発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

38話

「晴天……だな」
「そうね。『騎士国』に行くには、絶好の天気ね」
「早く!早く行こー!」

 翌朝の早朝……グローリアスさんに借りた馬車の前に立ち、全員揃うのを待っている。

「……ウィズとサリスは何やってんだ?」
「遅いですね……何かあったのでしょうか?」
「すまない!遅くなった!」

 うつらうつらとしたサリスが、ウィズに引っ張られながら外に出てきた。

「……ウィズ。これからサリスが寝坊したら起こさなくていいぞ。置いて行くから」
「うぅ……イッチャン、それは酷いんじゃない?」
「だったら寝坊すんな」
「全員揃ったわね……それじゃ行きましょ?」
「……ああ、そうだな」

 馬車を借りた所で、馬車を操作できるやつがいないから困ったな……と思っていたら、以外にもランゼが御者の経験があると言ってくれた。

「そんじゃ……ちゃちゃっと行きますかね」

 目的は『英雄』の情報を集める事……まあ暇ができたら、ストレアの観光に付き合ってもいいだろう。
 だが、それは情報収集が上手くいったらの話……グローリアスさんからの手紙もあることだし、上手くいくとは思うけど。

―――――――――――――――――――――――――

「……ケツが痛くなってきたな」
「そうですか?」
「なんだ……たかだか6時間座ってるくらいで情けないな」
「いや待てよ、6時間だぞ6時間。座布団も何も無いんだぞ?そりゃケツも痛くなるわ」

 こいつは相変わらず口悪いよな……もう慣れたからいいけど。

「……シャル、『騎士国』ってどんな所なんだ?」
「そうですね……かなり大きな国っていう事と……国に住んでいる国民が、必ず剣の訓練を受けなければならない、ちょっと変わった国です」
「いや、何それ?」

 義務教育ならぬ、義務訓練ってか?法律かな?だとしたら『騎士王』の頭ブッ飛んでない?

「『騎士王』は血気盛んなので、もしかしたら……」
「おい待て……俺、その後に続く言葉が何となくわかったわ」

 勝負を挑まれるかも、って続くだろ絶対。

「……もうなんか……国王として大丈夫か?」
「国民からの支持は厚いみたいですよ」
「『騎士国』の国民って、脳筋ばっかなの?」

 ……先が思いやられるなあ。ちゃんと『英雄』について調べられると良いけど……

「サリス?大丈夫?」
「……………」

 ストレアの心配そうな声が聞こえた。
 そちらを見ると……ストレアの隣に座るサリスが、どこか辛そうにしている。

「おいどうしたサリス?気分悪いのか?」
「う、ううん……違う……」

 そんなに暑くないのに、サリスの顔には汗が見られる……本当にどうしたんだこいつ?

「あ、あのね?うち、起きるのが遅かったでしょ?」
「ああ。置いて行こうかと思ったしな」
「それでね?ウィズちゃんに連れられるまま外に出たんだけどね?あの……その……」

 顔を真っ赤にし、恥ずかしそうにしながら小さく呟いた。

「………………トイレ行きたい」

 馬車の中が、一気に大騒ぎとなった。

「え……ぇええええ?!トイレ?!」
「急げランゼ!全速力で飛ばせ!」
「わ、わかったわ!」
「サリス、もうちょっと耐えろよ!」
「はぁ……はぁ……んんっ」

 ランゼが手綱を打つ音が聞こえ、馬車が加速する。
 と、なると当然―――

「あっ、んっ、振動、ダメえっ。出ちゃ、出ちゃう!」

 ガタガタと揺れる馬車……なるほど、早く行こうとしても、遅く行こうとしてもサリスが漏れそうになるのか。詰みじゃねえか。

「んあっ……もう、無理ぃ……」
「ランゼ!こっから『騎士国』まで何分くらいだ?!」
「あと30分は掛かるわ!」
「30分……無理だよな?」
「無理っ、無理ぃ!」

 泣きそうになるサリス……参ったな。サリスの反応が楽しくなってきた俺は変なのだろうか。

「……シャル。こっから『騎士国』への方向は?」
「直進です」
「直進……なら迷うことはなさそうだ。サリス、俺の背中に乗れ」
「あっ、んっ。わかっ、たぁ」
「ランゼ!ちょっと馬車停めろ!」
「わかったわ!」

 急停車した馬車から飛び降り―――

「『魔力』40%―――『クイック』!」

 風さえも置き去りにして、『騎士国』目指し真っ直ぐに走った。

―――――――――――――――――――――――――

「はあっ、着いた……!」

 5分間、全力ダッシュし……やっと『騎士国』に着いた。

「トイレって……どこの借りればいいんだ?」
「イッ、チャン……」
「もうちょいだ、もうちょい我慢しろ!」

 とりあえずどっか、建物―――

「お……『鍛練者の宿』……?」

 名前も脳筋だな!もうあそこでいいや!

「サリス、もうちょっとだ!もうちょっと―――サリス?」
「……………」

 ……なん、だろう。サリスが背中で小さく震えている。
 あとなんか、背中が生暖かい……

「……なあサリス、怒らないから正直に答えろよ?」
「…………うん」
「漏らしたか?」
「……………………うん」

 首を回し、後ろを見ると……サリスが泣いてた。
 『恥ずかしい』とか『申し訳ない』とか、色んな感情が混ざって泣いてしまったんだろう。
 ……ごめん。俺も泣きたいんだけど。

「……宿って、洗濯してくれたよな?」
「うん……『雷魔法』を動力にして、洗濯してくれる『魔道具』があると思う……」

 ……頼むしか、ないのか。

「いらっしゃい!お二人かい?」
「いや、あの……代金払うんで、服の洗濯をお願いできます?」
「服の……洗濯?……あっ」

 泣きそうな俺と泣いてるサリスを見て、女将さんが察してくれたようだ。

「大変だったねえ……お風呂入るかい?」
「……ありがとうございます」

 1つの部屋に案内され、どうしたものかと考える。
 ……一緒に風呂に入るのは、さすがにヤバイ……でも、1人ずつ入ってたらランゼたちが来てしまう。
 俺は背中がちょっとアレなだけだから……タオルで拭くくらいにしとくか。

「……サリス、風呂入ってこいよ」
「う、うん……ありがと」

 サリスが風呂に行くのを確認して、上の服を脱ぐ。
 ……うっわ……下のシャツまでぐっしょりじゃねえか……あいつどんだけ我慢してたんだよ。 

「服、持って行っていいかい?」
「あ、お願いします」

 女将さんが部屋に入り、俺たちの服を持って行く。
 ……ゴッツイ女将さんだな……

「はぁ……なんでこんなに疲れないといけないんだか」

 タオルを濡らし、背中を拭く。
 ……午後の3時過ぎ……今日『騎士王』を訪ねるのは、止めとこうかな?
 だとしたら、宿を確保しなければならないが……

「もう、ここでいいかな」

 今から別の所を探すのも面倒だし……

「……ランゼたち、ここがわかると良いけど」

 心配になってきたな……ちょっと外の様子を見に行くかな―――

「きゃ?!」
「うおっ、すまん」

 廊下を歩いていた女性とぶつかりそうになった。
 美しい銀髪の長髪に、俺と同じくらいの身長……モデルみたいだ。

「い、いや、自分も前方を見ていな―――っ?!」
「あ?」
「な……変態!変態がいるー!」

 おい待て、何故いきなり変態呼ばわりされないといけないのだ。
 別にちょっと上半身が裸なだけで―――いやダメだ。変態だわ。間違いなく変態だわ。

「ち、違うんだよ。ちょっと理由があって―――」
「問答無用っ!」
「あぶな!ちょ、お前マジか!いきなり斬ってくるとか殺人鬼かよ!」

 銀髪の女性が斬りかかってくる。
 マジかよこいつ。初対面でいきなり斬りかかってくるとか。

「変態滅殺!」
「うおっぶ!」

 なんてキレキレな剣なんだ……!ジルガバーナさんとかジャック・ザ・リッパーより速い!

「洗濯終わったよー……あら?」
「お母さん!変態が!家に変態が!」
「落ち着きなさい『マーリン』。お客様よ」
「変態のお客さん?!」

 剣技だけじゃなくて、ツッコミまでキレキレだな。

「ゴメンねぇ、うちの娘ったら男の子に慣れてなくって」
「いえ……上半身裸の俺が悪いんですわ」
「そうよ!自分は悪くないわ!」

 こいつしばき回していいかな?

「ああそうだった。ほら、洗濯終わったわよ」
「あ、ありがとうございます……あの、今日ここに宿泊してもいいですかね?」
「もちろん。お客様はいつでも大歓迎さ。2人でいいのかい?」
「いや、もう4人ほど……」
「へ、変態を入れるの?!」

 こいつもしつこいな。
 いい加減にしないと、俺の鉄拳が炸裂する―――

「イッチャーン!上がったよー!」
「おっ……呼ばれてるんで、失礼します」

 女将さんに頭を下げ、風呂場で待つサリスの所へ向かう。
 風呂場の扉を開けようとして―――ふと、色鮮やかな服が目に入った。

 薄緑色の……うん。薄緑色の下着だ。もちろん、俺の下着ではない。
 ……これ、サリスのパン―――

「イッチャーン?いないのー?」
「お、おう……ここに置いとくから」
「はーい!」

 ……目に悪いものを見てしまった。
 いや、目に悪くはない。むしろ目に良いのかもしれない。
 だって年頃の女の子の下着を見ることなんて、今後滅多にないだろう。
 うん、何を考えてるんだろう。俺は。

 ちなみに上の下着もあったが……まぁ、うん。可愛いサイズだった、とだけ言っておく。

「……ランゼたち、遅いな」
「お待たせ!」
「おう……今日はここに泊まるから、みんなを呼んできてくれ」
「わかった!『ソウルイーター』!」

 黒い翼が生えたサリスが、窓から外へ飛んで行った。
 ……さて、今のうちに部屋を頼んでおくか。

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