発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。
42話
「さて……行くか」
「もう行くのかい?」
「はい、2日間お世話になりました」
女将さんに頭を下げ……隣に立つマーリンが、少し寂しそうに笑う。
「……お母さん」
「あなたの力なら誰にも負けないと思うわ……努力の化身のような子どもだからねぇ」
「もう!……行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
ゴツイ女将さんに見送られ、国の外に停めている馬車の所へ向かう。
「……なんか、違うよなぁ」
「何が違うんですか?」
「『騎士王』だよ『騎士王』。血気盛んって聞いてたからさ」
「……言われてみれば確かに……」
まぁ面倒事がないのは良いことだけど。
「なぁマーリン」
「そうね……確かに『騎士王』様は血気盛んだから……って、国王にそんな事言ったらダメでしょ?!」
元気なノリツッコミだな。
「……でも……確かに妙ね。あの『騎士王』様が、『英雄』の武器を使える人を無視するなんて思えない……」
「よくわかっているではないか」
「え……?!き、『騎士王』様?!」
『騎士国』の門……その壁に寄りかかるようにして立っている男。
大剣を背負い、不気味な『魔眼』を爛々と輝かせ……ラスボスにしか見えない。
「……血気盛ん、か……てっきり昨日戦るのかと思ってたけど?」
「ふん……昨日は準備ができてなかったからな……今日は万全だ。さぁ、殺し合おうではないか?」
血気盛んってレベルじゃねえ。こいつはイカれた戦闘狂じゃねえか。
「付いてこい……『水鱗国』へ行く前に、冥土に逝かせてやる」
「仮にも一国の国王なら、物騒な発言は慎んだ方がいいんじゃねぇの?ってか、俺はそもそも戦うつもりは―――」
「お前たちの馬車は、すでに王宮で預かっている」
「……ずいぶんと手際が良いんだな」
正直、行きたくないってのが本音だ。
だけど……こいつちょっとムカつくから、1回は殴っときたいよな。
―――――――――――――――――――――――――
訓練所……いや、訓練所って規模じゃねぇ。これは軽く高校の運動場じゃね?
「でっけぇなぁ……あ、俺わかった」
「何がです?」
「『騎士国』が大きい理由。こういう訓練施設が多くあるからだろ?」
「ほう……なかなか頭が回るではないか」
大剣を構える『騎士王』が、嬉しそうに笑う。
「……ウィズ。これ持ってろ」
「む……任せておけ」
ウィズに刀を預け―――『騎士王』と向かい合う。
……『騎士王』の『魔眼』……どんな効果があるかわからない。
だが……それはこちらの『魔導銃』だって同じこと。
まさかこれから弾丸が飛ぶなんて思わないだろう。
「……俺は、『騎士王 エクスカリド・ゼナ・アポワード』だ」
「は?いや知ってるけど?」
「決闘をする前は、お互いに名乗りを上げるべきだろう」
「ああそういうこと……俺は百鬼 樹だ」
「変な名前だな……まぁいい―――マーリン」
「はい!模擬戦―――開始!」
マーリンの声が、訓練所の中に響く。
開始と同時に、『魔導銃』を抜き―――
「『形態変化』……『参式 機関銃』!」
「ほう……」
引き金を引くと同時、凄まじい量の弾丸が『騎士王』に襲いかかる。
「―――隙だらけだな」
一瞬、左目が強く輝いたかと思うと―――『騎士王』が前進した。
バカだ。蜂の巣になるぞ?!
「ふっ―――!」
「なっ……はぁ?!」
首を傾け、頭を下げ、少し体を横に向け―――最小限の動きで、あの弾幕を回避した。
嘘だろ……機関銃の弾を避けるとか、化け物すぎるだろ?!
「……なかなか面白い『魔道具』だな?」
「みんなそれ言うよな……!」
今まで戦ってきた相手、みんな『魔道具』って言うよな。
『騎士王』の武器は大剣……距離を取って『魔導銃』撃てば勝てると思ってたけど、まさか避けられるなんてな……と、なると―――
「……んじゃ、本気で行くか―――『クイック』!」
「……魔法か」
腰を落とし、『騎士王』を向かって高速で移動―――
「―――おっ?」
……速く、ならない。
おかしい……『クイック』が発動しない……?
「なるほど……『光魔法』と、不思議な『魔道具』……確かに強いな。強いが……俺には勝てんな」
右目を輝かせる『騎士王』が、勝利を確信したように笑った。
「……『魔眼』の力か?」
「まぁそうだな……『傍観の魔眼』と『消魔の魔眼』……俺に与えられた力だ」
傍観に……消魔?
「……どんな『魔眼』か、聞いてもいいか?」
「良いだろう……『消魔の魔眼』は、視界に存在する全ての魔法を消滅させる『魔眼』。俺の視界内に人がいれば……そいつは、魔法を使うことができない」
「……俺が今『光魔法』が使えなかったのは……」
「俺の『魔眼』の力だ」
厄介すぎるだろ。いや、マジで。
魔法が使えないとなると、『魔導銃』に頼らなければならないのだが……
「……俺の弾丸を避けたのは、『傍観の魔眼』の力か?」
「まぁそうだな……『傍観の魔眼』の力は少々特殊でな……左目が映す風景は、上から見下ろす景色となる」
「……悪い。俺がバカだからかな?あんたの言ってることが理解できないんだが?」
「簡単に言うのであれば……天井や空だな。天井や空に目が付いている感じだ」
……上から見下ろす景色……って、ヘリコプターとかで地上を見下ろす感じか?
うん。意味がわからん。
まったくもって意味がわからんが……つまり、こいつが見ている景色は、右目と左目で違うって事か?
「……だからって弾丸を避けるのは、普通は無理だろ……?!」
「腕の向き、頭の向き、視線……上から見れば、攻撃の方向は……何となくだが、わかる」
……銃口の向きで、攻撃の向きを判断……判断した上で避ける……常人離れした動体視力と運動能力がないと不可能な芸当だ。
となると……銃口の向きで判断されないような攻撃をしなければならない。
それが可能なのは―――
「『形態変化』、『弐式 散弾銃』」
これなら……銃口の向きで判断されることはない。
そして……一瞬。一瞬でも視線を逸らす事ができれば―――
「……理屈だけで言えば、魔法が使える……!」
「飽きてきたな……そろそろ、終わらせるか?」
「ああ、終わらせたいな―――俺の勝ちで」
「ならば、終わらせてやろう―――お前の負けでな」
銃口を向け、3回ほど連続でぶっ放す。
「む―――?!」
銃口で判断できない攻撃―――ほんの一瞬だが、『騎士王』の視線が逸れた。
視線が逸れた……つまり、『魔眼』が俺を見ていないということ。
「『クイック』!」
その隙を突き、脚力を強化。
正面から行ったら『魔眼』に見られるかもしれないから、背後に回り込み―――
「―――『フィスト』!」
「ぐっ―――!」
振り向く『魔眼』が俺を捉える―――前に、拳を放つ。
イカれた威力の拳圧が、『騎士王』を襲い―――
「……どうした。当てないのか?」
「当てても良いんだけど……多分死んでたぞ?」
「そうだろうな……一瞬だが、死ぬかと思ったぞ」
……当ててはない……けど。
この『騎士王』……俺の拳圧でもぶっ飛ばないのか。本格的に化け物だな。
「……馬車を返してもいいが……条件がある」
「何っで上から目線なんだよ」
「……俺の兄を、頼んだぞ」
さっきまでの戦闘狂はどこに行ったのか……そこにあったのは、兄の無事を思う、弟の姿だった。
「……ああ。任せろ」
「さて……馬車の場所まで案内しようか」
―――――――――――――――――――――――――
「……狭ぇな」
「マーリンさんが入ったからですかね?」
「わ、悪かったわね!」
馬車の中に6人……まさか人数が増えるとは思ってなかった。
「ランゼ、『水鱗国』の場所はわかるか?」
「もちろんよ。任せときなさい」
「ああ……頼りにしてるぜ」
「……え?」
「あ?なんだよ?」
不思議そうに俺を見るランゼ……今、変な事言ったか?
「頼りにしてる、って……イツキに言われたの……初めて……」
「あ……ああ……別に、今まで言わなかっただけで、普通に頼りにしてたっての……」
「そ、そう……それじゃ、飛ばすわよ!」
「……安全運転な」
「任せなさい!イツキの『クイック』並みに飛ばすわ!」
いやそれ安全運転違う。
「もう行くのかい?」
「はい、2日間お世話になりました」
女将さんに頭を下げ……隣に立つマーリンが、少し寂しそうに笑う。
「……お母さん」
「あなたの力なら誰にも負けないと思うわ……努力の化身のような子どもだからねぇ」
「もう!……行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
ゴツイ女将さんに見送られ、国の外に停めている馬車の所へ向かう。
「……なんか、違うよなぁ」
「何が違うんですか?」
「『騎士王』だよ『騎士王』。血気盛んって聞いてたからさ」
「……言われてみれば確かに……」
まぁ面倒事がないのは良いことだけど。
「なぁマーリン」
「そうね……確かに『騎士王』様は血気盛んだから……って、国王にそんな事言ったらダメでしょ?!」
元気なノリツッコミだな。
「……でも……確かに妙ね。あの『騎士王』様が、『英雄』の武器を使える人を無視するなんて思えない……」
「よくわかっているではないか」
「え……?!き、『騎士王』様?!」
『騎士国』の門……その壁に寄りかかるようにして立っている男。
大剣を背負い、不気味な『魔眼』を爛々と輝かせ……ラスボスにしか見えない。
「……血気盛ん、か……てっきり昨日戦るのかと思ってたけど?」
「ふん……昨日は準備ができてなかったからな……今日は万全だ。さぁ、殺し合おうではないか?」
血気盛んってレベルじゃねえ。こいつはイカれた戦闘狂じゃねえか。
「付いてこい……『水鱗国』へ行く前に、冥土に逝かせてやる」
「仮にも一国の国王なら、物騒な発言は慎んだ方がいいんじゃねぇの?ってか、俺はそもそも戦うつもりは―――」
「お前たちの馬車は、すでに王宮で預かっている」
「……ずいぶんと手際が良いんだな」
正直、行きたくないってのが本音だ。
だけど……こいつちょっとムカつくから、1回は殴っときたいよな。
―――――――――――――――――――――――――
訓練所……いや、訓練所って規模じゃねぇ。これは軽く高校の運動場じゃね?
「でっけぇなぁ……あ、俺わかった」
「何がです?」
「『騎士国』が大きい理由。こういう訓練施設が多くあるからだろ?」
「ほう……なかなか頭が回るではないか」
大剣を構える『騎士王』が、嬉しそうに笑う。
「……ウィズ。これ持ってろ」
「む……任せておけ」
ウィズに刀を預け―――『騎士王』と向かい合う。
……『騎士王』の『魔眼』……どんな効果があるかわからない。
だが……それはこちらの『魔導銃』だって同じこと。
まさかこれから弾丸が飛ぶなんて思わないだろう。
「……俺は、『騎士王 エクスカリド・ゼナ・アポワード』だ」
「は?いや知ってるけど?」
「決闘をする前は、お互いに名乗りを上げるべきだろう」
「ああそういうこと……俺は百鬼 樹だ」
「変な名前だな……まぁいい―――マーリン」
「はい!模擬戦―――開始!」
マーリンの声が、訓練所の中に響く。
開始と同時に、『魔導銃』を抜き―――
「『形態変化』……『参式 機関銃』!」
「ほう……」
引き金を引くと同時、凄まじい量の弾丸が『騎士王』に襲いかかる。
「―――隙だらけだな」
一瞬、左目が強く輝いたかと思うと―――『騎士王』が前進した。
バカだ。蜂の巣になるぞ?!
「ふっ―――!」
「なっ……はぁ?!」
首を傾け、頭を下げ、少し体を横に向け―――最小限の動きで、あの弾幕を回避した。
嘘だろ……機関銃の弾を避けるとか、化け物すぎるだろ?!
「……なかなか面白い『魔道具』だな?」
「みんなそれ言うよな……!」
今まで戦ってきた相手、みんな『魔道具』って言うよな。
『騎士王』の武器は大剣……距離を取って『魔導銃』撃てば勝てると思ってたけど、まさか避けられるなんてな……と、なると―――
「……んじゃ、本気で行くか―――『クイック』!」
「……魔法か」
腰を落とし、『騎士王』を向かって高速で移動―――
「―――おっ?」
……速く、ならない。
おかしい……『クイック』が発動しない……?
「なるほど……『光魔法』と、不思議な『魔道具』……確かに強いな。強いが……俺には勝てんな」
右目を輝かせる『騎士王』が、勝利を確信したように笑った。
「……『魔眼』の力か?」
「まぁそうだな……『傍観の魔眼』と『消魔の魔眼』……俺に与えられた力だ」
傍観に……消魔?
「……どんな『魔眼』か、聞いてもいいか?」
「良いだろう……『消魔の魔眼』は、視界に存在する全ての魔法を消滅させる『魔眼』。俺の視界内に人がいれば……そいつは、魔法を使うことができない」
「……俺が今『光魔法』が使えなかったのは……」
「俺の『魔眼』の力だ」
厄介すぎるだろ。いや、マジで。
魔法が使えないとなると、『魔導銃』に頼らなければならないのだが……
「……俺の弾丸を避けたのは、『傍観の魔眼』の力か?」
「まぁそうだな……『傍観の魔眼』の力は少々特殊でな……左目が映す風景は、上から見下ろす景色となる」
「……悪い。俺がバカだからかな?あんたの言ってることが理解できないんだが?」
「簡単に言うのであれば……天井や空だな。天井や空に目が付いている感じだ」
……上から見下ろす景色……って、ヘリコプターとかで地上を見下ろす感じか?
うん。意味がわからん。
まったくもって意味がわからんが……つまり、こいつが見ている景色は、右目と左目で違うって事か?
「……だからって弾丸を避けるのは、普通は無理だろ……?!」
「腕の向き、頭の向き、視線……上から見れば、攻撃の方向は……何となくだが、わかる」
……銃口の向きで、攻撃の向きを判断……判断した上で避ける……常人離れした動体視力と運動能力がないと不可能な芸当だ。
となると……銃口の向きで判断されないような攻撃をしなければならない。
それが可能なのは―――
「『形態変化』、『弐式 散弾銃』」
これなら……銃口の向きで判断されることはない。
そして……一瞬。一瞬でも視線を逸らす事ができれば―――
「……理屈だけで言えば、魔法が使える……!」
「飽きてきたな……そろそろ、終わらせるか?」
「ああ、終わらせたいな―――俺の勝ちで」
「ならば、終わらせてやろう―――お前の負けでな」
銃口を向け、3回ほど連続でぶっ放す。
「む―――?!」
銃口で判断できない攻撃―――ほんの一瞬だが、『騎士王』の視線が逸れた。
視線が逸れた……つまり、『魔眼』が俺を見ていないということ。
「『クイック』!」
その隙を突き、脚力を強化。
正面から行ったら『魔眼』に見られるかもしれないから、背後に回り込み―――
「―――『フィスト』!」
「ぐっ―――!」
振り向く『魔眼』が俺を捉える―――前に、拳を放つ。
イカれた威力の拳圧が、『騎士王』を襲い―――
「……どうした。当てないのか?」
「当てても良いんだけど……多分死んでたぞ?」
「そうだろうな……一瞬だが、死ぬかと思ったぞ」
……当ててはない……けど。
この『騎士王』……俺の拳圧でもぶっ飛ばないのか。本格的に化け物だな。
「……馬車を返してもいいが……条件がある」
「何っで上から目線なんだよ」
「……俺の兄を、頼んだぞ」
さっきまでの戦闘狂はどこに行ったのか……そこにあったのは、兄の無事を思う、弟の姿だった。
「……ああ。任せろ」
「さて……馬車の場所まで案内しようか」
―――――――――――――――――――――――――
「……狭ぇな」
「マーリンさんが入ったからですかね?」
「わ、悪かったわね!」
馬車の中に6人……まさか人数が増えるとは思ってなかった。
「ランゼ、『水鱗国』の場所はわかるか?」
「もちろんよ。任せときなさい」
「ああ……頼りにしてるぜ」
「……え?」
「あ?なんだよ?」
不思議そうに俺を見るランゼ……今、変な事言ったか?
「頼りにしてる、って……イツキに言われたの……初めて……」
「あ……ああ……別に、今まで言わなかっただけで、普通に頼りにしてたっての……」
「そ、そう……それじゃ、飛ばすわよ!」
「……安全運転な」
「任せなさい!イツキの『クイック』並みに飛ばすわ!」
いやそれ安全運転違う。
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