発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

10話

「……ふ、む?イツキ君は異世界から来たのだろう?」
「はい……そうです」
「女神が伝えた伝承の通りならば、イツキ君が勇者になるのではないか?」
「そう、ですけども……」

 ……いい加減、拘束を解いてくれないだろうか?

「俺だって人間ですよ?見たことない能力を持ってたとしても、『特殊魔法』が使えたとしても、痛いものは痛いし怖いものは怖いんですから」
「……そうかも知れんが……」

 ヘタレと言われても仕方がないが、俺は人間……いくら勇者だと言っても、痛いのは痛いだろうし。

「……てか、そろそろ拘束を解いてくれないですかね?」
「……だ、そうだ……シャル」
「そうですね……もう少し一緒にいてもいいですか?」
「ダメです早く解放しろください」
「色々と混ざっているぞ」

 この拘束……キツいんだが。

「……お父様、少しイツキさんと二人きりにしてくださいますか?」
「うむ……わかった」
「はっ?」

 グローリアスさんが尋問部屋を出ていく―――いやちょっと待て。

「し……シャル?」
「……………」

 部屋に残されたのは俺とシャル……しかも俺は拘束されている状況……これは詰みだな。

「イツキさん……」
「な、なに?」
「……この前の話、覚えてます?」

 ……この前の話って……?

「……『1週間以内にイツキさんを納得させる答えを探す』という話ですが……」
「……あ、ああ……この前ここに来たときに、そんなこと言ってたっけ……」

 シャルが媚薬を片手に近づいてきて―――

「す、ストップだシャル!そこで止まれ!」
「ずっと考えましたが……イツキさんを納得させられるような答えは、思いつきませんでした」
「俺の声聞こえてる?そこで止まって?」
「ですから、こう思ったのです」

 ―――鼻と鼻がぶつかりそうになる距離、そこでシャルはにっこりと微笑んだ。

「イツキさんから『シャルが好きだ』と言ってもらえれば、難しく考える必要がない、と」
「その発想に行き着くお前の思考が怖いわ!」
「この薬を飲めば、イツキさんは私に惚れてくれる……イツキさん、飲んでくれます?」
「無理だよ?」
「そう言うと思ってました……だから強制的に飲ませますね?」

 いや、『飲んでくれます?』って聞いた意味ねえじゃん。

「さあ、2人で夜の営みを―――」
「イツキ!何してるの!いい加減出てきなさい!」

 寸前、ランゼが扉を蹴破り中に入ってきた。

「ら、ランゼ様!ナイスタイミングだ!あんた神だ!助けて―――ランゼ?」

 室内を見たランゼが固まる。

「……卑猥」
「へっ?」
「こんな少女に手を出すなんて、卑猥!」
「お前はこの状況を見て、俺が加害者に見えるの?どう考えても被害者でしょ?」

――――――――――――――――――――――――――――――

「……でっけえな」
「そうね……これが別荘なんて、さすがは国王様ね」

 グローリアスさんに貰った別荘に来た。

「ね、ねえ!僕、二階を見てきてもいい?!」
「ああ」

 ストレアが二階に駆け上がっていく。

「……こんなところをくれるなんて、さすがは王様だな」

 ただ1つ、解せないのは―――

「なんでシャルが一緒なのか、だな」
「嫌ですか?」
「さっきのことがあって、お前に警戒心を持つなって言われても無理な話だな」
「そ、そんな?!」

 ―――シャルも一緒に、別荘で暮らすことになった。

「……まあ悪いやつとは思ってないけど、今日みたいなことが次にあったら、怒るからな」
「うぅ……わかりました」

 しょぼん、と肩を落とし、シャルがとぼとぼと中に入る。

「ったく……グローリアスさんも人のことを考えてくれよな」

 『娘が誰かと一緒に居たいと言ったのは、今回が初めてなのだ……一緒に連れていってくれないか?』って、あんな真面目な顔で言われたら、断れないっつーの。

「その……イツキさんは、『魔王』を討伐されるのですか?」
「唐突な質問だな……そうだな、俺は危険な目に遭いたくないし、痛いのも嫌いだから、『魔王』なんて放っておきたいな」
「ふふ……イツキさんらしいです」

 そう言ってシャルが腕に抱きついてくる。

「さてさて……どうしたもんかね」

 確か……『獣国』の護衛を頼まれてたな。
 『獣国』……名前からして、獣がいるんだろうか?

「でも、まだ日にちがあるな……」

 やることもないし……どうしようか。

「……ランゼ」
「ん、何?」
「この国の案内をしてくれないか?」
「この国の……?別にいいけど、何で?」
「えっと……俺、この国のことよく知らないからさ」
「……ほんと、イツキってどこから来たのよ」

 ……俺が異世界から来た、というのを知ってるのはグローリアスさんとシャルの2人だけだ。
 無論、2人には『絶対に誰にも言わないでくれ』と釘を刺しているので、他の誰かに知られることはないと思う。

「別に……案内が嫌なら、俺1人で行ってくるけど―――」
「それじゃ行くわよ」

 返事がはええよ。

「私も行きたいです!」
「……んじゃ、ストレアも呼んでくるか」

 1人で留守番はかわいそうだし。

――――――――――――――――――――――――――――――

「わあ……!『人国』って広いね!」
「そうですね……『竜国』と『騎士国』に続く大国ですからね」

 はしゃぐストレアの後をランゼが追いかける。

「『竜国』……って、何だ?」
「何だって……何がです?」
「その『竜国』だよ、どんな生物が暮らしてるんだ?」
「えっと、『竜国』には『竜族』と呼ばれる人種が暮らしています」

 『竜族』って呼ばれる……人種?

「え?人が暮らしているのは『人国』と『騎士国』だけじゃないのか?」
「うーん、何と言えばいいのでしょうか……『人国』や『騎士国』に暮らしているのは『人族』、『竜国』に暮らしているのは……人間と竜が合わさった『竜族』……純粋な人間ではないのです」
「……悪い、さっぱりわかんねえや」
「……実際に『竜族』を見た方が早いかも知れませんね、いつか行きましょう!」

 うーん……異世界って難しいな。

「その……国ってどのぐらいあるんだ?」
「国ですか?私たちが暮らす『人国』、『獣人』と呼ばれる人種が暮らす『獣国』、先ほど説明した『竜国』、『人国』以外に『人族』が暮らす『騎士国』……この他には、ストレアさんが暮らされていた『鬼国』、『妖精族』が暮らしている『妖精国』、『マーメイド』と呼ばれる人種が暮らす『水鱗国』、そして『エルフ』が暮らす『森精国』……この8国ですね」
「……この前グローリアスさんが言っていた……あの、何だっけ……ああ、『人国 アンバーラ』『ベニアルマ』『テルマ』『シュリーカ』……って何?」
「それはお父様が治められている国の名前です」

 ということは……グローリアスさんは4つも国を治めてるってことか?

「……他には?」
「ええと、『騎士王』が治められる『騎士国 ファフニール』『ゲムゾレア』『セシル』……『獣国』の国王、『獣王』が治める『タイゴン』『オルシウス』『ランサード』『ロズクリア』、『竜国』の国王、『竜王』が治めている『ドラギオン』『ガルドバーン』『サルクルザ』、『妖精女王』の治める『ティターニア』『オベイロン』『シェイクス』、『鬼王』が治め……られていた『ヒューラゴン』『プラシア』、『水鱗女王』の治められる『ウィアル』『ヘレシア』『ニルベン』、そして『森精王』が治める『エルフィーナ』『ファニア』、ですね」
「多いな」

 何1つ覚えられなかったぞ。

「イツキー!早く早く!」
「あーわかったわかった……行くぞ、シャル」
「はい!」

 ランゼとストレアの後をゆっくりと追う。

「あ……シャル、もう1個聞いてもいいか?」
「何でしょう?」
「『氷魔法』……って魔法はあるのか?」
「『氷魔法』……?」

 この前ヴァーゴと戦ったとき、ヴァーゴは『氷魔法』と思わしき魔法を使っていた。

「いえ……『氷魔法』というのは聞いたことがないです」
「ならヴァーゴは何で……?」
「おそらく、『アイシクルユーザー』という能力を持っているんだと思います」
「『アイシクルユーザー』……」

 ヴァーゴは『能力持ち』だったのか……

「……お、ランゼ、ストレア!ちょっと待ってくれ!」
「ん、どしたの?」
「あそこの武具店に行きたいんだけど、いいか?」
「うん!別にいいよ!」

 武具店に入り、店主を探す。

「……らっしゃい」
「あーっと……オーダーメイドってできる?」
「……おーだー、めいど?」

 俺の言葉を聞いた店主が首を傾げる。
 ……オーダーメイドって言葉はないのか?

「……じゃあ特注ってできるか?」
「できるぞ……武器か?防具か?」
「どっちでもないんだよな……」

 ますます店主が首を傾げる。

「えっと……俺が欲しいのは―――」

――――――――――――――――――――――――――――――

「……ん、何あれ?」

 武具店を出て、そろそろ家に帰ろうと―――したところに、人だかりが見えた。

「何でしょう……近寄ってみますか?」
「ええ……面倒事は嫌なんだが……」
「文句言わない!行くわよ!」
「おー!行ってみよー!」
「おい、俺の話を―――痛いっ!わかった!わかったから引っ張んな!」

 ランゼとストレアに引っ張られるようにして、人混みに向かう。

「―――てめえ……もういっぺん言ってみろ!」
「何度でも言ってやろう……人を連れ去ろうとするなどクズのすることだ、と言っているのだ」
「この、クソガキ……!」

 ……女の子だ。
 シャル……よりは歳上だろうか?男3人が、その女の子を囲んでいた。

「女の子にしては、言葉遣いがたくましいな……」
「言ってる場合?!早く助けるわよ!」
「あー……俺が?」
「もちろん」

 ざけんなよこいつ。

「……面倒事はマジで嫌なんだけどな……」

 ため息を吐きながら、ガシガシと頭を掻く。

「『アースバレッド』!」
「『シャドウボール』!」

 男たちの詠唱……それに続いて、『土の弾丸』と『闇の球体』が現れ、女の子に―――

「……『ヘルフレイ―――」
「『クイック』」

 ―――当たる直前、女の子を抱き抱えて魔法を避けた。

「ああ?何だてめえは!」
「……嫌々ながら女の子を助けさせられた、可哀想な男だよ」

 女の子を抱えたまま、男たちに目をやる―――

「……あれ?てめえどこかで見たような……?」
「はあ?何寝言を言って―――」
「おい……お前、まさか……!」

 ―――あ、もしかして。

「……この前ランゼに絡んでたやつらか?」
「ひっ、ヤバイ!こいつはヤバイ!おめえら、ずらかるぞ!」
「あ、兄貴?!」

 ……この町のワルって、あいつらしかいないのかな?

「発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く