発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

30話

「確かに『竜族』の我がいれば、『森精国』の軟弱者たちが攻撃してくることは無いだろうが……我の力も、あいつらの前では無力に等しい。それを忘れるなよ」
「……そうだね。エルフの『種族能力』は厄介だからね」
「何故貴様が同調する」
「誰も返事してくれなかったらさすがに可哀想だと思ってね……君の言葉に返事するなんて気持ち悪くてしょうがないけど、僕は優しいからね」
「落ち着け2人共」

 再び衝突しそうになる2人をグローリアスさんが止める……ってか、え?

「なあ、『竜王』の力が無力ってどういう事だ?『竜族』は最強の種族じゃねえのか?」
「なんつーかなぁ……エルフの『種族能力』はぁ、守ることに関しては無敵なんだよぉ」
「守ることに関してって?」
「『ガーディアン』……エルフの『種族能力』だぁ。まあ『身を守る壁、箱を作り出す』能力って思ってりゃあいいぜぇ」

 なるほど。だから守ることに関しては無敵なのか。

「……それって『竜王』でも勝てないのか?」
「どういう事だ?」
「だから、その身を守る壁とか箱とかって『竜王』でも壊せないのか?」
「……『第一重アインズ』と『第二重ツヴァイ』なら壊せるが……『第三重ドライ』からは無理だ」
「……なに、その『第一重アインズ』とか『第二重ツヴァイ』って」

 スッゲーカッコいいんだけど?

「なんつーかぁ……技のレベルって言うのかなぁ?」
「するってーと……『第一重アインズ』がレベル1で『第二重ツヴァイ』がレベル2って感じか?」
「そっだぁ。あと『第三重ドライ』がレベル3、んで『第四重フィーア』がレベル4って感じだぁ」
「……レベル4までしかないのか?」
「噂ではもう1つあるとか無いとか言われてっけどぉ、それが本当かどうかはわかんねぇ」

 ……アクセルって、意外に博識なんだな。
 いつもの発言とか、短気ぶりを見る限りバカにしか見えないけど……人は見かけによらないな!

「……『竜族』が『ドラゴトランス』。『獣人族』が『ビーストハウル』……『妖精族』が『フェアリーオーソリティ』だったな。あとエルフが『ガーディアン』。他の種族の『種族能力』は?」
「『水鱗族』は『エアウォーク』っつう能力だぁ。『地面から数ミリ浮くことができる』だったような覚えがあるなぁ」
「……その能力、使えるか?」

 空を飛ぶ能力とかならわかるけど……数ミリ浮く能力って。

「俺たちには使えねえかもしれねえけどぉ、『水鱗族』には使える能力なのさぁ」
「『水鱗族』に使える能力って?」
「あいつらは下半身が魚だからよぉ、陸地に上がれねえんだぁ。けど『エアウォーク』を使えばぁ―――」
「陸地でも行動ができる……ってことか?」

 俺の言葉に、アクセルが無言で頷く。

「じゃあ『鬼族』は?」
「『インクリース』。『力を増強する』能力だぁ」
「……ストレアの力が強いのって……」
「多分『種族能力』の影響だろうなぁ」

 ……あれ?

「ストレアは『『鬼族』はみんな力が強い』って言ってたんだけど……『種族能力』って一部のやつしか使えないんじゃなかったか?」
「あぁ、だけど『鬼族』と『水鱗族』は『種族能力』を使えるやつが多いんだぁ。あの『鬼族』の姉ちゃんがそう言ってたのはぁ、ほとんどのやつらが使えるからだろうなぁ」

 ……もう、よくわかんない。

「ただぁ、『鬼族』の『インクリース』にはデメリットがあるんだぁ」
「デメリットって……力を増強するのにデメリットがあるのか?」
「あぁ……長時間使いすぎたり一気に力を増強しすぎたらぁ……自分の中に存在する『鬼』に意識を支配されるらしぃ」

 『鬼』に意識を支配される……いやなにそれ怖いんだけど?

―――――――――――――――――――――――――

「……む、着いたか」

 丸1日馬車に揺られ、やっと着いた。

 グローリアスさんの後に続き、馬車を降りる。
 ……森だ。
 辺りが森に包まれ、その中にひっそりと国がある。

「うわー……!スッゴーい!」

 もう1つの馬車から降りるストレアが、『森精国』を見て興奮している。
 ……こいつ、また勝手に行動したりしないよな?

「行くぞ……イツキ君、頼むぞ」
「……うい、わかりました」

 頼むぞってのは……多分、シャルの婚約者のフリの事だろう。

「エルフ……実物を見るのは初めてだな」
「ウィズは孤児院育ちだからね……まあ、私もエルフを見るのは初めてだけど」

 背後から、ランゼとウィズの話し声が聞こえる。

「……おお」

 国に入り―――どこかしこも、耳の先端が尖った人ばかりだ。
 これがエルフ……ゲームで有名な、あのエルフ。

「イツキ君?どうしたのだ、先に行くぞ?」
「あ、はい」

 グローリアスさんの声で、エルフの観察を中断する。

「お父様?『森精王子』とは、今日会われるのですか?」
「うむ、用件は手早く済ませた方が良いだろう?」
「……それもそうですね」

 嫌そうな顔をするシャル……本気で嫌いなんだろうなぁ。
 とはいえ、俺は『森精王子』がどんなやつか知らない……もしかしたら良いやつかもしれないし。

「……なあランゼ」
「ん、なに?」
「『森精王子』ってどんなやつか、知ってるか?」
「うーん……あんまり噂を聞くことは無いけど、シャルがあれだけ嫌ってる人なんだし……」

 シャルの反応で判断しろってのか。それだったらかなりの嫌われ者ってなるぞ。

「……ウィズは?」
「我も『森精王子』の事はあまり聞いたことはないが……どうも『三大精霊』の一翼と契約したとか……」
「さ、『三大精霊』……?」
「『三大精霊』って……あの伝説の?!」

 いや『三大精霊』ってなんだ?

「ねえ、その『三大精霊』って?」
「ああ、サリスは異世界から来たんだったな……『獄炎の精霊 サラマンダー』、『激流の精霊 ウンディーネ』、『暴風の精霊 シルフ』……この3匹の精霊を『三大精霊』って呼ぶのだ。まあ元は『原初の六精霊』と呼ばれていたのだが……まあそれはいいだろう」

 『三大精霊』……名前からして、めちゃめちゃ強そう何だけど?!

「……いやおい待てウィズ。『森精王子』はその『三大精霊』の内の1匹と契約したのか?」
「そういう噂を聞いたことがある、というだけだ。確証はない」
「……名前だけ強そう、って訳じゃないよな?」
いわく、『原初の六精霊』は世界を創造した。曰く、『三大精霊』は命を創造した。曰く、3匹並べば全てを破壊し尽くす。曰く、2匹揃えば天変地異に等しい」

 いつになく表情を固くしたウィズが、淡々と続ける。

「そして……曰く、1匹で国1つ軽く滅ぼすことができる」
「……なんだそりゃ、むちゃくちゃじゃねえか。そんなのと『森精王子』は契約してんのかよ」

 もしシャルが結婚しないと言って、『森精王子』が我を忘れて攻撃してきたら……逃げるしかねえじゃねか。

「イツキ君?もう着くぞ?」
「なんか……怖くなってきたんですけど」
「大丈夫だ。イツキ君にライガー、それにバハムートがいるのだからな」
「いやいやいや……」

 ……もう、危なくなったら逃げようかな。

「あ、あれが王宮かな?!でっかいねー!」
「……アクセル」
「おぉ、ばっちし聞いてたぜぇ。まあシルフなんてぇ、俺たち2人にゃあ勝てねぇだろっけどよぉ」
「相変わらず、お前のその自信はどっから来るんだよ……」

 グローリアスさんに続いて王宮に入る。

「……『竜王』」
「なんだ?というか……『竜王』というのはやめないか?どうもその呼び方には慣れなくてな」
「……じゃあバハムートさん。『森精王子』ってのはどんなやつなんだ?」
「なかなか返答に困ることを聞いてくるなお前は……そうだな、子ども的思考が抜けきっていない小僧だ」

 うん、やっぱり『森精王子』って嫌なやつみたいだな。

「……その『森精王子』が、シルフと契約したってのは?」
「無論、聞いている……だが、所詮は小僧だ。警戒は一応しているが、問題無いだろう」

 隣を歩くバハムートさんが不敵に笑う。
 ……この人、頼もしいなぁ。
 あれだけムカつく人だったのに、味方になればこんなに頼もしいのか。

「ん、イツキ君、着いたみたいだよ」

 ライガーさん声に、気を引き締める。
 ……警戒は、怠らない。

「―――あれ、グローリアスじゃない。何しに来たの?」

 グローリアスさんの開けた扉の先にいたのは―――俺と同年代。いや、年下くらいの幼いエルフが豪華な椅子に腰掛けていた。

「『森精王子 エスカノール・ズァーバ・アルフォント』……お前に話があってな」
「へえ……オイラにわざわざ話って事は、シャルロットちゃんの事かな?」
「うむ、その通りだ」

 不穏な空気を纏うグローリアスさんが、『森精王子』に近づく。
 その隣にシャル。そしてシャルの隣には俺が立っている。

「なら、シャルロットちゃんとオイラが結婚するのを認めて―――」
「そんなわけ、ないだろう。貴様のようなガキが、私の愛娘が釣り合うとでも思っているのか?」
「お、お父様?」
「貴様とシャルは結婚しない。というか、絶対にさせない。それに……シャルにはすでに婚約者がいる」

 グローリアスさんが俺を指差し、『森精王子』が視線をこちらに向けてくる。

「……人間、か」
「んだよ……俺が人間じゃなんか問題でもあんのかよ?」
「君たちのようにすぐ死ぬ種族より、オイラみたいに長寿のエルフと結婚した方が良いと思うんだけどなぁ?」

 ……いや、シャルも人間だから、お前より早く死ぬけど?

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