うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。

古森きり【Twitter@2kag5fb1】

亜人の武器とライナス様の使用人探し



さて。


「誕生日なのに悪いな、付き合わせて」
「いや? 俺も亜人の武器には興味があったからな。むしろこんな大人数で行って大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないか? さすがにレオは目立つし仕事があるから連れてこられなかったけど…っと」

プリンシパル区から城下町との間くらいにある酒場が多い区画。
この酒場と雑貨屋の間を通り、家と家の隙間にある木箱を登り屋根に上がる。
俺の後ろをライナス様とエディンがひょいひょいと付いてくるのだが、この二人は俺が誘った。
朝にレオと話していた内容をクレイに聞きに行くためだ。
最初は俺だけで行くつもりだったのだが、ライナス様が自分の使用人は自分で募集したいと言うのでご一緒する事になり……エディンは興味本位。
まあ、2人の身体能力ならこの道のりも余裕だろう。
赤い屋根を風見鶏のついた屋根の方向へ進む。
この下の古井戸の中…。

「待て」
「!」

響くような声に屋根の上に音もなく現れた黒い影。
薄汚れた黒いマント。
ダークグレーの髪と瞳。
右側は長い前髪で隠れ、薄い唇は笑みを浮かべている。

「ニコライ、何の用だよ」
「ここから先は紹介状が必要です」
「え、俺はそんなの…」
「貴方は最初からセレナード氏に紹介状を頂いていましたから」
「…………」

さすが義父さん…。

「じゃあこのお2人は俺の紹介って事で…」
「こちらで精査します。ご足労頂いて申し訳ないですが、ヴィンセントさん以外は後日またお越しください」
「おう…」

さすが亜人の住処…。
厳しい…。

「なら質問だけで構わん。どのみち俺は興味本位。ベックフォードは付き合いだからな」
「質問?」
「ああ、質問があったんだけど」
「それならヴィンセントさんがワタクシを呼び出してくだされば早かったのでは?」
「? お前を? どうやって?」

出来ればお前とは関わりたくないんだけど。
仕事モードじゃないと気味悪いんだもん。

「…………」

俺の返答にキョトンとしたニコライ。
そしてごそごそマントの下をもぞつかせて、一つの木笛を取り出す。
なにあれ、犬の躾とかに使いそうな小さな笛だな?

「お渡ししておくのを忘れていましたね」
「え…」

にたり、と笑う…笑顔の不気味さよ…。

「フフフ…すみません…。以前クレイ様が言っていたでしょう? 2回目以降は担当の者が付くと。担当の者が各々のやり方で連絡を取り合うようにすれば、事務所にわざわざ毎回足を運んでいただかなくてもいいのですよ」
「あー、そういえばそんなような事を…言ってたな?」
「ワタクシの場合はこの木笛を吹いて頂ければ馳せ参じます。ワタクシにしか聞こえない音域しか出ませんので、気付かれる事はなくワタクシをお呼び頂けますよ…フフフフフ…」

はい、と手渡された人差し指サイズの木の笛。
こ、こんな便利なものがあったなら……、…い、いや、もうなにも言うまい。

「それで、ご質問というのは…?」
「亜人の武器って人間のより頑丈なのか?」
「………。意図をお伺いしても?」
「レオハール王子が『代理戦争』で使う物を国中の鍛冶師が鍛えているんだが、どれも王子の力に耐えられない。以前星降りの夜にクレイが使っていた剣は、王子と同じだけの力を使っても壊れていなかったよな? だから亜人たちの使う物は頑丈なんじゃないかと…」
「…………」

思案顔のニコライ。
まあ、だからなんだって感じなんだろうけど、本題はここからなんだ。

「もしそうなら、『代理戦争』で王子が使う物をお前たちの技術で鍛えられないか?」
「は?」
「作れるのなら大々的に『代理戦争で王子の武器を鍛える者』として、その者を城に招きたいそうだ。最初は居心地悪いだろうが、悪い話ではないはず。…どうだ、クレイに伝えておいてくれないか?」
「…………。…すみません、ワタクシはそこまで学がある方ではありません…。それを行う事で我々にどのような利益があるのでしょう…?」
「そうだな、まずは亜人たちの存在が貴族に周知される。それも『王子の武器を鍛える者』として。王子が使える武器を作るのは名誉な事だろう? 貴族たちも文句は言えない立場って事だ」
「まあ、文句は出るだろう。だが、だから自分たちの方で王子が使っても壊れない剣を差し出せるのかと言われればそれは無理だ。…現時点でマイスターの称号を与えられた鍛冶師ですらレオが使っても壊れない剣は鍛えられなかったからな…」
「貴殿らが『王子が振るっても壊れない剣』を作れるのであれば、貴殿らの同族が町を堂々と出歩いても…民もなにも言わないはずだ。何しろ『王命で王子の武器を鍛えている』のだからな。無論、最初は奇異の目で見られる事だろう。しかし『王子が振るっても壊れない剣』が完成した暁には民の目も変わるはず」
「…………」

ますます難しい表情になる。
うーん、難しかったか?

「えっと、つまり……」
「いえ、少し理解はしました。…後ろのお二方も我々のことはご存知でここにいらしたと」
「え、気になってたのそっちか?」
「失礼。しかし死活問題なのですよ」
「構わん。疑われても致し方あるまい。そう差別してきたのは我々だからな」
「ああ、だが個人的にはレオハール王子の意向を俺たちも支持している。戦争には勝ちたいのでな」
「………」

更にライナス様は「本来なら公爵家の俺が土地の提供も視野に動きたいのだが…ノース区は人間が住むのもやっとな地域だからな…」と腕を組む。
確かに寒すぎるのは生き物にとって過ごし易い場所とは言えないよな。

「……分かりました、長には伝えましょう。しかし…鍛冶職人のリーダーは人嫌いですからね…」
「まあ、話はしてみてくれ。とりあえず出来るか出来ないかくらいは教えてほしい」
「…おや、それは…交渉の優位性がこちらにあると仰っているようなものですね? フフフ…」
「まあ、王子の命を預けるものだからな」
「……」

ニコライのニヤニヤ顔に、俺が「え、またやっちゃった?」と心配したのも束の間。
エディンが真顔で付け加える。
まるで本当に優位性は亜人たちにあるかのような言い方…。
そんな勝手に…いいのか?

「分かりました。では、返答は後日お届けします」
「あ、ああ、頼む」

丁寧に頭を下げるニコライ。
すぐにその場から消える。
俺たちも屋根を飛び降りて酒屋の横の通路に戻った。
…とりあえず次はライナス様の使用人探しだなー…。

「あの男は星降りの夜に城にいた亜人か?」
「ああ、吸血蝙蝠の亜人だそうだ」
「吸血蝙蝠? …では飛べるのだろうか?」
「さ、さあ? 飛べるんじゃないんですか?」

あのマントの下は俺も見たことがないから、なんとも言えない。
…というか、クレイに会えなかったのは少し残念だ。
メグのことも聞きたかったんだが…。
うちのお嬢様のメイドになる話の真相を…!

「さてと、じゃあ次はベックフォードの使用人探しだな」
「うう、すまん2人共」
「いや? 無理に豪雪地帯から使用人を連れてくるより現地調達の方が効率がいいと思うぜ? まあ、探すなら去年の時点でやってるべきだけどな」
「ですね」
「返す言葉もない」

実は義父さんに教えてもらった求職場はこの側なんだよな。
えーと、酒場から東に進み…右の酒屋の隣。
どんだけ酒飲むところがあるんだここ…。
いや、酒屋は酒を売ってるところで飲むところじゃねーけど。

「ここですね、求職場」
「ここで条件を提示しておけば見合う者を探してくれるというわけか」
「2、3人は確保しておいた方がいいんじゃないか?」
「そ、そうだな」

木の扉を開くと、思ったより狭い……いや狭!
狭すぎるだろ!
畳一畳分しかないぞ!
せっま ︎

「いらっしゃいませ」
「あ、あの、リース家、セレナードに紹介をされて来た者なのですが…求人を出したくて」
「求人ね、そこの紙に条件を書いて出してくださいな」

俺たちが入ると既にぎゅうぎゅうな…ワンルーム。
それでなくとも狭いのに、机や本棚が右側にあるもんだから余計に狭い。
カウンターにはお上品だがどことなくやる気の感じられないおばさんが座っており、机を指差す。
ライナス様がアワアワしながら机の上の紙を一枚取り出して、ペンを持つ。
そして、ふと、紙の上に目を留めて呟く。

「…………、……ここはアミューリアの管轄なのか」
「そうですよ。学生さんは学内にある派出所をご利用になるからあんまり来られませんけどね」
「え、派出所が学内にあるのか?」
「ええ。でもあっちは仕事を探してる人の紹介までは出来ないから、信頼できる使用人をお探しの方はこちらに来られますね」
「そうなのか……」

へー、あっちは求人を出すだけか。
俺もお嬢様のお世話ができるメイドの条件、こちらから払える給金などを出来るだけ細かく書いて受付嬢……うん、受付嬢って事で……渡す。

「はい、受け付けました。…この条件に当てはまる方を今探すことも出来ますが」
「本当か?」
「ええ。少々お待ちください」

とおば、…受付嬢がとんでもなく分厚い本のような紙の束をドゴンとカウンター内のテーブルへと持ってくる。
す、座ったままあの厚みの冊子を…片手で…?
馬鹿な…帽子は被ってないけど亜人か何かじゃないのかこのおばさん…いや受付嬢…。

「おばさーん」

エディンの後ろから元気のいい声。
からんからんとベルが鳴り、若い男が入って……。

「うわ! お客がいた!」

……入っては、来れなかった。
狭いので。

「あら、アメル。どうかしたの?」
「あ、いや、後でいいよ。お客さん来てたんだね、ごめんなさい」
「そう? 悪いわね……あ、待ってアメル、ちょうど良かったわ」
「?」

アメル、という青年は黒と金の混色の髪と暗い金の瞳。
あ、れ? なんだ?
少し垂れたような目元…既視感……?
初めて会った気がしない……。
受付嬢に呼び止められて、また振り返ると余計に…。

「こちらの貴族のお坊ちゃんが使用人を探しているそうなの。条件は家事と身の回りのお世話、そしてある程度の身体能力、最低限の文字の読み書き…。期限は卒業まで。経験と年齢は不問だそうよ。確か、アメルも使用人の求人は探してたわよね?」
「はい! え、本当ですか ︎ 自分、使用人の経験はないんですけど!」
「ああ、在学中のみで申し訳ないのだが…」
「とんでもありません。俺、いや自分は母がこの町にいるので、町からは離れたくなくて…けど、使用人になれば文字の読み書きがもっと勉強出来るはずだし…あ、これは自分の事情でしたね、すみません! ここで巡り会えたのもご縁ですし、年齢、経験不問なら自分を雇って頂けませんか! 自分はアメルといいます! 歳は今年で二十歳になりました!」
「運動はどのくらいできるだろうか?」
「体力には自信がありますよ! 酒場で重い酒樽毎日運んでますから!」
「ふむ…、身のこなしは?」
「身のこなし?」

…途中まではまともな感じだったんだが、さすがに「身のこなし」と聞いて怪訝な表情になるアメルという人物。
そりゃそうだ。
しかし一歩下がり、道の左右を確認すると……。

「ほっ!」

華麗なるバク転。
更に宙返り。
お、おお…?

「おお! 身軽だな!」
「こんな感じですか?」
「……普通の市民、だよな?」
「え! …あ、は、はい…?」
「いや、すまない。見事な身のこなしだったからな。ええと、アメルといったか。俺はノース区公爵家、ライナス・ベックフォードという。どうだろう、在学中だけ俺の使用人になってはくれないか?」
「え! ほ、本当にいいんですか ︎ 本当に ︎ わ、わあ…こんな事あるんですね…! 是非お願いします!」
「では、使用人宿舎の方に引っ越して……ええと、ヴィンセント…」
「はいはい」

手続きとか諸々の事ですね。
最初から使用人を連れてきていないから知らないのだろう。
ついでに、この手の手続きは執事が行うものだしな。

「ヴィンセント…さん?」
「はい、私はリース伯爵家の執事家、セレナード家のヴィンセントと申します。一応『記憶持ち』ですのでアミューリア学園に通っておりますが、身分的には使用人ですので分からないことは気軽に聞いてください。……あまり使用人宿舎にはいませんが」
「! ……そうか、助かるよ!」


なんか、やけに嬉しそうな…。
人懐こい人なのかな?

「まずはご家族にお話をして、宿舎の方に引っ越しの手続きを行って頂きます。その後ベックフォード家との契約手続きですね。在学中のみの使用人契約になりますので、そこはご注意下さい」
「はい!」
「本来はベックフォード家の執事家の方が行う事ですが、代理として俺が行いますが大丈夫ですか? ライナス様」
「頼む。俺では全然分からん」
「分かりました。では、必要な書類は作っておきますね。ベックフォード家への連絡の方も俺の方で行います。この辺りはライナス様からも一筆いただきますよ?」
「ああ、そうだな」
「ですがまずは引っ越しです。いつ頃来られそうですか?」
「ええと、母さんに話をして…荷物を用意して…あ、どんなものが必要になりますかね?」
「最低限の着替えと日用品でしょうか。足りなければ休日にライナス様に断りを入れて取りに行って下さい」
「成る程! では、明日中には!」
「分かりました、お待ちしています」
「宜しく頼むアメル」
「はい!」


……こうしてライナス様に使用人が出来た。
いやあ、本っっっ当に良かった…!



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