発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

26話

「おぃ……!ちっと待てやぁ!」

 ようやく話し合いが進むかと思われた……その空気を、アクセルの怒声がかき消した。

「お前ぇ、いきなり『獣王』様に何しやがるぅ!」
「アクセル、暴れちゃダメだってさっき―――」
「別に暴れてねぇだろっがよぉ……!っというかぁ、なんで『獣王』様はそんな悠長にしてられんだよぉ!あいつはぁ、『獣王』様をぉ、殺っそうとしやがったんだぞぉ?!」

 ぶちギレるアクセル、今にも『竜王』に殴りかからんとする勢いだ。

「俺の『ビーストハウル』もぉ、イツキの魔法もぉ、あのままじゃ間に合わなかったんだぞぉ?!そこの『鬼族』の女がいなかったらぁ、『獣王』様は死んでたんっだぞぉ?!」
「……うん、わかってる」
「わかってるならぁ、なんで―――」
「僕が反撃すれば、その時点で話し合いは解散だ……僕の言いたい意味がわかるかい?」

 ……なるほど。
 『竜王』がライガーさんの反撃を受け、『話し合いは無しだ』と言えば、それで解散になる。
 ……グローリアスさんのために、抵抗しなかったってのか?

「ほう、よくわかっているではないか」
「て、めぇ……!『獣王』様が抵抗しねぇってわかってて攻撃したってことじゃねぇかぁ!」

 その事を認識したアクセルが、トンファーを持ち―――

「アクセル!」
「止めんな『獣王』様ぁ……!あいっつはぶん殴らねぇと気が済まねぇ!」

 ―――アクセルの怒りはもっともだ。

「……ならば、貴様がそこの獣の代わりに相手になるか?」
「上等じゃねぇかぁ!」
「止まれアクセル―――」

 ライガーさんの制止を振り切り、アクセルが『竜王』に突っ込む。

「『炎舞えんぶ』ぅ!『熊撃ゆうげき』ぃいッ!」

 トンファーから出る豪炎が腕を覆い、巨大な炎の腕の造り出す。
 そのまま『竜王』に襲いかかり―――

「『ドラゴトランス』」

 ―――『竜王』の膨張する右腕とぶつかり合い、凄まじい衝撃が王宮内に響く。

「強いが……あの獣ほどではないな」
「ぐうっ―――ぉお?!」

 軽々と吹き飛ばされ、アクセルが床に転がる。

「くたばれ―――青臭い獣が」

 上空へ舞った『竜王』が、急降下しながらアクセルを―――

「『フィスト』ぉおお!」
「―――なっ?!」

 ―――寸前、『竜王』の一撃を受け止めにかかる。
 足が耐えきれず膝を付いてしまうが、なんとか『竜王』の一撃を受け止めきった。

「……我の一撃を受け止めただと……?軟弱な『人族』が?」
「イツキ君!」
「勘違いするなよ『竜王』……悪いのはお前だ。悪くないアクセルを傷付けるのは、許さねえぞ」

 『竜王』が後ろへ飛び退き、俺の事を初めて敵として認識したような視線を向ける。
 ……なんて重い一撃だ。
 ストレアはこれを片手で受け止めたってのか。

「悪い……だと?」
「まあ国を治める王様だからなあ、多少は悪いのも……ってか、横暴的なところがあるのも無理はねえかあ」
「貴様……喧嘩を売っているのか?」
「あー?何言ってやがる……喧嘩を売ってんのはそっちだろ?買ってんのはこっちだ……友達をぶっ飛ばしやがったやつに、キレるなって方が無理な話だ」

 この世界に来て初めてできた男友達……そいつが傷付けられて、怒るなってのは無理だ。

「おい『竜王』……まだるってんなら、こっからは俺が相手になるぞ……!」

 腰の『魔導銃』に手を当て、いつでも攻撃できるように構える。

「そこまで、だな」
「『人王』……何を言っている……?」
「グローリアスさん、下がっててください。こいつはしばかねえと気が済まないです」

 背後から声を掛けてくるグローリアスさんに反発し、そのまま『魔導銃』を抜く。

「『形態変化』、『伍式 対物銃アンチマテリアル』」
「『ドラゴトランス』」

 『竜王』の左腕も膨張を始め、両腕が『竜の腕』に変貌した。

「……ぶっ殺してやる」
「待て、イツキ君―――」
「『クイック』!」

 一瞬で距離を詰め、ふざけた『竜王』の脳天に―――

「―――ふんっ!」
「ぐっ!」

 ―――『竜王』の攻撃を、身をよじって避ける。
 振り返り、今度こそ『竜王』の脳天を―――

「『ヘルフレイム』!」
「なっ―――?!」
「ぬっ―――?!」

 突如、横から黒い炎が飛んできた。

「イツキ……少し落ち着け」
「……ウィズ」

 冷静に俺を見るウィズ……おかげで、少し頭が冷える。

「……『形態変化』、『壱式 片手銃ハンドガン』」

 『魔導銃』をレッグホルスターに入れ、床に倒れているアクセルを立たせる。

「……大丈夫か?」
「あぁ……大丈夫だぁ」

 ふらつくアクセルが、おぼつかない足取りでライガーさんの隣に立つ。

「ふん……悪いな『人王』、今日は帰ってくれ……虫の居所が悪い」
「うむ……これでは仕方がないな」

 話し合いは、当然だが決裂した。

――――――――――――――――――――――――――――――

「ちっ……なるほどなぁ、『獣王』様があれを嫌ってる理由がよぉくわかったぜぇ」
「まったくだ……あんなのがいるなんてな、本当にムカつくぜ」

 『竜国 ドラギオン』の町の中、俺とアクセルは先ほどの出来事を振り返りながら歩いていた。

「にしたってぇ、何で『獣王』様は反撃しなかったんだろぉなぁ?」
「……話し合いができなくなるってわかってたからじゃないか?」
「そこがおかっしいんだよぉ。命捨ててまでぇ、『人王』のために話し合いを優先したぁ……俺にはその理由がわかんねぇ」

 ……確かに。

「仲が良い……って理由だけで、命を捨てる訳がないか」
「あぁ……不思議でならねぇ」

 ……ライガーさん、何か理由があるのだろうか?

「……そういや、『竜王』が使ってたあの『ドラゴトランス』ってやつって……」
「『竜族』の『種族能力』だなぁ」

 ……強力な能力だったな。
 あんまり魔力を込めていない『フィスト』だったけど、今までの敵はあれだけの魔力で充分だった。
 あれが、種族として強い『竜族』……

「……『ドラゴトランス』って、なんか『ビーストハウル』と似てるよな」
「はぁ?どこがだよぉ?」
「別の生物に変化する所とか……」

 『獣人族』は獣の姿に、『竜族』は竜の姿に、なんかちょっと似てるような……

「確かにそれだけ聞きゃあ似てるかも知れねぇがぁ、まったくちげんだよなぁ」
「そうなのか?」
「あぁ……『ビーストハウル』は『全身を完全に獣の姿にする』能力だぁ……けど『竜族』の『ドラゴトランス』はぁ、『全身、または部分的に竜の姿にすることができる』って感じの能力だぁ……」
「……つまり?」
「『ビーストハウル』の応用ができる能力って感じだぁ」

 ……ああ、そういうことか。
 『獣人族』の『ビーストハウル』は完全に獣の姿になってしまう……でも『ドラゴトランス』は完全に竜の姿にもなれるし、部分的に竜の姿になれる、ということだろう。
 『竜王』も腕を竜の姿にしてたし。

「……馬車の場所ってこっちで合ってたよな?」
「おいおぃ、しっかりしてくれよぉ……俺は記憶力に自信ねぇんだからよぉ」
「いや、俺頼りかよ!」

 グローリアスさんに馬車の様子を見てきてほしいと頼まれ、断れずにアクセルと一緒に様子を見にきた。
 断れなかったのは……俺とアクセルのせいで話し合いは決裂した、という思いがどこかにあったからだ。

「確か……こっちだったような」

 『ドラギオン』の入り口の外に、見覚えのある馬車の姿を確認し―――

「よーしよし……良い子だね」

 ―――馬車の馬を撫でる、奇妙な男がいた。

「……なんっだぁ、あいつぅ?」
「……………」

 怪訝な視線を男に向けるアクセル……同調したかったが、声が出なかった。
 奇妙な男……そいつは、どこかで見たことある姿で―――

「よしよーし……あ、この馬車の持ち主?いやー、素晴らしい馬だね」
「いやぁ、これの持ち主ぁ……イツキぃ?どうしたんだ―――」
「『形態変化』ぁ!『伍式 対物銃アンチマテリアル』!」

 ―――『魔導銃』を変化させ、間髪入れずに男へ弾丸を放つ。

「―――危ないね」

 弾丸が見えているのか、男は上体を反らすという動作だけで弾丸を回避する。

「イツキぃ?!何やってんだぁ?!」

 驚くアクセル……無理もない、アクセルの目には、俺がいきなり男に襲いかかったようにしか見えないだろうから。
 でも、俺はこいつを……こいつの『正体』を知っている。

「なんで、なんでここに……!『天秤座』ぁ!」
「ん?……ああ、君はあの時の……」

 穏やかな雰囲気を持つ男―――『アトラスの獄山』で出会った、『天秤座』のリーブラだった。

「はぁ?!『天秤座』ってぇ、『ゾディアック』かよぉ?!」
「うーん……こっそり侵入して、手早く『竜国』を滅ぼす予定だったんだけど……まさか君がいるなんて、誤算だったよ」

 両手を上げ、誤算と言いながらも余裕の表情を浮かべるリーブラ。

 ……どうする?!
 ここでこいつに会うのは予想外過ぎる!
 アクセルと2人で倒せるとは思えないし、大人しく見て見ぬふりをするべきだった!

「どうしたの、固まっちゃって?」
「……アクセル、グローリアスさんを……いや、ランゼとストレアを呼んできてくれ」
「……イツキはぁ、どうするんだよぉ」
「それまで時間稼ぎをする……早く行け!」
「ざっけんじゃねぇ!」

 いきなり叫ぶアクセルに、思わず視線を向ける。

友達ダチを置いて助けを呼べだぁ?!寝言は寝て言いやがれってんだよぉ!」
「アクセル……」
「置いていけねぇ!置いていける訳がねぇ!イツキが戦うってんなら俺だって戦ってやらぁ!」

 トンファーを構え、叫ぶアクセルの体から殺気が溢れ出す。

「……ああ!勝つぞ!」
「もちろんっだぜぇ!」

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