発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

9話

「ええー?!イツキって『能力持ち』だったの?!」
「あー大声出すんじゃねえよ……」

 『無限魔力』って能力だったのか……そりゃそうか、ヘルアーシャも『だから君に『無限魔力』っていう能力も授けてあげる!』って言ってたし。

「……『無限魔力』……初めて聞きました」
「ふむ……不思議な能力を持っているのだな」
「はあ……まあ、そうですね」

 ……なんだろう、誉められてるのに素直に喜べない。
 だってこの能力、俺が自力で獲得した能力じゃなくて、ヘルアーシャに授けてもらった能力だし。

「そういえば、イツキさんは何属性の魔法が使えるのですか?」
「……言わなきゃダメ?」
「言いたくない理由でもあるのですか?」

 別にないけど……

「……『光魔法』……」
「「『光魔法』?!」」

 あちゃー、やっぱりこういう反応するか。

「そんな……『特殊魔法』を使える人が、ここに2人も……?!」
「ふ、む……驚いたな……先ほど使っていた『クイック』という魔法は『光魔法』だったのか?」
「はい、そうです」

 シャルとグローリアスさんが、驚いたように俺とランゼを見る。

「……俺が『光魔法』を使えるってのは、秘密にしといてくださいね?」
「それは構わんが……なぜだ?」
「俺、目立つのってあんまり好きじゃなくて……」

 事実だ。俺は極力目立ちたくない。

「ん……うう……」
「お……起きたか、気分はどうだ?」
「え、もう大丈夫……ここは?」
「王宮」
「王宮……?」

 腕の中で寝ていた女の子をゆっくり下ろす。

「え、と……君が僕を助けてくれたんだよね?」
「あー……まあそんな感じだ」
「あ、ありがとう……僕は『ストレア』、額の角を見ての通り『鬼族』だよ!……よろしくね!」
「ああ、俺はイツキだ」
「さっき聞いたよ?」

 あれ?そうだっけな?

「私はランゼよ!よろしくねストレア!」
「うん!よろしくね!」

 ……ストレアは女の子だよな?
 だって一人称が『僕』だし……まな板どころか、絶壁だし。

「その……何で僕は王宮に?」
「ついでに連れてきた」
「つ、ついで?!」

 ……そういや、何でストレアはヴァーゴと戦っていたんだろうな?

「ふむ……君はなぜ『ゾディアック』と戦っていたのだ?」

 おっとグローリアスさん、俺が聞きたかったことを聞いてくれますね。

「……僕が暮らしていた『鬼国 ヒューラゴン』……いえ、『鬼国』の国王『リヴァイス』様が治めていた国は……全て、あの『乙女座』に滅ぼされました」

 ……………ええ?

「ど、どういうことだ?そのような情報は、『アンバーラ』には届いていないぞ?」
「……滅ぼされたのは4日前のことで……」
「そうか……『鬼国』に遣いを送ったのは、1週間前が最後だったな」

 うっわー……重い話だな。

「ちょうど僕はクエストに行っていて、被害を受けてなかったんですけど……他のみんなは、あの『乙女座』にヤられてしまって……」
「……そうだったのか」
「みんなの仇を討とうと、1人で『鬼国』を出て、『乙女座』を見つけた。ここまではよかったんですけど……力の差がありすぎました」

 ストレアが悲しそうに目を伏せる。

「『ああ、こんなところで終わるんだな』って思っていたら、イツキが助けてくれたんです」
「ふむ……さすがだなイツキ君」
「……たまたまですよ」

 実際、ランゼが俺を叩いていなかったら、ヴァーゴと戦うつもりはなかったし……結果オーライか。

「……イツキ君、『乙女座』を単独で撃退した礼をしたい、何か望むものはあるか?」
「望むもの……ですか?」

 特にないんだけどな……服も買ったし、宿も確保したし。

「んー……特にないですね、強いて言うならお金が欲しいです」
「イツキって欲望に忠実よね」
「何言ってんだよ、金はほしいだろ」

 俺は間違っていない……はずだ。

「ふむ、それは別に構わんが……本当に金でいいのか?」
「……他に何かあるんですか?」
「そうだな……町の北部に、私の使っていた別荘があるのだが―――」
「あ、それがいいです」
「即答するんじゃないわよ!」

 ランゼが頭を叩く、いてえよ。

「ばか野郎、俺にはちゃんと考えがあるんだよ」
「……どんな?」
「えっと……ほ、ほら、ストレアは住む場所がないだろ?」
「う、うん、そうだけど……」
「だから別荘を貰って、そこで暮らす……って考えてんだよ」

 即興で考えたが、なかなか上出来な理由ではないだろうか?

「……それって、僕と一緒に暮らすってこと?」
「ああ……何なら、ランゼも一緒に暮らすか?」
「わ、私も?」

 俺の言葉を聞いたランゼとストレアが、顔を紅く染める。
 ……ん?ちょっと待て……今の発言って、軽くセクハラじゃねえか?

「……まあ特に深い理由はねえから、あんまり気にすんな」
「そ、そうよね!……そうよね……」

 ……なんでランゼは落ち込んでんだ?

「ふむ……それでは別荘の鍵を渡そう」
「あ、ありがとうございます」
「それと……話があるのだが、いいだろうか?」
「え?」

 話って……なに?

「……その、話ってなんです?」
「……そうだな……こちらに来てくれないか?」

 ここで話せない内容なのか……?

「……わかりました、ランゼとストレアはここで待っててくれ」
「わかったわ」
「わかったよ!」

――――――――――――――――――――――――――――――

「座ってくれ」
「は、はあ……」

 ……なん、だろう……何やら不穏な部屋だ。
 室内は暗く閉めきられており、俺の座る椅子は何やら機械仕掛けで―――

「……シャル」
「はい!」

 ―――そんな部屋の中に、俺とグローリアスさん、あとなぜかシャルの3人が座っている。

「うむ……それでは話を―――イツキ君?」
「あ、はい、何でしょう?」

 ……なんでこんな物騒な部屋に連れてこられたんだろうか。

「……単刀直入に問おう……君は、どこから来たのだね?」
「……………え?」
「ずっと気になっていたのだ……私の治める『人国 アンバーラ』、『ベニアルマ』『テルマ』『シュリーカ』……そして『騎士王』が治める『騎士国 ファフニール』『ゲムゾレア』『セシル』……『人族』が暮らす国は、この7国だ……君はどの国から来た?」
「えっ、いや、えっと、その……え?」

 なんだその質問、予想外すぎるわ。

「……もっ、黙秘します」

 次の瞬間『ピッ』という機械音が聞こえ―――

「―――ぬおっ?!」

 ―――突如、俺の腕が拘束された。

「な、なんだこりゃ?!」
「えへへ……正直に言うまで解放しませんよぉ……?」

 え、何シャル怖い。

「……すまない、シャルは……その……」
「あー……言わなくてもいいです、わかりました」

 こいつヤンデレだわ。

「……色々聞きたいんですけど……この椅子って?」
「うむ……『他国者尋問用拘束椅子』という『魔道具』だ」
「ろくな『魔道具』じゃねえな」

 ……この腕を拘束してる物って、何でできてんだろうな。

「……それで、俺を拘束して、何をしようってのです?」
「正直に言うまでぇ、拷問を―――」
「ごめんなさい、正直に話しますから」
「早いな」

 いや待てグローリアスさん、シャルの手に持ってる物を見てよ。よくわからない液体持ってるよ?何あれ怖いんだけど?

「……俺は……そう、『騎士国 ファフニール』から来まし―――」
『ヴーン』
「―――え?」
「……嘘、ですねぇ……それじゃあこの超強力媚薬をイツキさんに―――」
「待ってくださいごめんなさい。もう1回、もう1回チャンスをください!」

 この『魔道具』嘘見抜けんの?!聞いてないんだけど?!てかシャル何て言った?!

「良いですよねぇ、お父様?」
「う、む……そう、だな」

 グローリアスさん若干引いてるよ?

「わかったタイム!ちょっと待って!話をしよう!」
「最初から正直に言わない、イツキさんが悪いんですからねぇ……」

 ヤバイヤバイヤバイ、シャルがヤバイ。

「ふぃっ、『フィスト』!」

 腕力を上げ、腕を拘束している物を―――

「ふんっ!ぬっ!いや固すぎだろ?!」

 ―――壊せなかった。

「……その『魔道具』に座った者は、魔法が使えなくなるのだ……」
「最初から言ってくださいよ」
「……イツキさぁん?今何をしようとしたんですかぁ?」
「ごめんなさい!調子乗りました!許してください!」

 これは完全にしくじった。
 ……いや、逆に考えるんだ。シャルが飲まそうとしているのは媚薬……シャルほど可愛い女の子になら、俺の貞操を差し上げても……いや無理だ。

「お、落ち着けシャル!お互いにこういう形で初めてを失うのは良くないと思うんだ!」
「えへへ……もう遅いですよぉ?」

 シャルが俺に媚薬を―――

「に、日本!日本から来た!」

 ―――『魔道具』は反応しない。

「……今、なんと言った?」
「日本です!正直に言ったから解放してください!」
「「……にほん?」」

 グローリアスさんだけでなく、ヤンデレスイッチが入っていたシャルも首を傾げる。

「そのにほん……とは、どこかね?」
「えっ、それは……」
「……シャル」
「はい!」
「いや待てグローリアスさん、シャルを使うのは反則だろ!」

 ……はあ……もう正直に言うか。

「……日本ってのは、ここではない世界……異世界のことです」
「異世界……ということは、まさかイツキ君が……?!」
「……はい……その、一応勇者ってことにはなってます」

 グローリアスさんの表情が驚きに変わり、シャルは尊敬の眼差しで俺を見る。

「ゆ、勇者か……それなら、イツキ君が『魔王』を討ち取るということか?」
「いや、それはちょっと」

 俺の返答に、2人の表情が凍りついた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品