うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。

古森きり【Twitter@2kag5fb1】

夏季休み【マーシャ編】



「マーシャ、エディンとデートするそうだな」
「え! えーと!」

夕飯の準備中。
久し振りのリース家の燕尾服に身を包み、厨房に出てきてみたらつまみ食いするポンコツメイドを発見した。
シェフがなんだかんだ美少女のマーシャに甘いのを知っている俺やメイド長は、目を三角にしてマーシャを厨房から追い出す。
で、俺はついでにマーシャをそのまま使用人の控え室に連れて行った。
デートに関して話は聞いているが、俺がこの話をマーシャとするのは初めてだ。
この反応。

「…………まさかお前、エディンに……ほ、惚れ…」
「てないさ!」

即答かよ。
そうか、別に惚れたわけではないのか。
…………。
俺、マーシャとメグでのプレイネタバレ一切見てないんだよ。
マーシャの存在すら相当にうろ覚えだったし。
でもマーシャはヒロインの一人。
弱ったな、マーシャヒロインの場合のエンディングでお嬢様はケリールートから自殺エンドがなくなる程度。
まあ、エディンとは婚約破棄したし苦労人エンド回避したものと見なすとして……攻略キャラとのストーリーが分からんことには邪魔も上手く出来るか……そう、邪魔をな。
…………。

メ、メグの場合のお嬢様のエンディングは?


「っっっ!」
「? 義兄さん?」

ヤ、ヤンッベェエェ!
すっかり忘れてた! チェックも思い出すのも!
やる事多すぎ! さすがの俺でもキャパオーバーだって!
いや、でもマーシャが緩くなるのならメグできつくなる事はない、かも?
いやいや、分からん、思い出さない事には!
でもさすがに優先順位! 優先順位を決めなければ!
まず優先すべきはーーー。

「………こほん。……じゃあデートは本当に観劇するだけか?」
「え? そのつもりだよ! 当たり前じゃん! あんなクズ野郎!」
「…………」
「な、なんなん、その疑いの眼差し ︎」

当たり前だろうが。
お前は乙女ゲームのヒロインなんだぞ。
そして奴は乙女ゲームの攻略対象。
その上お前はエディンがこの世で一番大切な奴の妹!
振られちまえ、と心の底から思うが…エディンがマーシャを無下にすることは絶対ないと言い切れる。
そんな事したら何気にシスコンのレオが悲しむだろうからな。
……お姫様だから、という理由ではなく……レオの妹だから大切にされるだろう。
あー、成る程……マーシャがヒロインの場合のエディンルートがなーんとなーく予想出来る。
確かマーシャが最後に取り替えられた本物のお姫様だとバレた後、正々堂々攻略対象たちと結婚する……その辺りはテンプレ展開なんだろうが……。
各ルートの中でもエディンはそんな感じの展開なんだろうなぁ。
レオの異母妹と知らずに、好みだからちょっかいをかける→本気になる→大好きなレオの異母妹と発覚→メロメロ。
……あれ、なんかムカついてきたな。
あいつ幸せすぎじゃね?
マーシャでのエディンルート、エディン幸せ過ぎるだろ。
大好きなレオの異母妹と結婚して、レオを義兄にし、生涯仕えながら妻はお姫様でこの美少女とか……。
お嬢様はマーシャがヒロインでも崖から飛び降り自殺してるんだぞ。
ふぉ、ふぉー?

「許さん!」
「な、なにが ︎ え ︎ デ、デートが ︎」

もし!
万が一!
お嬢様がマーシャヒロイン状態でエディンルートのエンディングを迎えて崖から飛び降り自殺なんて展開になったら!
ちょっとどういう展開になってそうなるのかさっぱり予想がつかないがゲーム補正的な力でそうなったとしたら!
お前とエディンは「邪魔者もいなくなったし結婚だー」とかになるのか ︎
はあ ︎ 許すか! そんな展開許さんぞぉぉ ︎
ダメだダメだ! マーシャとエディンは絶対に許さん!
これはデートをさせるのすら恋愛イベントの可能性があるのではないか ︎
ゲームは戦巫女が召喚されてからだとばかり思っていたが、恋愛イベントっぽいものはゲームのエンディングが確認されるまで徹底的に潰すべきだろう ︎
そうだろう ︎ 俺!
全てはお嬢様の破滅エンドを回避し、お嬢様を破滅エンドからお救いするために ︎

「デートなんて許さん! 俺も付いていく!」
「義兄さんがなんか言い出した ︎」
「本当なら行く事そのものを反対したいところだが諸事情によりそれは許す!」
「どゆ事 ︎」

諸々。
『元サヤ作戦終息〜エディンなんかマーシャに振られてしまえ〜』計画の事もあるし、ヘンリエッタ嬢に協力を約束させてしまった手前…今更行くなとは言えない。
察しろ。

「……ま、まあ、義兄さんが付いてきてくれるんなら、ちょっと心強いっちゅーか、安心ださ……。さすがにメグには頼めねーし」
「?」
「いやいや、頼めねーよ! だって貴族の人しか劇観に行かんのでしょ ︎ この間行った時はハミュエラ様が配慮して一番端っこにしてもらったけんど……」
「あー。エディンならそういう配慮なしに中央の一番いい席取りそうだもんなー」
「んだ!」

どの席になるのかは当日でなければ分からないって事……か……、…………。

「俺もチケット取らなきゃ」
「え」
「いや、お前らのデートぶち壊、…………いや、付いて行くって言ったし」
「本音だだ漏れだよ義兄さん」

席ってどうやって取るんだろう?
ハミュエラに聞けば……いや、待て、それならハミュエラを投入すればいいんじゃないか?
空気クラッシャーハミュエラさえ投入すれば、その瞬間デートは台無し!
ついでにハミュエラは『エディンなんて振られちまえ』計画の事も知らないし!
なんて素晴らしきアイディア!
これぞハミュエラの有効活用法!
まあ、ヘンリエッタ嬢に協力してくれと頼んだ手前、俺も行かなきゃっちゃー行かなきゃだけど。

「ふむ、夏季休みが終わったら即ハミュエラに相談だな」
「あ、そっか。ハミュエラ様なら劇団の人と仲良しだからチケット取ってくれるさ!」
「そーそー」

それに安くしてくれたりするかも。
……デートって事は男がチケット代持ちだもんな。
安いに越した事はない。
観劇は貴族の嗜み……無論価格は平民が払えるレベルではないのだ。
商人ならたまの楽しみくらいには出来そうだけど。
割引も頼もう。
ハミュエラのテンションなら頼めばやってくれそうだし。

「……もしかして、義兄さんメグの事誘ってくれるの ︎」
「は?」
「だから劇! 観劇! 付いて来てくれるんだべ ︎」
「ああ。いや、もうヘンリエッタ嬢に頼んでるし……」

メグかぁ。
それは考えてなかった。
でもメグも例の計画は知らないはずだし、メグでも良かったかな?
でも一応使用人同士だから場違いになる。
メグも観劇に行けるような服は持っていないだろうし……今から買ってくれというのも酷だろう。

「……誰?」
「ん? いや、この間お嬢様がお茶会に招待してもらっただろう」
「え、えーと……」
「そういえば面識はないっけ? アンジュの主人のご令嬢だよ」
「あ! 縦巻きロールの綺麗な人!」

……特徴があると覚えられやすいよな。
ただ、やはりレオの卵焼きはなんか違う気が……まぁいいか。
確かにややきつめな顔立ちだが、美人っちゃー美人だよな、ヘンリエッタ嬢。

「え! 義兄さんあの人と付いてくるんさ ︎ なして ︎」
「いや、成り行きで? ……ケリーが頼んでくれたみたいなんだよ」
「ケリー様が ︎ ……あ、あれってそういう……」

心当たりはあるのか。
まあ、ケリーもなんだかんだ優しいからな。
……マーシャはケリーにとっても妹みたいな存在だし。
あ……つまりケリールートもあれか?
妹みたいに思っていたマーシャが突然恋愛対象になってしまう的な流れのストーリーか?
あ、ありそう!
別に幼馴染と呼べるほど長く一緒に居るわけではないが、毎日顔を合わせる仲ではある。
むしろ同じ屋敷で暮らしているんだ、家族同然……。
ストーリーはよう分からんがそんな感じだと思う多分。
うーむ、マーシャの方はストーリーが予想立てやすいが、メグがさっぱり分からない。
あの子、亜人だろう?
町で出会う的な感じだったような気はするが……乙女ゲームあるある的な突っ込んではいけない遭遇率みたいな感じなのか?

「うん」
「うん?」
「なあ、メグは気になる男とかいるのか?」
「と、突然なんさ ︎」

そんなもん、勿論探りに決まっているだろう!
ヒロインがメグの場合のお嬢様のエンディングのチェックというか、思い出す作業もやらねばならんがその前に網は張っておく!
なにしろお前もメグも俺にとってはラスボスだ!
真打ちボスは戦巫女だけど!
……彼女には来て頂かないと戦争に生き残れる気がしない。

「そりゃ、一応執事の仕事の中に使用人の管理があるからな。学園では俺がリース家の使用人の責任者って立場だろう? 彼女もいつ結婚してもいい歳だし、もし結婚して仕事を辞めるとなるとすぐに別なメイドを手配しないと」
「あ、そ、そっか」

チョロくて助かるうちの異母妹。

「うーん、今んとこそんな話はしてねーなーぁ」
「そっか」

そこまでマーシャが信用されていないのか?
亜人であることをマーシャは知ってるのかね?
ズバッと聞いたところでマーシャは気にしていなさそうだが……メグに内緒で情報共有するのも彼女が不安になるかもしれないよな。
なにか機会があれば三人の時にでも俺がメグが亜人だって知ってるってバラそう。
それともニコライとクレイから伝えてもらうのも手かも。
仲間から伝えられれば少しは安心感を持ってもらえるよな?
クレイといえば、あいつもメイン攻略対象のはず。
マーシャとはメグくらいしか接点が思い付かないんだけど、出会いはゲームが始まったらなのか?
マーシャとクレイかぁ……人間の国のお姫様と亜人の長……ある意味、マーシャたちの大好きな恋愛小説のようなロマンチックさ……。
あいつ強いし良い男だし、ふむ……エディンよりクレイの方が俺としては……。

「まあ、恋バナとかする機会があったらそれとなく聞いておいてくれ。恋の進捗状況とかも教えといてくれると、新しいメイドを雇うタイミングとか分かりやすいから助かる」
「う、うん! ……あのさあのさ!」
「うん? なんだ?」

なんか急にテンション上がり始めるマーシャ。
今までの会話でこいつのテンションが上がるところあった?

「メグってば、レオ様に興味があるみたいなんだよね! なんとか会わせてあげられないかな ︎」
「……………………はあ?」

メグがレオに興味がある?
なんでそんーーーー……、……あ……もしかして、去年の……?
去年の4月。
俺とお嬢様とマーシャ、レオとスティーブン様、ライナス様で城下町へと繰り出した時。
川で子猫と溺れた亜人の子供をレオが助けた。
その時助けた亜人の子供がメグだ。
気絶して、川縁で目を覚ましたメグが最初に見たのはレオの笑顔。
あのイケメンに柔らかく微笑まれて赤面したメグの顔は、今でも鮮明に思い出せる。
…………成る程、そりゃそうだ。
あんな風に助けてもらって、そして微笑まれて……一目惚れしていてもおかしくない。
うん……そうか、もうあの時点でフラグが……。
レオ……お、恐ろしい子!

「会わせるって言われてもな」
「えーと、えーと、じゃあ今度のお昼休みに薔薇園にメグのことも連れて行っていい ︎」
「え……」

こいつ何言ってんの。
そんな事したらメグが他の攻略対象とも会う事に……いや、昨日の『王誕祭』でエディンとは会ってたか。
ゲームが始まれば遅かれ早かれ会う事になる。
それなら今のうちに合わせてお嬢様が安全なルートに誘導するのも一つの手かもしれない。
でも、レオは……レオはなぁ!

「そうだな……構わないが、それならお前が宿舎に残って仕事をするのか?」
「え……」
「いや、それ以前に出来るのか? 昼休みに俺たちと一緒に飯を食うのが当たり前のようになっているが、本来あの時間はお嬢様のお部屋のお掃除や洗濯をする時間のはずだよな?」
「え、えーと……」
「お嬢様がご自分でお部屋の掃除をしたりするからってお前が楽していい理由にはならないの、勿論分かっているよな? 本当ならやるべき事や学ぶべき事は山の様にある。掃除洗濯は完璧か? 学問はマシの様だが、目利きや芸術文学は? それにお前、未だに料理が苦手なんだろう? 自分の昼食を作る練習でもすればいいのに、薔薇園に顔を出して食っちゃべって……そんなだからハミュエラ様に『メイドっぽい』とか言われるんじゃないのか?」
「はぅぐっ!」

ドスッ!
と、マーシャの胸にどストライク。
ハミュエラのあの一言は相当に効いたようだ。

「…………た、確かに」
「?」

ん?

「……決めたさ! わたし、明日から自分のご飯は自分で作るよ! そんでいつかお嬢様の朝食やお弁当を作る!」
「ほう?」
「…………だ、だから、義兄さん、わたしに料理を教えて!」
「断る。俺は忙しい。義父さんかシェフに習え」
「義兄さんひどい ︎」



「うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く