発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

23話

「なん、で……」
「あー?」

 隣から、リーシャの呟きが聞こえた。

「メオールが……メオールが負けるなんて……」
「たかだか『妖精族』ごときがぁ、イツキに勝てるわけねぇだろっがよぉ」
「嘘よ……嘘よ嘘よ!落ちこぼれのリオンが所属するギルドなんかに、私たちが……!」
「……確かに、私は落ちこぼれです」

 リオンがリーシャに向かい、歩を進める。

「でも、落ちこぼれは私だけ……他のみんなは、落ちこぼれではないです」
「何を言っている、リオン」

 クーロンがリオンの隣に立つ。

「私の部下に、落ちこぼれなどいない」
「ギルド長……」
「お前は優秀な部下だ」
「……はい、ありがとうございます」

 目に涙を浮かべ、嬉しそうにリオンが笑う。

「それにしても……まさか『種族階級』3位の『妖精族』に勝つとは……君は恐ろしく強いな」
「はっ、イツキに勝てるやつなんてぇ、この世に存在しねぇよぉ」
「そりゃねえよ」

 ……てか、『種族階級』って?

「だが、ギルド戦闘は今日をもって終了……3日間の戦績は、1勝2敗……」
「はぁ?どういうことだよぉ?」
「先ほども言っただろう、『アンバーラ』は昨日一昨日と敗北しているのだ……今日は勝ったが、結果としては1勝2敗なのだ」
「……なんっだよそれぇ」
「……そう……そうよ!」

 急に元気になったリーシャが高笑いを始める。

「戦績は2勝1敗、結果としてはこっちの勝ちよ!」
「お前なんもしてねぇのにぃ、偉っそうだよなぁ」
「何とでも言いなさい、勝ったのはこっちなんだから!」

 いや、そうだけど……

「ふむ……それでは帰るとしようか」
「「えっ?」」

 リオンとアクセルの声が被る。

「ふん、負け犬はとっとと帰りなさいよ!」
「こ、の……クソガ―――」
「まあ待てアクセル……この借りは、次のギルド戦闘でぶつけてやろう」

 いやクーロン、アクセルは『アンバーラ』の住民じゃないから次も参加できるかわかんねえよ?

――――――――――――――――――――――――――――――

「……二人ともありがとう。本当に助かった」

 『アンバーラ』へと帰国する馬車の中、クーロンが頭を下げてきた。

「あぁ、いいってことよぉ。丁度いい暇潰しにもなったしなぁ」
「暇潰し……ギルド戦闘が暇潰し、か……本当、頼もしいな」

 ため息を吐くクーロン……その顔には、笑みがあった。

「……なあクーロン、色々と聞きたいことがあるんだけど」
「ふむ、なんだ?」
「さっき言ってた『種族階級』とか、『種族能力』ってなんだ?」
「なに?知らないのか?」

 ……もしかして、異世界の人間なら知っていて当然の知識だったか?

「何つーかなぁ……『種族階級』ってのはぁ、『獣人族』とかぁ、『人族』とかぁ、この世界に存在してる種族をぉ、強さの順番に並べた階級のことだぁ」

 俺の気持ちを察してくれたのか、アクセルが説明をしてくれる。

「へえ……ちなみに一番強いのは?」
「一番はぁ、圧倒的火力を持つ『竜族』って言われてるぅ。んでもって二番は武力と魔法ぅ、両方を使いこなす『鬼族』ぅ……いやぁ、『鬼国』は滅ぼされちまったからぁ、繰り上がりで『獣人族』が二番になんのかなぁ」

 ……『鬼族』ってそんなに強いのか。
 それもそうか、ストレアの力だってあり得ないぐらい強いし。

「一番は『竜族』、二番は『獣人族』……三番は?」
「三番は『妖精族』ぅ……んでぇ、四番が『森精族』ぅ、五番が『魚鱗族』だぁ」
「『森精族』と『魚鱗族』……ってエルフとマーメイドだったっけ?」
「あぁ、そうだぁ」

 ……あれ?

「……『人族』は?」
「『人族』は最下位だぁ」
「……いや、なんで?」
「『人族』はぁ、種族としてよえぇ……『種族能力』もねぇしなぁ」

 確か……『騎士国』に暮らしてるのも『人族』だったよな。

「今言った『種族能力』ってのは?」
「そのまんまの意味だぁ、種族の一部のやつが使える能力のことだぁ……俺の『ビーストハウル』とかぁ、さっきの『妖精族』のやつが使っていたぁ、『フェアリーオーソリティ』とかのことだなぁ」
「……『ビーストハウル』が使えるやつって何人ぐらいいるんだ?」
「そだなぁ……『獣王様』と俺を合わせてぇ、4人だったかなぁ?」

 『獣人』の中で4人しか使えない……ってことは、アクセルって案外スゴいのか?
 いや、スゴいのは元々だ……身体能力とかで考えたら、アクセルは頭1つ……いや、2、3個ぐらい飛び抜けている。

「あぁ、でもぉ……『人族』には『魔眼』を持つやつが多いって聞いたことあるなぁ」
「そうなのか?」
「だよなぁ?クーロン?」
「聞いたことはあるが……根拠はないらしいな」

 根拠はねえのかよ。

「……『人族』の『種族能力』ってぇ、まさか『魔眼』……ってわけじゃねぇよなぁ?」
「うむ……それはないだろう」

 ……『人族』だけ『種族能力』ないとか、悲しいな。

――――――――――――――――――――――――――――――

「イツキおかえり!大丈夫だった?」
「おう……楽勝だったっての」
「腹貫かれてぇ、よくそれが言えたなぁ」

 夕方……やっと屋敷に帰ってこれた。

「あ、イッチャン帰ってたんだね!」
「サリス、起きてるんだな」
「人をいつも寝てるみたいに言うの止めてくれない?」
「いつも寝てんだろ」
「ウィズー、イッチャンがいじめるよー」
「我を巻き込むんじゃない」

 嘘泣きしながら寄ってくるサリスを、ウィズがチョップする。

「騒っがしいなぁ、いつもこうなのかぁ?」
「まあ……そうだな」

 ……ふと、一番騒がしいやつがいないことに気づく。

「……シャルは?」
「あ、そうだった!今、『人王』と『獣王』が来てるの!なんかイッチャンとシャルちゃんに用事があるらしくて……シャルちゃんと一緒に客室にいるよ!」

 ……なんで?

「『獣王』様がぁ……?イツキに用事だぁ?」
「……嫌な予感しかしねえけど……一応顔出しとくか」

――――――――――――――――――――――――――――――

「あ、イツキさん!」

 客室の中、グローリアスさんと『獣王』、そしてシャルが座っていた。

「ずいぶん遅かったな……どこに行っていたのだ?」
「ちょっとギルド戦闘に……」
「ギルド戦闘……そうか、もうそんな時期だったな」

 空いてる席……シャルの隣しか空いてねえじゃねえか。

「それでは、そろそろ本題に入ろうか……と言っても、ライガーとシャルにはもう伝えてあるから、内容を知らないのはイツキ君だけなのだがな」

 ……『獣王』にも内容を伝えてる。ってことは、相当厄介な話か?
 なら丁重に断って―――

「……シャルの婚約者との婚約を破棄しに行く」
「……………ん?」

 ―――婚約?

「え……?どういうことですか、婚約者って?」
「うむ、実際には婚約者ではないのだ……相手方がシャルのことを一方的に気に入って、婚約者呼ばわりしているだけなのだ」
「……その、相手って?」
「……『森精国』の王子、『エスカノール』だ」

 『森精国』の……王子?!

「かなり前に『森精国』に行ってな……その時にエスカノールとシャルが出会ってしまった」
「……なあ、シャルはエスカノールってやつの事が―――」
「大っ嫌いです」
「あ、そうなの……」

 シャルが人の事を嫌いって言うの、珍しいな。

「グローリアスさんは……その、良いんですか?」
「何がだ?」
「娘が……シャルが、結婚の機会を逃しても?」
「ふむ……イツキ君の言いたいこともわからなくはない。だが私だって一人の娘の父だ、娘が望まぬ結婚などさせる気も、祝福する気もない……もっとも―――」

 グローリアスさんの視線が冷たくなる。

「―――あんな若造わかぞうとシャルが結婚するなど、絶対に許さない」

 そこには、いつもの『人王』のグローリアスさんではなく、父としてのグローリアスさんが在った。

「……『森精国』の王子……エスカノールってやつはシャルが結婚したくないっての、納得するんですかね?」
「その点は問題ない……イツキ君と結婚すると言うからな」
「……いや待て」

 気のせいか?昨日までランゼと同じことやってたような気がするぞ?

「ただ『結婚しない』と言っても、『森精王』は納得しないだろう……だが、すでに婚約をしていると言えば引き下がるだろう」
「そうは言っても……」
「……こんなことを頼めるのは、イツキ君だけなのだ」

 席を立ち、グローリアスさんが―――

「なっ、何してんですか?!」
「すまない……私にできるのはこれぐらいなのだ」

 ―――1国の国王が、俺に頭を下げている。

「あ、くっ……あーもうわかりましたよ!婚約者でも何でもやってやります!だから頭上げてくださいよ!」
「……恩に着る」

 誰かに頭を下げられるなんて、しかもそれが国王なんて……俺にはハードルが高い。

「それでは……『竜国』に行くとするか」
「それ……本気で言ってたんだね」
「ライガーが『竜王』と……『バハムート』と仲が悪いのは承知だ……だが今回の件は、バハムートの力が必要だ」
「はあ……そこだけが気乗りしないよ」

 『竜国』……『竜王』バハムート?

「なんで『竜国』に行くんです?」
「もしエスカノールが武力で言うことを聞かそうとした時に、バハムートがいれば負けることはないだろうしな」
「……その、バハムートって人は承諾してくれるんですかね?」
「先日『竜国』と同盟を結んだばかりだからな……おそらく大丈夫なはずだ」
「いつの間に同盟を結んでたんですか?」
「イツキ君と初めて会った時……あの時は『竜国』から帰国している時だったのだ」

 そうだったのか。

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