うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。

古森きり【Twitter@2kag5fb1】

お嬢様のお茶会【中編】



「で? 何か申し開きは?」
「あ、ありませんん…」

一体どこをどう転んだらこんなに汚れるのか!
大遅刻してきたマーシャの格好ときたら…!
頭からブドウジュースをかぶり、スカートは泥水で汚れている。
聞いたところ、会場を薔薇園と間違えてそちらに走って行ったらよそのメイドさんとぶつかった挙句、相手が運んでいたジュースを頭からかぶったらしい。
最早コントレベルのドジ。

「とにかくそんな格好で会場に入れられるわけがない。部屋に戻って風呂に入ってこい」
「う、うう〜」
「久しぶりに伝説を残したな。ほら」
「は、はぁい」
「汚れた服は袋に入れて出しておけよ。そんなのもう使えないんだから」
「は、はぁい」

ブドウジュースなんて、この世界の洗浄技術じゃ落ちないよ。
もったいないけど捨てるしかない。
新しいメイド服は明日用意しておこう。
替えは持っているだろう。
……持ってるよな?

「おい、替えはあるよな?」
「あ、あるぅ〜」
「ほら、タオルかぶって。あんまり見られないようにな」
「はぁーい」

調理場からタオルを一枚持ってきて、マーシャの頭にかぶせる。
そこにお湯の追加を取りに来たシェイラさん。
マーシャの格好を見て目を丸くする。

「どうされたのですか」
「どうやらよそのメイドさんとぶつかってすっ転んだらしくて…」
「おや、早く着替えないと風邪を引いてしまうのではありませんか」
「大丈夫です。馬鹿は風邪をひきませんので」
「に、義兄さんひどい!」
「替えはあるそうなので一度宿舎に戻して風呂に入って着替えて来させます。まあ、元からあまり期待していなかったので問題ないかとは思いますが…」
「そうですね…」
「ふ、2人ともひどい……」

という事でポンコツメイドを叩き出す。
……なんか珍しくマジでへこんでいた感じだが、あんな格好のメイド、会場に入れられるわけがないので仕方ない。
髪もボサボサだし、美少女が台無しだな。

「なんにしても盛況でございますね。坊っちゃまも月末の『同盟締結』がなければ来られていたはずなのですが」
「あいつ、またディリエアス公の職場手伝いですか?」
「その予定でございます。……まあ、亜人族の方が身体能力は遥かに高うございますので、万が一の時に人間風情がどうこう出来るとも思えないのでございますが……」
「まあ、あいつらはそんな事はしないと思いますがね」

クレイたちなら、そんな事はしない。
しかし、クレイたちと敵対する連中からするとその日は『亜人の長』と『人間族の王』をまとめて始末できる格好の機会。
なんだっけ、メロティス……だったか。
妖精の亜人……自分を妖精だと信じて疑わない、少し奇妙な奴。
どんな奴なんだろう。

「そういえば、レオハール様が同盟締結日を来年から祝日とするそうでございますね」
「え? そうなんですか?」
「フェフトリー様からのご助言だそうですよ。女神エメリエラ様に両種族の誓いを捧げ、翌年より祝日として祝いと誓いを捧げればエメリエラ様はより強くなられる事だろう、と」
「て、天才かよ……」

アルト具合悪いとは聞いていたけど、いつの間にそんな話をしていたんだ。
確かにエメリエラは『愛』と『正しい祈り』で存在が安定、力が増すという。
結婚式で愛をエメリエラに誓い始めた事でエメリエラは存在が安定し始めた。
女神祭も、新たにエメリエラを守護女神として奉るようになったから……確かに、更にその日を祝日としてエメリエラに祈りや感謝を捧げるようになればエメリエラは強くなるだろう。
アルト……天才かよ。

「……ただ、そのお考えをレオハール様に伝えた後、体調が一気に悪くなってしまったそうで……」
「な、何故 ︎」
「さ、さあ? ……ただ、フェフトリー様はかなり繊細な方のようですからね……」
「…………」

……まさか、寝込んだってストレス?
確かにツンデレで誤魔化してるけどナイーブな奴っぽいしなぁ?

「では、私は戻りますか」
「あ、俺はお土産を用意してきます」
「分かりました、アメルさんに声をかけてきます」
「すみません、お願いします」

リース家のメイドが配膳やお茶淹れを手伝ってくれるから俺も大分自由に動けるようになった。
会場は和気藹々。
これは成功と言っても良いだろう。

「お?」
「よう」

そろそろお茶会も終盤なのだが、ここに来てエディンが来場。
城の会議は終わったのか?
まあ、終わったから来たんだろうが。

「遅いご到着ですね、エディン様」
「そういうな、これでも早馬で来たんだぞ」
「レオは?」
「同盟に必要な書類の作成でてんやわんやだな。気を抜くとオークランド家を筆頭に宰相も余計な横槍を入れてくる」
「うーん……やはり人間優位な条件を入れようとするよなぁ」
「最終確認は当日にも行うが、事前にきちんと整理はしておく必要があるだろう。あちらも担当官を寄越すようにすると言っていたが、どうやら言語が違うらしくてそちらの調整も必要なようだ」
「亜人の言語……」
「エルフ族の言語を使っているそうだ。女神エメリエラは言語に不自由がないらしくて、レオが通訳や翻訳を行なっている。……しばらくは学園を休んで書類作りに勤しむ羽目になるだろうな」
「お、おおう……」

あいつどんだけ働かされるんだよ……まだ学生だぞ、一応。
……と、とはいえ俺も言語の翻訳なんて無理だしな〜……エルフ族文字なんて使ってたのか亜人族!

「まあ、だからこそレオが翻訳した書類以外は恐らく無効となるだろう。警戒すべきは亜人族側の横槍だな……」
「……南側に袂を分かった連中か」

オークランド家と結託してウェンディールを乗っ取るつもりの妖精の亜人、メロティス率いる一団。
確かにそういう奴らが書類をどちらかの種族優位に作って紛れ込ませると面倒な事になりかねないかも。
文字は人間と亜人族で使う言語が異なる。
レオはエメリエラの力で翻訳が可能。
しかし、メロティスとオークランド侯爵が結託して書類を偽造して紛れ込ませる……という手法がある。
連中がそこまで仲良しなら、って話だが。

「というわけで女神エメリエラが出来上がった書類……以後は誓約書となる……物を結界で守るらしい」
「え? そんなこと出来るのか?」
「らしいな。……まぁ、それが出来るまでが大変だろう。月末に間に合わせると息巻いていたが、法の整備も必要になるから今月は登校してこれないかもしれない……だ、そうだ」
「……目頭に来る」
「お前が泣いてどうする」

だ、だって〜……!
なんて良い奴なんだレオ〜!
天使じゃないのお前ほんとに〜!
まだ学生だし、王子だよあいつ〜。
まだ16歳の男の子がなんというワーカホリック〜っ!

「それと、同盟締結日は亜人族との交流会と称して城に亜人族を招き、パーティーが開かれる。来年からも締結日を祝日として、両種族の友好の誓いをエメリエラに捧げる祝日とするそうだ」
「え、あ……ああ、シェイラさんに聞いたよ。パーティーもやるのか」
「祝日として大々的に祝った方が民も貴族も『同盟は良い事』として刷り込まれるだろう」
「な、成る程……」

そこまで考えて……。
確かに楽しい印象にしておけば、来年、再来年も……と考える。
それならなにか亜人と人間で一緒に神輿でも担ぐとか、共同でなにかやるのも良いんじゃないかな。
うーん……。

「それもアルトの助言か?」
「らしいな。……まあ、女神が関わるとあいつ以上に頼りになるやつはいない。レオも女神に関してはかなり頼りにしているようだ。ちょっとムカつくけど」
「妬くなよ……こればっかりは仕方ないだろ……」
「それに亜人族にも知的好奇心という、普通の貴族の偏見差別とは違う目を向けているからな……。俺はまだ奇異の目を向けてしまう。亜人族相手にはああいうやつの方がいいのだろう」
「…………」

……あれ。
エディンのアルトへの評価が……高い?

「なんだ」
「え、あ、いや……アルトへの評価が高いな?」
「お前は違うのか?」
「お、俺? えー……まあ、ツンデレ可愛いと思うことはあるけどそういう目で見たことがなかった」
「なんだそれは」

否定しないって事は……マジでエディンはアルトに関しては高評価か。
多分レオも高評価だろう。
確かに幅広い知識に関してはダントツだろうしな。
なんだっけ……アルトは『戦略』が高いキャラでもあったはず。

「……という事は、ハワード家に関して……」
「ベックフォードもフェフトリーもそういうやつではないだろう。……まあ、ベックフォードに関しては自分1人でなんとかしようとするところがあるから、それは不安の種ではあるが……そこはスティーブンに任せるしかないだろう」
「…確かにライナス様ならやりそうなんだよなぁ」

悪い亜人と手を組むのはやめてくれ! ……的な暴走をしそう、という意味である。
ハワード家の地理的な事情を考慮すると、無理らしからぬ事ではあるのだ。
無論許されることではないが、別に王国に反旗を翻そうとか、そこまでの事でもない、と、思いたい。
むしろそれは……多分オークランド家だろう。
なので、早とちりで暴走されるとライナス様の立場が残念に映ってしまうので、是非とも俺たちに任せて頂きたい。

「っと、長話が過ぎたな。せっかくだから茶の一杯でも頂いて帰るか」
「茶葉は?」
「うーん、任せる。……しかし、少し意外だな」
「あ? なにが?」
「アリエナ嬢がなにか妨害工作でもして来るかと思った」
「俺も思った。でも、特になにもなかったんだよな」
「ふーん……まあ、兄と比べると普通のご令嬢の域を出ないからな」
「………………」

これは俺にもわかる。
……ものすごく平凡、と言っている。
この場合大変に貶していると言えよう。

「ああ、それと……多分後でお前にも招待状が届くと思うぞ」
「ん? 招待状? 俺に? なんの?」
「…………うちの母上の誕生日パーティーの招待状」
「……え……?」

待て。
何故。なんでエディンのお母さんから誕生日パーティーの招待状が届く ︎
意味が分からない!

「な、なんで ︎」
「……そんなの言わなくても分かるだろう……? 俺と貴様の関係性を考えれば!」
「関係性って……」

元敵同士?
かつて戦った敵は和解後味方になり、心強い戦友となる、的な?
いやいや、どこのジ◯ンプ漫画だよ。

「伯母上がディリエアス家に戻っているんだ。……多分会わせたいのだろうな、お前と」
「……? お前の伯母さん?」
「おおい! ここまで言っても分からんのか ︎ 俺の伯母上だぞ!」
「え、えーと……」

こいつの伯母さん?
こいつの伯母さんって、確か〜………………あ……。

「あ……あ〜〜……」
「…………と、言う訳だ。まあ、来るか来ないかは好きにすればいい」
「お、おう」

……ユリフィエ様。
俺のーーーーお母上か…………。




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