うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。

古森きり【Twitter@2kag5fb1】

お嬢様と偽計婚約



気分が悪い。
非常に、つらい。
刀の使い方をもう少し思い出したいと、剣技場に行くつもりだったのだが…。
お嬢様とエディンの再婚約が半ば決まってしまい、数日前から『星降りの夜』の告白に向けて下準備が始まったことで気分が優れず部屋に戻った。
演技とはいえお嬢様がエディンに愛を囁かれ、手を握られるのを見るのは…………途方もなく、つらい!
しかし…全ては俺の軽率な行動が招いた結果でもある。
日記を見返してみても、その軽率さは明らか…。
婚約一つがこんなに重いなんて、前世の感覚でいたんじゃダメだった。
くっ、猛省し、次に活かせばいい!
グダグダ考えちまうのは悪い癖だ!

「よし!」

己の頰を両手で叩き、気合いを入れて救済ノートと日記を並べる。
マリアンヌ姫が動いたのは、レオが関わったからに他ならない。
あのお姫様はレオが関われば俺の…いや、俺を含めた全ての人間が思いもしないことを平気でやってのける。
正直予想が付かない。
一体戦巫女は、レオハールをどうやって攻略したのだろう。
今まで大雑把に『取替えを暴露された退治されるマリアンヌ姫』のイメージでいたがこれではダメだ。
情報がいかに状況を左右するかは思い知った。
改めてレオハールのルートを確認する!
そこに何かヒントがあるかもしれない。

レオハールルート。
『フィリシティ・カラー』ゴリ押し王道のメイン攻略対象キャラクター、レオハールとのルートになる。
今まで召喚、入学などの流れはメイン攻略対象共通だと思ってたけど、レオハールはその間に『チュートリアル』解説を行う重要なお仕事をしていた。
『魔宝石』とそれを器とするサポートキャラ『女神エメリエラ』。
中でも女神エメリエラの事は、巫女とレオハールしか見たり喋ったりが出来ない。
巫女がエメリエラと話をしたり姿を見れたことを嬉しそうにしていたのが印象的だった。
そして粗方説明し終わると、巫女にお城に部屋を用意している、みたいな流れになったはず。
そこに登場するのがレオハールルートのラスボス、マリアンヌ。
レオハールが巫女を庇護下に置こうとしたと大激怒…なんかとにかく酷いこと言ってたのは覚えてる。
記憶から消し去りたい勢いで酷かった。
あれ直で言われたら俺でも泣く、と当時プレイしてて思ったの覚えてるもん。

「あ」

…違う、俺、勘違いしてた。
アミューリアの女子寮に巫女を入れることを提案したのは、レオハールだ。

『…落ち着いてマリー、分かったから。…それならアミューリア学園の女子寮ならどうかな?』

…ってゲームの中で言ってた…。
そうだ、今までマリアンヌが「そーんな小娘、アミューリアの女子寮にでも入れておしまーい」みたいなイメージがあったけど…いや、あの流れ的に。
………言いそう。
いや、ゲームの中だろうが現実世界だろうがレオならこう言いそうだ。
マリアンヌはもっと酷いこと言ってたんだ、なんだっけ。
……………………。

『なにが巫女よ! そんな女、ただの平民でしょ ︎ 平民は平民らしく納屋や馬小屋にでも居ればいいんだわ!』

…………な、納屋と馬小屋は酷いよ…。
思い出して頭を抱えた。
…あのお姫様は…ゲーム内でもあんな感じかぁ…当たり前だけどー…。
マリアンヌ姫から守る意味もあり、レオは巫女を女子寮へと入れる事にしたんだな。
まあ、結局翌年にはマリアンヌもアミューリアに入学してくるから女子寮に入寮してくるんだけど。

「…………うーむ…」

兎にも角にも巫女はこうしてアミューリアの生徒となり、騎士専攻科に在籍することになる。
もともと普通の一般人でしかない巫女を校内外で気にかけるレオハール。
美しく優しい王子に、胸ときめかない乙女などいるのだろうか。
しかし面白くないのはマリアンヌ姫だ。
隙あらば巫女を罵り、陰湿ないじめを繰り返し、その圧倒的権力を用いてどこにいても高圧的な態度で巫女を見下し罵倒する。
それでもレオハールの支えでなんとかやっていた巫女。
王誕祭の日、城の舞踏会に呼ばれた巫女は生まれて初めての貴族のパーティーに心躍らせて参加した。
そこでマリアンヌがレオハールを独占し、見せつけるように甘え、巫女を貶す。
内容は大体ドレスがダサいとかそんなん。
…お前が言うか、と今は思うが。
優しいレオハールがマリアンヌの命令で巫女を会場から追い出すように言うと、それが決定的となり泣き出す巫女。
…うわ、こんな事するの?
しかし、涙しながらもレオハールの悲しげな表情を思い出して気持ちを持ち直す。
…偉いぞ巫女。
その後も陰湿ないじめは続く。
レオハールはマリアンヌのいないところではとにかく巫女を甘やかす。
そんなレオハールの優しさに、どんどん惹かれていく巫女。
…これは無理ない、惚れるなという方が無理だな…。
そしてレオハールの立場も段々と理解してきた巫女は、なんとか彼の力になりたいと思い始める。
…そーだそーだ頑張れ巫女。
秋も更けた女神祭の日、巫女はついに舞踏会で王誕祭の時のようにパーティー中にも関わらず罵倒を始めたマリアンヌへ言い返す。
憤慨したマリアンヌだが、巫女が『女神の奇跡』……治癒の力を大衆の前で見せつけると貴族たちは手のひらを返して巫女へと諛(へつら)うようになる。
その様に悪役らしく捨て台詞を残し逃げ去るマリアンヌ。
一矢報いた巫女はその日からいじめられる事はなくなった。

「…やばい、スカッとする」

この時点でとてもスカッときたが、これで終わりではない。
間も無く戦争が始まるという頃、準備のためにレオハールと町へ降りた巫女は病に苦しむ老婆を治癒の力で助ける。
そこでレオハールを見た老婆は、泣きながら懺悔を始めた。
自分がかつて城で働いていた事。
その時、王妃の子供と友人の子供を入れ替えた事。
衝撃で固まる巫女とレオハール。
老婆を宿まで連れて行き、休ませてからレオハールは巫女に独白のような気持ちを吐露する。
レオハールのこれまでの不遇を見聞きしてきた巫女は、彼に寄り添い、そして2人は生き残ること、レオハールは生き延びて王を目指す事を誓う。

「…………やばい、泣きそう…」

これプレイしてたら確実に泣くやつじゃん…。
これ絶対しんどいやつじゃん…。
うわ、プレイしたかった〜っ。

…約束を交わした2人は、強い絆で魔宝石の力を引き出し戦争を勝利に導く。
帰還したレオハールは王への勝利報告の時に王位を望み、反発するマリアンヌへ証人の老婆とともに真実を突きつける。
国王はその事実に怒り狂い、マリアンヌを追放。
レオハールに王位を与え…巫女と王子は結婚し、幸せに暮らしましたとさ…………。

「……………………」

自分で書いたメモだというのに目頭を押さえつけたくなる程度には泣きそうになるやつだった。
レオの境遇を思うとこのルート最高じゃないか。
『トゥー・ラブ』でレオハールルートに追加イベントのみ? は? ふざけんな、とキレていた戦巫女(プレイヤー)の気持ちがよくわかる。

…しかし。

レオハールルートを確認して、対マリアンヌ姫の情報は『戦巫女』だからこその力…治癒の力。
俺たちには使えない力じゃないか。
うーん、参ったな〜…。

「…………」

腕を組んで考え込む。
お嬢様とエディンの再婚約…という名目上の偽計婚約が効果を為さなかった場合。
エディンは少なくともお嬢様とリース家に「手出しする理由はなくなる」と言っていた。
だが…監禁の日々に味をしめたマリアンヌがレオをこれまで通りの生活に戻すかどうかはまだわからない。
…マジ、犯罪者予備軍。
いや、監禁は立派な犯罪だけど…。
そして、マリアンヌがレオを監禁から解放しなかったその場合は…。
エディンはこう言っていたな?


『本物のマリアンヌを探す』


…………あいつ、何か知っているのか?
俺のようにこの世界が乙女ゲームの世界であり、マリアンヌ姫が取替えられていると知ってる?
そんな馬鹿な…。
でも、考えたことはなかったな。
俺以外にも、この世界が『フィリシティ・カラーの世界』だと知っている人間が居るかもしれない。
記憶が深く関わるウェンディール。
全くいないとは言い切れない。
だが、それを探し出すのは…。
……いや、そんな事よりもお嬢様とレオだ。
ノートと日記帳をしまい、椅子を引いて立ち上がる。

エディン、お前は何を知ってる?



カツン。


「!」

その時、窓ガラスに何か当たる。
カーテンと鍵を開けて、窓を開く。
誰もいない?
いや……木の裏に…………誰か居るな?

「誰だ」
「『便利屋』だ。依頼のモノを用意した。金を持って、例の場所へ受け取りに来るがいい」
「へえ、意外と早かったな。もっと時間がかかると思っていた」
「ふっ…それは、随分と甘く見られたものだな…」
「…分かった。近いうち受け取りに行こう。ありがとう。で、幾らだ?」

ひらり、と一枚の紙が入って来る。
走り書きで書かれた金額。
おお? 意外とリーズナブル…。
…いや、ちょっと安すぎないか?

「初回ご利用サービスでもあるのか?」

思わず聞いてしまった。
しかし、すでに気配はない。
随分とお忙しいんだな?
寒いので窓の鍵とカーテンを閉める。
…まあ、結果は分かってるんだが…確証が欲しいのと…。

「…………確かめてみるか…」

上着を羽織り、部屋を出る。
階段を登り四階へ。
王家や公爵家の子息が利用する階。
階段登っただけでこんなに違うもんかね?
いや、スティーブン様の部屋に行った時も一階の装飾品や調度品が違い過ぎて微妙に引いたけど。
この時間帯、使用人は隣室に常駐する者以外宿舎にいるはず。
エディンのやつが何人の使用人を連れてきているかは分からないが、1人は確実にいるだろう。
遊びに出掛けていなければいいんだが…。

「俺に用事か?」
「うわ ︎」

王族の部屋は階段登って右側、公爵家は左の方…と記憶を探っているとその階段の下から声がした。
いや、まさか上の階にいると思っていた奴が下から声かけて来るなんて誰が思うよ?
驚いて振り返るとじっとりとこちらを睨むエディンが…。
奇妙な沈黙が流れる。

「…どこか行ってたのか?」
「お前ホント人がいないと上っ面も被らねーな…。…まあ、いい…少し情報収集にな」

踊り場まで降りて、エディンと向き合う。
情報収集…。
それにしては………。

「女性の香水の香りがしますが?」
「女の情報網以上に優秀な情報屋が居ると思ってるのか?」
「……………………」

反論が出てこない。
出てこないが、疑わしい…。
疑惑の目を向けると居心地悪そうに目を逸らすエディン。

「…多少はサービスするがな」
「……サービスねぇ…?」
「そ、そっちこそこんな時間に何の用だ? ベックフォードに用ではないんだろう」
「…聞きたいことがある」
「なんだ」

本物のマリアンヌ姫を探す。
そんな事、どうしてはっきり言えたのか。
俺のように『フィリシティ・カラー』の記憶があるのか。
それとも、こいつには別の確証があるのか。

「姫の噂は…噂じゃないのか? …なにを知ってる?」
「…………」

俺の質問に真正面から見据え、目を細める。
それから周囲の気配を伺うようにしてから一歩、二歩と近付いて…俺の耳に顔を寄せたエディンは信じられないことを囁いた。

「………王妃の相手をした時に妙な事を言っていた…。レオハールを王にはさせない。あれは“本物”。間違いなく“王家の血”を引いているから、ってな…」
「…………っ」
「…軽い口調だったし、俺を子供だと思いからかったのかもしれない。…だが…笑みさえ浮かべて自慢気に言った妃の顔がずっと忘れられなかった。………レオは『本物』…なら…あのマリアンヌは…きっと『本物』じゃない」

藍色の瞳が鋭く睨むように見据えてくる。
俺の反応を伺っているのだろう。
…こいつの女遊びと、王妃の男遊びの最中の戯言。
そう、片付けてもいいのだろう。
だが俺には『フィリシティ・カラー』の記憶がある。
だから、王妃の言葉はもはや『自供』でしかない。
エディンの『確証』も、疑いようのないものだ。

「…よくそんな事を俺なんかに教える気になったな」
「お前はローナにしか興味ないだろう? 俺は……、…俺はレオ以外の王など認めない。あいつ以外に膝は付かない。その点だけは、俺とお前は似てると思った」
「……………」

耳を疑うような気分だったが、俺を見据える眼は真っ直ぐでなんの偽りも裏側も見当たらない。
一歩、思わず後ずさってしまった。
こいつは…誰だ?
俺の知っているエディン・ディリエアスというガキは、こんな奴じゃなかった。
……ただの女好きのクズ男…お嬢様と婚約をしたくせに、一度も会いに来ない。
来るのはレオで…入学後も興味なし。
…だが根本が間違っていたとしたら…?
レオがいつからお嬢様を特別に想っていたのかは明白。
“初めて会った時から”。
そしてそんなお嬢様と、レオのことをエディンが“最初から気付いていた”のだとしたら…?

「………………お前……」

根本的に、違う。
エディンは…こいつは……。

「……。…そうか……」
「…聞きたいことはそれだけか」
「いや、それなら……俺から一つ話したいことがある」
「?」

こいつになら話してもいい。
多分、こいつはレオが幸せになること以外認めない奴だ。
俺がお嬢様の幸せ以外許せないのと同じ。
…似ている、か。
確かになぁ……。
そういう事なら今のところ、俺とこいつの目的は一致している。

「…もしかしたら分かるかもしれない、本物の居場所」
「なに?」
「一つ、義父(ちち)に教わった方法で調べていた事がある。俺とお前の目的が一致している間は……」
「共闘か。…それには同意だな。分かった、こっちもなにか分かったら伝える」


エディン・ディリエアス。
……今のあいつ、完全に吹っ切れた後のエディンじゃね?
うわぁ、マジかぁ…。





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