うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。

古森きり【Twitter@2kag5fb1】

お嬢様と女神祭


『女神祭』…とは。
俺の前の世界で言うところの収穫祭。
以前も言ったがウェンディールは秋と冬が長い。
短い春と夏に栄養をたらふく蓄えた穀物や野菜を収穫し、長い冬に備える。
その前に富と豊穣の女神『ティアイラス』に感謝を捧げ、沈黙と平穏の女神『プリシラ』に無事に冬を越えられるように祈る祭りなのだ。
毎年冬が厳しいので春先は食糧が足りなくなり、国庫に保管してある食糧を配布する事になるが…今年はマリアンヌ姫の『王誕祭』での無茶振りで国中の貴族を呼び集めた為、レオが少々心許ないと言っていた。
…あいつがマリアンヌ姫の代わりに行っていた政務は、食糧関係だったらしい。
国の存亡に関わる食糧の管理をマリアンヌ姫に任せようとしていたのだから、国王バルニールの『次期女王』への期待が伺える。
あっさり裏切られているけどな…。
それはそれとして、ウェンディールは今年、新たなる女神を国の守護女神として奉ることを大々的に宣伝し始めた。
今年の『女神祭』は、これまでの2人の女神と、その新たな女神への忠誠を誓う意味を持たせるつもりのようだ。
そして、その新たな女神というのは他でもない。

「女神エメリエラ様に祝福を!」
「人間族に勝利をお与えください、エメリエラ様!」
「俺たち人間族に味方してくださる女神様か…、なんて素晴らしい…」
「ええ、本当…これでもう従属の心配はないのね」
「そりゃそうだろう、国王様が女神様と約束なさったんだ! いやぁ、凄いお方だな国王陛下は! 女神様をお連れになるなんて」
「で、でも税金を増やすって話…」
「馬鹿、こんなめでたい日にそんなこと言うなよ。それに、それで勝利が確実になるなら安いもんさ」
「そうよ。確かに税金が上がるのは…あれだけど……恐ろしい獣人族や人魚族の奴隷になるくらいなら私は払うわ」
「そ、そうだよなぁ…………」

「……………………」
「…義兄さん、なんでめっさ不機嫌なんさ?」
「そうだな」

…………解せぬ…。
女神エメリエラを見つけたのはレオだぞ?
なんで国王の手柄になってるんだ?
対話だってレオにしか出来ない。
それとも、国王も魂の波長が合ったのか?
解せぬ…。
……けど、成る程な…エメリエラの話は、エメリエラがレオと出会ったあの日に国王の耳に入っていたはず。
すぐに戦巫女を召喚しなかったのは、エメリエラの存在を公表して安定させる機会…女神祭を待ってから、って事だったのか。
あれから音沙汰なしだったし、レオも「さあ? なにか考えはあるみたい」と言っていたからどうなることかと思ったが。
…戦巫女が召喚されるのは来年の冬『星降りの夜』。
今年の女神祭で存在を知らしめ、来年の女神祭で存在を安定させてから…戦巫女を召喚…って感じか?

「義兄さーん」
「はいはい、なんだよ」
「…だって〜、急に町に行くって言い出したから付いてきたのに…ずーっと難しい顔で歩くばかりなんだもんさ…。どこ行くん? せっかくだから屋台でなんか食べてこーよ〜」
「舞踏会まであまり時間がないんだ。寄り道は出来ない」
「?」
「…………。この間、買ったブローチを別なやつと交換してもらうんだよ」
「あ。あー……」

先日スティーブン様と共にお嬢様のドレスや靴を取りに行った際、お誕生日にと購入した紫色のバラの彫られたブローチ。
俺とマーシャから、と言う事でプレゼントするつもりだった。
スティーブン様もきっと喜ぶ、と太鼓判を押してくださったが……今日のお昼、いつも舞踏会のある日は休むレオが学園に顔を出したのだ。
いつも通り薔薇園で昼食を摂っていたお嬢様に、エディンやライナス様、スティーブン様の目の前で…プレゼントを手渡して「マリーにバレる前に帰らないと」と言い、そそくさと城へ帰って行ったのだが…………。

「ローナ様、開けないのですか?」

ワクワクと好奇心に満ちたスティーブン様のお顔。
お嬢様は少々それに面食らったのか「頂いたばかりです」と返すがエディンが「それで引き下がるやつじゃないぞ」とまさかのスティーブン様へ援護射撃。
まぁなぁ…お嬢様の事を恋愛対象として好き…と自覚した割に全くいつも通りのレオがお嬢様に例年通り渡したプレゼント。
俺だって気にならないわけではないが…。
頂いたばかりのプレゼントを人前で開けるのは少々はしたない、とお嬢様は思っているんだろう。

「プレゼントは貰ったらその場で開けて礼を言う方が良いのではないのか?」
「ベックフォードの地方はそうなのか? セントラルではあまりそういうのは好まれん」
「む、そうなのか。ノースとウエストはそういう風習がある。目の前で開けて喜ぶ姿を見ると、プレゼントを贈った方も嬉しいものだろう?」
「それもそうですね。けれど、セントラルとノース、ウエストで風習が違うというのも少し不思議です」
「ラスティが言っていたが、ノースとウエストの風習は『奪われた人間史』のものらしい。ノース、ウエストの方は冬場が厳しく、獣人族も人魚族も近づかなかった。故に『奪われた人間史』の文化が残っているんだそうだ」
「へえ…そうなのか」
「それは興味深いお話ですわね…」

おお、さすが最年少攻略対象なのに考古学や古美術好き。
そんな風習の違いや歴史があるんだな。
ラスティが入学してくるのは再来年だと思って先延ばしにしていたが、そろそろ本格的に考古学の勉強した方が良いかも。
でもライナス様がラスティと従兄弟なら、意外と無理に接点を作ろうとしなくても良いような…。
いやいや、もしかしたら考古学がお嬢様の破滅エンド救済に使えるかも…使え……使えるか?

「という事のようですし、後ほど舞踏会でお会いになるのですから中身を確認なさってみては?」
「…困った方ですわ…スティーブン様。…分かりました」

観念したお嬢様が封を開ける。
少し広めの長方形。
ピンクの包装紙と、赤いリネンのリボン。
しおりのようなメッセージカードを抜き取り、紙を開けていく。
中から現れた白い箱を開くと、プレゼント…実に細やかな銀細工が、紫色の薔薇の形をした装飾をより輝かせる美しいブローチ…が鎮座していた。
見た瞬間「う」と固まる俺とマーシャとスティーブン様。

「おお、これは見事だな。一級品のアメジストと、中央の石はオパールか」
「わ、わあ、10月の誕生石ですね。さすがレオ様」
「多分レオの手作りだな」
「てっ」
「手作り ︎」

覗き込んでいたライナス様とスティーブン様のなんともほのぼのとした会話をぶち壊すようなエディンの爆弾。
俺とマーシャが思わずおののく。
だって、この細やかに縁取られた銀細工がレオの手作り、だと ︎

「レオハール様は銀の細工ができるのですか?」
「昔から金属細工が好きなんだよ。あいつの唯一の趣味だな…。夜寝る前に少しやる程度らしいし…理由がちょっと…あれだけど」
「あ、ああ…そういえばそうでしたね…」
「なんだ? そんな言い方をされると気になるな」
「集中して色々忘れられるし、作ったアクセサリーでマリー姫のご機嫌も取れる…一石二鳥の趣味…だ、そうだ」
「…マリー様がレオ様の手作りアクセサリーをお使いになっているところは一度も見たことがありませんけれど…ね…」
「…………」
「…………」

…いつもの王家の闇…だが……きょ、今日のはいつもよりディープ…。
最近こういう話を聞くと胸が締め付けられるように痛いんだが…ストレスだろうか?
レオの唯一の趣味…楽しみというやつがまさかの金属工作。
…『色々忘れられる』って、なんて心に突き刺さる…。

「し、しかし、素人とは思えない出来だぞ? 本当にこれをレオハール様が?」
「どの作品もとても時間をかけてゆっくり丁寧に作られるので、職人の物と遜色ないのです。きっとローナ様のことを想いながらお作りになられたんですよ…! はあ、素敵です〜」
「…………」

そんな話を聞いた後に、ブローチを眺めるお嬢様の眼差しを見てしまうと…。
俺はゆっくり、その姿から目線を外す。
先日買った、ドーム状の白い貝殻に紫色の薔薇の絵が描かれたブローチ。
デザインこそ違うが、同じ紫色の薔薇。
そしてブローチ…。
だが、こちらは既製品。
対するは王子の手作り。
……こ、これっぽっちも勝ち目がねぇな!



と、いう訳で。


「あー…あれは確かに勝ち目がねぇべ」
「だろう。今日お使いにならなくとも…そうだな、ネックレス辺りは新しい物を購入してもいいだろう」
「んだね。あの薔薇のネックレスは普段も身につけておられるし…舞踏会ん時は新しいん付けた方がええさな!」

まだ午後3時を回ったところだが、準備にたっぷり3時間は欲しい。
お嬢様は今頃お1人でお風呂だろう。
風呂……当然本来ならメイドが侍女がお手伝いするところなのだが…風呂にマーシャなど連れ込んだら大惨事は免れない。
さすがお嬢様、分かっておられる。
そしてなんて情けのないポンコツメイド…。
…うーん、マーシャも『本物のマリアンヌ姫』なら『記憶継承』でもう少しメイド的スキルが高そうなものなのだが…。
まさかドジがそれを上回っているのか?
でも一応王族の血は『記憶継承』の能力が現れやすいはずだろう?
……そ、それすらも上回るドジなのか…?
それもうドジの一言で片付けられないんじゃ…。
なんかの呪いなんじゃねーの…?

「ん? 義兄さん、なんなん、その訝しげな顔……。はっ! …わ、わたしじゃないよ!」
「あ?」
「え、いや、だから…今日のお昼のデザート…ずんだマカロンの最後のひとつを食べたのは…」
「いや、あれはお嬢様たちのであって使用人のお前が食べるなよ。そもそも!」
「あうちぃ!」

ったく、お嬢様たちが甘やかすから!
最近普通にスティーブン様の横で一緒に弁当食ってるし。
使用人は主人とは時間をずらして主人の見えないところで食べるべきだろう。
少なくとも俺はそうしている!
だというのにこいつときたら…。

「大体お前最近ちょっと調子に乗りすぎだぞ。スティーブン様が優しいからってタメ口になってるし…」
「うっ。あ、義兄さん、ほら、装飾品店だべ! い、急ごう急ごう!」
「コラァ!」

説教し始まると逃げるようにもなってきたし!
生意気な!

「義兄さん、義兄さん、今日お嬢様が着るドレスは何色なんだべさ?」
「今回はアイリス色に右肩に薔薇の刺繍を入れたものだ。…紫に映える色は…」

まあ、時間もないからさっさと用事を済ませよう。
ネックレスの飾られた棚を一通り眺めて紫のドレスをより際立たせられるようなものが好ましい。
その場合は反対色がいいはずなのだが、男の俺は今日のドレスが映えればどれでもいいとすら思ってしまう。
だから適当に緑色の石が埋まったネックレスを手に取る。

「義兄さん! お嬢様にはこっちの色だべ!」
「え?」

マーシャが珍しく強めに主張してきたのはピンク色の小鳥のネックレス。
ああ、確かに可愛いな〜。
お嬢様の胸元を飾るところを想像すると、うん、いいかもしれない。

「すみません、先日こちらでブローチを購入したのですが…………」

店主が近付いてきたので事情を話し、このネックレスと交換できないか交渉してみる。
すると、マーシャの選んだこのピンクの小鳥のネックレスはブローチの倍の値段。
交換どころか差額分支払う事になった。

「………まさかのピンクダイヤ…」
「ご、ごめんだべさ…」
「いや、もういいけどな…」

この世界でもダイヤは高級だ。
だが、多分こっちの世界の方がより高額。
ピンクダイヤなんて王族や公爵家レベルでないと買えないものだ。
幸い、マーシャの選んだネックレスのピンクダイヤは質のそれほど良いものではなかったのと、店主が「いやぁ、お嬢ちゃん可愛いね! 女神ティアイラス様に愛された金髪青眼の娘に女神祭の日に買い物してもらえるなんて…これは女神様のご加護が…以下略」という事でだいぶ値引きしてもらえた。
…こいつの容姿がこんな形で役立つとは。
連れてきてよかったかも。

「お嬢様喜んでくれるとええなぁ!」
「そうだな」

普通にドレスの装飾品として渡すけどな…。
俺たちが買った物は所詮キャッシュバック。
誕生日プレゼントなんておこがましいのだ。
…せめて俺たちの選んだものがお嬢様をより美しくさせることが出来るのなら、それは使用人冥利に尽きるが…。
それだと結局俺たちが嬉しいだけだ。
誕生日に喜んでもらうには…むむむ。

「そういえば義兄さん、お嬢様が帰ってきたらケーキ食べたいって言ってたさ。ドレス着る前は甘い物食べらんねーから…」
「分かった。とびきりヤバいやつ作っておく」


でも気合入れすぎてとびきりヤバい大きさにならないように気をつけなければ。





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