昔話のその後のはなし

ただのねこ

1.

その日は、雪が積もっていた。
彼は、買い物へ行っていた。
その帰りに、耳にしたこと。
“鬼が、人の中に紛れているらしい”
そんな、下らないウワサ。
彼は気にもせず、家に向かった。
彼の母が、家にいた。
「あ、おかえり」
「ただいま。買ってきたよ」
はい。
と言って、彼は自分の母に、買い物袋をわたした。
そして、彼は言った。
「そういえば、変な噂流れてたよ」
「あー。鬼が紛れてるっていう」
上から、声がした。
彼の姉だ。
彼の姉は言いながら、階段を降りてきた。
彼の母が言った。
「鬼がいるなら、退治するのは、私たちだね」
最初にも書いたように、彼の家の先祖は、桃太郎だ。
鬼ヶ島の鬼を退治したあの。
彼は言った。
「僕は、誰も殺したくないよ」
姉が言った。
「あんたは、殺したくないんじゃなくて、殺せないんでしょ」
黙り込んだ彼に、母は言った。
「電話かかってきたよ」
彼はそれだけで、分かったようだ。
彼女だ。
「じゃあ、僕行ってくるよ」
「行ってらっしゃい」
母はそう言った。
彼は、彼女の元へ向かった。
彼女と彼は、幼馴染。
長い付き合いだから、仲もよかった。
彼女のことなら、彼は誰よりも知っていた。
けれど、彼女は孤児院の出身だった。
だから、どこの出身で。
親が誰で。
本当の名前がなにか。
ある意味で、彼女の事を知ってる人は、いなかった。
彼女も、彼の家に向かっていたようだ。
道の途中、彼女が視界に入った。
彼女も、彼に気づいたようだ。
お互いに、手を振った。
この幸せな時間は、長くは続かなかったのだ。
近くに悪ガキが、いたのだ。
悪ガキは、彼女の被っていた帽子を、掴んで投げた。
彼女の帽子が、宙を舞った。
そして、帽子の下から。
2本の角が、姿を現した。
彼はは仰天したが、帽子を拾うと、急いで彼女に被せた。
彼女の角を見たのは、悪ガキ1人。
だが残念なことに、この悪ガキは、歩く拡声器だ。
すぐに、言いふらしてしまう。
彼は、悪ガキを捕まえようとした。
だが、逃げられてしまった。
この後のことは、容易に想像出来た。
彼の家の誰かが、彼女を殺しにくると。
彼は決意した。
逃げようと。
彼女を連れて。
彼は、彼女の手を掴むと、彼女の家へ向かった。

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