うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。

古森きり【Twitter@2kag5fb1】

お嬢様とエディン【前編】



女神祭も無事に終わり、1ヶ月が過ぎた。
何故かここ数日、レオは学園に来ない。
もうすぐレオの誕生日だというのに、どうしたんだろう。
本日も薔薇園はしんみり空気。
スティーブン様とマーシャは相変わらず新刊がどうのと盛り上がっているが、その隣ではお嬢様がぽっかり空いたレオの指定席を無言で一瞥した。
…やはり気になるよなぁ。
ああ、あとエディンも今日来てないな。
あいつが来てないのはちょっと久しぶりだけど…。

「ローナァ!」
「うお ︎ ど、どうしたディリエアス…!」

うお、俺もびっくりした。
突如薔薇園に飛び込んで来たエディン。
エディンのくせにキレ気味でお嬢様に詰め寄るとは生意気な。

「どうされたのですかエディン様、落ち着いてくださ…」
「お前こうなることが分かっていて婚約解消に同意したのか ︎」
「 ︎」
「なにを今更…。エディン様はわたくしのことはお嫌いなのでしょう? 状況を考えればすぐにわかることです」
「お前のことなどどうでもいいわ! いや、良くない! どうするつもりだ、すでにマリー姫の耳にまで入っているぞ ︎」
「誤解と分かれば問題ないはずでしょう」
「あの姫が聞く耳を持つと思っているのか! このままではお前の家にまで被害が及ぶぞ!」
「! …それは…」
「ちょ、ちょっと待ってくださいエディン! なんのお話ですか? 説明して下さいっ」

とりあえずお嬢様とエディンの間に入ってみたものの、エディンはそれでも構わずお嬢様に怒鳴り続ける。
俺を間に挟んだまま行われる訳の分からない攻防は、スティーブン様の仲介でひとまず沈黙した。
頭を抱えて深くため息を吐くエディン。
お嬢様は無言で真正面を見つめるし…。
話の内容もよく分からない。
よく分からないが…エディンとお嬢様の婚約解消に端を発しているらしい事。
そして、なにやらあのマリアンヌ姫が絡んでいるらしい事やリース家に被害が出るなんてのは絶対に見過ごせない。

「エディン」
「噂だ」
「噂…」

スティーブン様が促して、ようやく聞けたのはたった一言。
噂?
俺とライナス様は見当もつかない。
顔を見合わせて、エディンに戻す。

「どんな噂ですか?」
「お前も知らなかったのか」
「え? ええ…」
「………令嬢たちの間で実しやかに、ローナがレオと恋仲になっただの、レオがローナに横恋慕しただの…そういった類のものがな…広まっていた!」
「えっ」
「は?」

え?

「ええ ︎ そ、そうだったんけ ︎」
「噂だ!」

信じたマーシャにエディンが一喝するも…あながち嘘でもないのですぐに目が泳ぐ。
…そう、あながち嘘でもない。
少なくともレオはお嬢様が好きだ。
大好きだ。
お嬢様も絶対嫌いではないはずだし…。
う、うわぁ、噂怖い。

「…………ま、まさか…」
「俺とローナの婚約解消が決め手の扱いになり、それがよりにもよってマリー姫の耳に入った。どういう奴が耳に入れたのかは大体分かるだろう?」
「……っ……で、ではレオ様が最近学園に来られないのは…」
「今日確認してきたところ案の定、マリー姫がレオに「女の居る学園に行かせない」と…自室に監禁状態だった」
「…………!」
「な、か、監禁… ︎ レオハール様を、マリアンヌ姫様がか ︎ それは本当なのかディリエアス!」

そ、そこまでするぅ ︎
犯罪だ犯罪…!
王族とはいえ、流石にそれはーーー!

「呑気に仕事がはかどる〜、とか言ってたがな!」
「………レ、レオ様…」

スティーブン様が頭を抱える。
俺も抱えた。
あの人は、どうしてそう…。
そもそもその捗ってる仕事は政務だろう?
国王バルニールがマリアンヌ姫に任せた仕事だろう?
お前が捗らせるなァ!

「…ですが、監禁はやりすぎですわ。すぐにディリエアス公爵にお話を…」
「待て、元は俺たちの婚約解消が決定打だ。それに、マリー姫の嫉妬がそれで収まると思っているのか?」
「!」
「え?」
「…ど、どーゆー事だべ?」

噂はお嬢様とレオの恋愛絡み。
あながち間違ってもいないので、全力否定が出来ないのが辛いところ。
そして、レオを監禁してしまうくらいマリアンヌ姫が怒り狂っているとなると、次の矛先はーーー!

「リース伯爵家を貶めたい連中だって少なくない。お前、マリー姫をまだどこかで舐めていただろう? そこまでするはずがない、と。確証がなくても、あの姫君はレオにここまでしたんだ。次はお前と、伯爵家まで及ぶぞ…」
「! そ、そんな…」
「っ…」

…え、ええ…嘘だろ、どうしたらいいんだ?
お嬢様を救済出来たと思ったのに…!
逆効果 ︎
俺がエディンとの婚約解消を率先して進めたばかりに、お嬢様だけでなくリース伯爵家まで…。
…………舐めてた。
確かに舐めていた。
マリアンヌ姫は、俺の想像など容易く超えてくる。
忘れてたわけじゃないけど、そうだ。
レオハールルート最強のお邪魔虫…それが悪役姫マリアンヌ・クレース・ウェンディール!
レオに近づく女は全て敵!
恐怖のブラコン、パワハラの塊、我儘放題好き放題…やりたい放題!
な、なんて事…。

「そんな、まずいです…、…私、お父様にお話しして来ます!」
「アホか、俺の父上も承知だったんだぞ。お前の父でもおそらく無理だ」
「ええ ︎」

エディンは朝から城に行っていたのか。
ここ数日、レオが来ないことを心配して。
…マジか…。
まさかこんなことになるなんて…。
だが、これまでのことを振り返るとそんな噂が出ていても不思議ではない。
昼食は薔薇園で固定メンバーと化したクラス成績上位6名で毎日食べ、レオは後ろの席のお嬢様に休み時間になると(本人全く無自覚の)甘い笑顔と声色で話しかける。
エディン抜きで町に出かけたこともあるし、婚約者なのにお嬢様とエディンは誰が見ても婚約者らしくない距離。
…これは…俺の責任だ。
軽率だった。
お嬢様の破滅エンドを回避したいがために、急ぎ過ぎた。
もっと周りをしっかり固めてから行うべきだったんだ…!
貴族社会が足の引っ張り合い上等の世界である事を失念していたのも悪い。

「あとお前、美人のくせに愛想ない上この俺が婚約者で、更にレオやベックフォードとも良く一緒にいるし、しかも執事がコレなもんだからとことん令嬢に目の敵にされてるのな…」
「存じておりましたが…そこまででしたか…」
「…う、渦巻く嫉妬の渦中だべさ…」

令嬢たちの嫉妬の渦中って事か?
…そ、そうだったのか…お嬢様がまさかそんなに令嬢たちに目の敵にされていたなんて…!
全ッ然知らなかった!

「つまり、嫉妬に狂った令嬢たちの告げ口でマリアンヌ姫様はレオハール様を監禁されているというのか?」
「無論それだけではないだろう。そういう令嬢たちの声を聞いた、マリー姫派の貴族たち、リース伯爵家を貶めたい奴らがここぞとばかりに有る事無い事吹き込んでいるようだ。マリー姫、女友達居ないしな。良いように利用されたのさ」
「な、なんと卑劣な!」
「リース伯爵家がお取り潰しになるということは、流石にありえないと思いますが……でも、マリー姫ならなにかとんでもない嫌がらせはしそうです。それに、このままではレオ様が戦争までずっと監禁状態という事も考えられます」
「陛下なら許しそうだしな…」
「そんな馬鹿な…!」
「……………………」

俺も…いや、俺以上に、お嬢様が不安そうに俯いてしまう。
貴族として意識の高いお嬢様。
自分のせいで家に迷惑をかけたとなれば絶対にご自分のことを責める。
…………ま、まさかそれで自殺なんてことは…。
ま、待て待て!
まだゲーム始まってもいないですお嬢様!
それだけは、それだけは〜!

「どうしたら…」
「…………。まあ、そこで提案だ、ローナ」
「? はい?」

非常に嫌そうな顔で、エディンが組んでいた腕を腰に当てる。
なにやら偉そうな格好のまま「俺も不本意だが」と、前置きした上で切り出した打開策。






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