発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

49話

「『レーヴァテイン』!」
「『ヘルフレイム』ッ!」
「『ネオ・アクアストーム』っ!」

 迫る炎を、獄炎と水の渦が打ち消す。

「……『炎魔法』の『レーヴァテイン』……使える者はいないとされ、もしいるとしたら―――最強の『炎魔法』の使い手だろう」
「なにそれ?」
「幼き時に見た文だ……貴様の『レーヴァテイン』という『炎魔法』……それにまさる『炎魔法』は、存在しないとも書かれていた」
「そんな……!そんなの、勝てるわけありませんわ!」

 焦ったような『水鱗女王』に対し……我は、自分でも驚くくらいに冷静だ。
 なんだろう……体の中から、力が沸き上がってくるように感じる。

「『ヘルフレイム』ッ!」
「鬱陶しいなぁ!『レーヴァテイン』!」

 迫る炎と獄炎がぶつかり合い―――ほんのわずかだが、炎の勢いが弱まった。

「『アクアストーム』っ!」

 弱まった炎を、水渦が打ち消した。

 ……これが、限界?
 いや、まだだ……まだいける。

「『ヘルフレイム』ッ!」
「『レーヴァテイン』!」

 再びぶつかり合い、炎の威力を弱める。
 ―――打ち負けたが、『獄炎魔法』が、先ほどより強力になっているのは、明らかだった。

「『ウォーターベール』っ!」
「……ちょっとずつ、威力が上がってきたね……何かしたの?」
「別に……いて言うなら、自分の中に存在する自分に、恐怖心を全否定されたくらいだ」

 ……違う……『獄炎魔法』じゃない。
 本能が訴えている……あの『炎魔法』に対抗するには、こちらも『炎魔法』を使え、と。

「『ネオ・エクスフレア』ッ!」
「しつこいなあ!『レーヴァテイン』!」

 炎と炎がぶつかり―――相殺。

「な、はぁ?!『レーヴァテイン』を……相殺した?!」

 驚く『牡牛座』……その大声は、我の耳には聞こえない。
 何故か―――周りの声が聞こえないほど、集中しているからだ。

 相手は『ゾディアック』……魔王の幹部。
 加えて、相手は『炎魔法』を使う。
 これほど燃える展開が……他にあるだろうか?

「……我は弱い。それなのに強く在ろうとしていた……いや、していたではなく、これからも強く在ろうとするだろう」
「……何が言いたいの?」
「才能に恵まれ、能力に恵まれ、魔法に恵まれ……向かうところ敵無しのお前たちは、努力をしない」

 掌から漏れる炎が、どんどん温度を上げていく。
 ……限界?いや、まだいける。

「我はウィズ・デルタナ……孤独を愛し、孤高の魔法使いを目指す者……

 炎の猛る音が止まり……静かになった。
 ……限界?いや、まだいける。

「だが……我は愛を知った。愛を知って……その者のために、強くなろうとした。今だってそうだ。イツキに頼まれたから、『水鱗女王』を守っている。イツキが頼まなければ、我はイツキの後を付いて回っただろう」

 炎の色が変わり、紫色に変わった。
 ……限界?いや、まだいける。

「しかし……我はイツキに『水鱗女王』を頼むと言われたのだ……命に代えても、約束を守ってみせる!」

 『ボッ……』と音を立て、炎が青色に変化。
 美しい……目が覚めるような、優しい色だ。
 ……何故かわからないが……この炎なら、あいつの『レーヴァテイン』にも負けないような気がした。

「はぁああぁあああああぁああああああああッ!」
「『レーヴァテイン』ッ!」

 美しい青色の炎と、猛る豪炎が衝突―――したと思ったら、次の瞬間には青色の炎が紅蓮の炎をあっという間に呑み込んだ。

「……我の勝ちだ」
「うっ―――がぁあああああああッ?!」

 青炎が『牡牛座』を呑み込み、炎上。

「あつ!熱いぃいいいいッ?!」
「……イツキの姿で叫ばれると、いささか罪悪感を覚えるな」

 ウィズVS『牡牛座』―――ここに決着。

―――――――――――――――――――――――――

「……シャル、ランゼ……怪我は無いか?」
「はい……ですが、アクセルさんとマーリンさんが……」
「アクセルは生きてるだろ、たぶん。マーリンはわからんけど」

 目の前に立つ男……こいつが『双子座』か?

「……シャル、これ持ってろ」
「え?あ、はい」

 シャルに刀を渡し、レッグホルスターから『魔導銃』を抜く。

「警告だ。今すぐここから離れるんなら、追い討ちはしない」
「へぇ、なかなか優しい―――」
「って、いつもなら言うんだけどよ……俺ぁ今、虫の居所が悪い。お前で八つ当たりさせてもらうぜ」

 脳裏にフラッシュバックした、凄惨な光景……あの悪夢の通りにはさせない。
 夢は夢のまま終らせてやるッ!

「『形態変化』……『伍式 対物銃アンチマテリアル』」

 銃口を向け、頭を回転させる。

 ……対物銃は、威力こそ強力だが……反動もデカイ。
 これを片手で撃とうとしたら……肩がイカれるだろう。
 つまり……両手が使えない、という事だ。
 だが、それでも……1発当てれば、かなりのダメージになる。

躊躇ちゅうちょはしねぇ……一気に仕留めてやる」
「おー怖い怖い……」

 『双子座』の頭に狙いを定め、引き金を引く。

「ん―――づッ?!」
「……頭を狙ったつもりだけど、避けられるなんてな」

 左腕が弾け飛び―――『双子座』が苦痛に顔を歪める。
 ほんと……『ゾディアック』の奴等って、平気で弾丸避けるよな。

「やるね……不意打ちとは言っても、僕に1発入れるなんて……!」
「……腕が吹き飛んでも顔を歪める程度で済むとか……心底恐ろしいな。『ゾディアック』ってのは」

 服を破き、左腕の付け根に巻くことで止血している。
 ……おっ……そうだ。良い作戦を思い付いた。

「ランゼ……今からあいつを遠くにぶん投げるから、『破滅魔法』を撃ってくれ」
「えぇ!任せなさ―――あ」

 何かを思い出したように……そして、申し訳なさそうに、ランゼが俺を見る。

「えっと……あの、ね?ちょーっと言いにくいんだけど……ね?」
「……なんだよ」
「……もう!言わなくてもわかるでしょ?!言わせないでよ!恥ずかしいんだから!」
「そういう台詞セリフは、もうちょっと雰囲気のある所で聞きたかった台詞だなこの野郎!」

 視界の端に映る『マーメイク』……あの大きな湖の水が、1滴残らず蒸発していた。
 何があったか……安易に想像できる……けど、想像したくない。

「この前言ったろ?!お前は『破滅魔法』撃ったら一般人に成り下がるんだからって!ああもう、お前はほんっとランゼだな?!足手まとい極まりねぇな!」
「何が言いたいかわからないけど、ゴメン……」

 はぁ……まあいい。
 相手は左腕を失っている……機動力はあっても、攻撃手段が減る。
 このまま行けば……勝てる、はず。

「まったく……人の武器を使うのは、いささか気が引けるけど……下らないプライドは捨てないとね」
「ああ……?」

 『双子座』が、右手で地面に落ちている剣を拾う。
 美しい赤黄色の刀身、銀色の柄……あれは……マーリンの剣か?

「おっ……重たいねこれ……!何でできてんだろ……!」
「剣……か……」

 ……怖いな…… 
 ジャック・ザ・リッパーの件で……刃物の脅威はわかっている。
 それを『ゾディアック』が持つとなると……片腕が無いとはいえ、警戒を強めるしか―――

「……それ、に……触るな……!」

 地獄から響くような恐ろしい声……背後から感じる異様な鬼気……
 その声と気配には覚えがある……が、背後のが、俺の覚えがある人物と同一だとは思えなかった。

「あれ……おかしいな?かなり遠くに投げたはずなんだけどな?」
「そん、なの……どうでもいい……!それを、返せ……!」
「お前……マーリン、か……?」

 美しい銀髪が血に汚れ、綺麗な顔は土に汚れ……でも、見間違えるはずがない。あれはマーリンだ。

「それ、を……『ロンゴミアント』を……!」
「ロンゴミアント……って、この剣の名前?」
「いい、から―――返せッ!」

 瞬きの間に距離を詰め、風を切る音と共にマーリンの手が―――

「おっと……その怪我で、よく動けるね」
「返、せぇえええッ!」

 必死の形相で、剣を取り返そうと奮闘。
 ……あんな必死なマーリンは、初めて見た。

「……マーリンッ!」
「うぁあああぁあああああッ!」

 ダメだ。聞こえちゃいねぇ。
 相手の片腕が無いとはいえ……相手は『ゾディアック』だ。
 徐々に傷が増え―――それでも、マーリンは止まらない。

 あの剣に、一体どんな思い入れがあるのかサッパリだが、必死な顔を見ると……かなり大切な物だとわかる。

「いい加減……邪魔だよ!」
「うあっ!」

 思いきり蹴り飛ばされ……シャルたちとぶつかる寸前で、受け止める。
 
「おい、大丈夫か?」
「返せ……返せ……!」

 腕の中でもがき、再び『双子座』の所で向かおうとする。

「落ち着け!」
「落ち着けるわけ、ないでしょ……!あれは、お父さんの……!」

 もがくマーリン……だが、まったく力が入っていない。
 こいつも限界なんだろう……なのに、剣を取り返すのに必死になって……

「……俺が取り返してやる。だから、ちょっと休んでろ」
「あな、たが……取り返す……?」
「ああ。だから休んでろ」

 荒い息を吐きながら、ようやくもがくのを止める。

「……シャル。刀を」
「はい!」

 黒い鞘に収まった『冥刀みょうとう』……それを受け取り、柄に手を添える。

 ―――瞬間に始まる。目眩めまいと動悸。

「―――はあっ!はあっ!」

 ぼやける視界……ふらつく足……
 耐えろ……あいつを殺すには、こちらも全力で戦うしかない。

「うっ……おえっ!」
「イツキさん?!」
「はあっ……ふうっ……さあ、始めようぜ……!」
「ははっ、君も武器を持ってたんだね―――」
「『クイック』」

 喋る『双子座』……その頭が空を舞った。

「な、え……?」
「うっ、おえぇぇぇ……!」

 びちゃびちゃと、嘔吐物が地面を汚す。

「今、何が……?」
「はあっ、はあっ……首を、斬っただけだ……」

 頭だけの『双子座』……何が起こったか、理解できていないみたいだ。

 イツキVS『双子座』―――ここに決着。

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