うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。

古森きり【Twitter@2kag5fb1】

恋愛小説好きたちと俺


今日はプリンシパル区の町に、女神祭でお嬢様がお召しになるドレスや靴を取りに行く日。
生徒ではなく、リース家の執事見習いとしての仕事だ。
本来ならこんな所用は俺1人でも別に構わないのだが…。

「ああ…『竜殺しと斧姫』、ついに発売ださ〜! 楽しみだべなスティーブン様!」
「はい! ヴィンセントが町に行く用事があって助かりました」
「いえ、スティーブン様とマーシャだけでは色々と心配でしたから」
「?」
「?」

自覚ないんかい。
もっと客観的に自分たちの容姿を考えてくれ。
美少女令嬢と、美少女メイドのコンビだぞ。
生物学的に男2人と女1人ではあるが、スティーブン様は女子生徒の制服を着たただの美少女だ。
こんなの2人だけで街を歩かせていいと思うか?
10人中10人「危ない」って言うぞ。

「迎えに行きますので、本屋で待っていて下さい? 絶対に2人で出歩かないように! もし本屋の外へ出ようものなら、明日以降昼食におかずを作って差し上げませんのでそのつもりで」
「ええ ︎ そこまでですか ︎」
「いや〜! 義兄さんやるって言ったら絶対やる!」
「やるに決まってるだろ。だから俺の用事が終わるまで2人とも本屋で待っている事! 分かりましたね?」
「は、はい」
「…ふぁーい…」

これだけ釘を刺せば大丈夫だろう。
それに、本屋に送ってやれば急にテンションだだ上がり。
しばらくは勝手に時間を潰すだろう。
というか、この世界の恋愛小説ってなんで題名がどれも物騒なんだ…?

「それとマーシャは余計な買い物しない事。スティーブン様もマーシャを甘やかさないでください」
「ぶ、ぶーぶーっ!」
「あはは…分かりました…気をつけるね」

と、2人を本屋に置いて俺が向かったのは酒場の多い区画。
ローエンスさんに教わった“執事”が特別な“仕事”をする場合に利用する『便利屋』が仕事の依頼を受け付けている場所。
なかなか町に来る用事もないし、急ぎの訳でもないから後回しにしていたけど…。
描いてもらった地図は簡易なもので分かりづらい。
しかし地図よりも行き方にコツがいるって言ってたな。
ええと、この酒場と雑貨屋の間を通り、家と家の隙間にある木箱を登り屋根に上がる。
赤い屋根を風見鶏のついた屋根の方向へ進み、真下に古井戸が見えたら降りる。

「…………」

ここまででも相当ヤバイとは思っていたが、次の行き方の指示は、比較にならんヤバさだな。
この古井戸を、降りる。
覗き込むと水は枯れていて、石畳のような地面が見えていた。
まあ、この程度の高さなら…。

「…!」

成る程。
『記憶継承』や名家の執事家系の者でなければ今までの道程もこの古井戸を降りるのも無理だな。
古井戸の縁に足を掛け、よいせと飛び降りる。
ヴィンセントの身体能力じゃなけりゃ10メートルはあるこの古井戸を飛び降りるなんて無理だった。
ふむ…井戸の底には2メートル程の横穴。
人が1人通れる広さ。
真上からでは分からない…か。
真っ暗なそこをまっすぐ進むと…木製の扉。
ノックは5回。

コン、コン、コン、コン、コン。

「…開いている」

男の声。
結構若いな?
扉を開くと、予想以上に広い部屋がそこにはあった。
きちんと石で覆われた床と天井と壁。
壁には本棚や燭台が並んでいて、地下の割には明るい。
右手に来客用のソファーとテーブル。
中央の奥には庶務机らしきもの。
左手にはもう1つ扉まである。
で、迎えた声の主はグレーのマントで全身を覆い、同じ色の布で顔も覆った背の高い男。
…多分、男。
声は男だが、ここまでぐるぐる全身隠されると断言できないかも。

「初めて見る顔だな。ここの事は誰から聞いた?」
「義父(ちち)からだ。ある家の執事をやっている。少し厄介な仕事もここに来れば完璧にこなしてくれると聞いた」
「座りな」

ぶっきらぼうに右手にあったソファーに促される。
何枚も布が貼り合わせてあり、継ぎ接ぎだらけのボロボロ。
あるだけ良しとしろ、って感じだな。

「金は」
「これで」

口頭でローエンスさんに必ず前金が必要だと聞いていたので用意はしてきた。
前金は依頼の内容に関わらず均一。
依頼の内容で、残りの金額が変わる…らしい。
俺に用意できる金額ならいいんだが…。

「………確かに。…依頼内容を聞こう」
「エレザという老婆とマーシャというリース家のメイド見習いについて調べて欲しい」
「具体的には?」
「マーシャという娘の出生…出自が知りたい。…荒事は勘弁してくれ。穏便にな」
「………承った。残りは依頼の報告の際に金額を指定する」
「分かった。頼む」

ソファーから立ち上がり、出入り口の扉に向かう。
その際に振り返って見た便利屋の目元を見て、大体察した。

「…あの子は…、…いや、元気ならいいんだけどな」
「! ………。…………ああ、ピンピンしている」
「そっか。そういえば、子猫も元気だったよ。立派に倉庫番やってた」
「…………そうか…」

木製の扉を開いて、真っ暗な道を戻る。
そうか…亜人たちはこうやって暮らしていたんだな。
王都に普通に住んでいたわけだ。
この辺りも『フィリシティ・カラー 〜トゥー・ラブ〜』で描かれているんだろうか?
続編もやっときゃ良かったな…。
なんにしても、王都で長年『裏仕事』で重宝されてきた便利屋が…亜人族の生業だったとは。
お前も大変だな、クレイ。



さて、と。
気を取り直して本来のお仕事をこなすとしますか。
まずはあのクソ面倒な道のりを逆戻りして、大通りに出る。
そこから最短ルート、呉服屋でドレスを受け取りお金を支払い、靴屋で靴を受け取り…装飾品もそろそろ新調したいなぁ。
毎度同じでは他の貴族令嬢に舐められてしまう。
とは言え俺が選んでもお嬢様は気に入るかどうか……………あ、そうだ。




「お待たせいたしました。お目当ての本はありました……か…………」

一路本屋に戻る。
人通りの少ない大通りから少し逸れた、川沿いに近い道。 
しかしアミューリア学園が側にあることと、貴族が利用するだけあってなかなか立派な本屋がそこには建っている。
本屋と言うよりは古書堂のようにも見えるその店は、二階建てで天井まである本棚で埋め尽くされていた。
多分、古本が大多数なんだろうなぁ。
俺の前居た世界と違って、貴族や商人くらいしか本なんて積極的に読まないし。
その中でも新刊の類は店主のいる、所謂レジ付近の棚に置かれる。
なのでマーシャとスティーブン様はそこに居るだろうと…覗き込んでみたのだが…。

「あ、義兄さん!」
「………その本の山は?」
「あ、ええと…店主にしばらくここで待つように言われたと話したら、古本のコーナーから色々貴重な恋愛小説を持って来てくれて…」
「こんなに可愛らしいお嬢さんたちを退屈させられませんからね。はっはっはっ」
「…………」

カウンターの上に山積みになった本。
うへぇ、あれ全部恋愛小説なのか…。

「全部買ってしまいました…」
「買った ︎」
「えへ…」
「えへではなく!」
「今後ともご贔屓に!」

カモられとる ︎

「スティーブン様、わたしにも読み終わったら貸してください!」
「はい、勿論ですっ。たくさんお話ししましょうね!」
「はーい!」
「…………。…スティーブン様、購入されたのはいいのですが…どうやって寮まで運ぶんですか? …その、こう言ってはなんですが、寮のお部屋にあった本棚は埋まっておいででしたよね?」
「え?」

え?
まさか、何も考えずに買ったのか?
俺は何度かスティーブン様のお部屋に入れてもらったことがある。
その時に見かけたスティーブン様のお部屋の本棚は、上から下までびっしり本が入っていた。
とてもカウンターの上に積み重なっているぱっと見ただけでも30冊はありそうな恋愛小説の山は収まらないと思う。
キョトンと俺を見上げて、それから本を見て…考え込むスティーブン様。
そして、照れた笑いを浮かべる。
可愛い。

「…家具屋に寄っていいでしょうか…」
「………申し訳ございません、後日こちらの家の使用人が取りに伺いますので、購入した書籍は取り置きしていただいてよろしいでしょうか」
「はい! 勿論! 毎度ありがとうございます!」

取り置きの手続きをしてもらい、少し頭を抱える。
俺はお嬢様のドレスを持っているので一刻も早く帰りたいんだが…。
シワになるような生地ではないが余り長い時間小脇に抱えている訳にもいかないし…マーシャに持たせようものなら…………うう、考えたら寒気が!

「わあ、ローナ様のドレス…また紫系の薔薇の刺繍があしらわれたものなんですね! きっとお似合いです」
「はい…。そういえばスティーブン様は今度の女神祭の舞踏会は…どうされるんですか」
「勿論ドレスを、と言いたいところですが…舞踏会ではマリー様にお会いしますから、タキシードにしようかと…。王誕祭は生徒会のお仕事で参加できませんでしたからね…」
「え、そうだったんけ?」
「ええ。レオ様といつも手伝いに来てくれていたヴィンセントが公務で居なかったんです。エディンとライナス様も休み前のテストの点数が悪くて補習だったんですよ。それで私が代表で生徒会の仕事を…」
「申し訳ございません。そうと知っていればお手伝いに行っていたのですが…」
「とんでもない。生徒会の事はレオ様に頼まれていましたし、ローナ様を付き合わせるなど紳士のすることではありませんから」

かっこいいスティーブン様!
見た目は完全に美少女なのに!
誰だメスティーブンとか『受けキャラ』って言ったの!

「あ、そうだ。スティーブン様にご相談が…」
「まあ、なんでしょう?」
「このドレスに合う装飾品なども購入して行こうかと思っているのですが、見繕って頂けませんか? 私ではよく分からなくて」
「はい、私で良ければ喜んで」

…レオがマリアンヌ姫のドレスやなにやらでスティーブン様に相談していた理由が今ものすごく理解できてしまった。

「その代わり家具屋に本棚を買いに行くので付き合ってください」
「喜んで」
「わたしもー!」









********



夕方。
スティーブン様は新しい本棚を後日業者に寮まで運んでもらうことにした。
本日購入した山のような恋愛小説は、その本棚到着後となるだろう。
俺が取りに行ったドレスと靴はマーシャにお嬢様へ届けてもらう事にして…そしてスティーブン様に相談しながらマーシャとともに選んだ薔薇のブローチ。
スティーブン様の提案で、このブローチはお嬢様のお誕生日にプレゼントとして渡す事にした。
使用人の俺たちが物を贈るなんてただのキャッシュバックだし、雇い主への失礼に当たると思うのだが…。

『ローナ様はそんなことで怒りませんし、絶対喜ばれますよ』

と、あの後光でも背負ったような愛らしい笑顔で言われると…なんとも逆らい難い。
だと良いのだが。

「あ…日記、書いておくか…」

夕飯を作りに行く前に、と机から日記を取り出す。
女神祭が終わると、あっという間に年末だな。
この世界にクリスマスなどないが、それに似た行事として『星降りの夜』がある。
特別城で舞踏会が執り行われるとかではなく、単純な国民行事。
あれだ、乙女ゲームでありがちな…『告白イベント』の日だ。
巫女はまだ召喚されていないが、確かゲーム中、巫女が召喚された日にちが『星降りの夜』だったはず。
『星降りの夜』に好感度や信頼度が一定を超えて、恋愛イベントを全てクリアしていると相手から告白…あるいは巫女から告白することができる…らしい。
俺は誰とも結ばれないノーマルエンドなので、なんか一人で屋根の上に登って『星降りの夜』の夜空を見上げていた気がする。
…今考えるとなんて悲しい光景だったんだろう……十代のうら若き乙女が恋人たちの聖夜を寒空の下、屋根の上で独りで過ごすって…………すまん、巫女…。
…だが『星降りの夜』の前にレオの誕生日だ。
レオの誕生日は12月12日。
ここでも心がモヤッとするお知らせがあるのだが、未だにレオの誕生日にお城でパーティーが開かれる予定は告知されていない。
昔は王子主催という事でお茶会などが開かれていた。
しかし昨今はマリアンヌ姫や戦争のために国家予算が嵩み、レオは誕生日パーティーを自粛するようにしたらしい。

「解せぬ…」

俺が腹を立てても仕方ないんだけどな!
…補足。スティーブン様は4月、ライナス様は6月が誕生日。
来年はケーキでも作ってお祝いさせていただこう。
…仕方ないからエディンも。
あいつは5月だったっけ?
俺は誕生日が分からないので、お嬢様は俺を正式にリース家に迎え入れた2月20日を誕生日という事にしてくださり、ゲームのヴィンセントプロフィールも確かそうなってた気がする。
ケリーはその後の3月だな。
あいつもついに15歳か〜…。
4月にはアミューリアに入学だな…早いものだ…………。

「…………ん、入学……」

ケリーが入学。

「……………………」

うーんと、確か…男子寮、女子寮共に、四年生が卒業して空いた寮棟の建物に新入生が入ってくる。
棟ごとに同様の設備…食堂や遊戯室など…が揃っている為、別の学年の生徒が寮の中で会うことはない。
因みに棟は各学年ごとにあるが、使用人宿舎は一つ。
こちらも一応男女で棟は分かれているし、貴族の数より人数が多いことも想定されているので地味にだだっ広い。
どこの大型ホテルですかぐらいだ。
その使用人宿舎をど真ん中に、貴族様の男子寮、女子寮が4棟建ち並んでいる。
あれ、待って。
じゃあケリーの世話って誰がするんだ?
旦那様付きの執事であるローエンスさんが来るわけないし…。
………でもあいつ、爽やかな笑顔で「自分のことは自分で出来るぜ」って親指立てて言いそう…。
まあ、そうなんだろうけど…そうじゃねーんだよ…。
年末年始は余程遠くから来ている生徒以外、実家に帰るのが定例。
その時にローエンスさんに確認しよう。




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