発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

47話



◇side アクセル・マーリン・シャル・ランゼ







「『炎舞えんぶ』ぅ……!」

 アクセルさんの腕が―――いや、棒切れのような物が燃え上がる。
 その棒切れをクルクルと回転させ、アクセルさんとマーリンさんが『双子座』に近づく。

「ふぅん?へぇ?僕と、るの?」
「当たりめぇだろぉがよぉ」
「えっと……アクセルだったわよね?」
「あぁ?んっだよぉ?」
「腕に覚えがあるみたいだけど……相手を侮らない方がいいわ」

 いつもは見せない緊張感……マーリンが、腰の剣に手を当てながら続ける。

「あいつは、『蠍座』と同じ『ゾディアック』……おそらく……いえ、絶対に強いわ」
「だったら何だってんだよぉ?目の前に立つ強敵はぁ、全部俺の踏み台だぁ……少しでもぉ、1歩でもぉ、イツキ俺の憧れに近づくためのなぁ」

 回転を止め、獣特有の殺気を出し始める。

「……『蠍座』は……『ゾディアック』は、あの『英雄』を殺したのよ?あんな強い『英雄』を殺すなんて、よっぽどの強敵じゃないと不可能よ!」
「誰だよ『英雄』ってぇ。そんなやつに興味はねぇよぉ」
「なっ……?!なんて事言ってんのよあんた!」
「んっだよぉ!さっきからピーピーうるせぇぞコラァ!」

 なぜか喧嘩が始まった。
 止めようかとも思ったが……ランゼさんの近くを離れるわけにもいかない。

「もう!お二人とも!敵は『双子座』ですよ!」
「そんな事わかってるわ!こいつが『英雄』の事を興味無いなんて言うから悪いのよ!」
「なんだてめぇ!ちょっと強そうだからって調子に乗んじゃねぇぞぉ?!大体その『英雄』とやらもぉ、イツキの前じゃゴミクズに等しいに決まってらぁ!」
「ゴミッ……!あんたいい加減にしなさいよ!って言うか、あの変態が『英雄』より強いわけないじゃない!あんなの『光魔法』が使えるだけの一般人でしょうが!」
「一般人だぁ?!はっ、てめぇの目はビー玉かぁ?!もっとちゃんと磨いとけよぉ!じゃねぇと曇って何も見えねぇだろぉ?!」

 なんでこうなったのか。
 この間で『双子座』が襲ってこないか心配だが……楽しそうに喧嘩を見ているから、襲って来る事は無いだろう。

「誰の目がビー玉ですって?!というか、あなたの喋り方変じゃない?!ちょっと笑えるんだけど?!」
「てめぇ……!言いやがったなぁ!触れちゃいけねぇ事に触れやがったなぁ?!もう我慢ならねぇ!『双子座』の前にてめぇを消したらぁ!」
「上等よ!ヤれるものならヤってみ―――」

 突如、マーメイクが爆発し、辺りに轟音が鳴り響いた。
 それと同時……空から水が降り、辺り一面を濡らしていく。
 ……雨?いや、違う。これは―――

「ねぇ……あんたたち、状況わかってるの?」
「ら、ランゼ!だってこいつが―――」
「わかってるの?」
「うっ……」

 普段は怒らないランゼさんが、珍しく怒っている。
 まさか……さっきの爆発は、マーメイクに向かって『破滅魔法』を使ったのだろうか?

「あれ?もう茶番は終わり?」
「あぁ……悪かったなぁ。ずっと放置しててよぉ」

 アクセルさんが不機嫌そうに構え、その隣でマーリンさんが剣を抜く。

「行くぜぇ……!ちゃんと合わせろよぉ!」
「なんで自分が合わせないといけないのよ!あんたが合わせなさいよ!」
「ごちゃごちゃうっせぇなぁ……別にどっちでもいいだろっがよぉ」

 睨み合う2人―――次の瞬間、アクセルさんの姿が消えた。

「―――『熊撃ゆうげき』ッ!」
「ふっ―――!」

 『双子座』の背後に回り込んだアクセルさんが、炎の拳で『双子座』を殴る―――直前、『双子座』が拳を放った。
 拳と拳がぶつかる鈍い音―――と、『双子座』が吹っ飛んだ。
 地面を転がり、吹き飛ぶ『双子座』……それに近づく人影が、剣を振り上げた。

「―――しぃ!」
「うおっと!」

 振り下ろす剣を、『双子座』が転がって避ける。
 躊躇ちゅうちょなく追いかけ、マーリンさんが剣を振り―――

「『双蛇そうじゃ』ぁあああああぁッ!」
「危なっ?!ちょっと!今自分に当たりそうだったんだけど?!」
「知るか避けろやぁ」
「あんった……!」

 2本のうねる炎が、『双子座』に迫り―――その前にいたマーリンさんに当たりそうになる。
 個人の力は『双子座』を上回っているが……お互いの攻撃が邪魔になるみたいだ。
 この2人は『協力』をしない主義なのか……まったく息が合っていない。

「……ちっ」
「ちょっと!舌打ちしたでしょ?!」
「うるっせぇなぁ……お前さっきから邪魔なんだよぉ。俺1人で充分だからどっか行ってろぉ」
「だから……!相手は『ゾディアック』なの!強敵なの!1人でるとからないとか言ってる場合じゃないの!」

 アクセルさんの言うことは一理ある。
 お互いの攻撃が邪魔になるのなら、どちらか1人が『双子座』の相手をして、もう1人がランゼさんを守ってくれれば良いのだから。

 しかし、マーリンさんの言うことも一理ある。
 相手は『ゾディアック』……その脅威は計り知れない。
 だとしたら、協力して戦うのが一番なのだが……この2人は、ビックリするくらいに馬が合っていない。

「……あ」

 ボソリと、『双子座』が声を漏らした。

「……弟……殺られちゃったみたいだね」

 ニヤリと口元を歪める『双子座』―――その体が、一瞬膨張したように錯覚した。
 いや、錯覚ではない……背が伸び、腕が太くなり、目付きが鋭くなって―――

「さて……それじゃ、本気で行こうかな?」

 大人……先ほどの子どもはどこへやら、『双子座』がいた所には、1人の大人が立っていた。

「なんだそりゃぁ……わけわかんねぇぞぉ?」
「うん……僕の『能力』は『セパレート』。自分の体を分離することができるんだ」

 体を……分離?

「まぁでも、自身の年齢とかも分けちゃうから……さっきまでの僕は子どもだったのさ」
「はっ……こっから本気かぁ……!」

 身を低くし、棒切れを構えるアクセルさん……先ほど喧嘩をしていたことも忘れたように、目の前の『双子座』に視線を集中させている。

「一瞬で楽にしてやるぜぇ!『熊撃』ッ!」
「ちょっと待ちなさ―――!」

 止めるマーリンさんを振り払い、アクセルさんが炎の拳で『双子座』を殴り―――!

「あ、そうそう」

 飛びかかるアクセルさんが、地面に沈んだ。

「ぐっ、ぉおおおおおぉ……ッ!」
「分けてたのは年齢だけじゃなくて……強さもだから。今の僕は……さっきの子どもが2人……いや、3人くらい合体したと思ってもらえればいい」

 頭を押さえられ、暴れるアクセルさん……その様子を見て、『双子座』が楽しそうに目を細める。

「まぁ落ち着きなよ……弟を殺せるやつが『水鱗国』にいるなんて……ちょっと楽しめそうだね」
「う―――ぉおおおッ?!」

 ペロッと唇を舐め、アクセルさんを勢いよく投げる。
 『水鱗国』の方へ飛んでいったアクセルさん……生きてるだろう。彼の生命力なら。

「―――しっ!」
「おっと……危ない危ない」

 短く息を吐き、マーリンさんが『双子座』の首を落とさんと斬りかかるが―――余裕の表情で避ける『双子座』が、その腕を掴んだ。

「っ?!放せ―――」
「もちろん―――ねっ!」
「うぐっ!」

 背負い投げ―――マーリンさんの体が宙を舞い、地面に叩き付けられた。

「うーん……手応えがないな」
「ランゼさん……!」
「参ったわね……『破滅魔法』はさっき使っちゃったし……!」

 悔しそうに『双子座』を睨み、ランゼさんが拳を握る。 

「そうだね……君たちも、一応殺しておこうかな?」
「―――舐めてんじゃぁ、ねぇよぉおおおおおおッ!」

 頭の横を、赤い風が通り抜ける。
 違う、風ではない。アクセルさんだ。
 棒切れから炎を噴射し、突っ込む勢いを付けている。

「『炎舞』ぅ!『熊撃』ィいいいいいッ!」
「よっと」
「ちっ―――『双蛇』ぁあああッ!」
「おっとっと……遅いね」
「ぐっ―――ぶっ……」

 腹部に拳をねじ込まれ―――アクセルさんがその手を掴んだ。

「掴まえたぜぇ……!」
「なにを―――」
「今だぁ!殺りやがれぇ!」
「言われなくても―――!」

 ユラリと立ち上がったマーリンさんが、剣を振り上げた。

ったぁああああああッ!」
「惜しい―――でも、まだ足りない」

 アクセルさんに掴まれている腕を振り、背後のマーリンさんにぶつける。
 絶対的なタイミング……協力をしなかった2人が見せた奇襲……それを、簡単に突破された。

 アクセルさんの頭を踏み、マーリンさんを片手で持ち上げ……『双子座』がニコリと微笑んだ。

「で……次は?」
「くっ、そぉおおおおおおおおぉッ!」
「うぁ、かふっ……!」

 踏まれるアクセルさんが、持ち上げられるマーリンさんが、もがいて『双子座』から逃れようと―――

「―――よっ」
「がふっ!」
「あく……せ、る……!」
「君もだよ」
「うわ―――!」

 アクセルさんが蹴り飛ばされ、地面を転がっていく。
 マーリンさんが投げ飛ばされ、『水鱗国』に向かって飛んでいく。

 ……私は?
 私は……ただ黙って見てることしかできないの?
 お二人のように戦うわけでもなく、逃げて助けを呼ぶわけでもなく……ただ無力を痛感するだけなんて―――

「ランゼさん……逃げてください。逃げて、助けを呼んで来てください」
「何言ってるのよ……そんなの、できるわけないでしょ?」
「お願いします……イツキさんを、呼んできてください」

 ―――絶対に、嫌だ!

「『ライトニング』!」
「おっと―――遅い」

 首を傾けるだけで雷撃を避け、そのまま私の頭を―――

「―――ん」
「『フィスト』ぉおおおおおおおおッ!」

 地面が割れ、砂ぼこりが舞い上がる。
 砂ぼこりが晴れ、そこにいたのは―――

「……俺さぁ、この前スッゲェ怖い夢見たんだわ」

 優しい声。安心感を覚える声。ずっと聞いていたい声……その声が、今は怒りに震えていた。

「まぁ、夢の通りになってないみたいだから良いけどよ……お前、ただで済むと思うなよ?」
「……ああ……君か。僕の弟を殺したのは」
「んな事はどうでもいい……俺は、今、スゴく、不機嫌だ……シャルに手ぇ出そうとした罰だ、ぶっ殺してやるよ」

 怒れる『勇者』が、私たちの前に立っていた。

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