発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

21話

「それでは……『テルマ』のチームについて説明しておきますね!」

 『ギルド戦闘』が行われる『テルマ』へ向かう馬車の中、リオンが意気揚々として続ける。

「『テルマ』のチームは……1番手『ザクロ』、2番手『スカー』、3番手『メオール』です」
「1番手2番手……って、『ギルド戦闘』は3対3じゃなかったのか?」
「なんと説明しましょうか……『ギルド戦闘』は3対3のチーム戦、その3人の順番を決めて戦い、結果として勝者の多いチームの勝ち、という感じでしょうか」
「あー……剣道の団体戦みたいな感じか」

 ……まあ俺とアクセルで2勝すれば、リオンが負けても結果として勝ちになるし。

「んだよぉ、そのけんどーってよぉ?」
「……気にすんな」
「お、おぉ……そんな怖い顔しなくても良いだろうがよぉ」
「え、怖い顔?」

 ……無意識に拒絶反応が出てたのかな。
 剣道……楽しい思い出より、苦い思い出が多い……というより、苦い思い出しかない。

「……大丈夫ですか?」
「ああ悪い……それで、何だっけ?」
「ええと……1番手、2番手、3番手を決めなければいけないのですが、どうしますか?」
「うーん……1番手はリオンでいいだろ。2番手はアクセル、んで3番手は俺でいいや」
「そんな適当で良いのかよぉ」

 いや、お前にだけは適当って言われたくないわ。
 今の状況わかってる?アクセルは護衛のはずなのに何で『テルマ』に行ってんの?お前の方が適当だろ?

「……とりあえず、俺とアクセルが勝てば『ギルド戦闘』には勝てるんだし、リオンは怪我しない程度に頑張れよ」
「は、はい!」
「そだなぁ……俺とイツキならぁ、ぜってぇ負けねえぜぇ」

 笑うアクセルが拳を向けてくる。
 その拳に拳を当て、俺は不敵に笑った。

「……お二人は仲良しなんですね」
「あー?見りゃわかるだろ?」
「そっだなぁ、俺たちゃあ最強の友達だからよぉ」

 ……アクセルの口から『友達』という言葉が出たことに驚いた。

――――――――――――――――――――――――――――――

「ここが『テルマ』……」

 馬車に揺られること30分、『ギルド戦闘』が行われる『テルマ』に着いた。

「おぉ……なんだこりゃぁ、見たことねえ『魔道具』だなぁ」

 『テルマ』……『アンバーラ』や『シュリーカ』より発展している。
 具体的に言うならば……アクセルが『魔道具』と言った『電柱』だろうか。

「まさか……電気が通ってんのか?」
「どうしたんだよぉ、イツキぃ?」
「んや……俺の地元に、これと似た道具があったから、ちょっと気になったんだ」
「イツキの地元ってぇ、異世界っかよぉ?」
「軽々しくその単語を口にするんじゃない」
「あぁそうだったなぁ、悪かったぁ」

 誰かに聞かれたら厄介だから、簡単に異世界なんて口にしないでほしい。

「イツキさん!アクセルさん!何をしているのですか?早く行かないと始まってしまいますよ?」
「あー……わかったわかった」
「ったくよぉ、騒々しいったらありゃしねえぜぇ」
「何で呼びに戻った私が悪いみたいになってるんですか?!」

――――――――――――――――――――――――――――――

「あ、お二人とも、着きましたよ」
「ここであるのか?」
「はい、そうですよ」

 ここって……まるで……

「……闘技場?」
「んだよぉ、またイツキの地元にあるのと似てんのかよぉ?」
「ああ……まあ実物を見たことあるわけじゃねえけどな」

 アニメや漫画でよく見る感じの闘技場にやって来た。

「……む、来たかリオン」
「ギルド長、『ギルド戦闘』に出場してくれる方々を連れて来ました」
「ほう……負け続きの私たちに協力してくれるとは、どこの物好きだ?」

 豊満な胸を強調するように腕を組み、『ギルド長』と呼ばれた女性が近づいてくる。

「『アンバーラ』のギルド長『クーロン』だ。よろしく頼むぞ」

 俺とアクセルに手を差し出し、微笑を浮かべるクーロン。

「……あんたぁ、相当強いなぁ?」
「一応ギルド長なのでな……そう言う君は獣人だな?」
「おぉ……自己紹介してなかったぁ、俺は『獣国』の国王、『獣王 ライガー・エル・ヴォルガノン』の護衛を任されてるぅ、アクセル・イグナイトだぁ」

 ガッチリと握手し、早速仲良さそうにする二人。

「……君は?」
「俺はイツキ……よろしく」
「うむ……奇妙な『魔道具』を持っているのだな」
「あーこれは『魔道具』じゃなくて……まあいいや」

 クーロンの手を握り―――異様な鬼気に背後を振り向く。

「……何見てんだよぉ、用があるんなら口で喋れやぁ」
「失礼……まさかあれだけ無様にヤられて、まだ向かってくる勇気があるとは思わなくてね」

 喧嘩腰のアクセルの言葉に対し、鬼気を放っていた男の言葉は穏便なものだった。

「あら?誰かと思えば……あなただったのね―――落ちこぼれ」
「『リーシャ』さん……お久しぶりです」
「へえ……昨日あれだけボコボコにされて、まだ戦おうとする冒険者がいるなんてね」

 リーシャと呼ばれた少女が、俺とアクセルを興味深そうに眺める。

「……見るからに三下ね」
「んだとおらぁ!」
「落ち着けアクセル」
「止めんなイツキぃ!こんなクソガキにバカにされてぇ、黙ってられっかよぉ!」
「く、クソガキ?!」
「リーシャ、落ち着いて」

 リーシャを止めたのは、先ほどまで鬼気を放っていた男だった。

「ふん!その生意気な態度……『ギルド戦闘』が終わったらどうなっているか、楽しみだわ」
「このクソガキぃ―――」
「すまない君たち……ここはお互いに不注意ということにしておかないか?」
「ああ……そうだな。アクセル、行くぞ」
「だけどよぉ!」
「ムカつく気持ちは……対戦相手にぶつけてやればいいだろ」

 アクセルをなだめ、リーシャの方を向く。

「お前ん所の2番手のやつに言っとけ……死んでも知らねえぞ、ってな」
「―――っ!」

 俺の言葉の本気度を感じたのか、リーシャの表情が強ばる。

「行くぞ、アクセル……リオンもだ」
「……おおよぉ」
「はい!」

――――――――――――――――――――――――――――――

「……1番手はリオンが出るって聞いてたんだが?」
「知らんな」
「いや、ギルド長が『ギルド戦闘』に出るのってありなのか?」
「ありだ」

 隣に立つクーロンが、無茶苦茶なことを言う。

「クーロン、何そんな熱くなってんだ?」
「私のギルドの職員が、落ちこぼれだとバカにされたのだ……黙って見過ごせというのは、無理な話だ」

 美しい黒色の瞳に怒りを灯し、隣側に立つ『テルマ』のチームを睨み付ける。

「ったくよぉ、暑苦しくて頑固だなぁ……けどぉ、そんなやつは嫌いじゃあねえぜぇ」
「……すまないな」

 苦笑を浮かべ―――目の前の試合場へと入っていく。

「『それでは1番手、『アンバーラ』のクーロン選手対『テルマ』のザクロ選手!』」

 ザクロと呼ばれた男……格好から察するに、武器は短剣だろうか。

「『それでは―――始め!』」

 司会者の言葉に、戦いの火蓋が切って落とされ―――

「ねえ、君『アンバーラ』に住んでるの?てか何歳?」

 ―――ザクロがナンパを始めた。

「え、えぇ……?」
「……何やってんだぁ?あいつぅ?」

 俺だけでなく、アクセルまで呆れた溜め息を吐く。

「……悪いな」

 静かなクーロンの声に、ザクロだけでなく、闘技場全体が静まり返る。

「私は今、自分でも引くぐらい不機嫌なのだ……降参するなら今のうちだぞ?でないと手加減ができんかもしれんからな」

 短剣を構えるザクロに対し、クーロンは素手だ。
 ……まさかアクセルと同じ、脳筋なのか?

「そう……それじゃあ勝負が終わったあとにでも話の続きをしようか」
「ふむ、お前が生きていたらな―――『トールハンマー』」
「はっ―――?」

 雷のような速度、瞬く間にザクロとの距離を詰め、手に握られる『雷の大鎚』を振るい―――

「―――がっ、ほ……」
「ふむ……殺してしまったか?」

 ―――試合場から吹き飛び、観客席の真ん中にザクロがめり込んでいる。

「いやいや……何それ?」
「速えなぁ……ギリギリ目で追えるぐれぇだったぁ」

 さすが……伊達にギルド長じゃないな。

「ち、ちょっとザクロ?!何簡単に負けてるの?!」
「リーシャ、落ち着いて」
「何でメオールはそんなに落ち着いてるのよ!」
「なに……あと2勝すればいい話さ」
「あらあら……アクセル、今の聞いたかよ」
「おぉ、ばっちし聞いたぜぇ……」

 俺たちの言葉に、リーシャがこちらを睨む。

「「こっから1勝もやるつもりはねぇぜ」」

 リーシャを睨み返し、中指を突き立てて宣言する。

「め、メオール……?負けないわよね……?」
「もちろん」

 ……このメオールという男……強いな。
 先ほどの鬼気といい……そこら辺の冒険者よりできそうだ。

「はっ……てめぇは3番手だろぉ?」
「……だったら何だ?」
「次俺が勝ちゃぁ、てめぇが出る間もなくぅ、俺たちの勝ちが確定すんだぁ」

 まあ、そりゃそうだ。

「……お前みたいな子どもが、俺に勝つとでも言いたいのか?」

 リーシャの隣に立つ男―――槍を抱えた男がこちらに歩いてくる。

「おぉ、当ったり前だろぉ―――俺が負けるのはぁ、イツキだけだぁ」

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