うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。

古森きり【Twitter@2kag5fb1】

番外編【マーシャ】8



「う、うわぁ……」
「可愛いマーシャ可愛いマーシャ可愛いマーシャ可愛い……」
「こんな感じかしら?」
「あ、ありがとうメグ。ありがとうございます、お嬢様」

お嬢様のお下がりの紅色のワンピース。
大旦那様(お嬢様のお祖父様だよ!)から贈られたものらしいんだけど、お嬢様は派手な色が苦手だから一度しか着てないんだって!
それをわたしは譲っていただき、髪も左右て編み、後ろに一纏めにして流してもらった。
も、もちろんお化粧もださ!
なんでこんなにおめかししたかっていうと……。

「完全に楽しんで仕立ててしまったけれど、少し可愛くしすぎたからしら? エディン様を喜ばせる要素を増やしても仕方ないのよね……」
「ハッ! そ、そうですよね ︎ ……でもマーシャ可愛い、可愛いマーシャっ」
「あの、あの、デートってどうしたらいいんでしょうか……」

うん、『王誕祭』からあっという間の2週間だった。
エディンのクズ野郎に観劇をダシにデートに行く事になっちまったんだけんど、デートなんて初めてだよ!
可愛くしてもらっておいてあれだけど、一緒に行くのはあんのすけべ野郎なんだよね!
不安だよ〜、怖いよ〜。
義兄さんが付いて来てくれるって言ってたけど、こっそりっぽいし〜。
でもぶっ壊す気満々だったからやっぱり安心していいのかなぁ〜 ︎
……微妙に義兄さんウザいって思っちゃった……。
でも、相手はあのクズ野郎だし……でも初デートだし……うう〜でもでも初デートがあのクズ野郎なんて〜!
複雑だよぅ、複雑だよぅ!

「エスコートは全てエディン様がやってくださるわよ。あの方、デートも熟(こな)れてらっしゃるでしょうから大丈夫」
「ぐっ」

ふ、複雑だよぅ……。

「それにデートに関してはわたくしもした事がないのでなんとも言えないわ」
「ううっ」

複雑だよぅ、複雑だよぅ!
そりゃそうだよぅ!
つーか、そもそもエディンのクズ野郎はお嬢様の婚約者だったんださ!
お嬢様をデートに連れて行くのなら分かるけど、お嬢様の初デートの相手になるはずの婚約者だったエディンのクズ野郎とわたしが初デートってアレ……なにこれ、意味わかんねーさ。

「あたしも付いていきたい……心配だよぅ」
「構わないけれど、今日の分のお給料は出さないわよ?」
「休み扱いですか ︎ うっ、そ、それはそれでなんとなく……」

お、お嬢様……。
メ、メグ……。
うー……こ、このままではメグが休みになりお嬢様がまた自分の事を自分で全部やってしまう!
まずいべさ! そんな事になったら義兄さんに「はあ? お前のデートのためにメグが休んだだと? 俺が付いて行くって言ったのに? アホか。どっちもクビにしてやろうか?」くらい言いかねねぇよ!

「だ、大丈夫! 大丈夫だよ、メグ! 自分の身は自分で守れるさ!」
「そうだよね。あんた強いもんね」
「うぉう! 絶対的な信頼 ︎」
「まあ、さすがのエディン様も貴女にはそう簡単に手を出したりはしないでしょう。さ、そろそろお迎えの馬車が来る頃よ。玄関の前でお待ちしましょう」
「うっ、は、はい」

普通のご令嬢なら、お部屋で迎えの馬車を待っててもいいんだろうけど……わたしはただのメイドだ。
玄関前でお待ちしてるくらいでないと立場的には図々しくなる。
それでなくともどこから漏れたんだか……夏季休み明けの1週間、ずーっと各家のメイドに質問攻めと嫉妬の嫌がらせ、悪口無視暴言……色々あったんだよねぇ。
アンジュが「あ? オメェ等ごとき立場のご令嬢(あるじ)で嫉妬していいと思ってんすかねぇ?」と一喝した瞬間に終わったから別にいいんだけんども。
いんやぁ、アンジュカッコいいよ〜!
あんなに小柄なのに他のメイドの人たちがカッコよさに見惚れてたんだから!
わたしも将来はあんなカッコいいメイドになりてぇなぁ〜!

「ホラ、丁度来たわよ」

ガラガラと馬車が女子寮の前に来る。
大きな門の前に小さな馬車。
御者の人はディリエアス家の執事のシェイラさん。
馬車を停めると降りて来て、扉を開く。
うちの義兄さんみたいになんともスマート!
中からはダークブラウンのタキシードに身を包んだクズ野郎。
うえぇ、義兄さん本当に来てくれるんだろうか。

「…………」
「……?」

なんか視線を感じるなー、と見上げると腕を組んで「ふむ」と人を品定めするかのようなクズ野郎。
な、なんさ。

「やはり可愛いな」
「…………」

ス、ス、ストレート……。
真顔で言われると、なんか恥ずかしい。
思わず顔を逸らしちまうよ。

「マーシャ、ご挨拶は?」
「は! ……あ、え、えーとぉ、この度はお誘い頂きみにあまるこうえいです……本日はなにとぞよろしくおねがいいたします……」
「ほお、一応噛まずに言えたな?」
「そうですわね。棒読みが気にはなりましたが、お辞儀もきちんと出来ていましたし今のは合格点をあげても良いでしょう」
「わ、わぁい!」
「…………」
「…………」

お嬢様に合格点もらった! やったー!
あれ? メグ、すごい微妙な表情……シェイラさんも今笑顔が引きつってなかったか?
見間違いかなあ?

「坊っちゃま……」
「俺がレオのように甘やかすわけがないだろう。ローナもアイツもいるのだからな、“二の舞”にはならんさ。こほん、さて……」
「?」

なに言ってんのかさっぱりわかんねーけど、なんの話だべ?
首を傾げるとクズ野郎が咳払いを一つ。
そして胸に手を当てて微笑んできた。
…………う、お……。

「今日一日は俺のお姫様だ。しっかりエスコートさせて頂きますよ、マーシャ姫」
「は?」
「いきなり不細工になるな。顔。顔が諸々台無しにしているぞ」
「マーシャ」
「うっ!」

だ、だってこのナンパ野郎いきなりなに言い出すん ︎
キモいわ! クサいわ! ドン引きだわ!

「今日のデートもマナーのお勉強の一環だと思って真面目になさい。エディン様のような方が付きっ切りで淑女の立ち居振る舞いを見てくださる機会なんて、そうそうないのよ」
「おいローナ、それもどうなんだ」
「まあ、なにかご不満が?」
「はぁ……。まあ、確かに色々不足しているのは分かる。そうだな……じゃあそれも兼ねて行くとしよう」
「え、ええぇ〜……」

こいつとのデートってだけでも嫌なのに、更に淑女の立ち居振る舞いの勉強〜 ︎
お嬢様、最近輪をかけてキツすぎねーべか……?
わたしただのメイドなのにぃ……。

「……アミューリアに通うってそんなに大変なんですか? お嬢様……」
「もちろんそれもあるわ、メグ。ただ、マーシャは特にしっかり身に付けさせておかないとすぐに訛りや、なにもないところで転んだりするでしょう? ……正直今の状況ではこちらの頭が痛いくらいなのよ……」
「成る程」

納得するんけ ︎
お嬢様、本当に頭を抱えておられるしぃ……あうう〜。

「判定基準は?」
「厳しめでお願い致しますわ」
「おおおううぅ〜 ︎」
「が、がんばれ、マーシャ……」









********



早くもピンチだべさ。
馬車の中ってなに話せばええんだべ?
い、いや、こいつと仲良くお話しする必要なんてねぇよな ︎
でも、淑女としてそーゆーのはどうなんだろ?
いやいや、私ただのメイドだし?
いやいや、でも今日は淑女の勉強も兼ねてるんだぞ、それじゃダメなんでべか?
うーん、うーん……。

「ふふ」
「 ︎」
「ああ、いや。1人で百面相してて可愛いな、と思っただけだ。レオもそのくらい表に出るといいんだが……」
「……?」

レオ様?
レオ様だっていっつもニコニコ楽しそうだけんどなぁ?

「ん、そういえばこれから観る『竜殺しと斧姫』、俺も読んだぞ」
「え! …………ア、アンタ男で、しかも貴族様なのに恋愛小説読んだんか?」
「スティーブに借りてな。題名はともかく中身は確かに絶妙な恋愛モノではあったな……ローナが興味深いと言うのが納得だ。どちらかと言うと俺は傭兵の心情が理解出来る。あんな物騒な姫君は確かに捕まえておかないと何かとんでもない事になりそうだからな……」
「ど、どういうことださ……」

同じ小説を読んでこの感想の違いは一体……。
スティーブン様とお話しした時はお姫様の恋が叶って良かった良かった、って言ってたんだけど?

「ん?」
「ん?」
「オメー、今スティーブン様のことスティーブって呼ん……」
「は? そうか? ……ああ、まあ、たまにレオの呼び方が移ったりはするな……」
「ふ、ふーぅん?」

『レオ』……『スティーブ』……。
スティーブン様もお話ししてるとよくレオ様やコイツの話が出たりするさ。
幼馴染って言ってたもんなぁ。
わたしもスティーブン様の呼び方が移ってたまーにレオ様って呼んでたら、レオ様から「いいよ、レオで」ってお許し貰ったからそう呼んでる。

「お前も今度呼んでみればいいんじゃないか」
「へ?」
「スティーブ、と。嫌がらないだろう」
「! そ、そうかなぁ」
「むしろウキウキ受け入れる姿が目に浮かぶ」
「……そ、そうかなぁ……」

とは言いつつ、わたしの中のスティーブン様もニコニコ「是非!」って言ってくれる。
スティーブ、様って、じゃあ……今度、呼んでみようかなぁ。
愛称呼びなんて緊張するけど、もっと仲良くなった感じがして嬉しいし……よし、お願いしてみるさ!

「さて、そろそろ着くな。馬車の中では許したが、劇場ではその訛りは気を付けろ。今日は休みだから学園の生徒も来ているはずだ」
「う! うう、が、がんばる……」

こっからが本番って事だな。
訛り気を付ける訛り気を付ける!

「あと、馬車の中の俺への態度は訛りがひどいので減点10」
「 ︎ な、減点式なんか ︎ も、持ち点何点中の ︎」
「100だな。今90。気を付けろよ、50切ったら落第。ローナに盛大にお仕置きしてもらうからな」
「ひ、ひええぇ〜!」

マジで厳しめ〜!



「お手をどうぞ」
「あ、ありがとうございます」

馬車から先に降りたエディン様に手を差し出される。
その手を取って、しずしず……と馬車を降りた。
よ、よし、コケなかった!

「まあ、エディン様!」
「エディン様ではありませんか」
「エディン様〜、エディン様も観劇にいらしていましたの ︎」
「 ︎」

え! え ︎ ご令嬢集団 ︎
女の子だけで来てるのもありなんか ︎
この間来た時はほとんどカップルだったのに。
どど、どうしたら……こういう時どうしたらいいんだ ︎
ご挨拶?
でもわたしのことなんて目に入ってないっぽい……。

「わ!」

本当に目に入ってないのか、目に入って目障りだったのか、端っこの令嬢に肩にタックルされるように突き飛ばされた。
いや、これは確実に目に入ってるな!
じゃなくて〜!

「!」

慣れないヒールだし、転ぶかなと思ったら肩を後ろから抱き締められる。
暖かい。
こんなに軽々、わたしを支えてくれる腕は義兄さんくらいしか……。

「大丈夫ですか、俺の可愛いお姫様」
「っ」
「失礼、レディたち。今日の俺は彼女のものなのでね。……それに、品がない行いをするのは淑女としていかがなものかと思いますよ」
「あ、い、いえ、あの、そ、そんなつもりでは……」
「そうですか? まあ、今回はそういう事にしますよ。それでいいですか、俺のお姫様」
「……」

コクコク、思わず頷く。
な、なんだこの変わり身の早さ怖!
……はっ! 手もさりげなく握られてるし!

「では、参りましょうか。階段があるので足下には気を付けて」
「……は……はい……」
「……………………」

うっわあぁぁ! ご令嬢たちの視線が背中に突き刺さるぅっ!
肩を支えてくれた手はそのまま背中に添えられた。
それがその視線から守ってくれてるようだけど、頭にはズサズサ突き刺さってるよ〜。

「………………」

けど、なんで?
なんで嫌じゃないんさ?
わたし、こいつのこと大嫌いなのに!
訳わかんないまま、それでもコケる事なく無事に劇場に入ると…………。

「いらっしゃいませー」
「…………」
「…………」

……ハミュエラ様が普通にチケットのもぎりやっとる…………?

「お、おい、ダモンズ、なに普通に働いてるんだお前……」

あ、そう思ったんわたしだけじゃなかった。
だ、だよな? 普通そう思うよな?
ハミュエラ様、あんた公爵家のご子息だべ ︎
なにしてんだよ ︎

「えー? 執事のオニーサマに頼まれてボウガイをしています!」
「?」
「?」

…………。ふあ?
親指おっ立ててなに言ってん?

「…………。ダモンズ、お前にその任務は確かに適任だろう。だが、多分性格的に向いていない」
「ほあ? どういうことですかー?」
「わ、わたしもそう思う、です……ハミュエラ様……」

はい、としっかりもぎりの仕事をこなすハミュエラ様。
後ろが詰まるので、サクサク劇場の中へと進む。
義兄さん……絶対人選ミスだよ……っていうか、妨害って……い、いや、別にいいんだけど、でもなんかもっとこう、他にさぁ!

「『竜殺しと斧姫』はBホールでーす!」
「あ、ああ、ありがとう」
「ありがとうございます……?」

しっかりご案内もされた。
エディン様がスタッフに座席のチケットを見せると、席まで案内してもらえる。
なんと座席は二階の中央!
うわ、最高の席じゃん!
舞台からは遠いけど、前回と同じように周りから遮られている場所だし舞台上をくまなく見渡せる。
しかし、エディン様が表情を曇らせているので……もしかして、ハミュエラ様が言う「妨害」が……?

「あいつ、本当に向いてないな……妨害するつもりなら俺とマーシャの席を離せばいいだけだろうに……予約通りの席に案内させやがって……」
「……やらなかったんかハミュエラ様……」

あの人、妨害の意味分かってんだろか?
す、素直でいい人だなぁ……!

「まあ、いい。ほら、チラシとポスター」
「おお!」

さっきハミュエラ様がもぎりの半券と一緒に手渡してくれたやつ!
わあ、綺麗な絵!
それに、役者さんの名前と配役が書いてあるんだな。

「……え? これ貰っていいんか?」
「訛り」
「んぐっ! ……も、貰ってよろしいのですか?」
「ああ。俺は必要ないしな。……初デート記念に持って帰ればいい」
「ぶ、ぶう……」

嫌な言い方を〜!
そんな事言われたら、このチラシとポスター見る度に……こいつと来た事を思い出す〜。


ブーーー。


「はじまる!」

観客席は既に満席。
舞台上の幕が上がり、わたしの大好きな『竜殺しと斧姫』が現実の世界へと飛び出して来た!
わあ……わああああ!







********



「で? 感想は?」
「すっっっっっごーっく面白かった!」

文句の付けようがないよ!
わたしの想像していた通りの傭兵と斧姫!
ハラハラする展開と、ドキドキする恋!
はあああ! たのしかったー! 最高の気分だよー! 帰ったらメグに話そうー!

「なら良かったな。ああ、町に来たついでに買い物に行くか。欲しい物があれば買ってやるぞ」
「え! ……、……そ、その手には乗らんからな ︎」
「訛り」
「うっ! ……だ、だ、大丈夫デスワ、今欲しいものが特にないので!」
「うん、固いな。セリフのチョイスもイマイチ。さっきのと合わせて減点10」
「うぐう!」

ヤバイ、あと30点でお嬢様にお仕置き依頼……!
わ、忘れてたわけじゃないけど…………ごめんなさい素直に忘れてたけど! ……展開がヤバイさ!
もっと気を引き締めねーと!

「な、ならなんて言えばいいん、ですか」
「そうだな、断るつもりなら「お気遣いありがとうございます。ですが、明日も仕事がありますので本日はそろそろ帰寮したく思います」だろうか。ただ、男にこう言われる前に「ではそろそろ帰寮致しましょう」と言えば済むな。男もそれ以上は誘えなくなるだろう」
「うへぁ ︎」

事前に断んないとダメなんか ︎
デ、デート、難易度めっちゃ高ぇ!

「というか、俺はかなり断りやすいタイミングとセリフを選んだぞ。いつもなら「先程の劇は面白かったかい? どこかでゆっくり感想を語り合いたいんだがどこがいい?」とか……」
「!」
「聞いてる、んだが…………喋りたそうだな?」
「だ、だって! この気持ちは語りたいさ!」

劇! すごく面白かった! 今すぐ誰かと語り合いたい!
そういえばこいつ、来る時に『竜殺しと斧姫』読んだって言ってたべさ!
じゃあ、内容とか分かるはずだよな ︎

「……お前チョロすぎるぞ。まあいい。それならそこのカフェでいいか」
「うん!」
「はい」
「……はい」
「さっきの訛りと合わせて減点5点」
「うくぅ……!」

マジで厳しい……。
……でも、べ、勉強になる。確かに。
デートって駆け引きで出来てるんだな〜……わたしにはやっぱり早かったかも。



と、しょんぼりしているうちにカフェに着いた。
隣には可愛い雑貨屋さん……の道挟んで反対側には武具屋さん!
おわあ! すんげーべさ、武具屋さんなんて初めて見た!
あるとは聞いてたけど、なんかテンション上がる〜! さっき『竜殺しと斧姫』で戦闘シーンがあったからだろか ︎
剣とか斧とか、カッコいい〜!

「ってお前どこ見ている。カフェはこっち……」
「なあなあ、武具屋さん入ってみたいさ!」
「は、はあ? なんで?」
「義兄さんばっかり珍しくてカッコいい武器持ってるの、前々からなんか悔しかったんよ!」
「……。それは少し分かる。だがいいのか?」
「え? なにが?」
「…………。いいや、姫君がそうお望みならお供しましょう」
「んもー、そういうのやめてほしいんだけんど……」

柄じゃねぇし、なんか、こそばゆいんさ。
嫌いだけど、やっぱり顔立ちも整ってるし仕草も高貴っちゅーか品があるから様になってて……モヤっとする。
胸に手を当てて頭を下げられると、自分が本当にお嬢様みたいな令嬢になったかのような感覚になるというか〜……。
うん、こそばゆい。

「ほおぉあ〜」
 
気を取り直して武具屋さん!
すごい、いろんな武器や防具、甲冑とか、色々なものが所狭しと飾ってあって……カッコいい〜!
……でも、値段はどれもすんごい……こ、こんなに高いもんなんか、武具って……!

「ほう?」
「?」

後ろから感心するような声。
振り返ると、エディン様が壁に飾られた弓に目を細めてた。
ん、んん? この人、貴族なんだから剣を見るんじゃねーんか?
貴族の人といえば剣のイメージ……ケリー様も義兄さんもお嬢様も一応、剣を習ってたよ。
弓なんて狩人しか使わないもんなんじゃあ……?

「お目が高い。こちらは100年前のスミス、メーテリスが作った最高傑作の弓でございます」

髭面のおっさんが話しかけて来た。
多分店主かなぁ?
……ん? え? 100年前って言った ︎

「100年前の品だと? ……それは……、だが、今でも使えそうに見えるが」
「お使い頂けますよ。弦は張り替えておりますし、珍しい鉱石を加工して作られているらしくほとんど100年前の状態から変わっていないのだそうです。祖父と父、私も鑑定しましたが問題なくお使い頂けるものと保証致します。なんでしたら、今からお試しなさいますか?」
「いいのか? では遠慮なく。……すまん、マーシャ、少し外す」
「わ、わたしも見たいさ!」
「なに? 面白くないだろう、弓だぞ」
「そんな事ねーよ! 見たい! 興味あるよ!」

だって100年前の弓なんか普通に考えたら使えねーだろうに!
使える、なんて言われたら興味あるさ!
わたし、弓矢は習った事ないけど……お嬢様はわたしの前世を山岳で活動してた国境騎士じゃねーかって言ってた。
国境騎士は剣の達人で、弓も槍も使えて、更に薬草の知識も豊富。
とにかく騎士団の中で最も優秀な人材が選ばれる、過酷な職場で働く誉れ高い騎士様!
……だと言うから、もしかしたらわたしも弓矢、使えるかもだよ!
店主さんが壁から弓を取り、エディン様に手渡す。
グッと握り、一言「重い」と呟く。

「今では採れない鉱石を使ったと言われておりますので」
「掘り尽くしたと言うことか?」
「そう伺っております。名前も分からぬ鉱石でございますが、加工出来る者がメーテリスのみだったとか」
「メーテリス……聞いたことがないスミスだな」
「非常に短期間だけ、活躍された職人でした。作品も少ないので知らない方が普通です。しかし、一部では熱狂的な収集家も居りますよ。彼の作った作品は全て謎の多い鉱石と、彼特有の製法で作られており今でもその製法はどの職人も真似出来ていないとか」
「それほどのスミスが居たとは……」

興味深々ださ。
なんかよく分かんねーけどすごい鍛治職人がいたって感じか?
んで、その人の残した作品の一つがこれ、って?
店の裏手にある広場には遠くに的。
多分試し切り用のかかしなんかが用意されてる。
ほ、ほおお? 武具屋さんってこんな場所も持ってるもんなんか。すごっ!

「熱狂的な収集家が居んのに、これはそーゆー人たちに売らなかったんか?」
「訛り」
「んぐっ。で、ですか?」
「弓は人気がないからね」
「……そうなん、ですか」

まあ、確かに弓矢はあんまり人気がねぇな。
剣の方が華やかなので貴族様はみーんな剣を習う。
かくいうわたしも『思い出した』のは剣技だったし。
エディン様が弓矢を構える。
……え? 店の裏に出たばかり……的は10メートル以上奥に設置してある……え? こ、ここから狙うんか ︎


「……………………」


……空気が……違う。
わたしの知ってるエディン様じゃねぇ。
ピンと伸びた背中、細まる眼、凛とした空気。
全部全部、わたしの知らない……。
ビィン。
弦のしなる音。
ヒュー、と矢は美しく飛び、トスっ的の真ん中に突き刺さる。
……あ、え、マジ、か……当たった……それも、ど真ん中あたりに!

「……難しいな」
「なんと、そのように軽々とお当てになられておいて!」
「いや、重い故に重心の位置が取りづらい。だが、不思議と手には馴染む。…………。弦を真麻に替えて、矢をもう少し短いものにして試してみたいんだが……」
「かしこまりました、すぐにご用意いたします」
「…………」

そ、相当高そうな弓だけど……買う気だべか?
……それに、貴族のお坊ちゃんが狩人みてぇな事やってるし、狩人が使う武器の事に詳しいって……。

「なんだ?」
「え? えーと、いや、そのー。…………変だなーって」
「ふん。公爵家子息の、それも騎士団総帥を父に持つ俺が弓を使うのがか?」
「う、うん……、あ、いや、はい」

変な顔で見ちまったんだろう、嘲笑、のように笑うエディン様。
……自覚はあるんだな。
でも、あまり不快に思った感じではなさそう。

「剣は得意なんだぞ。こう見えてお前の兄と同じくらいの実力はある」
「ほ、ほぇ!」

義兄さんと同じくらい!
…………どんくらいすごいんかよう分からん。
義兄さんと手合わせした事ないし。

「だが、弓技の方が好きなんだ」
「…………、好き?」
「ああ、弓技の方がやっていて面白い。……確かに、父の後を継ぐのなら剣をより極めるよう努めればいいのだろうが……俺は俺の好きなものを極めたい。向いていないのはなんとなく分かるのだがな……それでも、弓技の方が好きなんだ。出来なかった事が出来るようになるのが、楽しくてたまらない」

向いてないのに……みんなに望まれてないのに、やってるんか?
そうだよな、だって……騎士団総帥のお父様がいるんだったら、そりゃ普通に考えて剣の腕を磨くべきだべ。
でも、エディン様は弓矢の方が好きだから弓を極めるために弓矢やってるのか。
…………。

「う、上手くなったのか?」
「どうだろうな。弓技はどちらかというと精神を研ぎ澄ます。心を鍛えるもののように思う。技術は二の次、だろうか。俺が未熟だからそう感じるのかもしれん」
「……未熟……」

結構いいとこ当たってると思うけんどな〜……。
満足してねぇんだな? ……こんな、嫌な奴、なのに。
向いてない事を理由に、しないんだな……。

「……わたし」
「?」
「……わたしも、メイドの仕事が、好き……、……だけど……わたしはドジだから……」

ハミュエラ様にも『メイドっぽい』とか言われるし、義兄さんにはいつも怒られるし迷惑かけちまうし、メグにも仕事をほとんど教えてやれてねーし……。
ドジだから向いていない、んだよなぁ。そんなんわかってるつもりだったのに。
でも辞められねぇ……生活がかかってる。
……と、思ってたけど……多分、それだけじゃなく……わたしは……仕事が好きだ。

「お、お嬢様はわたしを拾ってくださったんだ。ドジで、役立たずなわたしを! お嬢様に恩返しがしたい! ……で、でもわたしはドジだ……全然役に立てねぇ……。覚えたつもりでも間違えるし、上手くいってもドジって台無しにするし……! わたしは!」

なんでこんなに、ダメダメなんだろう。
ハミュエラ様に『メイドっぽい』と言われるくらいわたしはメイドじゃないんだ。
自分が本当に、本当に、情けねぇ。
メモしててもメモを忘れるし、ほんと、どうして、わたし……。

「なりたい自分の形を意識してみたらいいんじゃないか」
「……、……なりたい、自分……のかたち?」
「簡単に言うと明確な目標の設定だな。お前には手本となる者が多いだろう? そういう奴らをしっかり観察して、真似するところから始めてみればいい。……俺も、一応……観察と真似から始めた。その後、指南を受けると色々合点が行くこともある。なんにしてもお前は背伸びが酷い。出来ない事を無理にやろうとする必要はないだろう。出来そうなところを出来るようにしていけ」

ぽん、と……頭に手が置かれた。
……義兄さんみたいだ。
義兄さんより、ちょっとだけ優しい……?
い、いやいや……。

「……なりたい自分のかたち……」

どんなメイドになりたいか、って事、だよな?
……それならわたしはアンジュみたいなメイドになりたい。
義兄さんみたいに優秀な使用人になりたい!
わたしが2人みたいに、出来そうな事……。

「早起き!」
「……。まぁ無難な目標設定だな。ああ、まずそれを達成出来るようにすると良い」
「うん! じゃなかったはい!」


結局、エディン様はその弓を購入する事にした。
手続きをして、店を出るとシェイラさんが馬車を用意して待っていて驚いたよ……。
そのまま馬車に乗せられ、アミューリアの使用人宿舎前に付けられる。

「ほら」
「ほあ?」

来た時と同じようにエディン様の手を借りて地面に降りた。
手を離すと、エディン様から細長い箱を手渡される。
赤い髪に包まれた、これは?

「ドジなお前に似合いそうだと思ってな。まあ、今日付き合ってもらった礼だ」
「え、お、お礼? い、いやいや、お礼を言うのはーーー」

劇のチケットも取ってもらったし奢ってもらったし、ちゃんとエスコートしてもらったし、馬車での送り迎えに、その上愚痴までぶっちゃけちまったんだ。
い、今更だけどわたし最悪じゃねーか?
失礼な事ばっか言ったぞ?
そ、そりゃこいつはお嬢様の事、婚約者なのに何年も放置しくさったクズですけべ野郎だけど、あれ、でも……わたし別に今日はすけべな事されてねーし……あれ? じゃあやっぱ今日は完璧にわたしが悪くねぇか?
うん、最初っから最悪だよ!

「おいおい、男が去り際に渡したプレゼントを突っ返すような真似はするんじゃあない。流石に野暮が過ぎる。減点30だな」
「ひえ! もももも貰うさ! ありがたくいただきます! ありがとうございました!」
「そうそう。じゃ、また学園でな」
「は、はい! 本日はありがとうございました!」
「ふふ、おやすみなさいませ」

と、シェイラさんの笑顔が地味に効いた。
こ、これはお嬢様にこっそり報告される……?
ひええ……結局わたし今日何点だったんだろううぅ ︎

「…………」

手の中の細長い小箱。
うーん、なんだろう? ネックレスにしても細長過ぎるような?
気になりだしたので、寮部屋に戻ると……。

「マーシャ! 変な事されなかった ︎」

と、メグの第一声。
表情は真剣そのもの……あ、あははは……。

「う、うん、全然。むしろわたしの方が失礼千万だったさ……」
「え? ええ?」

髪を下ろし、服を着替える。
楽な格好になってからベッドにダイブして、小箱を開けてみた。
メグがわたしのベッドに乗っかってきて一緒に中身を覗き込む。
金のチェーンだ。
わたしの名前が入ったタグが付いている。
これは……。

「なにこれ」
「…………」
「マーシャ?」

ベッドから起きて、お嬢様に頂いた懐中時計のチェーンを……付け替えた。
ああ、やっぱり……。

「懐中時計のチェーンだったの?」
「うん」

お嬢様が誕生日にくれた懐中時計と、色も合う。
な、成る程、ドジなわたしにはピッタリ、か。確かにー……。
このチェーン、私の名前の入ったタグが付いてるもんね……どっかに落としたり置き忘れたりしても……これなら……。

「………………」
「マーシャ?」

がばり。
メグに抱き付く。
いかん。なんだこれ、わけわからん。
なんだこの気持ち……変!
ううん、いや、こんな気持ちよりも、それよりもだよ!

「明日早起きする! 絶対早く起きる! 寝坊しそうになったら叩き起こしてけろ!」
「え? どうしたの急に!」
「わたしは立派なメイドになりたいの! アンジュみたいな!」
「……え…… ︎」

メグの声が迫真だったけど、わたしは本気だ!
今日、というか、明日から! わたしは生まれ変わる!
なりたいわたしに、なるのだー!






「うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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コメント

  • 兎

    なんか主人公が可哀想に思えてきた

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