発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

31話

「ふん、長寿だろうが関係ない……シャルの事は諦めてくれ」

 低く言い放つグローリアスさんの声が、いつになく怖く感じた。
 ……グローリアスさん、シャルの事が絡むと本当に歯止めが利かなくなるよなぁ。

「ふ、ふふっ……」
「あぁ?何がおっかしぃんだよぉ」

 不意に響く小さな笑い声……それに反応したのはアクセルだ。
 だが『森精王子』はそれに答えず―――

「……『第一重アインズ・守護ガード・結界フォート』」

 ―――俺を……いや、俺たち1人1人を『薄灰色の壁が箱のようになって』取り囲む。

「残念だけど……オイラはシャルロットちゃんを諦めるつもりはないよ」

 子ども特有の笑みを浮かべながら、『森精王子』がゆっくりとシャルに近づく。

「そこで大人しくしててね?オイラも乱暴にするのは―――」
「『フィスト』」
「『炎舞えんぶ』ぅ、『熊撃ゆうげき』ぃ」
「『ドラゴトランス』」
「『ビーストハウル』」
「『ソウルイーター』ッ!」

 各々おのおのの方法で『ガーディアン』を無効化する。

「ふっ!」
「あ、ありがとストレア……」
「すまない、助かる」
「いいのいいの!」

 ランゼとウィズは、ストレアがいれば大丈夫そうだな。

「ガオッ!オおッ……ああ、頭痛い」
「貴様の能力は相変わらず獰猛だな……」
「ふう……君も早くその腕を戻したら?こっちが怪我しそうなんだけど?」
「ふん。我がそんな失敗をするはずがないだろう?もっとも、貴様には当てるかもしれんけどな」
「へえ……やってみたら?」

 この2人は本当に自由だな!いきなり能力を使ってきた『森精王子』の事は無視かよ!

「……人間の君たち2人がこれを破壊できるなんて……」
「残念だったね、うち達がこんなのに負けるはずないじゃん」

 黒い鎌を構えるサリス……まあ、バハムートさんも『第一重アインズ』と『第二重ツヴァイ』は破壊できるって言ってたし。

「じゃあ、これならどうかな―――『第三重ドライ・反射リフレクト・結界ゾーン』」

 再び、俺たちを箱が取り囲む。
 ……先ほどと違って、薄い赤紫色の箱……何やら不穏な色だ。

「ま、関係ないか……『フィス―――」
「待て、手を出すな」
「……あ?何でだよバハムートさん」
「……『第三重ドライ』は『ありとあらゆる衝撃、魔法を反転させる』結界なのだ」
「さっすがバハムート、よく知ってるね」

 拍手するクソエルフが、楽しそうに目を細める。

「……これ、壊せないのか?」
「『第三重ドライ』の耐久力を上回る一撃を与えれば反転されること無く破壊できるが……」
「なら簡単じゃん―――『フィスト』」

 拳を握り、腰を落とす。
 いつも込めている『魔力』が……そうだな、20%だとしよう。

「……ふんっ!」
「な、あ……?!」

 今込めた『魔力』は―――50%だ。
 放った一撃は『ガーディアン』を粉砕し―――王宮の内部にヒビを入れ、一部を破壊した。

「うはー……まぁた派手にやったなぁ、イツキぃ」
「あれ?お前も破壊できたのか?」
「イツキの放った一撃がぁ、こっちの『ガーディアン』まで粉っ砕しやがったんだよぉ」

 マジか、そんなに威力が出てたのか。

「なあおい『森精王子』……お前、さっきからシャルを好きだの諦めるつもりはないだの言ってるけど……シャルの眼を見たことあんのか?」
「うん、美しい紫紺の瞳だよね。それがどうかしたの―――」
「シャル、見せてやってくれるか?」
「はい、イツキさん」

 眼帯が外れ―――異形な『魔眼』が姿を現す。

「ま……『魔眼』……?!」
「……やっぱり、あなたもそういう反応をされるのですね」

 少し後退あとずさる『森精王子』……それを見たシャルが、悲しそうにしながら俺の腕に抱きついてくる。

「い、いやシャルロットちゃん、今のはちょっと驚いたからで―――」
「イツキさんは私の眼を見て、後退りも、気持ち悪いとも言いませんでした」

 左右非対称の瞳が『森精王子』を映す。

「私は、あなたと結婚しません」
「は……」
「私はあなたみたいな……人を見た目で判断する人が、一番嫌いです」

 堂々、シャルが宣言する。

「ふ……ふふっ、はは……」

 なんだ急に笑いだしやがって……シャルにフラれたショックでおかしくなっちまったのか?

「……シルフ、メチャメチャにしようか」

 力無くシャルを見る『森精王子』―――

『だから言ったじゃないか。最初からそうしとけって』
「は……?」

 ―――その目には、狂気が宿っていた。

「シャル―――」
「『吹き荒れる理不尽な暴風シルフ・ブレス』」
「チッ―――『フィスト』ッ!」

 先ほど同様、50%の『魔力』を込め、吹き荒れる暴風の正面に立つ。

「だぁあああああああッ!」
「きゃ―――!」

 隣のシャルが、衝撃に耐えきれずに転んでしまう。
 だが、そんなことに構ってられない……今の俺は、自分は事で手一杯だからだ。

 ―――なんっだこの威力?!
 50%の『フィスト』と同じ……いや、それ以上の……?!

「ぐっ……がぁあああ?!」

 押し負け、吹き飛ばされる。
 勢いを殺すことなく壁に激突し―――『ボギッ』と、嫌な音がした。

「が、ふぅ……?!」
「イツキさん?!」
「イツキ?!」

 吐血し、立ち上がろうとするが……足に力が入らない。
 ……肋骨だけじゃなくて、左足までヤッちまったか……?

「……『吹き荒れる理不尽な暴風シルフ・ブレス』を正面から受けて生きてるなんてね」
『まあでも、今のでかなりダメージが入ったんじゃないか?』
「……君は相変わらず強いね」
『そりゃそうだろ?サラマンダーだって、ウンディーネだって……なんなら『原初の六精霊』、『大地の精霊 ノーム』だって俺に勝てないんだからよ……まあ『光神』と『闇帝』には勝てなかったけど』

 ……先ほどから聞こえるこの声……この声がシルフなのか?

「あ、ああ……!イツキさん……イツキさん!」
「ねえシャルロットちゃん……今なら、許してあげるよ?」
「許、す……?」
「オイラの好意を受けなかったこと、だよ」

 理不尽な言葉に、その場にいた全員が思わず呆然としてしまう。
 自分の思い通りにならなければ癇癪かんしゃくを起こし、思い通りに進めようとする……それは、まるで―――

「ぉ、おうこら……『森精王子』……」

 ―――まるで、ただの子どもではないか。

「ん?……ああ、まだ意識があったの?」
「お前……ふざ、けてんのか?」

 壁を使いながら、右足一本で立ち上がる。

「自分の欲しいものは絶対欲しい……事が上手く進まなくなったら癇癪……訳のわからん理由で自分を正当化……なあ、これじゃあただのクソガキだろうが。どこが王子なんだよ……?」
「『エクス・ヒール』!」

 ライガーさんの魔法で、骨が修復していくのがわかる。

「……オイラが、クソガキだと……!」
「誰がどう見てもそうだろうが……ムキになるってことは、心当たりでも?」
「……『襲い掛かる怒りの突風シルフ・インパクト』!」

 明らかに怒りをあらわにした『森精王子』。
 放たれる風撃は、さっきのと比にならない威力だ。

「『フィスト』……!」

 ならば、こちらもさっきのと比にならない威力にするまで!

「―――ふんっ!」

 『魔力』―――80%!

「ぐ、くっ……『クイック』ぅうううッ!」

 脚力を上げ、踏ん張りを付ける。
 力では負けていない……それに、俺の『魔力』が切れることはない。
 だったら……このまま押し切れる!

「お、おおッ!ぉおおおおおおおおッ!」
「なんだこの力……?!お前本当に、人間……?!」
「はっああああああッ!」

 拳を振り抜き、風撃を掻き消す。
 いや、掻き消すだけでは終わらず、その先にいた『森精王子』を―――

「ふぃ、『第四重フィーア・絶対アブソリュート・結界シルド』!」

 ―――直前、薄緑色の壁が現れ、俺の拳圧は防がれてしまう。

「あり得、ない……ただの人間が、シルフの一撃を上回るなんて……」
『おいおいおい……まさかあいつ、エスカノールと同じ『精霊使いスピリッター』か……?!』

 突如、辺りに風が吹き―――緑色の、小さな少年が現れる。
 ……あれが、シルフか?

「嘘……オイラと同じ『精霊使いスピリッター』だって?!」
『わからねえ……!だけど、あんな威力の『光魔法』を出すのも、俺の『襲い掛かる怒りの突風シルフ・インパクト』を掻き消すのも、常人じゃ無理だろ……!』

 ……80%の『フィスト』……俺の体が持たないな。
 威力が強すぎて……俺の右肩、多分脱臼だっきゅうしてる。

「……おい、まだヤンのか?」

 痛い。右肩めっちゃ痛い。
 それを隠し、精一杯の虚勢を張る。

「……『吹き荒れる理不尽なシルフ・ブ―――」
『待てエスカノール!相手が悪い!あいつが本当に『光神の精霊 エレメンタル』と契約してるとしたら勝てねえ!』
「……シルフ、オイラに逆らうの?」
『さっきあいつに言われたのはそこだろ?いつまでも駄々こねんじゃねえ。あいつには勝てねえ、以上だ』

 シルフに言われ、渋々と『森精王子』が向けていた手を下ろす。
 危ねえ。もう1発放たれてたら、確実にヤられてた。

「……オイラは、シャルロットちゃんを諦めるつもりは無い」

 緑色の眼に強い感情を宿し、『森精王子』がこちらを指差す。

「絶対、シャルロットちゃんの心を射止めてみせる。オイラがシャルロットちゃんを射止めるまで……せいぜい楽しく過ごすんだね」
『気を悪くしないでくれ。コイツ、何かに負けたらいつもこんな事を言うんだ』
「……シルフ、うるさい」

 ……なんか、シルフって大人だな。

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