うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。

古森きり【Twitter@2kag5fb1】

お嬢様とお茶会【後編】



あっという間に月も半ばを過ぎた。
レオは公務で休みに入っており、スティーブン様、ライナス様、エディンは代わる代わるで休みを入れながらその手伝いを始めている。
お嬢様と俺も、明日から手伝いで登城の予定だ。
その間、生徒会は休ませてもらえることになっているので問題はなし…。
せいぜい、マーシャとメグとアメルがイマイチ育っていない事くらいだろうか。
生徒会といえば…アルトやハミュエラは公爵家の子息なのに生徒会には入っていないようだったな。
…まあ、ハミュエラは……あれだけど。
ケリーはギリ、生徒会立候補の権利を得ていたので生徒会にも入ったそうだ。
とは言え、上2人が立候補していなかったので成績が6位とか7位でも立候補は出来ていたみたいだけど。

「はあ…」
「ため息深。どうしたよ?」
「俺はあんまりヘンリエッタ嬢が得意じゃないんだよ…っていうかケリー、お前なんで付いてきたんだ?」

本日はお嬢様がヘンリエッタ嬢にお茶会の招待を受けた日だ。
そこへ何故かケリーまで同行。
ルークまで伴って…。

「別に。…この間たまたま図書館で話した時、仲良くなれそうだったからもう少し話してみたくて」

……訳、話してみたら利用できそうだったから今日一気に距離を詰めて付け込もうと思って。
という副音声に頭を抱える。
幼少期の可愛いケリーはどこへ…?
い、いや、貴族社会ではこの強かさは必要だとは思うけど…。
けどそれにしたって腹黒くなりすぎではあるまいか?
こいつ仮にも乙女ゲームのメイン攻略対象だろう?
いいのかこんなに腹黒くて。
女の子ってこんな腹黒が好きなのか?

「……貴方が令嬢に興味を持ったのは初めてね…?」
「はい?」
「いえ、良い傾向だと思うわ。それに…ヘンリエッタ様はリース家と同じ領主のお家…家柄も申し分ないし、リエラフィース家の旦那様はお父様と同級生だったはずだし…」
「え? い、いや、義姉様? ちがっ…違いますよ? そういう意味ではありませんよ?」
「照れなくても良いのよ。そう……貴方もやっとそういう年頃になったのね…」
「本当に違いますからね ︎」
「…………」
「…………」

うーん……いや、なんというか…さすがお嬢様である。
……因みにマーシャは本日、芸術に関する教養の授業で使用人宿舎の部屋に缶詰めだ。
メグも付いているから大丈夫だとは思うが…果たしてマーシャに芸術が分かるのだろうか…。
芸術は感性と目利きを磨くのが目的だから『記憶継承』でどうにかなるものじゃない。
今頃「ヒィヒィ」言ってそうだな…、…頑張れ、ポンコツメイド。

「あの、お義兄さん…ぼく、貴族様のお茶会って初めてなんですけど…」
「ああ、招待されたのはこちらだから俺たちは基本的に動く必要はないよ。全部向こうの使用人がやる。…お帰りのお時間になったらお声がけする程度だな」
「そ、そうなんですね…」

それに招待されたのはお嬢様だしな。
ケリーが行くのは…一応、昨日の時点でアンジュに口頭で伝えておいたけど…。
「了解です〜…まあ、想定内っすね〜」と気怠げだがいつもの感じだったから平気だろう。
メイドの中でもリエラフィース家のメイド、アンジュは優秀だ。
うちのポンコツメイドに爪の垢でも煎じて飲ませてやって欲しいくらい。
お嬢様の朝食だってあのポンコツメイドがいつも寝坊するから、アンジュがお嬢様のお部屋まで運んでくれているんだぞ。
「うちのお嬢の隣の部屋だから良いっすよ〜…」って。
救いの女神かと思った。

「ふーん、ガーデンテラスを貸し切りですか」
「あまり利用したことはなかったけれど…素敵な庭がよく見えるのね」

場所は食堂の横にあるガーデンテラス席。
いくつかの区画に分かれており、申請すれば貸し切りにしてお茶会の開催場所として使用することが可能。
貴族の学校なので、お茶会や夜会の主催を体験し卒業後の社交に活かすのも一つの課題となっている。
お嬢様もお茶会と夜会…誕生会はいずれ主催なさるだろう。
ケリーにも今のうちに誕生パーティーの準備を進めるよう言っておくか…こいつ誕生日来年の3月だから、今から準備しておけばエディンやライナス様のようにはならないだろう…多分。

「本日はお招きありがとうございます、ヘンリエッタ様」
「ようこそ、ローナ様!」
「こんにちは、ヘンリエッタ様。本日は義姉をお招きくださりありがとうございます」
「え、ええ、いらっしゃいませ…ケリー様…」

……ヘンリエッタ嬢はどうやらケリーの本性をご存知ないらしい。
大丈夫かな〜、あんまり得意な人じゃないけどアンジュには世話になってるからな〜…。
とは言え…ヘンリエッタ嬢が突然お嬢様との距離を詰めて来たのは俺も気になっていたし……今日はしっかり見極めさせて頂こうか。

「ローナ様はお花がお好きだとお伺いしたので、薔薇の株の側の席に致しましたの。…棘にご注意下さいませね」
「ありがとうございます。一番好きな花ですわ」
「…………」

ケリーが少し、意外そうな表情を浮かべる。
確かに……お嬢様の好きな花を調べて、その花のよく見える場所の側の区画を貸し切ってくれたのか…。
しっかりリサーチして招待してくれているんだな。
ちょっと、見直したかも。

「お茶会もハーブティーをご用意しましたの。わたくしはまだ勉強を始めたばかりなので…気に入っていただけるといいのだけれど…」
「まあ、マリーゴールドですわね…」
「ケーキは何種類か作ってみましたの。このカップケーキはわたくしが作りましたのよ」
「まあ…ヘンリエッタ様自らが?」

お嬢様がどんどんご機嫌になるのが分かる。
表情は相変わらず代わり映えしないが声が明るくなっているからだ。
ケリーも最初より幾分柔らかめ。
お嬢様を本気で喜ばせようとしている、と感じているからだ。
…うーん…もしかしてヘンリエッタ嬢…本気でただうちのお嬢様と友達になろうとしてくれているのか?
ふ、ふーん?

「嬉しいですわ」
「本当ですか? よ、良かった…」
「…………」

お嬢様の空気が柔らかい。
その様子に、ケリーもお茶を飲みながら少しだけ目元が優しくなる。
このシスコンめ…。
気持ちは分かるけどな。

「…そういえば、本日招かれたのはわたくしだけですの? ヘンリエッタ様にはお友達が多くいらっしゃったと思いますが…」
「誘ったのですが、断られてしまいましたの…」
「ごめんなさい。きっとわたくしのせいですわね」
「あ、違いますわよ? ティナもクロエも変な気を遣っただけですの! …えーと…どう言ったらいいのかしら…」
「お気遣いは不要ですわ。…わたくしは同性の方と、あまり話題が合いませんもの…」

…政治の話や戦争の話ぶっ込むからな…。
大切な事ではあるが、普通のご令嬢たちにとっては場の空気が微妙〜になってしまうのでそもそも上がる事さえない話題。
お嬢様の貴族意識が高すぎるのだ。
…普通のご令嬢たちの意識が低すぎるとも言えるけど。

「そんな事ありませんわ! わたくしローナ様ともっとお話したいと思って、本日お誘いしたんですもの!」
「ヘンリエッタ様…」
「あれですわよね、戦争や政治のお話。…政治のお話はわたくしもそれほど得意というわけではありませんけれど、戦争はもう間もなく……。わたくしたちにはあまりその緊張感が伝わってきませんけれど…他人事では決してありません。…皆、もっと強い覚悟と自覚を持たなければ…」
「! ええ、その通りですわ」

お…おお…?
ヘンリエッタ嬢って、い、意外と考えておられる方…?
入学してから初めてお嬢様とこの話題に触れた令嬢を見たぞ?

「…………」
「あ、あの、お義兄さん…」
「言うな、ルーク、分かってる」

それから楽しげな歓談が続く。
お嬢様がお茶会で同性のご令嬢と楽しそうにお話をされるお姿を目にする日が来ようとは…!
喜んでいる俺の横から不安げなルークの声。
うん、分かってるよ。
俺たちと反対の位置…ヘンリエッタ嬢の後ろに控える4人のメイドのうちの1人がものすごい殺気を放ちながらヘンリエッタ嬢を睨んでいる。
茶髪の1人背の低い子…アンジュ・ケミュトだ。
な、なんだろうな?
前々から主人に対して毒が出る事もままあったが…な、なんだあの圧…。

「っ、…あ、あの、ローナ様…じ、実は戦争のことでご相談がありますの」
「わたくしに?」
「…他の方は信じてくれないのですが、わたくしの夢に女神アミューリアを名乗る方が現れて「エメリエラ様に謁見せよ」とお告げを残されたのですわ」
「は? …うっ!」

…俺も「は?」となったが、お嬢様が俺と同じことを声にしてしまったケリーの足を踏みつけたのが見えて口を結ぶ。
い、いや、うん…ケリーどんまい。

「…守護女神エメリエラ様に…アミューリア様が?」
「は、はい…、…信じて頂け…ま、せんよね〜…」
「…………」

落ち込むヘンリエッタ嬢。
さすがのお嬢様も指を唇に当てて考え込む。
…そりゃ、無理もない。
女神アミューリアがエメリエラにヘンリエッタ嬢を会わせようとしてるって?
な、なんだそりゃー…。

「…………」

もしかして、これってゲーム開始へのフラグかなにかなのか?
ヘンリエッタ嬢が『フィリシティ・カラー』に出てたかどーかは記憶に全くないんだが…、…もしかしたら戦巫女召喚に関わる重大なフラグなのかもしれない。
何言ってんだこの縦巻きロール令嬢、と一蹴するのは簡単だが、俺はこの世界が『フィリシティ・カラー』の世界だと知っている。
そして、戦巫女は今年の冬…『星降りの夜』に召喚されるはず。
戦巫女がいなければ戦争は勝てる見込みがない。
……うん、ここは…ヘンリエッタ嬢を信じてみるのもアリかもしれない…。
でもお嬢様にどうそれを促すべきか…。
俺が後からヘンリエッタ嬢に接触して、エメリエラの宿る魔宝石を持つレオに取り次ぐか?

「…いえ……もしかしたらそれは…『ティターニアの悪戯』の一種かもしれませんわ」
「! ローナ様は『ティターニアの悪戯』をご存知ですの ︎」
「我が家のメイドやスティーブン様が恋愛小説を好まれますので多少の知識は…。…でも、エメリエラ様を見たりお話ししたりすることが出来るのはレオハール様のみと聞きます」
「うっ…、…そ、そうなのですわよね…」

…なんだろう?
ティターニアの悪戯?
恋愛小説によく出てくるネタの一つって感じなのか?

「…あの、ヘンリエッタ様…アミューリア様が現れたのは夢、ですのよね?」
「え、ええ…。けれど、ほぼ毎晩…現れますの」
「まあ…。しかし、それが戦争と関わりありますの?」
「え…ええ! 守護女神エメリエラ様にアミューリア様からお伝えしなければならないことがあるのだとか…!」
「お伝えしなければならないこと…?」
「戦争に関わる事だそうですわ!」
「その内容は分かりませんの?」
「………、…そ、それは…ええと」

急にしどろもどろになるヘンリエッタ嬢。
…うーん…?
フラグ、なのかね?
しかし、ただ単にレオに近付きたいとか、そういう感じだとしたらここで止めとくべきだよな?
それでなくともアイツ、最近結婚せっつかれてるし…。
けど、戦巫女召喚のフラグだったとしたら…むむむ。

「…………義姉様、確かレオハール様はご公務でお休みされているのですよね? 義姉様も明日からは城のお手伝いに上がられるとか」
「え? ええ」
「ヘンリエッタ様にもお時間がある時にお手伝いに来て頂けば良いのでは?」
「……え?」
「……。……そうですわね…。…ヘンリエッタ様、明日からわたくしとヴィンセントは『王誕祭』の準備のお手伝いをする約束をしておりますの。もし宜しければ、ヘンリエッタ様もいらっしゃいませんこと? 1日だけでも構いませんわ」
「……お城の…お手伝いですか?」

成る程!
確かにただ取り次ぎするよりはその方が余程建設的だ。
手伝いの手は増えるし、ヘンリエッタ嬢は堂々と手伝いとしてレオに挨拶へ行ける。
……けど、まさかケリーがヘンリエッタ嬢へ助け舟を出すとは…。

「……そ、そうですわね! 1日くらいならダンスの練習を休んでも…」
「ダンスの練習?」
「あ……」

…ダンスの練習?

「……お、お恥ずかしながら…わたくしダンスが苦手で練習中ですの…。『王誕祭』までにはきちんと踊れるようになりたいのですが…」
「…! …でしたら、うちのケリーを練習相手としてお貸ししますわ」
「…は?」
「はい?」
「…………」

バシッとケリーの背中を叩くお嬢様。
ケリーの表情は「何を仰ってる義姉様」と言わんばかり。
お、お嬢様…さっきの話をまさかまだ……?
心なしかヘンリエッタ嬢も表情が固まってる。

「ダンスの練習でしたらやはりリーダーがいた方が上達も早いはずですわ」
「そ、そ、そ、そ、そぉ…それはそうかもしれませんが…、っ」
「…………、…っ…わ、私で宜しければ練習にお付き合いいたしますよ」

にこり。
ケ、ケリーの満面の笑み。
全身全霊の猫被り…。
お嬢様の前だからだろうが…な、なんという健気な頑張り…!
やばい涙出そう。

「え…! し、し、ししししかしそんなご迷惑ですわ!」
「大丈夫ですわ」

お嬢様 ︎ 何を根拠に ︎
ケリーも生徒会に入っておりますしそれなりに忙しいと思いますが ︎

「良かったですねー、お嬢様〜」
「アンジュ ︎」

あちらからも追撃!
……これは…観念するしかなさそうだなケリー…。

「それと登城についてですが…いつになさいますか? ヘンリエッタ様のご都合の良い日をレオハール様にお伝えしておきますけれど……」
「え、えーと」
「次の土曜日はいかがでしょうか、お嬢様。今のところダンスの練習以外にご予定はございません」
「と、との事なので土曜日にお手伝いに行かせて頂きますわ」
「わかりましたわ、レオハール様にお話ししておきます」
「……あ、ありがとうございますローナ様」

…とりあえず話はまとまったな?
ヘンリエッタ嬢が戦巫女へのフラグなら、これで戦巫女召喚は行われる…?
巫女がいるといないじゃ大違いだからな〜……頼む、来てくれ巫女殿!





その後は和やかに政治だの戦争の語り合いをお嬢様とヘンリエッタ嬢がしているのを眺め、穏やかにお茶会は終わった。
ヘンリエッタ嬢にお嬢様が去り際「わたくしも今度お茶会を主催してみたいと思っておりますの。その際は、ヘンリエッタ様をお呼びしてもよろしいですか?」「はい是非!」…という会話があったのでこれはあれだろう…。

お嬢様に同性のお友達が出来た!

パンパカパーン!
鳴り響くファンファーレ!
おめでとうございますお嬢様 ︎
長かった…お嬢様に同性のお友達が出来る気配もなく、それどころか悪い噂ばかり流されより敬遠されて…!
…同性のお友達……スティーブン様は……?
い、いや、スティーブン様は同性のお友達にカテゴライズしていいのか分からないのでとりあえず同じ“令嬢友達”が出来た事を喜ぼう!

「はぁ……」
「だ、大丈夫ですかケリーさま…」
「そういえばお前あの時なんで助け舟なんて出したんだよ?」

お嬢様を女子寮にお見送りしてからの帰り道。
ケリーが鬱々とした表情で頭を抱えているので声をかけた。
さっきの茶会の最中、ケリーがヘンリエッタ嬢に助け船を出してダンスの練習に付き合う流れになったのだ。
こいつもそれなりに忙しい。
多分、後悔しているんだろう。

「……まぁ、話の内容はアホみたいだったけど…」

ティターニアの悪戯がどうとか言ってたもんな。
普通に考えてありえない。
恋愛小説によく出てくるもの、なんだろう?
俺よく知らないけど。

「…この間、図書館で見かけた時に『ティターニアの悪戯』という本を手に取っていたんだよ。あの場だけの嘘ならあんなもの普通、読もうとしないだろ」
「え? まさかティターニアの悪戯とかいうの信じたのか?」
「信じたというか……義姉様には敵意や下心はなさそうだったからな……まぁ、上手くすれば駒の一つくらいにはなるかと…………」
「ケリー?」
「なんでもない」

今とても不穏な単語が聞こえたような?
お嬢様のお友達にこいつは何を…。
報告案件か?

「でもそれと俺があの女とダンスの練習するのは話が別なんだよ…!」
「…それは…どんまい」
「ど、どんまいです、ケリーさま…」
「くそう!」




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