発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

11話

「……………」
「……………」

 この世界では珍しい、黒い髪色の幼い女の子が、俺を見つめたまま―――いや、見つめるには目付きが鋭い、これは……?

「いい加減に……降ろせ!」
「ぐふっ?!こ、のやろ……!」

 女の子の肘が、俺の腹部を穿つ。

「ちょ、ちょっと!助けてもらっておいて、その態度はないんじゃないの?!」

 うずくまる俺の前に、ランゼが立つ。

「……助けてくれなど、頼んだ覚えはない」
「そうかもしれないけど、肘打ちする必要はないじゃない!」
「余計なお世話だ」

 ……ほんと、女の子とは思えないほどたくましいな。

「ふん……たかだか肘打ち程度でうずくまるなど、軟弱だな」
「んだと……!てめえ腹出せ、俺が肘打ちぶちかましてやる!」
「い、イツキ!落ち着いて!」
「放せストレア!こいつは1発かまさねえと気が済まねえ!」

 腕を羽交い締めにするストレアを振り払い―――

「ふんっ!いやお前力強すぎじゃね?!」
「その言い方はひどいよ!『鬼族』はみんな力が強いんだから!」

 ―――びくともしなかった。

「女の子1人も振り払えないなど……軟弱どころか、か弱すぎて可愛く見えてくるな」
「てめえ!いくら俺でもぶちギレるぞ!」
「ほう……面白い、ならば勝負するか?」
「上等だ!おらあ!ストレア、放せ!」
「もう!ダメだってば!」

 荒れ狂う俺、この怒りを鎮火したのは―――

「……はっ?」
「……………」

 ―――女の子の腹から聞こえた、切ない音だった。

「……腹減ってんの?」
「……もう、3日は食べていない」

 結構な期間だな。

「はあ……行くぞ、お前ら」
「……置いていくの?」
「当たり前だ、いきなり肘打ち入れてきたやつに、飯なんて奢るかよ」
「ふん、そんなこと頼んで―――」

 再び、切ない音がした。

「……ちっ……おい、付いてこい」
「だから、そんなこと―――」
「ごちゃごちゃうっせえな!飯奢ってやるっつってんだから大人しく付いてこい!」
「あ、う……」

 別に、この女の子が可哀想と思ったわけではない。
 ただ隣に立つランゼたちが、何か言いたげな顔で見てきたから、仕方なくだ。

「……それならば、ありがたくいただこう」
「ありがたくいただいとけ……そういや、お前の名前は?」
「我は『ウィズ』……最強の魔法使いにして、いずれ魔道を極める者!」
「は?」

 何だこいつ、もしかして痛い子か?

「……1つ聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
「なんだ?」
「なんでさっきの男たちに絡まれてたんだ?」
「深い理由はない……最強の魔法使いである我に、道を譲らなかっただけでなく、身のほどをわきまえず我を連れ去ろうとしたのだ」

 連れ去ろうとしたのは確かに悪いかもだけど、最強の魔法使いって。

「……まあどうでもいいや、行くぞ」

――――――――――――――――――――――――――――――

「ウィズはどこから来たの?」
「我は『ベニアルマ』から来た」
「へえ……何しに?」
「簡単な話だ……ここのギルドは『ドラゴンの討伐』というクエストを受けられると聞いた。最強の我が、軽くドラゴンを討伐してやろうと思ってな」

 くそ……ウィズのやつ、あんな幼い見た目なのに、食う量が半端ねえ。

「『ドラゴンの討伐』……って、イツキが頼まれて断ったクエストよね?」
「あー……そんなこともあったな」
「なっ、『ドラゴンの討伐』を頼まれただと?!」

 いや、反応し過ぎじゃね?

「貴様のような軟弱者が『ドラゴンの討伐』を頼まれるなど……」
「さっきから軟弱とか可哀想とか、そういうお前はどうなんだよ?強いのか?」
「愚問を……我が使う魔法は『獄炎魔法』……触れるものを焼き尽くし、見る者すべてを魅了する、最強の魔法だ」

 ……『獄炎魔法』?

「『獄炎魔法』ということは……あなたは魔法適性が2つあるのですか?!」
「うむ」
「待て待て、なんで『獄炎魔法』ってのが使えたら、魔法適性が2つあるってなるんだよ」
「『獄炎魔法』というのは、『炎魔法』と『闇魔法』を合わせた魔法なんです」

 そうなのか……

「そんな最強の我ならば、ドラゴンなんて瞬殺だ」
「どうだかな……」
「ふーん……それなら、明日私たちと一緒に『ドラゴンの討伐』に行きましょ!」
「「「えっ」」」

 ランゼの発言に、俺とストレア、シャルの声が被った。

「い、いいのか?」
「もちろん!」
「ふざけんな、何で『私たち』なんだよ、お前1人で行けや」
「別にそれでもいいんだけど、私は魔法を1発しか使えないじゃない?だからもしも外したときのために付いてきてほしいの」

 こいつはふざけてるのだろうか。

「俺は絶対に嫌だからな、ウィズと一緒にクエストなんて真っ平だ」
「そうか……それならば仕方がない、単独でもドラゴンに挑んでやる」

 あれ?てっきり『我だって、貴様などと一緒にクエストなど真っ平だ』とか言うと思ってたのに……

「いつまで意地張ってんのよ!」
「痛っ!ランゼてめえ―――」
「ごちゃごちゃ言わない!」

 子どもを叱りつけるように、ランゼが俺を睨む。

「とにかく、ウィズ1人で『ドラゴンの討伐』に行かせるなんてできないわ!」
「ぼ、僕もランゼに賛成だよ!」
「あのなぁ……賛成反対を聞いてるんじゃねえんだよ」

 次第に苛立ちが募り始める。

「俺は危ない目に遭いたくねえって、痛い思いをしたくねえって言ってんだ」
「……それなら、私とストレアだけでウィズを手伝うわ」

 売り言葉に買い言葉、そんなことを言われたら、こう返すしかないだろう。

「はっ、勝手にしろ」
「い、イツキさん……」
「ええ、勝手にさせてもらうわ」
「ランゼさんも、ちょっと落ち着いて―――」
「落ち着く?私は至って冷静よ……その言葉、そこのわからず屋に言ってあげたら?」
「好きに言ってろ、お前らの面倒を見るのもめんどくせえ」

 イライラを隠すことなく、そのまま屋敷へと向かった。

――――――――――――――――――――――――――――――

「……イツキさん、シャルロットですけど……」
「あー、入っていいぞ」

 風呂と夕食を済ませ、部屋でくつろいでいると、控えめなノックが聞こえた。

「少々、お時間をいただいてもよろしいですか?」
「別にいいけど……夜這いは嫌だよ?」
「ち、違いますよ!それはまた別の機会に……」
「おい、今何つった」

 こいつ『別の機会に』っつったぞ。

「ランゼさんたちのこと……本当によろしいのですか?」
「……そのことか、別にいいだろ。あいつらだって勝手にするって言ってんだ……まあ、『すいませんでした、やっぱりイツキ様の力が必要です』とか言ってきたら考えなくもな―――」
「……ランゼさんたちは、すでに『ドラゴンの討伐』に向かいました」

 ……え?

「は?明日行くんじゃなかったのか?」
「クエストが行われる『アトラスの獄山』……馬車でおよそ半日かかる、と想定されます」
「……つまり?」
「場所が遠いので、早めに出発したのかと……」

 ドラゴン……まあランゼが出会い頭に『破滅魔法』ぶっ放せば勝てると思うが……

「俺は知らん……あいつらのことだ、上手くやるさ」
「……イツキさんがそう言うのであれば、私はその判断に従います」

 シャルが部屋の扉を開け、呟いた。

「噂ではドラゴンは2匹いるとか……ランゼさんが1匹討伐しても、もう1匹はどうするのでしょうね?」

 そんなことを呟き、シャルがゆっくりと扉を閉めた。

「……俺は正義のヒーローでも、英雄でもないんだ」

――――――――――――――――――――――――――――――

「……参ったわね……」
「ランゼ!来るよ!」
「ぇ―――」
「くっ、『ネオ・アースウォール』!」

 ランゼへと迫る火の玉、それを寸前で『分厚い土の壁』が阻む。

「あ、ありがと!」
「気にしないで!」

 空を飛ぶ2つの影……それを見て、ウィズが小さく舌打ちをする。

「まさかドラゴンが2匹もいるとは……!」
「ど、どうするの?ランゼの『破滅魔法』も使っちゃったし」
「……避けられるとは思ってなかったがな」
「ごめん……」

 出会い頭に放った『破滅魔法』……ドラゴンは『異様な魔力の高まりを感知し、回避』したのだ。

「ドラゴンは魔力に敏感って聞くけど……ここまでとはね」
「ゴォオオオオオオオ!」
「ギャァアアアアアアア!」
「『ヘルフレイム』!」

 ウィズの手から放たれる『黒い炎』がドラゴンの放った火の玉を打ち消し―――できなかった。

「『アースウォール』!『アースウォール』!」

 2枚の土の壁が、弱まった火の玉を完全に消失させる。

「はあ……も、ダメ……魔力が……」
「ストレア!」
「ガァアアアアアアア!」

 へばるストレア目掛けて、再び火の玉が―――

「―――『フィスト』ぉおおおっ!」
「ガギャオオオオオオオン?!」

 ―――寸前、何かがドラゴンの頭を打つ―――いや、殴った。
 ドラゴンの顔を覆っていた鱗が、粉々に砕け散り―――

「『形態変化』!『弍式 散弾銃ショットガン』!」
「ギャォオオオオオオ?!」

 ―――続いて何か重く鈍い音……それと同時に、ドラゴンの目が潰れた。

「生物の弱点は、やっぱ目だな」
「イツキさん!さすがです!」
「あー隠れてろっつっただろ」
「あ、すいません……」

 膝をつくストレアを抱え、見慣れた男がランゼの横に立った。

「ったく……お前らは俺がいないとダメだな?」
「何で……イツキが、ここに……?」
「別に……ただ単に暇だったからだ……まあ他に理由があるとするなら―――」

 そこで少し恥ずかしそうにし、イツキが言葉を続けた。

「……俺は正義のヒーローでも、英雄でもない……でも、お前らとは知り合いだ」
「……それだけ?」
「それだけだ……俺たちの仲に、深い理由なんていらねえだろ」

 ドラゴンを睨み、イツキが邪悪に笑う。

「さてさて……ちょっと色々試してみますか―――『形態変化』、『伍式 対物銃アンチマテリアル』」

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