夢日記

日々谷紺

金縛りシリーズ【4】

金縛りに遭う。

セロハンテープを床に貼り付け、奥からこちらへペリペリとはがす音が近付いてくる。
テレビの音と男の笑い声。
マンションの他の住民の生活音は普段ほとんど聞こえない上、深夜なので幻聴。
これは耳から聞こえる音。

頭の中でマジックテープをはがす音が響く。
これは脳内で聞こえる音。

まぶたを確かに閉じているが、まぶたを透かして部屋を見ている。
窓は開けていないが、カーテンが揺れている。
まぶたの裏に映る緑色に見える赤血球の流れが時々人の顔の形になる。

金縛りで身体が動かないのでこわい。
珍しく、呼吸はできている。いつもなら金縛りに遭えば呼吸も満足にできない。また、いつもなら感じる痺れもなく、ただ身体が物体になってしまった感覚。
何度も動かそうとして、時々寝返りに成功したと感じるが、脳が勝手に作ったイメージで実際は少しも動いていない。

遠くで人の会話が聞こえる。おそらく幻聴。脳みそが記憶を整理しているんだろうとなんとなく考えている。

意識ははっきりしているが自分が寝ているのか起きているのかよくわからない。
一度眠ることに成功し、部屋ではない場所でものを食べている夢を見るが、夢だなと気付いたとたんに徐々に覚醒し、金縛りの部屋に戻ってくる。おいしい何かを確かに味覚で感じていたのだが、覚醒するにつれて口内が無味の唾液の味になっていく感覚が奇妙だ。

玄関から母親の入ってくる気配。
足音はクローゼットへむかい、開けたりしている。
母親は車で三時間はかかる実家に住んでいるし、合い鍵は持っていない。

この母親の気配に一番恐怖していた。
クローゼットからこちらにむかい歩いてくる気配。
頭の先に佇んでいる気配。
これは幻覚だから早く消えてくれ。
身体よ動けと苦心。

無音が続いて、母親の幻覚は消えたと安心した矢先に、首筋に手を添えられる。 


20161209

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