うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。

古森きり【Twitter@2kag5fb1】

番外編【マーシャ】7



「まあ、よく似合っているわ。さすがヴィニーの見立てたドレスね」
「か、可愛い! すごくすごく可愛いよ、マーシャ!」
「あ、ありがと〜」

えへへ、照れるだべさ〜。
……でも同時に身が引き締まる。
身が…というよりコルセットが…。
く、苦しい…!
この後何時間もこのままかと思うと心が折れそう〜。



……今日は国王陛下のお誕生日…『王誕祭』!
去年は留守番だったけど、今年は旦那様が「来年アミューリアに入学するんだから、舞踏会は体験しておかないとダメだね」と仰って強制参加なんださ。
お嬢様にも夜会や舞踏会には参加しておかないとダメだって言われてたけど…まさか舞踏会デビューが『王誕祭』だなんてめちゃくちゃ緊張するよ〜。
だって義兄さんが『王誕祭』はセントラルの貴族しか招待されない、年に一度の王様の誕生日を祝う舞踏会!
セントラル中の偉い貴族がみーんな勢揃いする。
それだけてなくて、王様のお姿を拝見出来る数少ない機会なんだってさ。
そ、そんな日がデビューなんて…不安しかないべ。
そりゃ…いつも結ってる髪を下ろして細っこい三つ編みを二つ、左右に垂らし他の髪は香油で整えられて…綺麗な黄色いドレスとヒールの靴を履いて、お化粧もいつもよりしっかりしてもらった。
鏡の前の自分が自分じゃないみたいにしてもらって…恥ずかしくて、こそばゆい。
去年お嬢様にお下がりのドレスを貰った時みてぇなふわふわした気持ち。
メグもお嬢様もすごい褒めてくれるけど…いやいや、やっぱお嬢様の方がお綺麗だよ〜!

「お嬢様は今日もいつも以上に綺麗だべさ〜!」
「言葉がおかしいわよ」
「いつもお綺麗だけど、今日はいつも以上にお綺麗ってことですよ!」
「ありがとう」

お嬢様は薄い緑色のドレス。
地味な色のはずなのに、お嬢様が着るとなんだこの眩さは ︎
義兄さんさすがだよ〜!
派手な色の嫌いなお嬢様の意見を尊重しているのにお嬢様がいつも以上にお美しくなるデザインとお色のドレスを拵えてくるなんて…!
お嬢様の金色の髪がいつも以上に輝いていて…ドレスがよりそれを引き立てているみてぇださ!
なんというか、一輪の黄色い薔薇のお花みてぇ…。
はわわわわ〜…なんてお美しいんだろう〜…!

「準備も終わったし、早めに行きましょう。今日はセントラルの貴族が多くお城にいらっしゃるわ。渋滞に巻き込まれたくはないもの」
「は、はい!」

メグも今日は一緒にお城!
使用人として、付いてくるんさ。
……………。

「お嬢様、わたしは一度もお嬢様の使用人としてお城に行ったことないのはなんでですか?」
「そうね…ヴィニーが居るからよ」
「そっかー!」
「…………」

それじゃ仕方ねーな。
…ん? お嬢様、なんで首を横に振るんだ?
ん? メグはなんで壁の方を汗まみれで見てるんだ?



「お、馬子にも衣装」
「へあ?」
「通じてないわよ」
「…………」

女子寮から出ると義兄さんとケリー様とルークが待っていてくれた。
ケリー様に言われた言葉の意味がよくわからず、首を傾げた。
褒められてる感じじゃねーのは何となくわかる…。
だって頭を抱える義兄さん。
表情を消すメグ。
半笑いのルーク。
…よくわかんないけど頰を膨らまして抗議するとケリー様はにやにや笑って「はいはい、悪うございました」と肩を竦める。
む、むぅ〜〜…。

「まあ、けどさすがに整えると違うな〜。お前見目だけはいいもんな〜、見目だけは」
「二回も言わんと!」
「ん? その髪留めは初めて見るな? ……おいおい、これまさか純銀とピンクダイヤじゃないだろうな? こんなのいつ手に入れた?」

お、おおう、さすがケリー様だよ。
今日の髪留めは初めて付ける。
純銀のフレームに、ピンクダイヤが使われた日傘みたいな形の花……カルミアの花の髪留めだ。

「レ、レオハール様が誕生日にくれたんよ……高価過ぎるからわたしには勿体ないって何度もお断りしたんだけんども……」
「あー……」
「まあ、今日は晴れ舞台だからな……いいんじゃないか? 使っているところを見せればレオをも喜ぶだろ」
「転んで失くさないようにしろよ」
「う! うん!」

た、確かに!
義兄さんとケリー様、たまに預言者みてぇだからな!
めっちゃ気ぃつけるべさ!

「ほらほら、乗ってください。メグ、お前は中だ」
「え? いいんですか?」
「一応女の子だからな」
「い、一応ですかー」

馬車の中にエスコートされるお嬢様。
4人乗りの馬車の中にお嬢様とメグが座る。
わたしも今日はドレスだから、堂々と中に乗れるんだ〜。
よっこらしょっと、とドレスの裾をまくったら、ケリー様が「ほら」と手を伸ばしてくれる。
お、おお…ケリー様が貴族っぽいべさ。

「ありがとうございます…」
「転けて義姉様に突撃するなよ」

一言多い!

「ほげ!」
「言ったそばから!」

ケリー様の手を取って、馬車への階段を登ると微妙に裾を踏んづけていた。
顔から馬車の中の椅子にぶつかるかと思ったら、ケリー様が手を引っ張って助けてくれる。

「だ、大丈夫 ︎ マーシャ ︎」
「大丈夫〜…えへへ」
「えへへじゃねぇよ! お前ホンット気を付けろよ ︎」
「ご、ごめんなさーい…」
「…マーシャ、本当に気を付けなさい…」
「ひえ…! は、はい! お嬢様!」

心配してくれるメグに、怒るケリー様。
けど、一番怖かったのは真顔のお嬢様。
め、目が本気で怒ってる時のやつだ…ひぇ…。

「…胃が痛い…」
「大丈夫ですか? お義兄さん…」
「むうー」

御者台で義兄さんが胃を押さえたのが見えた。






********



「ほお、馬子にも衣装だな。いや、可愛いぞ、マーシャ」
「…………」

お城に着くと、タキシード姿のエディン・ディリエアス!
にこやかにこちらを見下ろして、ケリー様と同じ言葉をわたしに向かって言う。
義兄さんはルークに馬車置き場を教えるって居ねーから…わたしはケリー様の後ろに避難!

「こんばんは、エディン様。さすがに今日はサボりませんのね」
「いや、『王誕祭』はサボった事ないぞ」
「去年は早々にお帰りになったではありませんの」
「あまり長居すると令嬢たちが俺を巡ってバチバチと火花を散らすからな。……そういうのを眺めるのが好きな奴も居るらしいが、俺は好まん」
「……」

お嬢様が目を伏せる。
そんな悪趣味な奴おるんか?
ケリー様も腕を組んでなにやら考え込んでおられる。

「それより今日のマーシャのエスコートは誰がやるんだ? 今日こそ俺がやってやろうか?」
「結構ですだ! 今日は義兄さんもパーティーに招待されてんだ!」
「「マーシャ、訛り」」
「……です」

お嬢様とケリー様にダブルで指摘されてしまったさ。
あうう……。

「…ところでその後ろのメイドは初めて見るな? 例の新人か? へー?」
「 ︎」
「メ、メグに手出しはさせねーべ!」
「あ…マーシャ…」

メグは亜人なのを隠してる!
このすけべ野郎、メグに手を出したら許さねーさ!
お嬢様に再婚約をぐいぐい迫ってたくせに、突然わたしに「やっぱりお前の方が好みなんだよな」とか言って恋愛小説の中で出てくるようなことばっか言い始めて!
許せねーさ!
お嬢様の事、ずーっと放ったらかしにしてたくせに!

「そんなに心配しなくても、お前より俺好みドンピシャな女はいないぞ」
「んな心配してねーさ!」
「「マーシャ」」
「……です」

あうううう…き、キビシー…。

「やれやれ、まるで野良猫だな…。まあ、たまにはこういうのもオツか」
「…ほどほどになさって下さいませ」
「ああ、まあ、時間はかけないさ」
「どうだか…」
「え! 一緒に来るんか ︎」
「「マーシャ」」
「……ですか…」

普通に、さも当然のようにお嬢様の横に立って一緒に歩き出すもんだから…つい。
ケリー様も表情を顰めてんのになんも言わねーの、なんでなん ︎

「目的地は同じなんだからそう喚くな。可愛い顔が台無しだぞ」
「……うっせ、……うるさいです」
「マーシャ、言葉が悪いわよ。そういう場合は素直に謝罪なさい」
「え、え〜っ ︎」

こんな奴に謝りたくねぇよお嬢様!
お嬢様はなんで怒んねーの ︎
婚約者だった頃も全然会いに来ないし、放ったらかしにされてたのに…!

「それにエディン様は公爵家のご子息よ。先程からその態度はなんです? ご挨拶もまともにしないで…」
「う、うう…」
「ははは、躾甲斐があっていいなぁ?」
「躾でもすぐに忘れてしまうポンコツですがね…」
「む、むうう」

ひ、ひっでーさケリー様!
なんでケリー様もお嬢様を酷く扱ったこいつに同意するんだ ︎

「そうだ、マーシャ。今度出掛けないか? 2人で」
「行くわけねーべ!」
「なんでも好きなもの買ってやるぞ」
「え? …あ、いや! そ、そんなもんに騙されねーぞ!」
「恋愛小説とか、ドレスとか……演劇も好きなんだったか? そういえば西区の劇場で、新しい演目が予定されているそうだぞ。確か題名は…『竜殺しと斧姫』とか…」
「りゅ、『竜殺しと斧姫』が演劇で上演されるんけ ︎」

わわわわわ!
あれ大好きださ!
竜を殺した傭兵に惚れたお姫様が、傭兵と両想いになりたくて斧をぶん回し数多の名のある竜に挑む冒険恋愛物語!
数々の危機を竜殺しの傭兵に救われて、ますます傭兵を好きになっていくお姫様…。
強くなれば好きになってもらえると思っていたけど、最後は傭兵に「お前は俺が守るから、お前は斧を二度と握るな」って言われて結ばれるんよー!
はぁ…思い出したらまた読みたくなってきたべ〜!
…あ! いや、そーでなくて、あれが演劇に…!
み、観たい! すごく観たいさ!

「………なんだそれ?」
「ケリー様知らねーんか ︎ 人気の恋愛小説だべさ!」
「は? 恋愛小説? ……恋愛小説?」
「中身は普通の恋愛小説だったわよ」
「え、義姉様読んだんですか ︎」
「スティーブン様に勧められて一応。色々興味深かったわね」
「…興味深かった、ってそれ恋愛小説の感想としてどうなんですか…?」
「コホン。…だが演劇を観るのに1人は無理だろう?」
「うっ!」

た、確かに…。
前に行った時も男の人と女の人が一緒に座ってて…しかもみーんな貴族様だ。
わたし1人じゃとても…。

「ケ、ケリー様!」
「は? 断る」
「まだ何も言ってないさ ︎」
「訛り」
「ううっ」

真顔で注意するし〜…。

「お嬢様〜…」
「…エディン様がお許し下さるなら構わないわ」
「そ、そうではなくて!」
「スティーブン様はダメよ。ライナス様と一緒に行かれるはずだもの。エディン様に連れて行って頂くのはいいけれど、くれぐれも失礼のないようにしなさい」
「うう!」
「じゃあ決まりだな。明日から夏季休みだから……そうだな、夏季休み明け後、翌週の日曜日でどうだ?」
「く……くっ!」

こいつと2人きり…!
絶対嫌だ!
…なんとか、なんとか断れないもんだべか…。
はっ! そ、そーだべさ!

「に、義兄さんに聞いてみるべさ!」
「使用人同士で行けるわけがないだろう。心配しなくてもちゃんとしたデートなら変な事はしないさ」
「信じられるわけあっか!」
「そうだなー…。それなら……ああ、いい事考えたー…」
「? いい事?」

すんげー棒読みなんだけんど、ケリー様…。
絶対“いい事”でなさそーだべ。

「ちょっと知り合いに挨拶してきまーす」
「今? パーティーが始まった後ではダメなの?」
「マーシャとエディン様、2人きりはさすがに不安でしょう?」
「?」
「え? え?」
「…………」

お嬢様も首を傾げる。
ケリー様でもなんだかんだわたしの事、心配してくれて……?

「……あら?」
「ん、んん?」
「あれって、女の人……だね?」

ケリー様が人の波を避けて会いに行ったのは金髪の女の人?
え? え?

「ヘンリエッタ嬢? お前の義弟は知り合いだったのか?」
「先日、お茶会に招待して頂く前より交流があったようですわ。最近ケリーはヘンリエッタ様のダンスの練習に付き合っておりますのよ」
「……ああ、ヘンリエッタ嬢はダンスが独創的だったからなぁ……ふーん?」
「わたくしはお似合いだと思うのですが」
「そこは同意しかねる」
「そうですか?」
「…………」
「…………」

…なんかお嬢様……婚約解消した後の方がクズ野郎と仲良いな?
ヘンリエッタ様ってアンジュのご主人様の人だべさ? 確か……。
金色の髪をクルクルに巻いた、上品な感じのご令嬢。
ケリー様と話してなんだかあわあわしてるけど…もしかしてケリー様、あのご令嬢を誘ってわたしとクズ野郎を2人きりにさせないようにしてくれんだべか?
あ、戻ってくる!

「おかえり、ケリー。ヘンリエッタ様と何をお話していたの?」
「お膳立てしただけですよ。……お、ルーク、戻ったか」
「は、はい。なんとか……」
「迷子にならなかったな。偉い偉い」
「え、えへへへへ……」
「む、むーう!」

わたしケリー様にあんな風に頭撫でて褒められたことないさー!
なんかずるい!

「お待たせいたしました、皆さま。開場致します。ごゆっくりお進みくださいませ」

「あら、始まるわね。まだヴィニーが戻っていないのだけれど…」
「後ろで待ちましょうか……」

か、開場……。
いよいよ……うう! 緊張するべさぁぁあ!



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