発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

17話

「それでは、帰るとしようか」

 翌日の早朝、グローリアスさんに続いて馬車に乗り込む。

「イツキぃ……」
「……なんだ?」
「……また来いやぁ」

 アクセルの言葉に、『獣王』が驚いたように俺とアクセルを交互に見る。

「……ああ、また会おうな」
「楽しみにしてるぜぇ……次こそは1発入れてやらぁ」

 拳を俺に向け、年相応の笑みを見せてくる。
 いや、そこは勝つって言えや。

「イツキ君、そろそろ出発するぞ?」
「あ、わかりました」

 馬車に乗り込み、席に座る。

「イツキってば、いつの間にあの獣人と仲良くなったの?」
「あー?男同士、夜通し拳で語り合えば仲良くなるってもんだ」
「拳で語り合ったの?!夜通しで?!」

 ストレアが大声を上げる。

「それより……気になることを聞いてもいいかしら?」
「気になること……?」
「どう考えてもそこの女の子でしょ?!どっから連れてきたの?!」

 ……ああ、サリスのことか。

「何つーか……空から降って来たんだ」
「はあ?もうちょっとマシな嘘を―――」
「本当だよ、サリスは空から降って来たんだ!」
「……ストレアがそう言うのなら、信じなくはないけど」

 おいランゼ、俺への信頼感無さすぎだろうが。

「えっと……自己紹介した方がいいかな?」
「……一応な」
「わかった!うちはサリス!昨日の夜にこの世界にやって来た異世界人だよ!」
「「「えっ?!」」」

 ランゼたちが驚き、グローリアスさんが無言でこちらを見る。

「……じゃあサリスが……伝承の勇者なの?」
「ううん違うよ?うちは勇者の手伝いを任されたの。勇者ってのは―――」
「おいサリス、ちょっと耳貸せ」
「ん?なーに?」

 呑気なサリスの耳に顔を寄せる。

「俺が異世界から来たってのは黙っとけ」
「何で?」
「昨日シャルの部屋でアクセルと話してたのを聞いてねえのかよ?俺は目立ちたくないって言っただろうが」
「あ、そうだったね!」

 危ねえ、もう少しで異世界人ってバレるとこだったわ。

「勇者ってのは……何?」
「う、ううん!勇者ってのは……そう!普通男の子だろうしね!」
「……まあ、そうかもね」

 頭の悪い嘘だけど……なんとか誤魔化せたみたいだ。

「ねえ!サリスの魔法適性って何?」
「魔法……適性?何それ?」
「え?わからないの?」
「ごめんね、元の世界にはそんなのがなくて……」

 そりゃそうだ。

「それじゃあ帰って調べてみましょうか!」
「う、うん!お願い!」

 サリスから視線を逸らし―――ふと、袖を引っ張られる感覚があった。

「どうしたウィズ?」
「いや……サリスを連れて帰るということは、サリスも一緒に暮らすのか?」
「ああ、そのつもりだ」

 サリスと色々話したいこともあるしな。

――――――――――――――――――――――――――――――

「それじゃ、この『魔水晶』に手を出して」
「わかった!」

 ランゼはあの『魔水晶』をどこで手に入れたんだろ。

「『この世界を創造せし神、ヘルアーシャ様、この者に歩むべき魔道を示したまえ』」

 ランゼの詠唱に従い『魔水晶』が強く輝く。

「……よし、もういいわよ」
「ね、うちの魔法適性なんだった?!」
「『風魔法』……魔法の中で、一番速い魔法ね」

 『風魔法』……一番速い魔法、か。確かに『風魔法』って名前からして速そうだな。

「『風魔法』かあ……イッチャンの魔法適性は?」
「俺は『光魔法』だ」
「へー……スゴいね!」

 ほんとにスゴいと思ってるか?

「それよりイツキ、話があるんだけど……いいかしら?」
「んだよ、告白か?」
「ちっ、違うわよ!いいから来なさい!」

 そこまでガチになって怒んなくても……

「……付いていくか」

 階段を上がり、突き当たりの部屋に入る。

「……ランゼ、話って?」
「……………」

 ランゼの部屋……初めて入ったな。
 というか、女の子の部屋に初めて入った。

「……ランゼ?」
「い、イツキ……どうしよう」
「はっ?」

 首を捻る俺に、ランゼが一通の手紙を手渡してくる。

「これって?」
「いいから読んでみて」

 イマイチ状況が掴めないまま、手紙に目を通す。

「うん、ごめん読めない」
「……仕方ないわね
『ランゼへ 
 お前が『アンバーラ』に行ってから2ヶ月が経った。そろそろ帰ってこい。
 帰ってくる時に、一緒に暮らしているという彼氏も一緒に連れて来い』……って書いてあるわ」

 なにそれ。

「なあ、誰からの手紙なんだ?」
「多分、内容からしてお父さんね」

 ……っていうか。

「彼氏って誰?一緒に暮らしてるって書いてあるけど?」
「えっと、ね……その……嘘を吐いてるの」

 ん?嘘を?

「その嘘ってのは?」
「『アンバーラ』で彼氏ができて、その彼氏の家で暮らしているから心配しないでって言ってるの」

 なんでそんな嘘を吐くんだよ。

「だから、イツキが付いてきてくれない?」
「彼氏役でってか?」
「そういうこと!」
「ふざけろ」

 手紙を返し、部屋を出る。

「お、お願い!お父さんは心配性だから、本当は彼氏なんていないってバレると、強制的に自宅へ連れ戻すに違いないの!」
「嫌なのかよ?」
「……私は、イツキと一緒に……みんなと一緒にいたいの」

 俯き、何かを堪えるように拳を握る。
 ……しょうがねえなあ、こいつは!

「わかったわかった……彼氏役で付いていってやる」
「ほんと?!」

――――――――――――――――――――――――――――――

「つーわけだ……ちょっと留守番しててくれ」
「……イツキさぁん……彼氏役ってぇ……どういうことですぅ?」
「今説明したじゃねえか」

 ヤンデレスイッチが入ったシャルを懸命になだめる。

「うーん……ランゼの為に行くんだよね?」
「……まあ、そうなるのか?」
「それなら、僕は止めないよ!」
「うむ……我も大人しく留守番しておくとしよう」

 ストレアとウィズが―――

「あれ?サリスは?」
「寝てるよ」
「そうか……サリスに言っといてくれ」
「わかったよ!」

 さて……あとは。

「彼氏役……彼氏役……」
「……シャル」
「……もう、仕方がありませんね」

 ため息を吐き、シャルが微笑を浮かべる。

「なるべく早く帰ってきてくださいね?」
「ああ」
「それでは……行ってらっしゃいませ!」
「おう、行ってくる」

 早朝、ランゼの実家―――『シュリーカ』へ向け、出発した。

――――――――――――――――――――――――――――――

「……着いたわ」

 昼過ぎ……ようやくランゼの実家に着いた。

「……開けないのか?」
「ち、ちょっと待ってよ!まだ心の準備が―――」

 何か言ってるランゼを無視して、扉をノックした。

「何してるのよ!」
「痛っ!だってお前が早くしねえから―――」
「どちら様?」

 扉の先から、女性の声が聞こえた。

「……あら、ランゼ!」
「お母さん……ただいま」
「あらあら、隣のあなたがランゼの彼氏?」

 ……ああ、俺が彼氏だったな。

「……はい、ランゼと付き合わせてもらってる、イツキって言います」
「私は『セルザ』、遠かったでしょ?さ、中に入って!」

――――――――――――――――――――――――――――――

「お茶です」
「どうも」

 ……ヤバイ、もう帰りたい。

「イツキさんは冒険者?」
「あ、はい、冒険者です」
「へえ……それじゃあ『魔王』討伐を目標に?」
「いや、俺はそんなことしませんよ」

 手を振り否定する。

「ふーん……それじゃあ何か目標とかはあるの?」

 ……ここら辺で彼氏アピールしとくか。

「まあランゼを守れるくらいには強くなる、ってのが一番ですかね」
「あらあら、良かったわねランゼ」

 ……あれ?ランゼ、耳まで真っ赤だけど?

「……そういえば、お父さんは?」
「朝早くからクエストに行ったわ……もう40近いのに、よくやるわよねえ……」

 40近いって。この世界じゃ40歳でもクエストに行くのが普通なのか?

「何のクエストに行ったの?」
「確か『デュラハンの討伐』……だったかしら?」
「デュラハン……?」

 デュラハンってあれか?首無騎士のことか?

「あれ?お父さんってこの前右腕を斬り落とされたって言ってなかった?」
「ええ、『グリフォンの討伐』に行ったときにね」

 は?右腕を?

「それでも冒険者を続けるって……お父さんって化け物ね」
「いや化け物すぎるだろ」

 思わず突っ込んでしまった。

「イツキさんも冒険者よね?何か討伐したことは?」
「あー……この前ドラゴンを2匹ほど」
「2匹?!」

 まあそんなに強くなかったな。

「すごいわね……単独で討伐したの?」
「まあ、ほぼ単独でしたね」

 そんなことを話している―――と、玄関の扉が乱暴に開けられる音が聞こえた。

「お父さん、帰ってきたみたいね」

 ランゼの父さん……右腕を失っても戦う冒険者。
 一体どんなやつか―――

「……おお……ランゼ、帰ってたのか」
「うん、ただいま」
「……そっちのが彼氏か」
「あ、えぇ……?」

 ―――壁。
 一瞬、目の前に壁が立っているのかと思った。

「俺は『ジルガバーナ』……お前は?」
「い、イツキです……」

 ……肘から先の右腕がない。
 武器は腰にぶら下げている片手剣だろうか。

「よし……お前、外へ出ろ」
「いやなんでだよ」

 反射的に返してしまった。

「簡単な話だ……実戦でお前の心を見てやる」

 この巨人は一体何を言っているのだろうか?

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