うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。

古森きり【Twitter@2kag5fb1】

番外編【マーシャ】9



ヤバイさヤバイさ!
メグに起こしてもらって寝坊はしなかったけど、髪が絡まって解けねーよ ︎
早くしねーと、準備に間に合わねーよ ︎

「マーシャ? まだ? あたし先に行っちゃうよ?」
「う、うん! 後から追いかけるよ!」
「そう? ……あ、切ったらお嬢様に怒られるからね?」
「うっ」

あんまりにも解けねーから、切っちゃおうかなぁと思ったのにメグに釘を刺されてしまう。
……今日はお嬢様主催のお茶会なんさ。
お客様がたーっくさん来る予定らしくて、わたしも目一杯メイドとしての実力をふるうチャンス!
な、なのに〜! なんでこんな日に限って寝癖が絡まってんの〜 ︎

「……む……」

ダメだ、わたしの手先じゃ解けねー。
そんな時、鏡台の引き出しにレオ様が誕生日にくだすったバレッタの髪留め。
ピンクのダイヤが、純銀のフレームに収められたカルミアの花があしらわれたやつ!
……金額は考えるのがおっかねぇ代物だが……。

「し、仕方ない! ケリー様にもお嬢様がバカにされねーように身なりは最高級品で整えて来いって言われたし!」

メイドの身なりでお嬢様の株が上がる! ……とか力説してたもん、今日はこの髪留めで絡まったところをこうやって……ゆる編みにして、誤魔化して……こう、後ろにまとめて……おっし!

「これなら大丈夫、かな?」

いつもより髪の編み込みは緩くなっちまうけど、大丈夫だよね?
エプロンのリボンも曲がってない!
ポケットにはお嬢様から頂いた懐中時計。

「…………」

金のチェーンと、わたしの名前のタグ付き。
……この間、エディン様からもらったやつ。
エディン様……も、今日招待されてるはずだよな……来るんだろか……。

「………んっ…んん!」

頭を振って、もやもやを振り払う。
な、なんであんなやつ!
あいつはお嬢様をずーっと放っておいた極悪非道なナンパすけべ野郎!
気を引き締めるよ!

「よーし! 頑張るべさー!」

拳を振り上げていざ! 会場へ!


「…………………………」


ポケットから手帳を取り出す。
えーと、昨日ケリー様に会場が変わったって言われたんだよな。
ガーデンテラスが一部借りられなかったから、薔薇園の方になるって……。
薔薇園ならガーデンテラスよりも行き方分かりやすいし、むしろ助かったよ〜。
よし、用意されていたサンドイッチを口に詰め込み、出陣だべさ!

「……えーっと……」

宿舎から出て、裏道を通り薔薇園に入る。
薔薇で囲まれた薔薇園は、部屋のように区切られている。
その区切り壁はぜーんぶ薔薇!
赤、ピンク、オレンジ、黄色、白……それに種類も豊富でとっても素敵。
わたしたちがよく使っているのは学園の校舎から一番離れているところ……。
いつものところかな、と思って覗くと誰もいない。
ここじゃなかったのか〜……じゃあどこだろう?
ん? あっちから声がする。

「…………」

こっそりと覗き込む。
なんか、女の人の楽しげな話し声。
準備に追われている気配もない。
案の定、そこには8人ほどのご令嬢がお茶会を楽しんでいた。
間違えたのかな、と来た道を戻ろうとした時…………。

「あ……」
「おぅ… ︎」

お菓子のお代わりを持って来たっぽいメイドと鉢合わせ!
このメイド、前にアンジュを叩いたご令嬢の……オークランド家で働いてるメイドだ!

「マーシャ・セレナード! まさかお嬢様のお茶会を邪魔しに来たの ︎」
「ええ ︎ ち、ちが!」
「なんて奴なの! お嬢様! アリエナお嬢様ー!」
「わあ! ちょっと!」

わたしの顔を見るなりすごい剣幕で叫びながら、わたしをお茶会が行われていた区画へと引っ張り込む。
ご、誤解! すごい誤解!
なのに、彼女の声に気付いたご令嬢たちは一斉に視線をわたしに集中させる。
先程までの楽しげな空気は一気に冷え込んだ。
お菓子をテーブルに置くと、メイドは中央に陣取っていた一際豪華なドレスを着た令嬢に駆け寄る。
茶色の髪に青い瞳のご令嬢は耳打ちされた事に目を吊り上げ、立ち上がった。
あ…あーあ…またこのパターン〜。

「あ、あのう、す、すみません、わたし道に迷って…」
「お黙り! そんな見え透いた嘘に私たちが騙されると思っているの ︎」

ほ、ほんとなのにぃ。

「あ! このメイド、先月エディン様と西区の劇場に居た娘ですわ!」
「本当! …信じられない…! メイドのくせにエディン様と出掛けて…」
「そう、ローナ様のところのメイドだったのね……通りで図々しいわけだわ!」
「あら、今日は庇ってくれるお姉さんメイドは一緒ではないの? おほほ、随分舐められたものね? 敵情視察でも、ローナ様から申せ使ったのかしら? だとしたらお粗末な事ね」
「……い、いやあの……本当にただ道に迷ってしまって……」
「そんな言い訳、この場の誰が信じると思っているのかしら」
「………………」

う、ううう〜!
どうしよう〜、それでなくとも遅刻なのに、これじゃあ準備終わっちまうよ〜……。
また義兄さんにどやされるー!
こうなったら土下座でもして謝って許してもらうさ。

「あの!」

ばしゃ。

「……………………」

冷たい。
なに?

「…………あ……」

さっぱりとした甘い匂い。
ポタポタと髪を伝う赤い液体。
ブドウのジュースだ……服が、赤紫色に染まっていく……ど、どうしよう! これからお嬢様のお茶会なのに!

「調子に乗らないでメイドの分際で。エディン様にお声がけ頂いているからって……あの方が本気でお前みたいなメイドの相手をするわけがないのよ!」
「本当よ。見目が整っているからって、着飾って調子に乗って……。二度とあの方の前に出られないように、その髪切って差し上げましょうか?」
「まあ、それはいい考えだわ。どうせなら耳も切り落としてしまう?」
「やだ、怖いわ。ここにはケーキナイフしかないもの、そんな怖い事出来ませんわよ」
「ちょっと! オークランド侯爵家のご息女、アリエナ様の前でいつまで突っ立っているつもり! 跪いて許しを乞いなさい!」
「っ!」

扇子を持ったご令嬢に膝の後ろを叩かれる。
がくんと地べたに両手と膝をつく形になった。
な、なんだ……結局土下座すれば良かったんか……。
頭を下げて「申し訳ありません」と謝った。
……でも、頭の上からまたなにか液体をかけられる。
今度のは熱い!
こ、紅茶かなぁ ︎

「っ、う」
「! まあ! アリエナ様、ご覧になって! この娘! この髪留め!」
「!」
「純銀とピンクダイヤではない! な、なんて高価な物をこんなメイドが……まさかエディン様が?」
「っ! 生意気な!」
「痛っ!」

ブチブチ、髪が千切れる音。
足で肩を蹴り飛ばされる勢いと、髪留めを髪の毛……絡まってたところごと毟り取られた。
あ、あううう〜……め、めちゃくそ痛ぇさ〜!

「見て下さいなアリエナ様! ほら!」
「まあ……! 本当に純銀とピンクダイヤだわ! ……信じられない……メイドがこんな高価な物を平然とした顔で付けていたなんて……!」
「な、なんて非常識なメイドなのかしら……? 自分を貴族とでも勘違いしているのでは?」
「最っ低ね……似合うと思ってるの? 分不相応という言葉を知らないんだわ」
「エディン様……こんな高価な物をメイド風情に? そんな……信じられない……エディン様!」

…………あの、オレンジっぽい髪のご令嬢……劇場にも居た人っぽいさ。
あの人、エディン様が好き、なんだろか……。
ずーっとエディン様、エディン様って言ってる。

「………………」

あの髪留めをくれたのはレオ様だけんど……わたしはちゃんと断ったよ。
わたしなんかの身分じゃ相応しくないって。
でも、今年はちゃんとお祝いしたいんだよって言われて……。
だから……レオ様のお気持ちが籠ってるものだから……!

「あの、それは大切なものなので……返してください!」
「……まだ、言うの……?」
「……っ!」

……両手で顔を覆っていた、エディン様を好きっぽいご令嬢がゆっくり手を顔から離す。
その目……表情……。
こ、怖い……! この間、アリエナ様に怒られた時とは比べ物になんねぇ……!

「し、信じられない……この娘……エディン様から貰ったのね? 信じられない! エディン様が、こんな娘に……! 嫌よ!」
「ベティア様……? お、落ち着いて……?」
「やっとローナ様から解放されたエディン様……今度こそ私を見てくれると思ったのに……こんな、こんなメイド風情に盗られるなんて許せない……! こんな!」
「ベティア様!」

アリエナ様や、周りのご令嬢もあわあわと慌て出す。
ベティア様って人が手に取ったのは陶器のティーポット。
手袋しててもあっついと思うだけどな ︎
わたしもよく義兄さんに直接手で触ると陶器だからお湯の熱であっつくなってて火傷するから危ないって怒られ…………!


「マーシャ? おーい、どこだー?」

「え、あ、は、はい!」


通路から聞こえてくる声に思わず返事をしてしまう。
あの声は、ケリー様?

「ここ、か? おや?」
「…………あ、あの…あ、おは、おはようございます……?」
「おはよう。なんだ? すっ転んだのか? また随分な格好だな?」
「え……えへへ?」

腰に手を当てたケリー様。
呑気な感じにわたしを見下ろしてから、ゆっくりアリエナ様たちの方を見る。
次第に、その表情は上っ面の笑顔が張り付いた。
……い、いつ見てもこの瞬間はめっちゃ怖ぇーさ……。

「……我が家の駄メイドがなにか失礼でも?」
「いいえ!」

アリエナ様が即答する。
……え、え〜……この状況で?
ケリー様ひでぇさー ︎

「あ、あの、ええと、そ、そう! わた、わたくしたちのお茶会に運ばれてきたジュースを、う、うちのメイドと衝突してしまったらしくて ︎」
「ああ、成る程、それでこのザマでしたか。それは大変ご迷惑をお掛けしまして……。後日お詫びの品をお届け致します」
「い、いいえ、結構ですわ! わ、我が家のメイドも、わ、悪いのです! こ、ここは手打ちということで……」
「そうですか? ……それはまた寛大なご配慮に感謝致します、アリエナ様。さすが、我が義姉とともに次期王妃候補とされる方だ。……立てるかマーシャ」
「は、はい!」

足は別に怪我もしてねーし、立てる!
……あ、でも髪留め……!

「あ、あの、髪留め……」
「おい、今日は義姉様の茶会だぞ? そういえばなんでこんなところにいる? 準備は?」
「ほ、ほあああ!」

そ、そうだったああぁぁ!

「あ、俺は足りない花をここの庭師に貰ってから行くから。ヴィニーに伝えておいてくれ」
「は、はい! あれ ︎ でも昨日ケリー様が場所は薔薇園って……」
「そんな事言ってないだろう? 俺は明日薔薇園に寄ってから行く、とは言ったけどな?」
「え、えええ ︎ ……わ、わたしまた勘違いしたんか ︎ あわわわわ〜!」
「ほれ、ダッシュダッシュ。その格好、ヴィニーになんとかしてもらえよ」
「は、はいいぃ!」

だぁぁー!
どえらいこっちゃ、どえらいこっちゃ〜!
ガーデンテラス、急がねばー!
えーと、まずは着替えと……髪がジュースやお茶でベタつくからこれもらなんとかして〜……ううう! 絶対義兄さんに怒られるうぅ〜!



「…………。……では、失礼します」
「……………っ…」


ケリー様がほくそ笑んでいるとも知らず、わたしはお嬢様のお茶会に盛大に遅刻することになるのだった!




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