発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

59話

 ハッとした。
 『冥刀みょうとう 殃禍おうか』……これの本当の名前を、直感的に理解した。

「……『明刀みょうとう 桜花おうか』」

 ……うん、しっくりくる。
 この刀の名前は……『明刀 桜花』だ。

「……で……あんたがエレメンタル?」
『……………』

 シカトかよ。

『……ふん……久しいなシルフ……姿を見せろ』
『……相変わらず、傲慢な言葉遣いだな』

 辺りに風が吹き―――緑色の少年が姿を現す。

『なんだ……前に会った時と大きさが変わっていないではないか』
『俺たちは精霊だから……変わるわけないだろ』
『ふん……少しは強くなったんだろうな?』
『当たり前だろ……!お前と『闇帝』……お前らに受けた屈辱、忘れてないからな……!』

 悔しさに歯を食いしばり、シルフがエレメンタルを睨み付ける。

『構えろエスカノール!あいつは許せない!』
「え、あ、うん、わかったよ」
『軟弱な風小僧が……に喧嘩を売るとはな……構えろ少年、やつに格の違いを見せてやる』

 美しい翼を広げ、エレメンタルが戦闘体勢に入る―――

「……いや、なんで上から言ってんだよふざけんな。シカトしたクセに偉そうにすんなよ」
『……はっ?』
「だから、何偉そうにしてんだよって言ってんだよ」

 背後にたたずむ大きな鳥を見上げる。

『……貴様……何様のつもりだ?せっかく余が力を貸してやると言っているのだ。大人しく言うことを聞けニンゲン』
「ふざけんな鳥類が、偉そうにすんなボケ」

 ……ああ……わかった。
 俺、こいつと合わないわ。

『行くぞエスカノール!』
「任せてシルフ!絶対にシャルロットちゃんを取り戻す!」

 『森精王子』とシルフが、同時に手を向け―――

『「―――『狂乱の神風ラスト・シルフ』ッ!」』

 おいおいおい……マジかよあいつ!
 シャルがいるのに、魔法撃ちやがった?!

『ほう……風小僧の奥の手か……』
「……はぁ」

 『魔導銃』をレッグホルスターを入れ、『明刀』を構える。

「ふぅ―――『フィスト』……!」

 荒れ狂い、乱れながら迫る神風―――それに対し、刀を振り上げる。
 魔力―――80%!

「しぃ―――ッ!」

『ドキャ―――ォオオオオオオンンッッ!!』

 迫る神風と『明刀』がぶつかり―――凄まじい衝撃が生まれる。

「チッ―――ぃいいいいいいいッ!」

 ヤバイ……右肩が、変な音立ててやがる……!
 クソ……気をしっかり持て!
 ここで吹っ飛んだら、シャルにもストレアにも、サリスにも被害が出る!
 右腕なんてくれてやれ!
 振り抜け!刀を!

「あぁ―――ぁあああああああああああッ!」
「くそ……『狂乱の神風ラスト・シルフ』でも無理か……!」
『いや……今ので右腕がイカれたみたいだ。もう1発行くぞエスカノール!』
「う、うん!」

 『ズキズキ』と、だらしなく垂れ下がった右腕を見て、小さく舌打ちをする。
 ……くそ……くそくそくそッ!

『……XXXXXXXXXXXXXXX・XxXX
「……今、なんて言った?」
『二度とは言わん……余が使える『精霊魔法』だ。体が壊れても良いのなら……その呪文を唱えろ』

 体が壊れても良いのならって、怖い事言いやがるな。

『「―――『狂乱の神風ラスト・シルフ』ッ!」』

 ……こいつを信じて良いのか?
 いや……信じるしかないか。

 痛みで震える右腕を無理に動かし、しっかりと刀を振り上げ―――

『さあ……やれッ!』
「―――『限界を超えし破壊の力エレメント・フィスト』ッ!」

 思いきり、振り下ろした。



























『スィ―――――――――ン』























『ドゴォ――――――ォオオオオオンンッッ!!』





























 『森精王子』の真横を、俺の斬撃が通った。

「なっ……は……?」
『あ……ああ……これだ……いつもいつもこれだッ!』

 神風を斬った俺の一撃は―――王宮を真っ二つにした。
 ―――いや、王宮外にも被害が出ている。
 放った斬撃は……王宮を斬り、地面を割り、雲を裂いた。

「ぐっ……づッ……!」
『ほう……絶叫を上げないとは、大した忍耐力だな』

 右手から、刀がこぼれ落ちる。

 いっ―――――――――てぇ?!

 見れば……手首は青紫色に染まり、肩は外れ、刀すらまともに握れない状況だった。

「『クイック』―――逃げるぞッ!」

 左手で刀を拾い、鞘に収める。

「乗れ、シャルッ!」
「―――はいっ!」

 そのままシャルを背中に背負い、外に飛び出た。

「ストレア、サリス!行くぞッ!」
「う、うん!」
「『ウィンドカッター』ッ!」

 サリスが王宮に向かって風の鎌を放ち―――追っ手が来ないように、壁や扉を破壊した。

「よし……!『形態変化』……『漆式 信号銃フレアガン』ッ!」

 左手で『魔導銃』を握り―――上空に向かって放つ。

「おっし……!集合地点に行くぞ!」

―――――――――――――――――――――――――

「―――ふっ!しっ!」
「ぐはっ!」
「うぐっ……き、さま……!」
「安心しなさい、みねうちよ」

 驚異的な速さで剣を振るマーリンが、次々にエルフを薙ぎ倒していた。

「やっちゃえマーリン!」
「任せなさい!」

 上から、横から、下から、上空から、回転しながら―――人間の技とは思えない力、速さ、剣術だ。

「ん……マーリン!」
「なに?!」
「煙弾!イツキの!」
「……それじゃ、無事にシャルを連れ戻したのね―――って、ランゼ!横!」
「邪魔よっ!」

 近寄るエルフを蹴り飛ばし、マーリンと共に走り出す。

「それじゃ―――合流地点まで行くわよ!」
「ええ!」

―――――――――――――――――――――――――

「〈現世に囚われし愚かなる生命いのちよ。解放の蒼炎において、その生命散らせ〉!『カグツチ』ッ!」

 『ボウッ!』と、手から放たれる蒼炎が辺りを包み込んだ。

「……それ、言わないといけませんの?」
「言うな気分だ」

 蒼炎に包まれた森の中……かなりを時間稼げたはずだ。

「まだまだ……!『カグツチ』ッ!」
「……ん……ウィズ様、空に煙が飛んでますわ!」
「む……イツキか?」
「おそらくご主人様だと思われます!」

 近寄るエルフを、蒼炎で牽制する。

「……行くぞフォルテ!」
「はい♪早くご主人様と合流しましょう♪」

―――――――――――――――――――――――――

「はっ!はっ!はっ……ふう……追っ手は、来てないみたいだな……」
「イツキさん、もう下ろしてもらっても大丈夫ですよ」
「……嫌だ。お前は俺の上に乗ってろ」

 シャルを背負ったまま、森の中を走る。

「……もう、どこにも行きませんよ?」
「信用できねえ」

 ブランブランと右腕を下げたまま、左手でシャルの足を掴む。
 ……絶対に放さない。もう、二度と。

「……なあシャル」
「はい?」
「……手紙のあれって……ただの偶然だったのか?」
「……違います」

 ギュッと、抱き付く力が強くなる。

「助けに来て欲しかったです。助けに来てくれて嬉しかったです……でも……あの後に見た『森精王子』が強すぎて……」
「……お前、俺の事信じてなかったのか?」
「そ、そんな事は―――」
「あるよな?俺の方があのクソエルフより弱いって思ってたんだよな?」

 背中に乗っているシャルが黙り込む。

「ったく……俺がどれだけ心配したと思ってんだ?」
「……………」
「俺の方が弱いとか、『森精王子』が強いとか、実際そんなのは別にどうでも良いんだよ」
「どうでも良い……ですか?」
「ああ……お前がいれば、どうでも良いんだ」

 草木を掻き分け、さらに進む。

「お前がいなくなって……どんだけ俺が不安になったと思う?どんだけ心配したと思う?あんまり自分勝手に行動すると……いい加減怒るぞ?」
「……ごめんなさい」
「……もう二度と俺から離れんなよ」
「はいっ!」

 走り、走り―――ふと、辺りを見回す。

「……あれ、サリスたちは?」
「……どこに行ったんでしょうか?」
「俺が道を間違えた……とかじゃないよな……?」

 ちょっと不安になってきた。

「……仕方ねえ、ちょっと引き返すか」
「……………?」
「シャル?」
「あ、いえ……あそこ、人がいるような……」 

 シャルの指さす先―――堂々と歩く、男がいた。
 俺はその姿に見覚えが……いや、違う。
 俺はこのシチュエーションに、覚えがある。

「……嘘だろ……これって……」
「イツキさん?」
「下りろシャル、んでもって俺の後ろにいろ」
「は、はい」

 シャルを下ろし、刀を抜く。

「―――エレメンタルッ!」
『……なんだ』
「力を貸してくれ!頼む!」
『……?』

 森の中に俺とシャル……そして、歩いてくる男。
 これは……まさか―――

「ん……おい小童こわっぱ……『森精国』はどっちだ」
「……『ゾディアック』……!」
「……ほう、なぜわかった?」
「たまたま夢ん中で見てな……トラウマになってんだよ」

 そう、こいつは夢に出た男。

「……口封じのために殺す、か……あんまり好きではないが、仕方ないな」

 『ふぅ』とため息を吐き、男が両腕を大きく広げた。

「俺は『ゾディアック』、『獅子座』のレオ……正体を見破ったバツだ。ここで殺す」

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