うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。

古森きり【Twitter@2kag5fb1】

サバイバルゲーム【中編】



「…………」

腕を組んで一向に動かないケリーを見るアルト。
俺は花壇のある北方向へ移動した…と見せかけて一度中央の噴水広場に戻る。

「で、このあとどう動くんだ?」
「ハミュエラの動きが分からない。ルークは唯一義姉様のクッキーを持っている。万に一つを考えてヤツは死守だ」
「ああ」
「ライナス様とお前ならどっちが強い?」
「技術面なら……。でもやはりパワー負けするからな…今のところマジで勝負して半々…」
「なら普通にぶつかるのは避けたいな。よし、ハミュエラをぶつける。お前がハミュエラを誘導してライナス様にぶつけろ」
「……。……うちのケリーが腹黒い…」
「やかましい。全ては…」
「お嬢様の手作りクッキーの為に…!」

「…………………………」

アルトの微妙に引いたような表情には気付いていたが、俺とケリーは至ってマジだ。
このゲームはお宝を奪うのがルール。
ならば、どんな手を使っても奪う。

「では俺はそう動く。お前は?」
「あ? 決まってんだろ、どっちか残った方を二人で潰すんだよ」
「……うちのケリーが…」
「それはもういいっつの!」
「分かった。じゃあそういう事で」
「ああ」
「あ、執事」
「はい、アルト様?」
「ちゃんと自分の陣地にお宝を隠して動けよ。持ち歩くのはルール違反だ」
「あ、そうですね。ありがとうございます」

ハミュエラが向かったのは南西。
ベンチのある方か、丘の方か。
丘にはライナス様がいる。
ぶつかっていて欲しい気もするが、ルークの方に移動されてても困る。
まあ、まずはお宝を隠す、だな…アルトに注意されたし。
……アルトのやつ、人間嫌いの設定マジでどこ行った。
普通に審判役だし…良い子かな?

「えーと、とりあえずここでいいか」

北方面。
花壇にクッキーを隠す。
つーか、結構凄いな?
花壇で迷路が作られてる。
え、こんな場所あったんだスゲ。
色とりどり…そして多種多様な花々が咲き乱れる花壇エリア。
これは素晴らしい、庭師いい仕事してる!
今度お嬢様をお連れしよう、絶対に喜んでくださる。
お嬢様のお好きな薔薇は薔薇園という専用の庭があるから…それ以外の花を楽しむ場所なんだろう。
薔薇の中のお嬢様もお美しいが、こういうポピュラーな花々もお嬢様にはお似合いになるからな……。

「…………」

花か。
俺も花についてはもう少し勉強してもいいかもな。
種類はなんとなく分かるが、育て方はよく知らない。
その辺はマーシャの方が詳しい…悔しいが。
っていうかそんな場合じゃねぇ!
ハミュエラを探さないと…。
東の森林にガゼボ、西にベンチ、南に丘、北に花壇…。
ルークが居るのは東側。
一応ルークのところに寄って無事を確認する。
遠目から、ガゼボの中で蹲って…あれは多分隠れてるんだろう…。
無事、か。
じゃあハミュエラは…?

「っ!」
「にゃはーん! 執事のオニーサマ発見発見大発け〜ん! あっそんっで、くっださーい!」

に、忍者!
と、思ったらハミュエラ!
木々を飛び回り、上から襲いかかってきた!
ちょ、ここ東…!
南西に行ったと思ったら…。

「…………」

咄嗟に剣を差し出したので、ほぼ真上からの一太刀は押し返せた。
パワーは俺の方があるらしい。
だが、押し返した勢いをそのままにハミュエラは大きく回転して木の枝にぶら下がる。
さ、猿か!

「わあ! 執事のオニーサマ思ったよりパワータイプですね! 最初は剣があんまり得意じゃなさそうなルクたんかケリーを狙ってたので予想外に面白くなりましたよ! 遊びましょう遊びましょう!」
「…いえいえ、ライナス様には敵いませんよ…」

パワーでは。
…それよりも、コイツ……剣技の得意じゃないルークとケリーを探してたのか。
あっぶね…ガゼボのところにはルークが居る。
アイツは死守。
そしてケリーも剣技が弱いわけではない。
とはいえ、ライナス様と俺と比べればケリーはそこまで剣技が得意という訳ではないだろう。
狙い目としては間違っていないと言える。
剣技の実力を順位化するなら2年生の俺とライナス様は同率ぐらいだろうからな…。
1年生のハミュエラからすれば、ぶつかるのは後にしておきたいはず。
そして、この猿みたいな身のこなしからすると…自分の得意エリアに誘い込んでおきたい…と考えるのが定石か。
まんまとハミュエラの得意エリアに入り込んだ俺は予想外に釣れた大物って感じかな?
細身の木剣。
俺の得意な刀に比べれば長さが些か足りないが…あれだと森林の中では動き辛い。
このくらいがベスト。

「遭遇してしまった以上お相手お願い致しますよ、ハミュエラ様」
「もちのろんろんでーす! 遊びましょう! 執事のオニーサマ!」

また木の枝を鉄棒のように軸にして回転するハミュエラ。
ど、どーゆー身体能力だよ、本当!
その勢いを借りて今度は横からの一撃。

「っ…」

お、重い…!
回転による反動が威力増加になっているのか。
こ、このガキ…。
マジで踏ん張りがきかない!

「……」

ケリーの作戦ではハミュエラをライナス様に当てて共倒れ、もしくは勝った方を俺と二人で袋の予定だ。
だが、ケリーよ…俺たちは少々計算違いをしていたかもしれないぜ。

「にゃっはほーい!」

縦横無尽に木々の隙間を…いや、幹と幹を駆け回る破天荒っぷり!
さ、猿だ…猿がいる!
どこから攻撃してくるか分からない。
なにコイツ、マジジャングルの王者か何かか ︎
クソ…方向が分からなくなってる…ライナス様のいる南はどっちだ…?
下手に移動してルークやケリーの方向に進んでしまうのはまずい。
……となると…。

「……」

ケリーすまん。
ハミュエラはここで俺が潰す。

「!」

剣を構える。
息を少し整えて、目だけでハミュエラの姿を追う。
後ろに回り込まれたら音を聞いて前に回ってくるのを待つ。
……来る。

「うぉっそぉ!」

また真後ろに回り込み、脳天狙って来るとかコイツ卑怯か?
振り向きざまに木剣を受け止め、回し込むようにハミュエラの木剣を捻り落とす。
勢いごと削がれたハミュエラがバランスを崩して左手で地面を押し、また飛び上がって回転、距離を取って着地する。
…忍者かコイツは…。

「あにゃ」

だが、これで許すわけもなく。
剣を落とし、着地したところに木剣を突き付けた。
普通の勝負ならこれで終わりだ。

「……、……ま、負けました〜…」
「では、お宝を頂きますね」
「は、はぁい」

ふ、ふふふ。
よっしゃあああぁ!
お嬢様の手作りクッキーゲットァァァー!

「うう〜、執事のオニーサマ鬼強〜! 反則レベルだよぉ〜! 後ろから狙ったのに〜」
「相手が俺でよかったですね、ハミュエラ様。ライナス様ならブチ切れられますよ、あの戦法」

あの人はザ・騎士道精神! …なお方だ。
人を後ろから襲うなんて真似絶対に許さないぞ。

「さて、それではお宝を頂きましょうか?」
「はーい」

という事でハミュエラの隠したお宝を取りに行く。
ガゼボの辺りの木の上に登り、包装されたクッキーを不本意そ〜うに取ってくるハミュエラ。
……猿かよ。

「ルクたんと勝負はしないのですかー?」
「うーん、アイツは後回しですかね」

とりあえずケリーの所に戻るか。
スティーブン様お手製クッキーは隠して来たが、ハミュエラに「お宝は隠すのがルールですよぉ〜」と注意されてしまったので仕方なくお嬢様お手製クッキーも花壇に隠しに行くことにした。
ただ、負けたハミュエラはそのまま中央の噴水広場に向かったけど。

「これでよし」

花壇の中、葉の多い所にクッキーを隠す。
なんとなーく、包装されているとはいえ食べ物を土の上に隠すのは衛生面的に気が引けるのでハンカチで包んで。
だってお嬢様のお手製だぞ。
このくらいするさ!
本当なら神棚に安置したいくらいだが、そんなのないしな!
…まぁ、そういうわけで隠し場所としてはかなり分かり易い場所だろう。
しかし、結構広い花壇だし大丈夫だろ、多分。
因みにお嬢様とスティーブン様お手製クッキーはチューリップの花壇の中央付近。
迷路みたいになってるし…いやまあ、膝下程度の花壇だから迷路って言えるのか微妙だけど。



「という感じでハミュエラ様はうっかり撃破してしまいました」
「うっかりで撃破されましたー!」
「怪我をしてないようだが…あまり無茶するなバカ」

中央に行くとケリーの横でアルトがハミュエラの全身をチェック中だった。
いつの間にか噴水の縁には救急箱とタオルが重ねられている。
……アルトマジ保護者…。

「という事は義姉様のクッキーは…」
「ルールですから隠してきましたよ」
「ん。 ……となるとやはり強敵はライナス様か。3人で攻めればなんとかなるか?」
「…3対1ですか?」

えー、ライナス様相手に3人で同時攻めだと?
ケリーが勝つ為に手段を選ばない子になってる…そんな子に育てた覚えはないのだが…。

「そもそもケリー様とルークの実力次第ですけど…」
「まあ、俺もルークもそんなに剣技は得意ではないな…」

ルークはそもそも習い始めたばかりの初心者だし、ケリーの『記憶継承』は剣技に関してそこまで強く現れてはいなかったもんな。
まあ、ケリーは発現そのものが弱いというのもあるのだろう。
そこは努力でなかなかに『伯爵家』のレベルまで到達してはいるが、相手は公爵家ご子息。
その上、騎士志望のライナス様。
剣技だけならエディンと同等。
パワーだけなら俺やエディンでも…。

「なら無理ですね。あの人パワーもさる事ながら剣技もエディン並ですから」

エディンは弓技もやってるから、剣技一筋のライナス様はお世辞抜きで強いんだよ。
中途半端な実力はあっという間に地面の上だぞ。

「さ、3対1でもか?」
「やってみますか?」
「………お前勝てるんだろうな?」
「さあ…? けれどこうなると、正面突破しかありませんよね?」

わざわざ嘘や小細工の苦手なライナス様を見晴らしのいい丘エリアに誘ったのは…お前だケリーよ。
それとも他に何か小細工仕掛けてあるのか?

「……ダモンズ様を嗾(けしか)けていてもライナス様が勝っていたと?」
「俺に負けるようならあの人には勝てませんね」
「え、俺っちショック〜。あっさり敗北確定情報〜」
「後先考えないからだアホめ」
「マジか…どうしよう、想像以上に厄介じゃん」

本格的に考え込むケリー。
ライナス様を少々過小評価していたと見た。
強いって言ったじゃん…。

「確か、お前とライナス様なら勝負は半々だったよな?」
「まあ…今のところそうですね。ただ、今日はいつも勝負の時に使っている木剣よりも短いので…少々不利かと」
「え? そーなんですかー? ごめんなさいでーす」
「いえ、俺が細身の剣を好むのをご存知で持ってきてくださったのでしょう? 十分ですよ」
「いえ! テキトーに取ってきましたー!」
「あーそーですかー…」

そんな気はしてましたー…。

「俺のは普通サイズ。ルークのも似た感じだっだな?」
「細身の剣はこれだけでしたからね。これでなんとかするしかないでしょう。…ま、やってみますよ。…俺もお嬢様の手作りクッキーは欲しいので」
「よく言った。よし、動くぞ」
「何するつもりですか?」
「お前が囮になっている間にライナス様が隠した義姉様のクッキー…じゃ、ない…お宝を俺とルークで探し出す! お前は出来るだけ戦いを長引かせろ。見つけたら合図する」
「成る程、別に剣の勝負だけが勝利条件ではありませんでしたね。…ふっ、多人数を利用した実に姑息な策…見事ですケリー様。……そんな子に育てた覚えはないけどな……!」
「おいやめろ」

よよよ…。
泣き真似ではあるが心は本当に泣いていた。
ああ、あのやんちゃ坊主がすっかり腹黒貴族に…。
いや、あのままでは他の貴族に利用されてしまうお馬鹿さんだったから…したたかになるのは悪い事じゃないんだろうけど…。
それでもあの頃の純粋なケリーが懐かしい…。
思わず両手で顔を覆ってしまう。
ああ…あの頃は可愛かったな〜…ただのクソ生意気な小僧で…。
すっかり可愛くなくなった…いろんな意味で。

「俺はルークを呼びに行く、先にライナス様のところへ行って動向を監視しろ。動きがあったらその瞬間に、襲え」
「…………あの頃は可愛かったのに…」
「ホンットにやめろ」
「まあ、お嬢様の手作りクッキーが懸かっているのでやりますけどね」
「それでこそうちのヴィンセントだ」

と、いうわけで一度ケリーと離れて南の丘エリアに先に1人で向かう。
ライナス様の足止めか。
まあ、足止めなら…まだ『倒せ』よりは現実的だ。
恐るべしケリー。
あいつ『戦略』意外と高かったんだな?

「…………」

剣を持ったまま、丘の中央で目を閉じて気配を探るライナス様を発見。
この辺りがギリギリか。
隠し事が苦手な人だが、物を隠すのはどうだろう。
つーか、あれは完全に迎撃体制。
攻め方を考える必要があるな。
ハミュエラのような奇襲は俺には出来る気がしないから……。
……うん、普通に正々堂々真っ正面から挑もう。
あの人に下手な小細工は通用しない。

「ヴィニー」
「お義兄さん、お待たせしました」
「ルーク、ちゃんとお宝は隠してきただろうな?」
「はいっ」
「よし、では俺が真っ正面からライナス様に挑んで引きつけるので、その間に……」
「ああ、行くぞルーク」
「はい、ケリー様」

まあ、けど…丘エリアは本当に広々とした芝生の丘なんだよな。
物を隠すような場所なんて見当たらないんだが…。
そこはケリーの小賢しい頭でなんとかしてもらうしかない。

「…………」

一呼吸、置く。
細身の剣を握り直して、俺は自分が僅かに高揚しているのに気が付いて笑ってしまう。
いやぁ、だって…割と久々かもしれないからなぁ…。

「ライナス様」
「……ああ、やっぱりお前が来たか」

真っ正面から。
いつもの愛想笑いを浮かべつつ、声を掛ける。
まあ、ですよね。
貴方も俺が来るのは予想済みですよね。
だって………。

「俺と戦えるのはお前くらいだろうからな」
「ええ、それに…ライナス様がお持ちのお宝は俺が喉から手が出るほど欲しい物ですから?」
「そっくりそのまま返そう。お前の持つ宝も、十分に俺を魅了している」

愛想笑いが出来なくなる。
このピリピリとした空気。
いや、俺とライナス様からすると“うきうき”かもしれない。
お互いなかなかに凶悪な顔になっている。
まあ、顔は笑っているけどな?

「お前が来るのを待っていた。スティーブンの手作りクッキーは俺に譲ってもらおう」
「ご冗談を」

勿論それも理由だが…持ち上げた剣、その切っ先をお互いに向けている時点で俺たちはもう半分以上興奮に支配されつつある。
そりゃそうだろう。
だってこの人は、俺の全力を以てしても勝てるか分からない相手。
高まるに決まっている。

「参ります」
「来い!」


剣を構えて、走り出した。




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