発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。
56話
「『森精国』に行くには、馬車で2日半か」
「ええ、そのくらい掛かると思うわ」
部屋の中、ランゼと二人きり。
普段ならめっちゃ緊張するんだろうけど……生憎、そんな余裕は無い。
「ちょっと『人王』の所に行って、馬車を借りてくるわ」
「ああ、頼む」
……さて……どうしたものか。
とりあえず、『魔導銃』の新しい形態でも試すか―――
「やあ、また来たよ!」
「……また来たのか、お前」
「うん、疲れてるね。大丈夫?」
「大丈夫じゃねぇよ……今は時間の余裕と心の余裕がねぇ……用件があるならとっとと言え」
ニッコリと笑うヘルアーシャが、部屋に現れた。
「そうだね……君たちの事情はわかってるし、単刀直入に行こうか」
表情を引き締めるヘルアーシャ……何かあったのだろうか?
「君に、『森精王子』に対抗する力……いや、『三大精霊』の一角、シルフに対抗する力を与えようと思うんだけど―――」
「詳しく聞こうじゃねえか」
「食い付きが早いね」
前のめりになる俺に、若干引きながら続ける。
「えっとね……実は、『冥刀』の事なんだけど……」
「……まさか『冥刀』を使えとか言うんじゃねぇよな?言っとくが、刀は絶対使わね―――」
「その刀にはね……『原初の六精霊』の一匹、『光神の精霊 エレメンタル』が宿ってるんだ」
…………え?
「エレメンタルって……なんか、あの、めっちゃスゴいやつか?」
「……ううん……スゴいなんてレベルじゃないよ。エレメンタルの力があれば……シルフなんて、相手にならないんだから」
シルフが……相手にならない?
「……そんなに強いのか」
「うん」
「…………でも、刀はダメだ」
「過去の出来事が、君を縛るから?」
室内を歩き、ヘルアーシャがベッドに寝転がる。
「……ああ……その通りだ」
「だったら、過去を乗り越えよっか!」
「は?」
不気味に笑うヘルアーシャが、俺に手を向け―――
―――――――――――――――――――――――――
「うっ……ああ……?」
眼前の光景が切り替わる。
……見た事のある道路……見た事のある建物……そして、肌が覚えている、懐かしい空気……もう二度と来ることのないと思っていた場所だ。
「ここは……中学の時の通学路……?」
……間違いない、通学路だ。
服は……高校の制服になってる。
「って事は……」
そのまま家に向かう。
中学から家までは、自転車で15分くらいだったから……ちょっと遠い。
「ヘルアーシャ……なんで俺を……」
『過去を乗り越えよっか!』とか言ってたけど……まさか、テルに会えって言ってるのか?
「……無理無理無理無理……テルに会うなんて、絶対無理」
中学卒業してから―――いや、あの日以来、テルとは一言も話していない。
なんでだろうな……なんか、罪悪感からかな?テルに会っちゃいけないって、話しちゃいけないって……無意識的に、思ってるのかもな。
……しかし……久しぶりの制服だからか、動きづらいな。
いや……異世界の服がめっちゃ動きやすかったからか。
「あ……『クイック』!」
……うん。わかってたけど、何も変わらないな。
「さてさて……どうしたもんかね」
腕を組みながら、歩みを続ける。
「……にしたって……なんでこんな所に……」
もうちょっと転移させる場所を考えてくれても良かったのに―――
「イツキ……か?」
ふと、すれ違った人が、俺の名を呼んだ。
振り向き―――固まる。
ボサボサの髪の毛、眠そうな眼、怠そうな表情……その表情が、驚愕に彩られていた。
「……テ、ル……?」
「やっぱり……!イツキか!」
片手に竹刀袋を持ち、片手に防具袋を持つテル……剣道、続けてるのか。
「……あー……?なんかお前、でかくなったか?」
「な、何の話だよ……」
「んや、中学卒業……違うな、中3の部活引退ぶりか……なんか肩とか二の腕とかに筋肉が付いてる……何かあったんか?」
ペタペタと体を触り、首を傾げる。
……ああ……死と隣り合わせの生活してたから、ちょっと筋肉が付いてんのかな?
「いや……特には……何も……」
「そうか……それより、今から中学に顔出そうと思ってんだけど、イツキも来るか?」
「あ、いや、俺は……その……」
「どした?」
……こいつは、覚えていないのか?
俺とテルは……あの日喧嘩して、一度も話していないのに……なんでこいつは、平然としてるんだ?
「……その、さ……俺さ……」
「あー……悪かったな」
「え……?」
「やっぱり、気にしてたんだよな。あの日……喧嘩した事」
テルが眼を伏せ、頬を掻く。
「あの日は……その……イライラしてたんだ。新しく入ってきた1年生に、レギュラー取られるって思って」
「……………」
「俺のイライラで、お前を傷付けたんだよな」
……違う……違うんだ。
傷付けたのは……俺だ。
テルの気持ちをわかってなくて、何も考えずに声を掛けて。
「……ごめんな。お前に八つ当たりしちまって」
「ち、違う……テルは悪く―――」
「いや……俺が悪いんだ……ずっと、ずっと謝らないとって思ってたのに、先延ばしにして、中学を卒業して……こんな半端なやつが、強くなるわけないよな」
頭を下げたまま、テルが続ける。
「イツキ……俺は、うぬぼれてたんだ」
昨日、俺が言った言葉と同じ事を口にする。
「イツキなら、何も言わずに俺の気持ちを受け止めてくれるって、勝手に思い込んでたんだ」
「……俺はマーリンじゃないから無理だよ」
「ま、まーりん?って誰だ?」
……そう考えると、マーリンはスゴいな。
正面からぶつかってくれて、気持ちを吐き出させてくれて。
「ったく……俺は……ほんとに……!」
「ん?」
「俺は……バカだ……バカだよ……!人の気持ちも考えられないで……!テルの本音にも、シャルの本音にも気づけないで……!勝手に思い込んで……見捨てられたって、思い込んで……!」
嗚咽と共に、涙が出てくる。
本当にバカだ……テルの本心にも気づけないで、1人勝手にいじけて、後悔して、くだらない意地で周りを巻き込んで。
「……テル、ありがとう」
「あー?何がだよ?」
「俺を、剣道部に誘ってくれて、俺に、剣道を教えてくれて……ありがとう」
「何言ってんだか……誘ったのは俺だけど、強くなったのはお前だろ?」
苦笑し、テルが歩き始める。
行き先は―――中学校だ。
「……俺も―――」
テルの後を追う―――と、眼前が白くなり―――
―――――――――――――――――――――――――
「イツキ!」
「目を覚ましたか、大丈夫か?」
「え……あ?」
紫色と黒色が眼に入る。
「……ランゼ……ウィズ?」
「何やってたの?!床に寝てたわよ?!」
「うむ……シャルの事が心配で寝れていないのか?」
床に寝てた……?
「……テル……」
「む?テルとは?」
「……新しい女……じゃないわよね?」
「違ぇよ……」
……許して、くれたのか。
人の気持ちを考えられない俺を、許してくれたのか。
「ありがとよ……テル……」
「ねえ、テルって誰よ?」
「気にすんな……ウィズ、刀を取ってくれ」
「む……大丈夫なのか?」
「ああ……もう大丈夫だ」
ウィズから刀を受け取り、外に出る。
そのまま中庭に向かい―――素振りをしている女性がいた。
「……ん?どうかしたの?」
「んや……ちょっと頼みたい事があってな」
「頼みたい事……イツキが自分に頼み事なんて、珍しいわね」
汗を拭きながら、マーリンが剣を片手に近づいてくる。
「……あのさ……手合わせを頼みたいんだけど」
「手合わせ……って、自分と?」
「お前以外誰がいるんだよ」
「いや、えっと……自分で言うのも何だけど、強いわよ?」
「わかってんよ……だから頼むんだ」
『冥刀』を抜き、黒い刀身が姿を現す。
それを両手でしっかりと持ち、中段に構えた。
……うん。吐き気はしない。汗も出ないし、動悸もしない。
むしろ―――絶好調だ。
「……へえ……『双子座』を倒した所はよく見てなかったから、あなたがそれを構えるのは初めて見るけど……初心者ってわけでもなさそうね」
「まあ……一応は、な」
「……寸止めでいいわよね?」
「ああ」
「ご主人様!構ってくださいまし―――?!」
駆け寄ってくるフォルテが……俺とマーリンを見て固まる。
「―――ふっ!」
「しっ!」
―――シャルの結婚式まで、残り4日。
「ええ、そのくらい掛かると思うわ」
部屋の中、ランゼと二人きり。
普段ならめっちゃ緊張するんだろうけど……生憎、そんな余裕は無い。
「ちょっと『人王』の所に行って、馬車を借りてくるわ」
「ああ、頼む」
……さて……どうしたものか。
とりあえず、『魔導銃』の新しい形態でも試すか―――
「やあ、また来たよ!」
「……また来たのか、お前」
「うん、疲れてるね。大丈夫?」
「大丈夫じゃねぇよ……今は時間の余裕と心の余裕がねぇ……用件があるならとっとと言え」
ニッコリと笑うヘルアーシャが、部屋に現れた。
「そうだね……君たちの事情はわかってるし、単刀直入に行こうか」
表情を引き締めるヘルアーシャ……何かあったのだろうか?
「君に、『森精王子』に対抗する力……いや、『三大精霊』の一角、シルフに対抗する力を与えようと思うんだけど―――」
「詳しく聞こうじゃねえか」
「食い付きが早いね」
前のめりになる俺に、若干引きながら続ける。
「えっとね……実は、『冥刀』の事なんだけど……」
「……まさか『冥刀』を使えとか言うんじゃねぇよな?言っとくが、刀は絶対使わね―――」
「その刀にはね……『原初の六精霊』の一匹、『光神の精霊 エレメンタル』が宿ってるんだ」
…………え?
「エレメンタルって……なんか、あの、めっちゃスゴいやつか?」
「……ううん……スゴいなんてレベルじゃないよ。エレメンタルの力があれば……シルフなんて、相手にならないんだから」
シルフが……相手にならない?
「……そんなに強いのか」
「うん」
「…………でも、刀はダメだ」
「過去の出来事が、君を縛るから?」
室内を歩き、ヘルアーシャがベッドに寝転がる。
「……ああ……その通りだ」
「だったら、過去を乗り越えよっか!」
「は?」
不気味に笑うヘルアーシャが、俺に手を向け―――
―――――――――――――――――――――――――
「うっ……ああ……?」
眼前の光景が切り替わる。
……見た事のある道路……見た事のある建物……そして、肌が覚えている、懐かしい空気……もう二度と来ることのないと思っていた場所だ。
「ここは……中学の時の通学路……?」
……間違いない、通学路だ。
服は……高校の制服になってる。
「って事は……」
そのまま家に向かう。
中学から家までは、自転車で15分くらいだったから……ちょっと遠い。
「ヘルアーシャ……なんで俺を……」
『過去を乗り越えよっか!』とか言ってたけど……まさか、テルに会えって言ってるのか?
「……無理無理無理無理……テルに会うなんて、絶対無理」
中学卒業してから―――いや、あの日以来、テルとは一言も話していない。
なんでだろうな……なんか、罪悪感からかな?テルに会っちゃいけないって、話しちゃいけないって……無意識的に、思ってるのかもな。
……しかし……久しぶりの制服だからか、動きづらいな。
いや……異世界の服がめっちゃ動きやすかったからか。
「あ……『クイック』!」
……うん。わかってたけど、何も変わらないな。
「さてさて……どうしたもんかね」
腕を組みながら、歩みを続ける。
「……にしたって……なんでこんな所に……」
もうちょっと転移させる場所を考えてくれても良かったのに―――
「イツキ……か?」
ふと、すれ違った人が、俺の名を呼んだ。
振り向き―――固まる。
ボサボサの髪の毛、眠そうな眼、怠そうな表情……その表情が、驚愕に彩られていた。
「……テ、ル……?」
「やっぱり……!イツキか!」
片手に竹刀袋を持ち、片手に防具袋を持つテル……剣道、続けてるのか。
「……あー……?なんかお前、でかくなったか?」
「な、何の話だよ……」
「んや、中学卒業……違うな、中3の部活引退ぶりか……なんか肩とか二の腕とかに筋肉が付いてる……何かあったんか?」
ペタペタと体を触り、首を傾げる。
……ああ……死と隣り合わせの生活してたから、ちょっと筋肉が付いてんのかな?
「いや……特には……何も……」
「そうか……それより、今から中学に顔出そうと思ってんだけど、イツキも来るか?」
「あ、いや、俺は……その……」
「どした?」
……こいつは、覚えていないのか?
俺とテルは……あの日喧嘩して、一度も話していないのに……なんでこいつは、平然としてるんだ?
「……その、さ……俺さ……」
「あー……悪かったな」
「え……?」
「やっぱり、気にしてたんだよな。あの日……喧嘩した事」
テルが眼を伏せ、頬を掻く。
「あの日は……その……イライラしてたんだ。新しく入ってきた1年生に、レギュラー取られるって思って」
「……………」
「俺のイライラで、お前を傷付けたんだよな」
……違う……違うんだ。
傷付けたのは……俺だ。
テルの気持ちをわかってなくて、何も考えずに声を掛けて。
「……ごめんな。お前に八つ当たりしちまって」
「ち、違う……テルは悪く―――」
「いや……俺が悪いんだ……ずっと、ずっと謝らないとって思ってたのに、先延ばしにして、中学を卒業して……こんな半端なやつが、強くなるわけないよな」
頭を下げたまま、テルが続ける。
「イツキ……俺は、うぬぼれてたんだ」
昨日、俺が言った言葉と同じ事を口にする。
「イツキなら、何も言わずに俺の気持ちを受け止めてくれるって、勝手に思い込んでたんだ」
「……俺はマーリンじゃないから無理だよ」
「ま、まーりん?って誰だ?」
……そう考えると、マーリンはスゴいな。
正面からぶつかってくれて、気持ちを吐き出させてくれて。
「ったく……俺は……ほんとに……!」
「ん?」
「俺は……バカだ……バカだよ……!人の気持ちも考えられないで……!テルの本音にも、シャルの本音にも気づけないで……!勝手に思い込んで……見捨てられたって、思い込んで……!」
嗚咽と共に、涙が出てくる。
本当にバカだ……テルの本心にも気づけないで、1人勝手にいじけて、後悔して、くだらない意地で周りを巻き込んで。
「……テル、ありがとう」
「あー?何がだよ?」
「俺を、剣道部に誘ってくれて、俺に、剣道を教えてくれて……ありがとう」
「何言ってんだか……誘ったのは俺だけど、強くなったのはお前だろ?」
苦笑し、テルが歩き始める。
行き先は―――中学校だ。
「……俺も―――」
テルの後を追う―――と、眼前が白くなり―――
―――――――――――――――――――――――――
「イツキ!」
「目を覚ましたか、大丈夫か?」
「え……あ?」
紫色と黒色が眼に入る。
「……ランゼ……ウィズ?」
「何やってたの?!床に寝てたわよ?!」
「うむ……シャルの事が心配で寝れていないのか?」
床に寝てた……?
「……テル……」
「む?テルとは?」
「……新しい女……じゃないわよね?」
「違ぇよ……」
……許して、くれたのか。
人の気持ちを考えられない俺を、許してくれたのか。
「ありがとよ……テル……」
「ねえ、テルって誰よ?」
「気にすんな……ウィズ、刀を取ってくれ」
「む……大丈夫なのか?」
「ああ……もう大丈夫だ」
ウィズから刀を受け取り、外に出る。
そのまま中庭に向かい―――素振りをしている女性がいた。
「……ん?どうかしたの?」
「んや……ちょっと頼みたい事があってな」
「頼みたい事……イツキが自分に頼み事なんて、珍しいわね」
汗を拭きながら、マーリンが剣を片手に近づいてくる。
「……あのさ……手合わせを頼みたいんだけど」
「手合わせ……って、自分と?」
「お前以外誰がいるんだよ」
「いや、えっと……自分で言うのも何だけど、強いわよ?」
「わかってんよ……だから頼むんだ」
『冥刀』を抜き、黒い刀身が姿を現す。
それを両手でしっかりと持ち、中段に構えた。
……うん。吐き気はしない。汗も出ないし、動悸もしない。
むしろ―――絶好調だ。
「……へえ……『双子座』を倒した所はよく見てなかったから、あなたがそれを構えるのは初めて見るけど……初心者ってわけでもなさそうね」
「まあ……一応は、な」
「……寸止めでいいわよね?」
「ああ」
「ご主人様!構ってくださいまし―――?!」
駆け寄ってくるフォルテが……俺とマーリンを見て固まる。
「―――ふっ!」
「しっ!」
―――シャルの結婚式まで、残り4日。
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