発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

27話

「『炎舞えんぶ』ぅッ!」

 アクセルの持つトンファーが炎を纏う。

「面白い『魔道具』だね」
「黙ってろぉ……行くぜイツキぃ!」
「ああ!」

 突っ込むアクセル、その後ろから対物銃アンチマテリアルの弾丸を放つ。

「くらいやがれぇ!『熊撃ゆうげき』ッ!」

 炎で覆われる腕が、巨大な炎の腕へと変貌。
 そのままリーブラへと襲いかかり―――

「―――へえ、考えたね」

 ―――俺の放つ弾丸は、リーブラの逃げる道を塞ぐようにして放たれていた。
 これでリーブラは、アクセルと正面から戦うしかない。

「『パワードコピー』、『マジックコピー』」

 瞬間、リーブラの右腕が炎に包まれる。
 炎が形を持ち始め、アクセルと同じ、巨大な炎の腕へと変貌した。

「―――じゃらぁあああああああああぁッ!」
「ふっ!」

 力と力の正面衝突。
 骨がぶつかり合う音が鈍く響き、アクセルが苦痛に顔を歪め―――

「ぐっ、ぉおおおッ?!」

 ―――アクセルが吹き飛ばされた。
 飛んでくるアクセルを受け止め、リーブラに銃口を向けて、弾丸を連続して放つ。

「よっ、ほっ……相変わらず危ない『魔道具』だね」
「ちっ!なんだあいつはぁ?!俺と同じのが使えんのかぁ?!」
「わかんねえ……リーブラの能力か?」

 『パワードコピー』と『マジックコピー』……さっきリーブラはそう言っていた。

「名前から考えるに……力とか魔法をコピーする能力か……?」

 いや、それならアクセルが力負けするはずがない。
 力をコピーしているのなら、勝負は拮抗きっこう状態になるはずだ。

「……力を上乗せする……能力?」
「へえ……見た目の割には、頭が回るんだね」
「一言余計だっての……」

 今のリーブラの発言でわかった、『パワードコピー』は『自身の力に他者の力を上乗せする能力』だ。

「まあ1つ大きな間違いをしているけど……『フィジカルコピー』」
「『形態変化』!『参式 機関銃マシンガン』!」

 リーブラに向け銃弾を乱射。
 凄まじい数の弾幕……これを避けるのは無理だろ―――!

「―――ぃよっ!」
「は、あ?!」

 曲芸のような動きで弾幕を避け、勢いを殺すことなくリーブラが突っ込んでくる。

「『フィスト』ぉお!」
「『熊撃』ぃいいッ!」
「『パワードコピー』、『マジックコピー』」

 ヤバイ、コピーされた。
 これじゃ、正面から殴っても力負けしてしまう―――

「―――だらぁあああああああっ!」
「へぇ―――」

 ―――とっさに拳を放ち、拳圧でリーブラを吹き飛ばす。

「『龍尾りゅうび』ぃいッ!」
「おらぁあああ!」

 空中に浮くリーブラ―――その隙を、俺たちは逃さない。
 俺の機関銃の弾丸と、アクセルの振り下ろす『龍の尾のような炎』が―――

「『フライ』!」
「「はぁ?!」」

 ―――空中で方向転換し、リーブラが攻撃を避ける。

「どういうこったぁ……?!『フライ』ってぇ、『古代魔法』かぁ?!」
「……『古代魔法』?!」
「へえ……よく知ってるね」
「ったりめぇだろぉ……『古代魔法』なんてカッコいい名前の魔法ぅ、覚えたくなるだろっがぁ!」

 カッコいいから覚えたって……この空気でそんなことが言えるなんて、お前はやっぱりスゴいよ。

「……もしかして、『パワードコピー』とか『マジックコピー』って、能力じゃなくて『古代魔法』か?」
「よく気が付いたね」

 なるほど……先ほどリーブラが言っていた『大きな間違いをしている』というのは、能力と勘違いしている、ということだったのか。

「……これじゃジリ貧だな」

 『光魔法』はコピーされるから、使わない方がいいかも知れない……
 となると、『魔導銃』を上手く使って攻撃するしかないか?

「……アクセル、『ビーストハウル』であいつ倒せねえか?」
「イツキを巻き込んでいいんならぁ、できなくはねぇがぁ……あの『天秤座』を倒せるとは限らねぇ」

 それは困るな。

「やっぱり、ランゼかストレアの力が借りたいところだな……!」
「『鬼族』の姉ちゃんかぁ、ありゃつえぇよなぁ。まぁ『傲慢』の姉ちゃんは知らねぇけどよぉ」

 『破滅魔法』で消し飛ばせるランゼか、圧倒的パワーを持つストレア……それか―――

「―――『ソウルイーター』っ!」
「『フライ』!」

 ―――黒い、死神のような人間がリーブラに襲いかかる。

「さ、サリス?!」
「死神の姉ちゃん?!」

 黒い翼、黒いローブに身を包むサリスが、黒い鎌をたずさえ、リーブラと向かい合う。

「いつまで経っても帰ってこないから、様子を見に来たんだけど……あれ誰?攻撃して良かったんだよね?」
「『ゾディアック』だ……気を付けろ」
「あれが『ゾディアック』……化物みたいな見た目をしていると思ってたんだけど、案外普通の人間なんだね」

 クルクルと鎌を回転させるサリスが、片手をリーブラに向け―――

「『ウィンドカッター』!」
「『マジックコピー』!」

 ―――緑色の鋭利な風が、リーブラの手からも放たれ、相殺される。

「『形態変化』!『伍式 対物銃アンチマテリアル』!」
「『炎舞』ぅうッ!」

 サリスの隣に立ち、リーブラを睨む。

「サリス、他のやつらは?」
「ランゼちゃんとウィズちゃんは、ストレアちゃんの『竜国』観光に付いていったよ。シャルちゃんは『人王』と『森精国』のことを話してた」

 となると、この3人でリーブラをどうにかしなきゃならんってことか。

「3対1か……しかも『能力持ち』が一人か……これはちょっと分が悪いかもね」

 困ったように頬を掻き、リーブラがため息を吐く。
 ……正直、サリスがどれぐらい戦えるのかがわからない。が、アクセルがあれだけ褒めてたんだ……戦えると認識しておいていいだろう。

「アクセル、サリス、お前らは突っ込んで暴れろ……俺が後ろからサポートする」
「わかったぜぇ」
「オッケー!」

 突っ込むアクセルとサリス、2人に当たらないようにしながら弾丸を放つ。

「『パワードコピー』!」
「『熊撃』ぃいッ!」
「『エンチャント・テンペスト』!」

 サリスの鎌が風を纏い、アクセルの腕が炎に包まれる。
 それらを物ともせず、リーブラが反撃を―――

「させねえよっ!」
「おっと!」

 ―――反撃をさせるわけもなく、弾丸でリーブラをどんどん不利な体勢に追いやる。

「いいね……君たち最高だよ!」
「『双蛇そうじゃ』ぁあああッ!」

 うねる2対の火柱の避け、リーブラが心底楽しそうに笑う。

「……でも、このままじゃつまらないね」
「てめぇ、さっきから何をブツブツ言ってやがるぅ?」
「いやいや、この戦いがもっと楽しくなるように、僕が一肌脱いであげようと思ってね―――『フライ』」

 訳のわからない事を言うリーブラが、高く上空へと舞い上がり―――

「んなっ?!」
「はぁ?!」

 ―――『竜国』の中へと入っていった。

『緊急連絡!緊急連絡!現在、町の中に『ゾディアック』『天秤座』が現れました!近隣の住民の皆さまは、ただちに避難してください!繰り返します!現在、町の中に―――』
「おぃ……おいおいおいおぃ!あいつぅ、一体何が目的なんだぁ?!」
「わからないけど、追わなくちゃ!」

 黒い翼で飛び上がり、サリスがリーブラの後を追う。

「待てや死神の姉ちゃん!」

 その後をアクセルが追いかけた。

「……さーてさて……どうしたものかな」

 『壱式』『弍式』『参式』『伍式』……この4つの形態では、リーブラを倒せないことはわかった。

「……何に熱くなってるんだ、俺……?」

 今までの俺ならば、リーブラの事を間違いなく見て見ぬふりをしていた……のに、何故か今日の俺は不意打ちをかました。

「……人の事なんて知らない。自分さえ良ければそれで良い、周りのことなんて知ったこっちゃねえ」

 ……でも、知ってるやつのことは、放ってはおけない。死んでほしくない。

「なーに正義の味方ぶってんだか……自分で自分が気持ち悪いな」

 苦笑を浮かべ、『竜国』に入り―――

「―――『肆式 狙撃銃スナイパーライフル』」

――――――――――――――――――――――――――――――

「ちょっと!いきなりどこへ行くつもりなの?!」
「あれ?早いね……人々の屍の山でも作って、場を盛り上げようと思ってたのに」

 ……イカれてる。

「はっ、はっ……やっと追いついたぜぇ……てめぇら空飛ぶんじゃねぇよぉ。俺が追いつけねぇだろっがぁ」
「そんなこと言ってる場合?」
「言ってる場合じゃねぇよなぁ」

 隣に立つアルちゃんが、トンファーを構え―――

「あれ……イッチャンは?」
「……いねぇなぁ」

 ―――嘘、嘘だ。
 いくらヘタレなイッチャンでも、この流れで逃げ出すなんて、あり得ない。

「まぁ大丈夫だろぉ……イツキならぁ、何か考えがあるにちげぇねぇ」
「……根拠は?」
「根拠なんていらねぇよぉ。俺の憧れならぁ、そうするに決まってらぁ」

 意味がわからない。

「でも……今ここにイッチャンはいない」
「やってやろうじゃねぇかぁ。俺とお前でぇ……『炎舞えんぶ』ぅ」

 ……覚悟を決めるしかない。

「……話は済んだ?」

 『天秤座』の問いかけに、無言を返す。
 その反応に、『天秤座』が口を歪め―――

「それじゃ、そろそろ―――うぐっ?!」

 ―――『天秤座』の右肩から血が吹き出る。
 それを認識すると同時、遠くから『パァーン……』という乾いた音が聞こえてきた。

「今、のは―――がっ!」

 今度は『天秤座』の左目が潰れ、凄まじい量の血が流れ出す。
 そして、再び聞こえる乾いた音……これは―――

「『龍尾りゅうび』ッ!」
「ぐは―――?!」

 怯んだ『天秤座』の体を、太い火柱が押し潰す。

「何ぼさっとしてやがんだぁ?!」
「あ、え、『エンチャント・テンペスト』!」

 立ち上がり、うちに迎撃しようとする『天秤座』―――

「―――うぐうっ?!」

 ―――右足から血が飛び出し、『天秤座』がバランスを崩す。

「―――とぉりゃぁあああああっ!」

 『天秤座』の頭と胴体を、鎌で切り離した。

「こ、んな……ことっ、て……」

 驚いたように目を見開く『天秤座』……その体は、砂のようにサラサラになって行き―――

「……消えちゃった」

 ―――跡形もなく、姿を消してしまった。

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