発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

39話

「わーい!」
「ちょっとストレア、飛び込まないでよ」
「えへへー!僕ここで寝るね!」
「待て、端は我だ」

 ……なんだろう、このカオスな空間は。

「おい、騒がしくすんな。他の客に迷惑だろうが」
「はーい!」
「ちょっと、今のは私にも注意したの?」
「当たり前だろ」

 殴りかかってくるランゼを無視して、室内を出ようと―――

「あの……本当にお一人で寝られるですか?」
「ああ……さすがに女の子5人と一緒に寝るってのは問題だろ?」
「でしたら、女の子1人と一緒に寝られるのはどうでしょうか?!」
「おう黙ってここにいろ」

 付いてくるシャルの頭を押さえ、部屋に押し戻す。

「んじゃ、お前ら早く寝ろよ」
「はい!何かあったらお呼びください!というか、用事が無くてもお呼びください!」
「安心しろ、鍵は絶対閉めて寝るから」
「……ぶー……」

 最後の最後まで食らい付いてくるシャルをあしらい、部屋を出る。

「はぁ……どうして俺の周りのやつらは残念なやつばっかりなんだ―――」
「あ!」
「……あ?」

 部屋の外に、綺麗な女性が立っていた。
 ……誰だこいつ。知り合いにこんなやついたっけ?

「さっきの変態!」
「おい誰が変態―――ああ、お前さっきの」

 銀髪の女性が、俺を指さして声を上げる。

「……なぁ、お前この国で暮らしてるんだよな?」
「だ……だったら何?」
「『英雄』ってやつの事……知ってるか?」
「『英雄』……『ソラ・ヴァルキリア』の事?」

 ソラ・ヴァルキリアって、中二病かよ。

「知ってるのか?なら教えて―――」
「無理!」
「……あ?」
「あ、ち、違うの!そういう意味の無理じゃなくて……」

 なんだよ無理って、上半身裸の事をそんなに根に持ってんのかよ。

「エクスカリド様の命令で、『英雄』の事は市民に教えたらいけない決まりになってるの……『騎士王』側近の騎士とかなら聞かされているけど」
「なんだそりゃ」
「自分もあんまり詳しく聞かされてないけど……『英雄』には、色んな謎があるから、教えたらいけないってなったと聞いたわ」
「色んな謎……?」
「出身が不明。伝わっている名前は偽名。使っていた武器も『英雄』以外、誰も使えない……そんな感じの謎ね」

 なるほど……まぁ異世界から来たんだし、不明な点も多いだろうな。
 てか……市民に教えたらいけないって言うわりには、やけに詳しいな、こいつ。
 側近の騎士とかなら別って言ってたが……まさか、こいつが……?いや無いわ。確かにあの剣さばきはスゴかったけど。

「それより……早く寝た方が良いわよ?」
「ん、ああ……色々教えてくれて、ありがとな」
「いいわよ……あなた、多分『人国』から来たんでしょ?せっかく『騎士国』に来てくれたのに、手ぶらで帰らせるのもあれだしね」
「……え?なんで俺が『人国』から来たってわかるんだ?」
「だって『騎士国』の人なら、自分の事を知ってるだろうし」

 ……って事はやっぱり、こいつ、『騎士王』側近の騎士って事か?

―――――――――――――――――――――――――

「んし……お前ら、準備いいか?」
「もっちろーん!」
「……観光は、情報が上手く集まった後だからな?」
「もう!わかってるよ!早く情報集めて、観光行こー!」

 朝の……10時くらいだろうか。『騎士国』の王宮にやって来た。

「……グローリアスさんの弟……血気盛ん……嫌だなぁ」
「大丈夫です!イツキさんなら勝てますよ!」
「そういう問題か……?」

 門番のような人に、グローリアスさんから貰った手紙を見せたら、すんなりと中に入れた。

 ……さて、どうやって話を切り出そうか。
 いきなり『英雄』について聞くか?それとも、少し世間話をした方がいいのか?

 ……こういう時はいつもグローリアスさんが話してたからな……どうすれば良いかサッパリわからん。

「『騎士王』様は、こちらにいらっしゃいます」
「ん……案内ありがとうございます」
「いえそれでは」

 ここまで案内してくれた門番が、王宮の外へと歩いていく。
 ……参ったなぁ。どうしたらいいんだろうか。

「……もう、行き当たりばったりで行くしかねえな」

 大きな盾が飾られている扉……ドアノブを握り、一気に開けた―――

「……………」
「―――ッ!」

 ……初めてのパターンだ。
 今までの国王は、顔を合わせたら名乗りを上げていたが……この『騎士王』は、俺の顔をじっと視たまま口を開こうとしない。

 それに、あの『騎士王』の眼……まさかあれは―――

「……『魔眼』か」
「ほう……俺の眼を見ても、その程度の反応しか見せないとは……肝のわったやつだな」
「どんなリアクションを期待してたかは知らねぇけど……残念ながら、『魔眼』はもう見慣れてんだわ」
「そ、そんな……私の事しか見ていないなんて大胆な……」
「そこまで言ってねえ」

 もじもじとわざとらしい演技を見せるシャル……その雰囲気が一変し、『騎士王』に向かって優雅にお辞儀した。

「……お久しぶりです、『騎士王 エクスカリド・ゼナ・アポワード』様」
「お前は……グローリアスの娘の、シャルロットだったか?」
「はい。5年ぶりでございますね」
「ずいぶんとまぁ、大きくなったな」

 流暢りゅうちょうに話すシャルを見て、ちょっと驚いた。
 ……やっぱりシャルって、国王の娘なんだよなぁ。普段からはまったく想像がつかないけど。

「……それで、何の用なんだ?」
「イツキさん、手紙を」
「んあ、わかった」

 『騎士王』に近づき、手紙を渡す。

 『騎士王』の眼……『魔眼』だ。間違いなく『魔眼』……なのだが。
 ……まさか、両眼が……?

「……なんだ」
「んや、なにも」

 殺気立つ『騎士王』から距離を取り、シャルたちの所へ戻る。

「……なぁシャル」
「はい、イツキさんの考えで間違ってないですよ」

 ……って事は……『騎士王』の眼は、どっちも『魔眼』なのか。
 ……あれ?今俺、喋ったっけ?喋ってないよね?あれ?シャルは俺の心が読めんの?

「……ふん、グローリアスが……」

 退屈そうに手紙を閉じ、立ち上がった。

「いいだろう、『英雄』について教えてやる……お前たちには、あまり時間が残されていないようだしな」
「……どういうことだ?」
「手紙に書いてあるぞ」

 差し出される手紙を取り、内容に目を通す。

『エクスカリドへ
 久しぶりだな、グローリアスだ。
 早速で悪いのだが、この者イツキ君に『英雄』の情報を教えてやってくれ。
 イツキ君は『騎士国』に行った後、『水鱗国』に行かなければならないため、できるだけ早く頼む。
            グローリアス』

 ……おい、なんで俺が『水鱗国』に行くってなってるんだ。

「それにしても……『英雄』について知りたいとは、物好きなやつだ」
「……何でだ?」
「嘘偽りしかないあの『英雄』だぞ?……興味を引かれるような事は、何もないだろう?」

 部屋を出る『騎士王』が、『パンッ!』と両手を打った。

「マーリン!『英雄の墓地』へ行くぞ!付いてこい!」
「はっ!」

 呼び掛けに応じて出てきたのは―――あの、銀髪の女性だった。

「……やっぱりお前、側近の騎士だったのか」
「ん?……あ、ああっ?!昨日の変態!」
「おいふざけんな、あれは事情があったって言ってんだろうが」

 驚きにに目を見開く女性が、俺を見て大声を上げる。

「……なんだマーリン、知り合いか?」
「この人、昨日私に裸を見せ付けてきました!」
「ふっざけんな!お前いい加減にしねぇとぶん殴るぞ!」
「なによ!るの?!」

 腰の剣に手を掛ける女性……なんだこいつ。俺とるってのか?
 言っとくが、俺は相手が男だろうが女だろうがぶん殴るぞ?

「落ち着けマーリン……彼らは客だ。暴言は慎め、丁重にもてなすように」
「……はい、エクスカリド様……こっちよ、付いてきなさい」

 腕を組み、女性の豊満な胸が押し上げられる。

「……イツキさぁん?」
「違うんだ。違うんだよ」

 眼帯を外すシャルが、物騒な視線を向けてくる。

「……シャルロット、お前はまだ眼帯を付けているのだな」
「え?あ、はい」
「そうか……まだ怖がっているのだな」

 眼帯を外したシャルを見て、『騎士王』が目を細める。

「いえ別に、そういうわけでは……」
「……おいそこの……変態と呼ばれていたやつ」
「イツキな。手紙にも書いてあっただろうが」
「そんな事はどうでもいい……」

 俺の頭を掴み、乱暴に引き寄せる。

「……シャルロットは、傷付いている」
「は……?」
「俺みたいに、開き直る事ができればいいが……シャルロットは女の子だ、年頃のな。当然、周りの視線を気にするだろう……お前はそれを、理解してやっているのか?」
「……どういう、意味だよ」
「シャルロットの反応を見る限り、お前は彼氏か婚約者だろう?将来自分の伴侶となる女の事ぐらい、理解しておけ」

 なんだこいつ、わけがわからん。そもそも彼氏でも婚約者でもねえっての。
 シャルが傷付いてる?周りの視線を気にしている?んな事―――

「……お前に言われなくたって、わかってんだよ」
「……果たして、本当にそうかな?」
「いちいちかんさわる野郎だな……言いたい事があるならハッキリ言えよ。回りくどく言うのが好きな中二病かお前。精神年齢がウィズと同レベルとか国王としてどうなんだよこら」

 苛立ちのせいか、いつもより語調が強くなってしまった。

「だったらハッキリ言ってやろう―――貴様は、『魔眼』を持つ者の気持ちを理解していない」
「そ、そんな事ないです!イツキさんは―――」
「俺が親から、なんと呼ばれていたか教えてやろうか?」

 威圧的な視線を向ける『騎士王』が、冷たく、低く言い放った。

「―――悪魔の子だ」
「エクスカリド様……もうこの話は終わりにしましょう?」
「ならん。貴様に、初対面のやつから嫌な顔をされる気持ちがわかるか?『魔眼』を持つだけで差別され、後ろ指を指される気持ちがわかるか?」
「は?いや知らねぇし、わかりたくもねぇわ」

 『騎士王』の問いかけに、雑に言葉を返す……ってか、なんでこんな話になってんの?

「まぁもし、シャルの事をバカにするようなやつがいたら……ぶん殴ってやるけどな」
「イツキさん……」
「ふん……長話しになったな……マーリン、案内をしろ」
「はっ!」

 『魔眼』を持つやつの気持ち?周りにどう思われているか?知らん。そんなの俺には関係ない。
 でも……シャルがバカにされるのは、なんかちょっとムカつく。
 だから、シャルをバカにするようなやつは、ぶん殴ってやる。でいいだろ。

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