発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

66話

「……く、そ……!」
「何をしている?早く付いてこい」
「わかってるってぇ―――のッ!」

 目の前の岩を飛び越え、エクスカリドさんの背中を追い掛ける。

 ―――深夜。真っ暗な『騎士国』の中。
 俺とエクスカリドさんは―――何故か、深夜の『騎士国』を全力疾走していた。

「はあ……はっ……ああクソ、がぁ!」
「遅いぞ……早く来い」
「な、んで……デッケェ岩がっ、そこら辺に落ちてん、だよ……!」
「どこでも鍛練できるようにだ……行くぞ」

 クソ、本格的にバケモンかよあの人!
 『クイック』使ってないとは言っても、こっちは17歳だぞ?!体力じゃ負けてないはずなのに!

「んの……やろうが……ッ!」
「そうだ……付いてこい。もうすぐ着くぞ」

 息を切らす事なく、どんどんスピードを上げるエクスカリドさん。
 奥歯を噛み締め、その後を追う。

 ―――何故、こんな深夜に走り回っているか。
 それは……昼間に話していた、『英雄』が関係してくる。
 フォルテにあそこまで言わせる『英雄』に……俺は、ちょっと興味が湧いた。
 今俺たちが向かっているのは……『英雄』が死んだ場所だ。

「―――着いたぞ」
「は、ぁ……着い、たか……」

 高台のような所に着き―――そこから見下ろす光景に、息を呑んだ。

「……なんっ、だ……これ……」

 先ほどのまでの疲れはどこへやら。
 目の前に広がる光景に……ただただ、驚愕した。

「……まあ、驚くのも無理はないだろう……」
「…………いや、いやいや……これ、なんだよ……?」

 ―――焼け野原。
 何が原因なのかは、よくわからないが……高台から見下ろす地面は、一面が真っ黒に染まっていた。

「……昼、フォルテが言っていただろう?『蠍座』は毒を使う、と」
「って事は……これ、毒の影響なのか……?!」
「そうだ……『蠍座』の撒き散らした毒が、大地をむしばんでいるのだ」

 言いながら、エクスカリドさんが焼け野原に飛び下りる。
 ……え、下りて大丈夫なのか?

「……ああもう……ッ!」

 意を決し、黒い地面に飛び下りる。
 着地する―――と同時、異様な臭いが鼻を襲った。

「うっ、く……?!」
「あまり深く吸うなよ……体に害が出るぞ」
「おまっ……!先に言えよ!」
「落ち着け……普通に呼吸していれば大丈夫だ」

 思わず鼻と口を手で覆い……悠然ゆうぜんと歩くエクスカリドさんを追う。

「……地面どうなってんだ……?」
「触れるなよ……毛穴から侵入されて、体の中から殺されるぞ」
「ヤベェじゃねぇか」

 出した手を引っ込め、再び鼻と口を覆う。

「ふむ……ここだ」

 そう言って、エクスカリドさんが立ち止まる。

「へぇ……なんか、ここだけ地面の色が違うな?」
「……おそらく、ここで『英雄』は死んだのだろう」

 黒く染まった地面……一ヶ所だけ、異様に黒く染まった部分がある。
 エクスカリドさんは見えているかわからないが……今の俺は『ルック』を使っているため、目の前の光景がバッチリ見えている。

「……猛毒……ね」

 感覚の無い義手を、地面に付ける。
 ……義手には効かないか……まあ、毛穴から侵入するって言ってたし、それもそうか。

「……それで?知りたい事とはなんだ?」
「んあ?……いや、大したことじゃない。気にすんな」
「なんだ?何か企んでいるのか?」
「はっ……もう痛いのは嫌だからな。さすがに何かするんなら、あいつらの力を借りるっつーの」
「……『破滅魔法』の使い手。国王の娘。『獄炎魔法』と『蒼い炎』の使い手。『鬼族』の少女。死神の加護を持つ少女。『騎士国』最強の女騎士。『水鱗国』の女王……聞けば聞くほど、耳を疑いたくなる連中だな?」
「……あいつらは、性格に問題があるけどな」

 ……俺がここに来たのは、単純に疑問があったからだ。
 エクスカリドさんから『『英雄』と『蠍座』が戦った戦場があるぞ』と聞いて、『キレイに残っているのか?』と問い返したら『キレイに残っている』と言われて……ずっと気になっていた。
 その疑問は……ここに来て、確信に変わった。

 だって、おかしいだろう?
 本当に『英雄』が『光魔法』を使えたとして……なんで地面がキレイなんだ?

 もちろん、毒の影響で黒く染まっているが……その他は、特に目立った戦闘痕跡は無い。
 もしも本当に『英雄』が『光魔法』を使えたのなら……『フィスト』や『クイック』の影響で、地面がボコボコになっていないとおかしい。

 地面がボコボコになっていない理由は……大きく分けて、3つか。

 1つ。
 『英雄』の魔力が少なかった可能性。
 俺みたいに『無限魔力』とかいうチート能力は……おそらく、持っていなかっただろう。

 または、『英雄』が『フィスト』や『クイック』を使えない可能性。
 一応、あり得ない話ではない。
 俺も『光魔法』の『ヒアリング』は使えないし。

 そして―――エクスカリドさんと同じく、魔法を無効化する『能力』があるか。
 正直、この可能性が一番厄介だ。

「……こんな夜中に案内してもらって、悪いな」
「気にするな……俺も、少し走りたいと思っていたからな」

 そう言って引き返すエクスカリドさん……地面の観察を止め、その後を追う。

「……『英雄』がいなかったら、『騎士国』も『鬼国』と同じで―――」
「滅ぼされていた……だろうな」
「ヤベェな……『ゾディアック』の影響で滅んだ国って、『鬼国』だけだよな?」
「……?……いや、違うぞ?『鬼国』の他にも……『ノクシウス』が『蟹座』によって滅ぼされている……知らないのか?」

 ……は?『ノクシウス』に……『蟹座』?
 いや、まったく知らないんだが?

「……知らないけど……その『ノクシウス』ってのは、誰が治めているんだ?」
「『人王 グローリアス』……兄が治めている国の1つ……だった」
「……は?」
「もともと『人国』は5国あったのだが……『英雄』を『騎士国』で発見してすぐの出来事だ、『蟹座』が『ノクシウス』を滅ぼしたのは」

 聞いた事のない国名に、これまた新たな『ゾディアック』の名前。
 なんかもう……今までよく滅ぼされなかったな、異世界。

―――――――――――――――――――――――――

『ゴメンね……ゴメンね、XxX……!』
『すまないXxX……我々の国のために、お前は必要なのだ……』

 言いながら、黒髪の乳児の頬を撫でる。

『……おい。そろそろ時間だぞ』
『……わかってる。ゴメンなXxX……お前にばかり、辛い思いをさせて……』

 赤ちゃんの父親と母親が、名残惜しそうにその場から離れる。
 それと入れ替わるように、黒髪紅目の老人が現れた。
 その容姿は―――仰向けに眠る乳児とそっくりだ。

『……この子か?』
『はい……その子が、次の『継承者候補』です』
『そうか……こんなに小さいのに、酷な運命だな……だが、ワシの老体では、もうを抑えられないのも事実だからな……』
『……この子が『継承者』になれなかったら……失敗したら、私たちはどうなりますかね……?』
『『ゾディアック』に殺される前に、に殺されるだけだ……分かっているな?『先代継承者』と同じ方法でやるぞ』
『はっ!』

 そう言うと、老人が乳児の腹部に手を当てる。
 ―――シワだらけの右手に、赤い紋様が浮かび上がった。
 近くに立つ住民たちは……事の成り行きを、静かに見守っている。

『……ほう……素晴らしい魔力の量だ……これならば、を……』
『『バルジ』様……どうですか?』
『まだわからん……が、この子ならば大丈夫だろう……今まで見た事のない魔力の量に、『炎魔法』の適性……さらには『闇魔法』も……』

 赤い紋様は右腕全体に広がり―――少しずつ、乳児の体に移り始める。

『ぁぅ……あ~……うぁ~』
『……ほう、その年で体の異変に気づいたか?』

 紋様が移り始めると同時、乳児が拒絶するように身をよじらせる。
 だが、所詮は乳児―――抵抗できるはずもなく、どんどん紋様が広がっていく。

『……『先代継承者』が作り出した『魂の檻』に閉じ込められた状態のならば……乳児でも、抑えられるはずだ』
『バルジ様……その子は、『継承者』に?』
『ああ、なった……しかも、ただ封印するだけの『器』であったワシと違って、を従える事もできるだろう』
『なっ……?!さ、『三大精霊』を、従える……ですか……?!』

 若い男の驚く様子に、老人が頷く。

『できれば、その力を使い……世界を平和に導いてくれ……』

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