発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

41話

「まさか、本当に抜けるなんてね」

 昨日泊まった宿に戻る途中、ランゼが刀を興味深そうに眺める。
 無論、触ることはできないため、俺の腰にぶら下げてある刀を眺める状態だ。

「……あなたみたいな変態が、その武器を持つなんて……」
「お前は本当にうるせぇなぁ?そんなに文句があるってんなら拳で語ってやろうか?そっちの方が手っ取り早いしな」
「や……るの?!言っとくけど、自分はこの国一番の騎士なのよ?!」
「だからなんだよ。俺は女の顔面にも全力パンチを喰らわせられる男だぞ?お前の顔面の形を変えてやろうか?」
「イツキさん、そこまでにしましょう?私、イツキさんが女性を倒す所なんて、見たくないです」
「なっ……!なんで自分が負ける前提なのよ!」

 ……うるせぇな、こいつ。
 俺と同じくらいの身長に、美しい銀髪……見た目だけなら、本当に女騎士なのだが。中身がなぁ……

「……ん」

 クイクイ、と服を引っ張られる感覚……見ると、何か言いたげなウィズがこちらを見上げていた。

「どした。トイレか?」
「ねぇ、その話はやめてよ」

 睨み付けてくるサリス……よくみれば、顔が真っ赤だ。

「その話ではなくてな……さっき言ってただろう?『その話は後でゆっくりしよう』、と」
「あ……ああ、そうだったな」
「それで?どうするのだ?」

 ……参ったなぁ……どうしようか。
 自慢ではないが、俺は彼女いない歴=年齢の童貞……女の子の好意への答え方がサッパリ、これっぽっちもわからん。

「あー……屋敷に帰ってからじゃダメか?」
「……構わんが」

 ……よし。屋敷に帰るまでに、なんて答えるか考えておこう。

「ねぇちょっと?今、屋敷って聞こえたんだけど?」
「だったら何だよ」
「持ってるの?屋敷?」
「持ってる……てか、貰った」
「屋敷を貰った?!誰に?!」
「グローリアスさんから」
「グローリアスさん……って、まさか『人王』?!」

 こいつは突っ込んでないと気が済まないのだろうか。

「……なんかもう、あなた何者?」
「別に……ちょっと知識にうとい一般人さ……あと『あなた』じゃねぇ。俺にゃイツキって名前がある」
「私だって『お前』じゃなくてマーリンって名前があるわよ!」

 なんだこいつ、めんどくさ。

「はぁ……もういいや。お前と話してると疲れる」
「だから!お前じゃなくてマーリンだってば!」
「わかったわかった……」
「……ねぇイツキ。マーリンも一緒に暮らすの?」
「ん……まぁそういう事になるだろうな」

 ……また食費が……まぁいいや。

「そっか……僕ストレア!よろしくね!」
「え、えぇ……よろしくね」
「それじゃイツキ!観光行こ!」
「マーリン連れていけ。俺は知らん」
「わかった!マーリン行こ!」
「え、あ、ちょっと……!」

 ストレアに引っ張られるように、マーリンが町中へ消えて行く。

「……帰るか」

 悪いなマーリン。今日はストレアに付き合ってやってくれ。

―――――――――――――――――――――――――

「……はぁ」

 なんか……1日で相当疲れた。
 腰に下げていた刀を部屋の端に置き、ベッドに寝転がる。

「……刀か……」

 ……持つのはいいが……絶対に使わない。

「……くだらない意地かな―――」
「やぁ!久しぶりだね百鬼君!」

 鍵を閉めた密室……この部屋の中には、俺しかいない……のに、他人の声が聞こえた。

「……えっと……ヘルアーシャだっけか?」
「正解!君も元気そうだね!」

 室内に備え付けられている椅子……幼女神は、そこに座っていた。

「で、何の用なんだ?」
「いやいや!その『神器』について説明しようかと思ってね!」
「『神器』……って事は、やっぱりソラってやつは―――」
「『剣ヶ崎つるぎがさき 天空そら』……察しの通り、日本人さ」

 やっぱりか……まぁ、予想通りだけどな。

「『冥刀みょうとう 殃禍おうか』……なんか禍々しいって言うか、変な名前だよな」
「……うん?多分、勘違いしているよ?」
「は?」
「それの本当の名前は、『みょう―――」
「イツキー?誰かいるのー?」

 ドンドン、と扉がノックされた。
 ……ランゼか?どうしたんだろ?

「……人が来たみたいだね。それじゃ、私は帰るとしようかな」
「おう、そうしとけ」
「それじゃ……またね!」

 微笑むヘルアーシャ……その姿がどんどん薄くなり、消えてしまった。

「……おう、どうしたランゼ―――あれ?」

 扉を開け……そこに、3人の女の子が立っていた。

「えっと……お前ら、どうかしたのか?」
「遊びに来ました!」
「ふざけんな帰れ」

 追い返そうとする前に、シャルたちが中に入ってくる。

「……話をしに来た」
「話って……いや、あれは帰ってからって―――」
「話があるのは、私たちよ」

 俺の言葉をさえぎったランゼが、ベッドに座り込む。

「……何だよ、話って」
「ねぇ……そろそろ、返事を聞かせてくれない?」

 何の返事だよ、と言いたかったが……声が出なかった。
 頭ではわかっているのだろう……何の返事か。

「……その……返事って……告白のか?」
「そうよ」

 ―――この日が、来てしまったのか。
 今までは何やかんやで誤魔化してこれたが……こうして正面から来られると……

「……シャルもか?」
「はい」

 さっきまでの愛らしい雰囲気が消え―――国王の娘に相応しい、落ち着いた雰囲気に変わっていた。

「聞かせてください……イツキさんが、どう思っているのか」

 ……どう、しよう。
 誰か1人を選ぶなんて、ヘタレな俺には無理だ。
 誰かを選ぶということは、誰かを傷付けるということ。
 そんな事……人間ができていない俺に、誰かを選ぶ権利なんてない。

「……悪い。俺に選ぶ権利なんて―――」
「誰かを選ぶということは、誰かを傷付けるということ……って思ってますよね?」
「……?!……お前……さっきも思ったけど、俺の心読めんの?」
「いいえ。イツキさんなら、こう思うだろうな、っていうのを予想しただけですよ」

 ……こいつはスゴいな。

「……その通りだ……誰か1人を選ぶとか、俺にゃできねぇよ」
「それでしたら、『誰か1人』ではなく『全員俺の嫁』にすればいいのでは?」
「……ん?一夫多妻って事か?」
「はい!」

 この世界……一夫多妻がありなのか。

「……だったらもっと無理だ」
「どうしてです?」
「俺が誰かを幸せにするとか……それが3人なんて、俺には絶対無理だ」

 俺は、自分の性格を理解しているつもりだ。
 だからこそわかる……俺は、人の事を幸せにはできない。

「何を言ってるんですか?イツキさんは人を幸せにできていますよ?」
「は……?」
「イツキさんとお話して、イツキさんと笑い合って、イツキさんと顔を合わせて……これが、私の幸せなんですよ?」
「お前は……何を……?」
「特別な何かがなくても、甘い言葉がなくても、例えお金や住む場所がないとしても……私はイツキさんの隣なら、いつでも、どんな時でも幸せですよ?」

 ……何で、そんなに俺を……?

「私も同じよ……隣にイツキがいるなら、1日1発の『破滅魔法』も我慢できるわ」
「うむ……最強の我に釣り合う者など、イツキしかいないだろう」

 この2人は何を言ってるかわかんない。
 わかんない……けど……

「……幸せに、できてるのか」
「もちろんです」
「隣にいて、ほしいのか」
「当たり前よ」
「一緒にいて良いのか」
「うむ」

 反応の仕方は違えど、その言葉に込められた思いは同じらしい。

「……はぁ、俺ってあんまりこんな事するようなキャラじゃないんだけどな……でも、女の子にばっかりに言わせるのも、男じゃねぇよなぁ」

 乱暴に頭を掻き、人生17年間の中で、初めて告白を口にした―――

「……俺も、お前らが好きなんだと思う……お前らと一緒にいたい、これが俺の本心だ」
「イツキさん……」
「絶対幸せにできるとか、保証は無いけど……それなりに、頑張ってみるよ」
「えぇ、幸せにしてもらうわ」
「うむ……期待しておくぞ?」

 異世界での―――いや、人生初の彼女が、一気に3人もできたのだった。

―――――――――――――――――――――――――

「……どうしてこうなった……?」

 深夜の宿……ほかのやつらは、寝ているだろう。
 そういう俺は―――昼間の一件のせいで、寝られずにいた。

 いやー……彼女3人はヤバイだろ。は?二股なんて比じゃねえぞ?3人って……えぇ?
 昼間は雰囲気に流されて、告白とかしてしまったが……冷静に考えたら、ヤバイよな?

「……だーからいつまで経ってもヘタレなんだよな」

 一度口から出た言葉は戻せない……1回告白したんだから、責任は取らないと。

「全員……3人とも幸せに……」

 俺は、誰かの事が好きとかいうのが、よくわからない。だから今まで女の子と付き合う事ができなかったんだろうけど。
 でも……今回は本心から、あいつらと一緒にいたい、と思ってる。

 もちろんストレアもサリスも、大切な……家族のような感じだと思っている。
 あの2人とも、一緒にいたいって思って……あれ?
 ストレアとサリスとも一緒にいたいって事は……俺、ストレアたちの事も好きなのか?

「え……あれ?」

 なんかもう、わけわかんねぇな。
 とりあえず……明日から『水鱗国』に行くんだし、寝るか。

コメント

  • ヒナキ

    ん?変態爆裂魔法の使い手かな?

    1
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