発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

8話

「いくぜおらぁあ!」
「『アイスブレード』」

 周囲に浮かび上がる氷の剣を、機関銃で粉砕する。

「……威力は低いが手数が多い……といった感じでしょうか?」
「おいおい……今のだけで機関銃の性能を見抜いたのかよ」
「戦いでは、常に観察することを意識しているので」
「立派な意識だな、これからもがんばってくれ」

 そんなふざけ文句を混じらせ、機関銃を構える。
 というか、どこかでふざけないと俺の精神が持たないのだ。

「あと試してないのは『肆式 狙撃銃スナイパーライフル』と『伍式 対物銃アンチマテリアル』……」
「今度は何を言ってるのです?」
「お前をぶっ殺すための作戦を立ててんだよ」
「物騒ですね」

 狙撃銃は遠距離でしか使えない……この戦闘では使えないだろう。
 対物銃に関しては名前すら聞いたことがない、一体どんな性能かも予想できない。

「片手銃と散弾銃、機関銃でどうにかしないと……!」
「『ネオ・アイスインパクト』!」
「『フィスト』!」

 『魔力』を込め、氷の塊を粉砕。

「その魔法は危険ですね……」
「あー……もうちょい『魔力』を少なくしても良さそうだな」
「……あなた、本当に何者ですか?勇者候補と言ってましたが、本当に勇者なのでは?」
「お前がそう思うんなら、そうなんだろうな」
「なんでそんなに適当なんですか」

 んー、適当に言ってるつもりはないんだけどな。

「―――そこまでだ!」

 ―――突如、第三者の声が聞こえた。
 この声には、聞き覚えが―――

「……グローリアス、さん?」
「む……まさかイツキ君か?」

 ―――背後を振り返り、若い男性の姿を確認する。
 間違いない、グローリアスさんだ。その隣には騎士たちの姿が見える。

「ふむ……ここは退くとしましょうか、あなたと1対1ならともかく、そこに騎士が入っては多勢に無勢ですからね」
「それなら最初っから退いとけやロリっ子が」
「それ不愉快なのでやめてもらえます?」

 ヴァーゴがこちらを睨み、走り去って行った。

「総員、やつを逃がすな!」
「「「「「「おおっ!」」」」」」

 騎士隊長のような男が、騎士たちを連れてヴァーゴを追いかけようと―――

「いや……やめておいた方がいい」
「何だと……?貴様、誰に向かって口を利いている?」

 おいおい、人の忠告になんて返し方しやがる。

「無駄死にしようとしてる、あんたらに言ってんだ」
「貴様……騎士に向かって、なんて口を―――」
「いや……『レテリウス』、イツキ君の言う通りだ。今日はもう引き上げるぞ」

 グローリアスさんが騎士隊長の肩を掴む。

「ぐ、グローリアス様、しかしこの者は―――」
「ならば問おう、レテリウス……お前にドラゴンが撃退できるか?」
「それは不可能ですが……」
「このイツキ君は、先日ドラゴンを撃退した……それも単独でだ、その者の忠告を無視すると?」

 騎士隊長があり得ないものを見るように俺を見る。

「……グローリアス様がそうおっしゃるのであれば」
「うむ……すまないなイツキ君、レテリウスは昔から融通が利かなくてな」
「いえ、気にしてないですから……『形態変化』『壱式 片手銃ハンドガン』」

 『魔導銃』を懐に入れ―――ランゼはどこに行ったんだろ。

「グローリアス様!」
「どうした?」
「そこの建物の陰に、女の子が2人いるのですが」
「女の子が……?そうか、その者たちを連れてきてくれ」

 女の子2人って……まさかランゼと角の女の子か?

「イツキ!大丈夫だったの?!」
「おー大丈夫だ……あの女の子は?」
「騎士に診てもらってるわ……怪我はない?」
「あたぼーよ」
「……あ、あたぼーよ?」

 ランゼが首を傾げる。

「まあ深く考えんな……それより、あの女の子連れてくぞ」
「連れていくって……どこへ?」
「あー?ギルドに決まってんだろ?リオンに頼んで、その子の怪我を治してもらう」

 近くの騎士から、角の女の子を受け取る。

「……き、みは……?」
「あ?俺はイツキだ……てか喋んな。寝とけ」
「あ、うん……」

 ……女の子、だよな?
 なんか……絶壁かと思うほど胸が……その……

「グローリアスさん、失礼しますね」
「ちょっと待ってくれ」

 『クイック』を使おうとして、グローリアスさんに呼び止められる。

「『乙女座』を撃退してくれた礼をしたい、その子の治療が終わったら、王宮に来てくれないか?」
「あ……はい、わかりました―――『クイック』」
「ち、ちょっと!『クイック』使ったら、私が追いつけないじゃない!」
「知らん」

 一刻も早く、治療してもらわないと―――

「―――えいっ!」
「んおっ、何してんだよ?」
「……置いていくなら、しがみついてやるんだから」
「わけわからん」

 腕には女の子、背中にはランゼ。どういう状況だよ。

「んじゃ―――行くぞ!」
「は、速?!」

――――――――――――――――――――――――――――――

「おい、リオンはいるか?」

 乱暴にギルドの扉を開け、問いかける。

「気分悪……」

 ランゼが気分悪そうにしながら中に入る。
 まあ俺は車でも何でもないし、しがみついてりゃ酔うわな。

「あ、あなたは……!」
「おうリオン、早速で悪いんだが―――」
「どうしましょう!『ゾディアック』が町の南部に……!」
「あー、そいつならもう撃退したから大丈夫だ……」
「……へっ?」

 ……なるほど、やけにギルド内が静かだと思ったら『ゾディアック』にびびってたのか。

「まあ、んなことどうだっていいんだよ……それより『回復魔法』を使ってくれ」
「え……あ、わかりました!『エクス・ヒール』!」

 淡い光が女の子を包み、傷を癒していく。

「……ひとまず、これで安心か」
「あ、あの……『ゾディアック』……『乙女座』を撃退したのいうのは……?」
「ああ、ついさっきだけどな」

 女の子を椅子に寝かせ、適当に置いてある椅子に座る。

「す、スゴいです!スゴすぎです!」
「あー大声を出すな……」
「……そういえば、あなたのお名前は何と言うのですか?」
「……自己紹介してなかったっけ?俺はイツキだ」
「イツキさん、ですね……私はリオンです!」

 知ってる。

「……そういや、話があるって言ってなかったか?」
「あ、そ、そうでした」

 ……告白?告白か?!

「……『ドラゴンの討伐』……手伝ってはくれないでしょうか?」
「……………あ?」

 予想の斜め上の返答に、間抜けな声変わり出てしまった。

「先日から『アトラスの獄山』にドラゴンの姿が確認され始めまして……そこで、イツキさんの力を借りたいと思っております」
「嫌だ」
「ありがと―――え?!」
「いや、嫌だって言ってんの」

 まさか断られると思っていなかったのか、リオンの表情が固まったまま、ポカンと俺を見つめている。

「お、お願いします!他に頼れる人がいないんです!このクエストをクリアしてもらわないと、今月のボーナスが出ないんです!」
「知らんわ」

 何だよ……そんな事だったのか。

「それじゃあ、俺たちグローリアスさんに呼ばれてるからこれで失礼するわ……『回復魔法』、サンキューな」
「え、あ、え?」
「行くぞランゼ」
「え?いいの?」

 我ながら最低だ……けど、わざわざ身の危険を冒してまで手伝ってやる義理もない。

「よ、しょ……こいつ、ずっと寝っぱなしだな」
「い、イツキ……」
「んだよ……俺は『乙女座』と戦って疲れてんだよ」

 女の子を抱え、ギルドの外に出る。

「……にしても、ドラゴンか」

 ……この前撃退したドラゴン……かな?

「イツキ!待ってよ!」
「あー早くしろ……今から王宮に行くんだからよ」
「え?私も一緒に行くの?」
「じゃあ俺1人で行って―――」
「付いていくわ」

 なんだこいつ。

――――――――――――――――――――――――――――――

「イツキさん!お久しぶりです!」
「おおシャル……久しぶりだな」

 女の子を抱えたまま王宮の会議室に入る。

「うむ……早かったな」
「まあギルドに報告して来ただけですしね」

 ……今回はエリザベスさんはいないみたいだな。

「……その方は?」
「あー……こいつはランゼ、やたら『破滅魔法』を撃ちたがるバカだ」
「ちょっと!」

 俺の背中をランゼがバシバシ叩いてくる。

「『破滅魔法』ですか?!使える人がいたなんて……!」
「……そんなにスゴいのか?」
「少なくとも、私は『破滅魔法』を使える人に初めて会いました!」

 マジかよ、ランゼってスゴいのか?

「ランゼさん……ちょっとよろしいですか?」
「な、なに……でしょう?」

 うん、敬語使えてないよ?

「ふふ、慣れない敬語は使われなくて結構ですよ」
「そ、そう?なら普通にさせてもらうわ……それで、どうしたの?」
「ちょっとお顔、失礼します」
「え―――?」

 眼帯を外し、シャルの『魔眼』がランゼを映す。

「……………」
「え……と?」
「……『無能力』……ですね」
「『無能力』……?」

 シャルが意味深なことを呟く。

「いえ、てっきり『特殊魔法』が使えるのは、何か能力が関係してるのかと思いまして……」
「待て待て、シャルは能力があるかないかがわかるのか?」
「はい!それが私の『魔眼』の能力なんで!」

 『魔眼』の能力って?

「シャルの『魔眼』は『鑑定の魔眼』……『意識を集中させると、視界にいる者の能力がわかる』というものなのだ」
「へえ……便利ですね」
「イツキさんも見てあげます!」

 そう言って俺の方を向き―――

「能力名……『無限魔力』……?」
「え?」

 それって能力だったのか。

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