
「なるほどねぇ~」
(わかってるのかな?)

 壱月の話はとても簡潔にまとまっているのでわかりやすいだろう。他に付け足すなら、火属性の基本的付与と致死の概念付与では、魔力消費に膨大な差があることや、時間的要因もあったりするだろう。まあここら辺は人間である壱月の母に言っても仕方ないだろうが…
しばらくすると父さんが巴音さんに質問していた。

「そういえば、巴音ちゃんの魔法位階は何なの?」
「位階は〔魔法師〕です。」
「マジかよ…」
「ま、魔法師!?凄いじゃないかその若さでもうそんな高いところにいるとは…さすがは付与魔法狙撃手だね」
「い…いえ、それほどでも」

 巴音さんはああ言っているが、本当に凄いことなのだ。まず魔法位階というのは、魔力量、技術、戦闘力を総合的に見た大雑把なクラス分けのことだ。全7種類。
上から 魔神、魔王、魔法師、魔法使い、魔導師、魔術師、魔術使いの順だ。他にも禁忌術師、賢者といった特別位階があるが、今は関係ないだろう。ちなみに俺は魔術使いだ。この間の修行で魔力量がかなり上がったとしても、魔術技能が全然ないので位階は上がらないのだ。このデータは死神本部で自動的に更新されるので、リアルタイムで強さを実感できるだろう。現に父さんが…

「おれも昔は魔法師を目指してがんばったけど、結局魔術師止まりだったなあ」
「へぇ~父さん、魔術師なのか、初めて聞いたぞ」
「だろうな。この道は険しいから言いたくなかったんだよ」
「そ、そうか…」
「それは置いといて、二人は死鎌デス・サイズは使わないのか?」
「んーないかな」(話変えやがったな)
「薙刀なら扱えるのですが、死鎌は苦手ですね」
「だよな~使わないよな~なにせ『ドレッドノート』があるからな~」
「どうしたんだよ?」

 父さんの話によると、昔使っていた死鎌があるそうなんだが、なかなか使いたがる奴がいないらしい。だから、俺たちにも聞いてきたようだ。まあ、仕方がないだろう。『ドレッドノート』の普及により、死鎌の需要はなくなったのだから。これも時代の流れと言うやつなのだろう。
そんなこんなで夕食を食べ終わり、風呂に入って、もう寝ることにした。
 明日の朝は本当に任務開始だ…

「寝坊しないように、アラーム掛けてっと」(よし寝よう)

「おやすみなさい」
「「「おやすみ(なさい)」」」

 壱月は明日の朝に備えて眠りにつくのだった。

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