うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。

古森きり【Twitter@2kag5fb1】

パーティーの始まり



「あ、ヴィンセント。どこに行っていたんですか? もう入場が始まりますよ?」
「少々野暮用を頼まれまして…」
「そういえばお前は夏に城で1週間ほど働いていたからな。顔も知られているのか」
「ええ、まあ」

入場開始を今か今かと待つ貴族たち。
その中に、既にスティーブン様もライナス様も来ていた。
お嬢様のエスコートは俺がする事になるが、そもそも、今日婚約者が決まるかもしれなかったご令嬢たちはお一人様が多い。
もちろん、ここは男の方からビシッとエスコートを申し入れればいいのだろう。
そもそも婚約を申し込む前提のお相手がいるのなら、むしろその方がいいはずだ。
しかし、そんなご子息たちは残念ながら視線を俺とライナス様の横に集中させている。

「…スティーブン様、ついに…ですか」
「ふふふ、マリー様に『星降りの夜会』を潰されましたので…ちょっとした意趣返しです」
「それはまた大胆な…」
「でもとてもお似合いよね」
「はい、それはもう…」

いやうん、マジ、冗談もお世辞も抜きでお美しいドレス姿のスティーブン様。
髪も愛らしい猫の髪留めでまとめられ、薄く透ける生地がふんだんに使われたAラインドレスはちょっと男がドキドキしまくってしまうやつだ。
さすがに胸元はぺったんこだが、これはこれで好きな奴にはたまらんと思う。
俺はせめてBかCくらい…うん、俺の好みはともかく…お嬢様が横に並ぶと神々しいレベルで華やか…。
俺、目、無事かな?
いいな、ライナス様…こ、これをエスコート出来るのか…!
いや、俺だって今日はお嬢様をエスコート出来るから多幸感で倒れそうではあるけれど。
スティーブン様のエスコートもそれはそれで羨ましい!
婚約者のいないお坊ちゃんたちが気になるご令嬢へのエスコートを申し込む事も忘れて見惚れる程のお美しさ…。
もはやこのお二人が並ぶと圧巻である。

「ライナス様がエスコートを?」
「う、うむ…」

照れ、というよりもデレデレ。
うん、まあ、こればかりは無理もない。
もういっそ永遠に幸せになっちまいな!

「スティ〜〜ブ〜〜ン!」
「うっ! …お、お父様…!」

両手を広げて走ってくるナイスミドル。
騒つくホール前広間。
あれは、スティーブン様のお父様…アンドレイ・リセッタ様!
この国の宰相というかなりお偉い地位のお方が人前で親バカ全開で走ってくるって、あんたそんな…オープンすぎでしょ ︎
勢いそのままに娘(息子)に抱き付いて頬擦りし始める。
ウワァ…。

「可愛い可愛い可愛い! あ〜〜、可愛いよスティーブン! 世界一可愛い〜〜!」
「…お、お父様……離れて下さい。ここは屋敷ではないんですから…」
「あ、そうだった」

忘れてたんだ ︎
我に返ったかのように離れるアンドレイ様。
…や、屋敷だとあんな人なのか。
何故だろう、城とほとんどお変わりないように思えたんだが。

「こんばんは、宰相様」
「こんばんは、お久しぶりでございます」
「お久しぶりでございます、アンドレイ様」
「やあ、ライナス君、ローナ嬢、ヴィンセント」

頭を下げる。
えーと、エディンの屋敷で行われたお嬢様の(前日)誕生日パーティーの日以来か?
すぐに仕事モードといった様子の、いかにもなナイスミドルに戻られたな。

「お父様、お仕事中ではないんですか?」
「仕事なんてしてられないさ。お前、その姿では初めてマリアンヌ姫に会うのだろう? お父様心配で仕事手に付かなくなっちゃったんだもの。部下に追い出されたよ」
「お、お父様…」

そんな追い出されちゃうくらい仕事が手に付かなかったのか…。
でも、この方ならありえる。

「ん? エディン君は一緒じゃないのかい?」
「エディンは公爵様に会いに行かれてから来ると…」
「ああ、もしかして例の話かな…」
「? なにか大切なお話でも…?」
「まぁね。そのうちお前たちの耳にも入るだろう」
「はあ…?」

なにやら含んだ言い方。
…やはりマリアンヌ姫の件だろうか?
証拠は少ないながらもそれなりに説得力のあるものは増えてきているからな。
騎士団総帥のディリエアス公爵に、話だけでもしておいた方がいい。
そしてそれは当然、国の重要人物の1人、宰相様の耳にも入れておくべき事だろう。

「そうだ、ローナ嬢。君のお父上も今日は朝から登城しておられるよ。今夜は泊まりだろうなぁ」
「お父様が…? こんな時期にどのような要件で…」
「セントラルの領主は月に一度、城で報告会があるだろう? 色々立て込んでいて今月は今日になったんだよ。…主に姫が今日、パーティーをやると言い出したおかげだけど」
「……そうでしたの…確かにこの時期にこの時間、馬車で戻るのは危ないですものね…」
「パーティーが終わったら二階の来客用宿泊部屋に寄って顔を見せてやるといい。きっと喜ぶよ」
「ありがとうございます。そういたしますわ」

お嬢様がお辞儀をしたので俺も頭を下げる。
いつもなら報告会は大体月の半ばあたり。
…そうか、姫が今日パーティーをやりたいと言い出したのはそのくらいだったのか。
姫の名前が出るとアンドレイ様が頭を抱える。

「そういうわけで、会場にはお父さんも一緒に行くからね、スティーブン」
「どういうわけですかっ! 子供ではないのですから一人で入れます! それにライナス様もエスコートしてくださると仰って下さいましたし」
「いやいや、無理無理、お父さん心配だもの。姫がお前のその姿を見るのは今日が初めてだろう? なにを言われるか分かったものではないよ」
「お父様がいたところでマリー様は言いたい放題言われます。…私は一人で大丈夫ですよ」
「うーん、しかしね…今日のパーティーのことをマリアベル王妃が聞きつけてね…参加すると言い出したんだ」
「は、はい?」

またも頭を抱えるアンドレイ様。
その表情は先程よりも深刻だ。
…え、えーと…マリアベル王妃ってあれだよな?
ゲーム『フィリシティ・カラー』内では超エアだが、我が子の取り替え疑惑に関しては主犯の可能性が極めて高い…。
男遊びが激しいと噂の…あの?
あれ、なんで今エディンの「あの王妃は見目のいい男と見れば歳も身分も見境ない」というセリフを思い出した?
ちょ、ちょ…ま、まさか…。

「あの、アンドレイ宰相様…なぜ王妃様が?」
「うーん…若者が多く集まる故、激励の為に、とは仰っていたがね…」
「そ、それは困りましたね…。ではお父様、まさか陛下も…」
「王妃様が参加すると言い出したのは今朝だ。…陛下は報告会に出席されていたが、この件は耳に入っているだろう。…そういうわけで、お父さんも一緒に行くからね」
「…そ、そういうことでしたら…わかりました…」

この時、俺とお嬢様の考えは恐らく一致していたと思う。
朝から行われていた報告会。
それがこんな時間になっても終わらなかった理由だ。
雪道云々ではないな、と。
これは、なんという頭の痛い事態…。

「…王妃様ともあろうお方が…」
「ヴィンセントもライナス様も気をつけて下さいね」
「? なにがだ? ご挨拶なら女神祭でしたことがあるぞ」
「流石に私などにお声はかかりませんよ、スティーブン様」
「…………」
「…………」


なんでお嬢様とスティーブン様が頭を抱えるんだろう?


「では、ご入場をお願いいたします」


丁度その時、パーティー担当の使用人が入場を促し始めた。
到着順ではなく、入り口に集まった順のようなので流れに任せることにする。
しかし、ほとんどのご令嬢は婚約者…中には夫に、という方にエスコートされていく。
スティーブン様のドレス姿に見惚れていた令息たちが、慌てて今日婚約を申し込もうとしていた令嬢たちへ声をかけ始める。
うーむ、これは…『元サヤ作戦』のためにエディンが来るのを待っていた方がいいんだろうか?

「エディン様を待ちますか?」
「…え? 何故?」
「え、なんでですか?」
「ん? なんでだ?」

………誰にも存在を気にされないのも哀れというか…。

「一応、本日お嬢様に婚約の申し込みをするとかしないとか言っておられたので」
「あ、そうでしたね。忘れてました」

スティーブン様ー!
あんたが言い出したことですからねー ︎

「公爵様に会いに行くと言ってはいましたけど、いつ戻るとは言っていなかったんですよね…」
「良いのではないか? 先に入場しても。ローナ嬢にはお前がいるのだし」
「お嬢様もそれでよろしいでしょうか?」
「そうね、私は構わないわ。お願いしても? ヴィニー」
「はい。では」

手を差し出すと、お嬢様の華奢な手が乗る。
手袋で覆われてはいるものの、温もりは伝わって来るからこっちも緊張が高まってしまう。
はあ、やっぱりお美しい…。
富と豊穣の女神が好むとされる金の髪。
沈黙と平穏の女神が好むとされる紫色の瞳。
パーティー自体急だったため、ドレスは前回着られたものと同じだがショールを替えて着てこられた。
エレガント…うん、まさにその言葉はお嬢様のためにある。
正直小鳥のネックレスなんて子供っぽいかなー、と思ったが、お嬢様が着けるとエレガントさの中に年相応の無邪気さが加わってめちゃくちゃ可愛いな。

「リース伯爵家、ローナ様。どうぞ」

会場に入る時にもお辞儀をして、小ホールに立ち入る。
確かにいつも舞踏会が行われる大ホールよりは少々手狭だな。
半分くらいだろうか?
それでもリース家の屋敷のダンスホールより広い。
小ホールにも玉座があり、その下にはやはり本日もキャバ嬢みたいな盛り頭のマリアンヌ姫が腕を腰にあてがい待ち構えていた。
そして、玉座には国王と、あれが、王妃!
うわ、すげー美人…。
あと、巨乳!
金の髪と青の瞳。
胸元が大きく開いた白いドレス。
つ、つーか、若、若くない?
二十代半ばに見えるんですけど。
…確かにあんな美女に迫られたらほとんどの男は流されるな。
…………うん、しかし国王と王妃が目の前に揃うと改めてマリアンヌがあの2人に似てないと思う。
こりゃ噂にもなるわ。
顔のパーツ、どれを取っても面影がないのだ。
自分で言い出したパーティーが始まったというのに不機嫌そうなマリアンヌ姫。
まずは主催者に挨拶に行くのがパーティーのセオリー。
俺とお嬢様も、列になる生徒たちの後ろに付いた。
表面上は皆笑顔だが、ほとんどの生徒がマリアンヌ姫に良い感情など持っていない。
特に今日、夜会で婚約を申し込むつもりだった者、申し込まれる予定だった者は笑顔の裏でどんなことを考えているのだろうか。
…レオが言っていた…「可哀想」という言葉を、なんでかしみじみ実感してしまう。

さあ、パーティーが始まる。



「うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く