発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

16話

「……そろそろ帰るか」
「えー?!もう帰るの?!」
「お前は今何時だと思ってんの?」

 おそらく現在の時刻は8時前……ストレアが帰らないと言って聞かないから、こんな時間になってしまった。

「いい加減にしないと置いて帰るからな」
「うー……わかった……」

 トボトボと俺の後を付いてくる。

「……あ、イツキ」
「ん……何?」
「あれ」

 ストレアの指さす方向を見る。

「……え?何あれ?」
「わ、わからないよ」

 空から、何かが降ってきている―――

「……おい、あれ人間じゃねえか?!」
「え?!嘘?!」

 ―――淡く輝く女の子が、空から降ってきていた。

「……ストレア、俺たちは何も見ていない、いいな?」
「何言ってるの?!早くあの子を助けないと!」
「助けるったって……空から落ちてきてるやつをどうやって助けんだよ?」
「こうするんだよ!」
「は―――」

 ストレアが俺の右腕を掴み―――

「は、ぁあああああっ!」
「ぉおおおおおああああああ?!」

 ―――そのまま上空へぶん投げた。

「うぁあああああああああっ?!」

 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!これは死ぬ!

「ぉおおおおおああああ―――がっ?!」

 何かにぶつかった。

「イツキ!その子掴んで!離さないで!」

 無理言うなよ!

「くっそ……!」

 なんとか女の子の腕を掴み、引き寄せる。

「……あ、う……」
「おう、大丈夫か?」
「え……誰?」

 そりゃそうだな。

「俺はイツキ……あんたは?」
「うちは……って、何で?!落ちてる?!」

 やっと現状に気づいたか。

「参ったな……どうしようか?」
「……まさか異世界に来て、早速これを使うなんてね……!『ソウルイーター』!」

 ……今何て?『異世界』って言ったか?

「―――掴まっててね!」
「うぉ―――おお!」

 ―――黒い翼の生えた女の子が俺の腕を掴み、ゆっくり降下していく。

「イツキ!」
「お前ふざけんなよ?本気で落下死するかと思ったからな?」
「ご、ごめん……あれ以外に方法が思い付かなくって」

 女の子のおかげで、無傷で地面に着地できた。

「すまんな、助けるつもりが助けられちまった」
「ううん、気にしないで!」

 ……幼い。
 ウィズと同い年くらいだろうか、短い緑色の髪が特徴的な女の子だ。

「……あんた、名前は?」
「あ、うちは『サリス』だよ!」
「サリス……サリスか」

 さっきの発言からして、サリスは異世界からこの世界に来たのだろう。

「ストレア、早く帰ろう……サリスも、一緒に来てくれないか?」
「うん、いいよ!」

――――――――――――――――――――――――――――――

「シャル」
「あ、イツキさん!どうされたのですか?……まさか、夜這いですか?!」
「違う」

 シャルの部屋……どこに案内されたかわからなくて、探し回ったわ。

「あれ?そちらの方は……?」
「ああ、こいつはサリス、さっき会った……と言うか何と言うか……」
「……?どういうことですか?」
「まあさっき知り合ったんだよ」

 首を傾げ、サリスを見るシャル。

「初めまして!サリスだよ!」
「あ……私はシャルロット、気軽にシャルと呼んでください」
「わかったシャルちゃん!」

 シャルちゃんって。

「じゃあイツキさんを呼ぶときは……」
「イツキちゃんは変だから、イッチャンだね!」

 おい、何で俺の呼び方を決めてんだよ。

「それで……サリスさんを連れて、何をしに来たのです―――まさか」
「あ?」
「『俺はサリスと付き合うから、シャルとは付き合えない』って言いに来たのですか?!」

 こいつの脳内は、一体どうなってるのだろうか。

「嫌ですよ!私は絶対に嫌です!イツキさんのこと諦めませんから!どうしてもサリスさんとお付き合いをすると言うのなら……イツキさんを殺して、私も死にます!」
「落ち着けバカ、誰もそんなこと言ってねえ」
「で、でも……」
「サリスはさっき空から降って来た」

 俺の言葉を聞いたシャルが、驚いた顔でサリスを見る。

「え、と……それは、どういう……?」
「さっきサリスはこう言ったよな?『異世界に来て、早速これを使うなんて』って」
「う、うん……」
「イツキさん……もしかして?!」

 シャルが俺の方を向く。

「サリス……お前、どこから来た?」
「……異世界、この世界じゃない世界から来たよ」
「……ヘルアーシャって女神から送ってもらったか?」
「う、うん、そうだけど」

 となると……サリスは外国人なのかな?日本人離れした可愛さと、緑色の髪色だし。

「うちが生まれて育ったのは『オリジン』って言う世界なんだけど……」
「待て、今なんて?」
「え?オリジンって言う世界から来たんだけど……」

 オリジン……地球じゃないのか?!

「……あ、もしかして」

 ヘルアーシャは3つの世界を見守ってると言った、元の世界の地球、この世界アナザー、そしてサリスが暮らしていたオリジン……この3つを見守ってるのか?

「まあいいや……となると、サリスが勇者になるのかな?」
「ううん、うちは勇者じゃないよ?」
「え?でも、この世界の伝承通りなら、サリスが勇者になるんじゃ……?」
「うちは女神から『異世界に勇者を送ったんだけど、まったく働かないから、その勇者の手伝いをしてほしい』って頼まれたんだよ」

 働かないって言い方は酷いな。

「勇者の手伝い……と言うことは、やっぱりイツキさんが勇者なんですね!」
「え?!てことはイッチャンも異世界から来たの?!」
「あー……まあそういうことだ」

 ……そういや、サリスはヘルアーシャから何か異世界転移特典をもらったのかな?

「なあ、ヘルアーシャから何か貰ったか?」
「何かって……特典のこと?」
「そうだ」
「貰ったよ!うちは『ソウルイーター』って能力を貰ったんだ!」

 『ソウルイーター』……さっきの黒い翼のことか。

「詳しく聞かせてくれるか?」
「うん、えっと……『死神の力を使うことができる』って感じの能力だったよ!」
「死神の力……?」

 よくわからないが……強そうだな。

「うーん……結局、俺が勇者ってことなのか?」

 腕を組み、そんなことを―――

「おい……今の話は、どういう意味なんだぁ……?!」

 ―――開けっ放しの扉……その先から、声が聞こえた。

「お前……何でここに……?!」
「俺がどこにいようが、俺の勝手だろうがよぉ……それより答えろ、今の話はどういうわけだぁ……?!」

 扉を殴り付け、アクセルが室内に入ってくる。

「勇者ってぇ……冗談だろぉ……?!お前が、伝承の勇者なのかよぉ?!」
「声がでけえよケモ耳野郎……」
「答えろっつってんだろぉ!」

 肩を掴み、俺の体を乱暴に振る。

「……そうだ、一応、俺が勇者だ」
「マジ、かよぉ……」

 目を見開き、あり得ないものを見るような目で俺を見てくる。

「勇者……通りで勝てねえわけだぁ。俺なんかが勇者に勝てるわけねえもんなぁ」

 頭を乱暴に掻き、初めてアクセルが笑みらしきものを見せる。

「……俺が勇者ってことは、誰にも話すなよ」
「はぁ?何でだよぉ」
「俺は目立ちたくねえんだ……いいな?絶対に話すなよ?」
「お、おお……わかったぁ」

 口止めはこれで完了……まあバラしたとしても、シラを切ればいいだろう。

「……なぁ、お前名前なんて言うんだぁ?」
「今さらかよ……俺はイツキだ」
「イツキ……イツキかぁ……」
「……そういや、どこから話を聞いてたんだ?」
「最初っからだなぁ……そこの嬢ちゃんが夜這いがどうのって言ってたぐらいからだなぁ」

 最初の最初じゃねえか!

「なあイツキぃ……もう一度勝負しねえかぁ?」
「なんっでだよ」
「……俺ぁ強くなりてぇんだぁ」

 瞳に強い感情を宿し、真正面から俺を見る。
 その威圧的な視線に、思わず身震いする。

「イツキさん……」
「ちょっと行ってくる」
「……付いていきます!」

――――――――――――――――――――――――――――――

「ルールぁ……武器の使用禁止、魔法の使用も禁止ってのでどうだぁ?」
「おい、その条件だと俺が圧倒的に不利じゃねえか」
「知らねぇよ、勇者様なんだからそんぐらいのハンデをくれてやってもいいじゃねぇかよぉ」

 屈伸するアクセルから目を逸らし、背後に立つ2人の少女へ視線を向ける。

「……寝ててもいいんだぞ?」
「いえ!最後まで見届けます!」
「そうだよ……この世界の勇者の実力、実際に見てみたいしね!」

 シャルだけでなく、サリスまで付いてきた。

「さ、てぇ……行くぜ、準備はいいなぁ?」
「ああ……いいぞ」

 瞬間、全身を刺すような殺気が駆け巡る。

「―――がぁあああああっ!」
「うぉっぶな!」

 一歩で距離を詰め、アクセルの剛爪が俺の命を刈り取ろうと襲い来る。

「らぁあああああああ!」
「―――しっ!」
「うごっ?!」

 紙一重で攻撃を避け、肘打ちを入れる。

「ぐ、ぅううう……!」
「ほんと、お前っておかしいくらい強いよな」
「だったらぁ……1発くらいくらえってのぉ……!」

 苦痛に顔を歪めながらアクセルが立ち上がる。

「てかお前のその爪、危なすぎねえか?くらったら俺が死ぬぞ?」
「そんぐれぇどうにかなるだろうがよぉ、勇者様なんだからよぉ」

 無茶言うなよ脳筋が。

「スゴい……まったく見えなかった……!」
「さすがイツキさんです!」
「おーうおう、もっと褒めてくれていいんだぜ?」
「ちっ、調子狂うなぁ……」

 アクセルが苦笑し、俺に歩み寄ってくる。

「……いつか必ず、お前を追い越すぜぇ……イツキぃ」
「お前の笑った顔、怖いな」
「んだとぉ?!」

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