うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。

古森きり【Twitter@2kag5fb1】

サバイバルゲーム【後編】



金属ならば火花を散らしていただろう接触。
パワーでは敵わないので、相手の力を逃しつつ距離を詰める。
丘は芝生。
靴が僅かに滑る。
ハミュエラが適当に選んで持ってきた細身の木剣はいつも俺が使っている物より、やや短い。
俺の持つ刀『鈴緒丸』はこれよりも10センチばかり長いので、俺はいつも切れ味の良すぎる『鈴緒丸』の代わりにそれに近い形の木剣を使っている。
とは言え木剣と刀では重さも形も随分違う。
この世界に木刀があればまた練習内容も変わっていたのだろうが、あいにくそんな都合のいいものはない。
だから木剣、あるいは重さの近い鉄剣で『鈴緒丸』の“使い方”を“思い出す”事に重きを置いた1年だっだと言える。
そして、ライナス様とエディンはそれに付き合ってくれた。
エディンは弓技場に行くこともあったので、俺に付き合ってくれたのはそのほとんどがこの人と言えるだろう。
だから、とても感謝しているし…俺もこの人の“思い出す”事に協力出来ていたなら誇らしい。
だが、そういう理由があるからこそ……俺とこの人は互いに“癖”を理解している。

「はあ!」

右が利き手である為、パワーバランスは右側が少し強め。
一撃目をいなした後は斜めからの突き上げ。
それは紙一重で避けられる。
が、避けた直後に急角度で振り下ろして来るので後ろに跳ぶ。
僅かに距離を取り、抜刀術で俺が仕掛ければ向こうも予期していたのだろう…左足を後ろに下げ、腰を捻って寸前で避ける。

「…っ」

やばい、さすがライナス様。
ああ、楽しい。

「どうした? 小手調べは不要だぞ」

下げた左足を軸に、避けた勢いを上手く利用して体を回転させるとライナス様の両手に握られた剣は俺の脳天に振り下ろされた。
抜刀術で僅かに詰めた距離は、一瞬で詰められる。
だが、残念。

「!」
「おや、お気付きではなかったと?」
「………そうだったな。いつも使っている長さではなかった」

ハミュエラが適当に選んできた木剣。
俺だけでなくライナス様もいつもより一回り小さい。
残念だ、いつもの長さなら届いていたかもしれないな。
なので、俺の突き技もあっさり後ろに跳ばれて避けられる。
いや、これは想定内。
踏み込んで…いつもより踏み込んで手首を狙う。
出来れば剣を落として…。

「!」

は?
ケリー?
ライナス様の下がった方向の木の真後ろにケリーの姿。

「そういうことか」

ライナス様が呟くと、俺に背を向けてケリーへと吹っ飛んで行くライナス様。
やばい、バレた。
早いなバレるの!

「忘れていた。勝利条件は倒す事だけではなかったな」
「っ!」
「ケリー!」

あ、と思った瞬間には首に切っ先を押し付けられるケリー。
や、やられるの速い!
弱い! 弱いぞケリー!

「ま、参りました」
「……」
「ひぃ!」

そしてルークも見つかった!
ケリーが負けを宣言した直後、すぐに方向転換して更に奥にいたルークをロックオンされてしまう。
あ、これは作戦失敗だな。
走って追いかけるが、間に合わない。

「ま、参りました〜」
「……」

ルークの悲鳴じみた降参の声。
ケリーの苦い表情。
見誤ったのは仕方ないさ、ケリー。
次回気を付けよう。

「さあ、これで正真正銘、一騎打ちだ! ヴィンセント!」
「その様ですね!」

へたり込んで木剣を放るケリーとルーク。
俺とライナス様の一騎打ちに、お宝の行方は託された。
飛ぶ様に距離を一気に詰めて来るライナス様。
真正面から迎へ撃つにはパワーが足りないな。
とは言え避けれない逃げの一手になる。
ので、ここは!

「!」

抜刀術で迎え撃つ。
いつもより剣は短い。
引き付ける距離を誤れば負ける。


ーーーここだ!


「ぬぅ!」
「っ ︎」


バリィ ︎


「あ」
「あ」

ぼと。
…と、無残に落ちる木剣……の残骸。
手元に残ったのは柄より僅かに上を残す木剣……の残骸。

「……や、やってしまった…」
「し、しまった、ついいつもの癖で…」

ライナス様と顔を見合わせる。
乾いた笑いが浮かぶが…あまり笑えた状況では…ないな。

「…また剣技担当のケルーシャ先生に怒られる」
「いや、でも……、…いえ、諦めて謝りましょう」
「そ、そうだな…」

木剣は久しぶりだったからー、とか、力の加減を間違えてー、とか…何度言った事だろう。
鉄剣ならこんな事もなかったんだが…。

「ぼ、木剣が吹っ飛んだ…?」
「はわわわわわわわ…」
「こういう場合どうするんですかね?」
「うーむ…アルトに聞いてみるか」
「そうですね。ケリー様、ルーク、一度戻りましょう」

何腰抜かしてるみたいに座り込んでるんだ。
あ、とりあえず破片は拾っておかないとな。

「…ま、待て、ヴィニー…! 木剣……が?」
「え? ああ…“少々”本気になり過ぎましたね」
「ああ、木剣だっだのを忘れて“少し”力を込め過ぎてしまったな。気を付けなければならなかったのに…」
「まあ、俺も熱くなり過ぎました。…ふう、思ったより汗もかいてしまいましたね…。ドローと言うことにしてシャワーを浴びてから帰りませんか?」
「そうだな、その方が恨みっこなしだろう。よし、俺はクッキーを持ってから中央に戻る」
「あ、では俺も取りに行って参ります」
「……、……あ、あの、じゃあ、ぼ、ぼくも…」

自分たちの力が常人のそれではない事を、たまに忘れる。
その点レオは常に意識して生活している様だから本当にすごいと思う。
はー…せっかくいいところだったのに…。

「ヴィンセント、明日、今日の続きを剣技場でやらないか?」
「良いですね、是非」

あ、やっぱりライナス様も不完全燃焼か。

「…ケルーシャ先生に謝るついでにだな」
「そうですね…」

ああ、すみませんケルーシャ先生…これで十五本目かな…?
悪気はないんです、ほんとです…。
俺の場合、鉄剣も一本やらかしてるのでよりすいません。

「も、木剣って割れるのか?」

一度北エリアの花壇に戻る俺に、ケリーが付いてきてそれはもう変な顔で聞いてくる。
が、割れるのかも何も割れたとこ見ただろう。

「そうなんだ、力が入り過ぎるとポッキリと言うか…バリッとな」

あれだ、腐って倒木した時みたいな音がするんだ。
いや、アイス棒を折った時みたいな音の方が分かりやすいか?

「わ、割れるか普通」
「うーん、でもレオは鉄剣をぶち壊したことあるしな…」
「は、はあ?」

それも騎士団で正式採用されている鉄剣をだ。
あれだ、星降りの夜参照って事で。
…そういえばあの時、クレイの剣は全然ビクともしていなかったな?
騎士団で正式採用されている鉄剣は、レオの力に耐えられずグシャってなってたのに。
…鉄剣真っ二つにした事ある俺が言うのも何ですけど。
戦争の時に…俺は『鈴緒丸』を持ってくるつもりだが、レオは騎士団の剣にするのか?
脆くねぇ?

「さて、戻りますか」

花壇エリア。
そこに隠した二つのお宝を手に、ケリーに向き直る。
相変わらず不機嫌そうな表情のケリー。
なんだ?

「ケリー?」
「…なんで……こんなに差が出来てるんだよ…」
「は?」
「入学前は、お前、俺と大して変わらなかっただろう! 剣の腕!」
「そう……だったな?」

そういえば、まあ。
……確かに、結構力も付いたし“思い出す”事も出来たからケリーよりは強くなっているかもな?
でも、そんなの別に…。

「お前もこれから“思い出して”いけばいいだろう?」
「無理だ、俺は。…自分の『記憶継承』の発現が弱いのは分かってる…!」
「……ケリー…?」

こいつがこんな風に弱音を吐くなんて…。
……、……そりゃ…でも、俺だって…。

「……違う…ほんとは…、…お前は…、……、……っ」
「っ…」
「…………。……いや、なんでもねーや…忘れろ…」
「待て」
「いい! 分かってる!」
「…ケリー!」

腕を掴む。
それは、確かに…。
お前は元を辿れば…あまり『記憶継承』が強く発現する事のない男爵家の出なんだろうが…!

「…分かってる、差が出るのは仕方ない。義父様も努力で最低限補えばいいと言ってくれた。あの家の跡取りとして必要なのは思想だ。リース家の理念を継ぐのが俺の役目だ! …だから……分かってるから大丈夫だ」
「…………」
「それに、お前だって努力はしてるしな…、…普通の倍、いや何倍も努力すりゃいい事だ。…だから、大丈夫…。悪い、少し…………混乱しただけだ…驚いて…、…それだけだから……」
「……。……何か、手伝える事があれば言えよ…? 俺は…リース家の執事見習いなんだから」
「…………当たり前だ、一生こき使ってやる」

手を離す。
少し……俺も調子に乗ってたのかもしれない。
ケリーがいつも通りだったから、忘れていたけれど…。
こいつは本当によく努力してきた。
剣も、勉強も。
厩舎の動物の世話も、農園や薬草園や果樹園の世話も。
それを間近で見て俺も努力出来たと思う。
1年…たった1年のはずなのにな。
言いたくなかっただろう。
俺が、傷付くと思って飲み込んだのは分かったよ。
別に傷付いたりはしてないから良いんだけど、突き付けられた気はした。

ーーー俺は、王族の血筋だから……か。

…チッ、なんで『クレースの恩恵』は奪ったり、剥奪したりなんだ。
与える力の方が欲しかった。
どうして王家の血筋に近くなければ強く発現しない。
…嫌だな、こんな……こんな事なら本当に、ずっと……自分の出世なんて知らないままの方が良かった。

「………………少し頭を冷やしてくる」
「は? あ、おい、ヴィニー? こら!」
「汗かいてるんだ、顔だけ洗ってくる」
「マジで気にするなよ… ︎」
「分かってるよ」

お嬢様とスティーブン様のクッキーはケリーに預けて、南校舎近くの小さなポンプ井戸に向かう。
…はぁ…ケリー…気にするなとか、良い子か。
いや、良い子だな。
ポンプを押すと、少しして水が出始まる。
今更だがなかなかにしっとりしているのに気が付いてシャツを脱ぐ。
ハンカチを濡らして……身体を拭いてさっぱりしたい。
あ、濡れハンカチ気持ちいいーーーー。


「?」


視線?
髪をたくし上げつつ、その方向を見る。
あれは…あの見事な金髪縦巻きロールはヘンリエッタ嬢じゃないか。
どうしたんだこっちを見て固まって…………、…………俺の格好か ︎
や、ヤバイヤバイ、良家のご令嬢の前で上半身半裸は……。

バターン!

バターン ︎
音に驚いてワイシャツを握ったままヘンリエッタ嬢の立っていた場所を見ると…た、た、た、倒れてらっしゃるーー ︎

「きゃ、きゃあああ! ヘンリエッタ様〜!」

そしてすぐさま取り巻きのご友人たちに発見されたぁぁぁ!
ヤバい、ヤバい。
大慌てでシャツを着て、駆け寄る。

「ヘンリエッタ様!」
「まあ、ヴィンセント様! へ、ヘンリエッタ様が! ヘンリエッタ様が倒れてしまったのです!」
「は、はい! とにかく、まずは日陰に……」

今日は大分暖かいし、熱中症かもしれない。
……いや、熱中症であれば、いいな〜……みたいな。
…う、うわあ…とんだところを見られた。
ヤバい! 絶対起きたら文句言われる!
淑女のいる前で半裸になるなんてはしたないとかなんとか…いえ、その通りです。
いらっしゃるのに気付かなかった俺が悪いです、はい!

「ヘンリエッタ様! ヘンリエッタ様! しっかりしてださい!」
「ヘンリエッタ様!」
「う…」
「だめだ、完全に伸びてる…」
「ヴィンセント様、ヘンリエッタ様を運ぶのをお手伝いくださいませんか ︎」
「は、はい、分かりました」


……木剣は折るし、ケリーは凹ませてしまうし、ヘンリエッタ嬢をぶっ倒れさせてしまうし……なんて日だ〜〜っ!




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