うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。

古森きり【Twitter@2kag5fb1】

ラスティ・ハワード登場!



「…………」

と、まあ、あのあとハミュエラに無事回収されたアルトは赤い顔で引きずられてきた。
泣いたせいで目元は明日晴れそうなほどに赤い。
濡れタオル用意しておいてよかった。

「はい、これで目を冷やしてください。冷やさないと腫れますよ」
「あ、ありがとう……」

ツンデレが素直にお礼を……。
デレた? デレた?

「……ところで、寮に帰るのではなく北区にあるダモンズの別邸に行かないか?」
「? どういうことですか?」

お茶しよう、とハミュエラには言ってあったが場所をハミュエラんちの別邸?
……そしてお茶会そのものには反対しないのかアルト。
アップルパイが功をそうしたか?

「……ラスティが1人でダモンズ邸にいるんだ」
「ああ、おじさまおばさまご一行、みーんなうちの別邸に泊まったらしいねー」

…………さすが親戚……。
ダモンズ家の使用人一同に同情を禁じ得ない…。

「ああ、うちの父だけ自分の屋敷に戻ったそうなんだが……」
「成る程火に油ですね」
「それで今日のあの状況なのかー」

……昨日ダモンズ邸でお説教食らってれば城に来てまで怒られなくて済んだのに……フェフトリー公…。
アルトとハミュエラ、ライナス様も夕飯は食べに行ったらしい。
しかし一応、外泊の許可は取っていなかったので寮に帰ってきたと。
まあ、別に一緒に寝たいとかほざく歳でもないしな。

「ラスティは来年からアミューリアだ。このままハワードの別邸で入学までの半年過ごす事になるらしい。今日は町で必要なものの買い出しに行くつもりと言っていたが……多分まだダモンズ邸の書庫漁りをしていると思う」
「あー、ラスティは一回書庫に入ると動かないもんねー! アルトと同じで!」
「うるさい」

……ラスティ、ハワード……。
追加攻略対象のうちの1人。
戦巫女の後輩キャラで、サウス区公爵家の嫡男。
趣味は考古学や骨董品などの古い系。
人当たりの良い性格だが趣味の合う人間に巡り会えず、友達の出来ないちょっと残念な子。
俺の知る限りだと町で買い出し中に骨董品店で出会い、この国の歴史について熱く語るラスティと仲良くなって〜……な、ストーリーだったな。
ただ、アップデートで追加ストーリーになってる場合俺の知るところではなくなる。
……探りを入れておく方がいいな。

「成る程、それはいいですね。うちのマーシャと同い歳のはずですから来年は同級生……是非ご挨拶をしておきたいです」
「そういえばあのメイドっぽい娘も来年入学なんだっけー!」
「……っぽいって言わないでやってください、結構気にしてました……」

ハミュエラに『メイドっぽい』と評されてから最近早起きやら料理やら頑張ってるんだ。
良いことなのだが料理に関しては両手が血まみれになっているので、いつか指の一本や二本切り落とさないか心配でならない。
追加で『メイドっぽい』なんて言われたらほんとに切り落としそうで怖いんだよ。

「今日から同盟締結日まではオレたちも公爵家の者として父たちを手伝わねばならない。買い物に付き合うとしてもその後になるだろう。まあ、半年以上あるし、急いで全て揃える必要はないと思うが……」
「? アルト、ラスティの買い物付き合ってあげるの? やさしー!」
「 ︎ ち、ちが! 別に! ひ、暇だからだ! や、休みの日、ほ、ほほほ本を読むしかないし、じゃ、なくて、えーと! よ、読みたい本がなくなったからオレも買いに行こうと思っていてそのついでに!」
「うんうん、俺っちも行こうかなー」
「………………」

良かった、いつもの調子が戻ってきたっぽい。

「ではうちのお嬢様に断って参りますね」
「わーい! 執事のオニーサマのお茶とお菓子〜」

と、言うわけでお嬢様に言いに行ったら「ラスティ様に会うのならわたくしも参ります」とキリッとした表情で言われた。
あ、そうか……ラスティだけは次期王妃候補抗争のこと知らないんだ。
こ、これは! お嬢様の破滅エンド回避のことしか考えていなかったけどお嬢様がラスティに先に接触できれば優位性はますますアップするのではないか ︎
さすが俺! 出来る男!

「でも女がわたくし1人というのはまずいわね……」

と手を頰に添える。
あ、確かに……。
公爵家子息ども、今のところ全員婚約者なし状態……。
そこにお嬢様がお1人ってのは、まずいか。
ええ、どうしよう?

「マーシャは連れてきていないんですよね?」
「ええ、舞踏会以外でお城に来るのは禁止されているでしょう?」
「……そうでしたね……」

……理由はお嬢様のお茶会を参照してくれ。
あまり思い出したくない。

「一度寮に戻ってヘンリエッタ様をお誘いしてこようかしら……。確か今日もケリーとダンスの練習をすると言っていたから学園の方かもしれないわね」
「まあ、ローナ様……抜け駆けですの?」
「! ……アリエナ様」

お上品なピンクのワンピースを着たご令嬢。
あー、オークランド家のアリエナ嬢……彼女も来ていたのか。
四方の公爵家が来ているのだから居てもおかしくはない。
というか、彼女にとっても四方公爵家が揃うこの場は恰好のアピールチャンス。
それでなくとも彼女の方が不利だものな。
ライナス様やスティーブン様を取られた手前親世代の公爵家現当主たちを味方に付けたいのは、無理もないか。

「ラスティ様にご挨拶に行くのならわたくしもご一緒してよろしいかしら?」
「わたくしは構いませんわ。1人で行くわけにいきませんでしたから、むしろ助かります」
「まあ、では一緒にご挨拶に参りましょう」
「ええ、よろしくお願いしますわ」

お嬢様大人の対応過ぎる。
向こうからはひしひしとした敵意。
だ、大丈夫かなぁ、これ……。









********




「は、初めまして、ラスティ・ハワードと申します」
「初めまして、アリエナ・オークランドですわ」
「お久しぶりです、ローナ・リースです」
「あ、ライナス兄様と一緒に居た方ですよね! 覚えております! お久しぶりです!」
「…………」

ギン!
と、あからさまにうちのお嬢様を睨むアリエナ嬢。
いや、あの、アリエナ嬢よ……結構バレバレですけど大丈夫ですかそれ、淑女的な意味で。

「ではお茶をお持ちしますね」
「ええ、お願いね」

ダモンズ邸の使用人の方々が「自分たちが」と困惑気味に手を挙げるが邪魔しないでもらおう。
笑顔で俺は「久しぶりにうちのお嬢様にご奉仕できるので邪魔しないでください」と口を滑らせてしまった。
つ、ついうっかり心の声…副音声にすべきところが口から出てしまったぜ。
まあ、それでも何かを察した公爵家の使用人たちは苦笑いで身を引いてくれる。
ありがとう、さすが公爵家の使用人の皆様。
即座にお茶の準備、約束のアップルパイの切り分け、お皿、フォーク、その他諸々!
優雅に、華麗に!
ああ、幸せだ〜! お嬢様にお茶と手作りお菓子をお出し出来る、この幸せ!
は? 別に学園でもお弁当やお茶やお菓子は作っていってるだろう? だと?
どこの俺だそんなことを言うのは!
確かに毎日お嬢様のお食事は作るさ!
お弁当や、ティータイムのお菓子も作ってお持ちする!
しかし、アップルパイは初めてなんだ!
リース家でもリンゴは作ってるけど、リース家のリンゴで俺はアップルパイを作らせてもらえない。
何故なら家にはローエンスさんとリース家専属シェフがいるから!
あと俺、あの頃まだ料理修行中だったし!
王都ではリンゴがイースト区特産品ということで結構手に入りづらいし!
俺が! お嬢様に! アップルパイを作れるのは初めて!

「お嬢様! アップルパイです! 初めてではありませんがお嬢様にアップルパイを食べていただくのは初めてですね!」
「あら? そうだったかしら? …それでテンションが高いの?」
「それはもう、お嬢様にこうして執事としてご奉仕出来る機会は学園に通っていますと限られますから!」
「…ええと、申し訳ありません、うちの執事が…」
「い・い・え?」

…………アリエナ嬢、瞳孔開いてるけど大丈夫?
怖いよ?

「アップルパイ…」

……そしてアルトのテンションが人知れずに上がっている!
冷やしたとはいえまだどことなく赤かった目元は違う意味でほんのり赤くなっているような?
目がキラキラしてるぞ、どんだけ好きなんだあいつ。

「…………」
「…………」

その上、その左右隣でハミュエラとラスティが微笑ましそ〜にアルトを眺めるこのカオス。
……親戚同士は仲がいいんだな、本当。
ここの3人の周りには小さなお花がほわほわ飛んでいるように見える。

「……あれ? そ、そういえばハミュエラ兄さんが普通に座っている…… ︎」
「ほっわーい? どーゆー意味ー? 俺っちも普通に座ることくらい出来るよ?」
「あ、でも動きのウザさは通常だ……」

座ってはいるけどラスティに対して左手を伸ばし指差しつつ、ピースで右目を覆う。
確かに安定の動きのウザさ。
あれだろう、ハミュエラが騒がず普通に座っているのが驚きなのだろう。

……………………。

「確かに ︎」
「時差酷くありませーん? 執事のオニーサマ?」
「お前何か悪いものでも食べたのか ︎」
「アルトまでひどーい ︎ っていうかお茶会くらい普通に飲み食いするよねぇ〜? 俺っちお茶会はたくさん参加するもーん」

そういえばそうだったな!

「お茶会か……え、ええと……」

対するアルトはお茶会慣れしていないんだよな。
お茶会、と自覚するなり俯いてしまう。
俺は壁に下がって、によによとこのカオスなお茶会を眺めさせていただこう。
もちろん、お嬢様にご奉仕出来るチャンスを虎視眈々狙って……!

「あ! そういえばローナオネーサマはこの間お誕生日でしたっけ? 行けなくってごめんなさい! あれはアルトのせいでーす。お茶会おめでとうございましたー?」
「なっ!」

不本意、とばかりのアルトの表情。
あの時はアルトも体調を崩していた。
アルトのせいというか……でもハミュエラが来なかったのは自己責任では?

「ありがとうございます。でもわたくしの誕生日は来月ですわ」
「おっとこりゃしっけーい! 来月ですねー! 夜会とか開催するなら今度はちゃーんとお邪魔しまーす!」
「え? あ、ありがとうございます? 元々ご招待する予定でしたけれど、あの……」
「あ、あの、ハミュエラ様、アルト様、ラスティ様、わたくしももうすぐ誕生日ですの。誕生日パーティーには来ていただけますか?」
「はーい、もちろん行きますよー! いつですか?」
「11月27日です。学園のダンスホールで行う予定ですの」

……う、うおおおぉい、ハミュエラー!
ノリがかるーい!
アルトが「マジかこいつ」って顔して見てるぞお前ー!
アルトのその「マジかこいつ」の表情にラスティが「あ、ハミュエラ兄さんまたなにか変な事言ってるんだ……」みたいな察した表情してるし……。

「え、ええと、お、お二方も学園に通っておられるんですよね? 学年はライナス兄様と同じなのでしょうか?」
「はい、わたくしは同じクラスですわ」
「…………」

この発言もまた癪に触ったのか、アリエナ嬢が凄い笑顔でお嬢様を見た。
……ど、どうしたんだ?
ラスティがビクッと肩を跳ねる不気味な笑顔……その顔はマズイぜ、アリエナ嬢……。

「わたくしは……クラスは違いますが、先日の『王誕祭』ではお話しさせていただいたりダンスも踊っていただきましたわ。誠実でとても素敵な方ですわよね」
「そうですわね、授業だけでなく、何事にも真摯に挑まれて真面目で誠実で、それに大変にお優しい方ですわ。先日もわたくしとスティーブン様が作ったクッキーをそれはもう美味しい美味しいと褒めてくださいました」
「ま、まあ〜っ!」

ア、アリエナ嬢、顔! 顔ヤバイよ ︎
何がそんなに癇に障ったの ︎
ラスティとアルトが完全にビビって固まってるよ!

「……? あ、あの……お、お二方はよくお茶会にはご同席されるのですか?」

訳……お2人は友達ですか?
ラスティが様子のおかしさに探りを入れてきた。
まあ、これはそうなるだろう。
アリエナ嬢が顔芸人ばりにあからさますぎる。
うちのお嬢様の働かない表情筋にその見事な職人芸を伝授してもらいたいくらいだ!
なんかG◯O思い出すわ、あの顔芸。
あれ無自覚でやってるんだとしたらすごすぎる……!

「入学前に何度かは……」
「そうですわね、何度か」

訳……大して仲良くはありません。
……ラスティの表情が絶望感に満ちておる……。
小声で「ソウナンデスカ……」と返答して、やや震えながらティーカップを持ち上げた。
し、心中お察しします……。

「と、ところでスティーブン様というのは、リセッタ侯爵様のご子息ですよね? お料理を嗜まれるのですか?」
「…………そういえば“ご子息”でしたわね」
「そ、そういえば……」
「え? ? ど、え?」

お嬢様とアルトの呟きに、お嬢様とアルトを交互に見るラスティ。
……な、なんかラスティ……可哀想になってきた……。
こいつ入学したらライナス様と変貌したスティーブン様の“あの”仲睦まじい姿を見ることになるんだな。
アルト、目を逸らさず顔を背けず今のうちに教えておいてやれ!
入学後に度肝を抜かれることになるぞ!

「あ! 話は変わりますが今日は晩餐会、明日は亜人の皆さんと懇親会があるらしーですね!」
「そのようですわね」

ハミュエラー!
この流れでラスティがスティーブン様のことを知るチャンスを潰すとか鬼かー ︎
っていうかそういえばそうじゃん!
今晩、晩餐会があるんだ!
国王と公爵家が一緒にテーブルを囲む超ヤバな晩餐会。
その晩餐会の開かれる二階から、見下ろすようにあるダンスホールでアミューリアの生徒が舞踏会を楽しむ……割とハードな晩餐会が!
で、明日は亜人族との懇親会会場として使われる。
明後日はいよいよ『同盟締結日』……その前夜祭だな。
お嬢様がハミュエラに相槌を打つと、アリエナ嬢が不満そうに唇を噛む。

「嫌ですわよね! 『耳付き』との同盟など! 陛下は何をお考えなのかしら!」
「え?」
「え?」
「は?」
「え……」
「……え? え?」

……うわあ。
お嬢様とハミュエラが珍しく「こいつ何言ってんの」という表情と声を漏らす。
アルトに至っては亜人に興味津々だったのでお嬢様たちとは別な意味で「こいつ何言ってんの」という表情。
ラスティは唖然、といった感じだ。
4人の反応が思いもよらなかったのか、アリエナ嬢は困惑気味。
……マジか、この人。
俺と同じように壁で会話を見守っていたダモンズ邸の使用人達すら表情はそのままに「うわ」っという空気。

「……アリエナ様、それは……、……いえ、聞かなかったことにいたします」
「え? な、何故……だって、み、耳付きどもですのよ? 神々に認められてすらいない化け物ではありませんか!」
「おーう、二回目はさすがにやばいですアリエナのオネーサマ……俺っちもそれは差別用語だって知ってますよー」
「それに、陛下が判断されたことへそのような言い方……! 信じられないな! 不敬だ!」
「え、あ、い、いえ! そんなつもりで申したわけではありませんわ! た、ただわたくしは……」
「…………此度の戦争の事はわたくしたちの世代には他人事ではありません。亜人族との同盟は、戦争に勝つためのもの。次期王となられる王族がレオハール様のみとなった今、レオハール様の生存率を上げるためには亜人族の協力が必要不可欠です」

お嬢様……。

「話にならんな! このように何も分かっていない女が殿下の婚約者候補だと? 今のうちに頭の悪い女でも娶ってくれる残念な嫁ぎ先を探した方がいいのではないか? 晩餐会の準備もある! 今日はここまでにさせてもらおう。不快だ!」
「ア、アルト兄様……」

……アルト、アップルパイ食べ終わったからってさっさと帰ろうとし過ぎじゃないか?
いや、俺もお嬢様も確かに準備がある。
帰るにはいい時間だな。

「ねえ、ラスティ」
「え? な、なんですかハミュエラ兄さん」
「なんでライナスにいにとアルトは兄様なのに俺っちは兄さんなの?」
「今それを聞きますか ︎」

……さすがだ、ハミュエラ……。





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