発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

13話

「……………」
「い、イツキ?」
「……ん?」
「いや、その……あんまり難しく考えない方がいいよ?」
「ああ……」

 ストレアの言葉に、空返事を返す。
 『天秤座』のリーブラ……か。

「はあ……めんどくせえことになってきたな」
「何でそう思うのだ?」
「あのリーブラってやつの言葉が正しいなら、あいつがドラゴンを『アトラスの獄山』に連れてきたってことだ」
「……それで?」
「リーブラには『生物を操る』魔法、能力が使える、もしくは単純にドラゴンを従えるくらいの実力があるか……このどっちかだ」

 まあどっちにしろめんどくせえけど。

「ふむ、なるほどな……だが、イツキなら勝てるだろう?」
「なんっでだよ」
「最強の我が言うんだ、間違いない!」

 なんか……ウィズが変わった。
 昨日までは『軟弱者』とか言ってたのに、俺がドラゴンを討伐した後から、尊敬の眼差しで見てくるんだが。

「ランゼさん、手綱を代わらなくても大丈夫ですか?」
「ええ!私1人で充分よ!」

 『アトラスの獄山』から少し離れたところに、ランゼたちが乗ってきた馬車があった。

「ウィズはもう『ベニアルマ』に帰るの?」
「……悩んでいるのだ」
「悩んでいるって、どういうこと?」
「その、何というか……我は孤児なのだ」

 いや、ストレアとウィズは何を話してんだよ。

「……ねえイツキ、ウィズも一緒に屋敷で暮らせないかな?」
「はっ?」
「部屋もたくさん余ってるし、ウィズとも折角仲良くなれたしさ……ねえ、いいでしょ?」
「あのなぁ……」

 何気なく馬車の手綱を握るランゼの方を見る。
 ランゼも何か期待するような目でこちらを見ていた。

「……勝手にしろ」
「やった!一緒に暮らしていいって!」
「う、うむ、これからよろしく頼む」

 ……まあ女の子1人増えたところで、別に出費がいきなり多くなることはないだろう。
 でもウィズはよく食うからな……食費は跳ね上がるかもな。

「それで、どうするのですか?」
「なにが?」
「ギルドやお父様に『ゾディアック』が居たことを伝えるのですか?」

 確かに……どうしようかな?

「あー……グローリアスさんには伝えようかな」
「わかりました!」 

 ギルドに伝えてもいいのだが、この前ヴァーゴが攻めてきた時、めっちゃパニックになってたし……頼りにならねえ。

「……ずっと気になっていたのだが、イツキの魔法適性は何なのだ?『クイック』やら『フィスト』やら、聞いたことのない魔法だ」
「俺の魔法適性は『光魔法』―――」
「『光魔法』だと?!」

 うん、みんなこんな反応するのかな?

「ランゼの『破滅魔法』にイツキの『光魔法』……スゴい、スゴすぎる!『特殊魔法』の使い手が、ここに2人も……?!」

 ……うん、スゴいのかさっぱりわかんね。

「イツキの強さの秘密は『光魔法』が使えるからなのか……イツキが使っていた、あの『魔道具』は?」
「『魔道具』じゃねえ、あれは『変化式魔導銃』っていう『神器』だ」
「じ、じんぎ……って何だ?」
「んーと……女神から貰った武器、って感じかな?」
「「「「女神から?!」」」」

 シャルとストレア、ウィズだけでなく、馬車を操っていたランゼまで驚きの声を上げる。
 ……女神から貰ったってのは、言わない方が良かったかな?

「……今言ったこと、忘れてくれ」
「忘れるわけないじゃないですか!どういうことです?!女神から貰ったというのは?!」
「あー……そのままの意味だ、まあ気にするな」
「気にしますよ?!」
「な、なあ!そのじんぎとやらを触らしてはくれないか?!」
「別にいいけど……」

 懐から『魔導銃』を取り出し、ウィズに手渡す。

「おお……!カッコいいな、これ!」
「そこには激しく同意だな」

 ウィズが『魔導銃』を眺め、うっとりとした表情を見せる。

「……これはどういう仕組みで動いてるのですか?」
「俺も詳しくはよく知らねえけど……使用者の『魔力』を弾丸として放出するらしい」
「へえ……イツキさんの能力とピッタリですね!」

――――――――――――――――――――――――――――――

「いらっしゃ―――あ、イツキさん!」
「おうリオン」

 ギルドに帰ってきた……のだが。

「……なんでこんなに暗いんだ?」
「それは……その……隣町の『テルマ』の『ギルド長』が先ほどまでいたのです」
「……それが?」
「別の町からギルド長が来るときは、大抵『ギルド戦闘』をするときなんですよね……」

 『ギルド戦闘』?なにそれ?

「……ま、どうでもいいか……それより『ドラゴンの討伐』、きっちりと終わらしたからな」
「あ、ありがとうございます!これで無事に今月のボーナスがもらえます!」

 なんかムカつくんだが。

「その……もう1つお話したいことが―――」
「よしお前ら、グローリアスさんのところに行くぞ」
「ま、待ってください!お願いします!」

 リオンが腕を引っ張ってくる。

「大方、その『ギルド戦闘』に参加しろって感じだろ?絶対に嫌だからな、俺は人のためには動かない。全部俺の気分次第だ」
「「「うわぁ……」」」

 シャル以外の3人が、引いたような声を出す。

「そ、そんな……イツキさんが出てくれれば、絶対『テルマ』なんかに負けないんです!」
「お前俺を買い被りすぎだ」

 引っ張ってくる腕を振り払おうとし―――悲しそうなリオンの顔が目に入った。

「お願いです……もう、バカにされたくないんです」
「何の話だ」
「『取り柄のない人間』なんて、もう呼ばれたくないんです……!」

 こいつは……一体、何を……?

「……よくわかんねえけど、さっきも言っただろ?俺は人のためには動かないってな」
「……………」
「じゃあな……悪く思うなよ」

 今度こそ腕を振り払い、ギルドの外へ出た。

「い、イツキ……いくらなんでも―――」
「ランゼ……俺はさっき何て言った?」
「え?……俺は人のためには動かない?」
「そこじゃねえよ」

 自分で言っといてあれだが、俺って口悪いな!

――――――――――――――――――――――――――――――

「ふむ……ドラゴンを2匹も討伐するとは、さすがはイツキ君だな」
「ははは……実はその事で話があります」

 俺の言葉に、グローリアスさんが表情を引き締める。

「話だと……?聞かせてくれるか?」
「はい……先ほど『ゾディアック』の『天秤座』が現れました」
「『ゾディアック』だと……?!」
「はい……『天秤座』のリーブラ、やつは……その2匹のドラゴンを『アトラスの獄山』に連れてきたと言ってました」
「ドラゴンを連れてきた……だと?!」

 驚くグローリアスさん、無理もない……普通ドラゴンを従えるなど、あり得ない話だろうしな。

「……シャル」
「すみませんお父様……とっさのことでしたので、『魔眼』で視る間もなく……」
「そうだったのか」

 確かに、シャルに視てもらえばよかったな。

「イツキ君」
「先に言っておきますけど、『ゾディアック』と遭遇したら俺はすぐに逃げますよ?」
「……うむ」

 さすがに『ゾディアック』の相手するのは、俺には無理だ。

「そうか……残念だが、イツキ君に頼むのは諦めよう……それはそれとして、3日後の『獣国』の護衛、よろしく頼むぞ」
「あー……はい、それは任せてください」

 約束したのは俺だし……そこはしっかりしとかないとな。

「それじゃあ……失礼しますね」
「うむ、気を付けてな」

 会議室を出て、長い廊下を歩く。

「……イツキって、強いのにもったいないわよね」
「何言ってんだ?痛いのは嫌だろ?」
「そうかも知れないけど……」

 他人がどうなっても知らん顔、自分に影響がなければご自由に……まったく、自分で自分が嫌になる。まあ性格を直す気はないけど。

――――――――――――――――――――――――――――――

「はー!今日は疲れたよー」

 屋敷に帰るや、ストレアがリビングのソファに寝転がる。

「……お前の角ってどうなってんの?」
「角?別にどうもなってないよ?」
「ちょっと触ってみてもいいか?」
「えっ?!だ、ダメだよ!」

 嫌がるストレアを抑え込み、生えている角の手を伸ばして―――

「―――ふゃんっ!」
「はっ?」

 ―――変な声が聞こえた。

「あっ、だ、ダメ!ほんとに、ダメらの!」

 ……弱点みたいなものかな?

「ああ……だ、めぇ……これ以上はぁ……」
「イツキ……」
「おっと、悪い」

 反応が面白くて、つい夢中になってしまった。

「はぁ……あぁ、ふぅ……」
「だ、大丈夫ですか?ストレアさん?」
「う、ん……大丈夫だよ」

 火照った顔のストレアが、俺を見てくる。

「ねえ……『鬼族』の角を触ることの、意味はわかってる?」
「いや、知らねえけど……なんか意味あるのか?」
「う、ううん……知らないならいいんだよ」

 ……角を触ることの意味?

「なあ、どんな意味があるんだよ、気になるじゃねえか」
「気にしないでいいよ……『人族』には伝わってないだろうしね」

 ……ますます意味がわからねえ。

「シャル」
「申し訳ございません、私も角を触る意味は聞いたことがないです」

 うーん……気になるなあ。

「それじゃ、僕は部屋に戻るよ!」
「……おう」

 今度図書館にでも行って、『鬼族』について調べようかな?

「……求婚」
「……ウィズ、今なんて?」
「だから求婚、と言った」

 ウィズの口から出た言葉に、一瞬思考が止まった。

「……え?求婚って……角を触ることがか?」
「うむ、幼き時に読んだ本に、そんなことが書いてあったような覚えがある」

 ってことはつまり?

「俺はストレアに求婚したってことか?」
「……まあ、そういうことになる」
「嘘だろ?!」

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