うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。

古森きり【Twitter@2kag5fb1】

ミケーレ降臨【1】


マリアンヌ姫の誕生日から2日後。
1日の振替休日を挟んだ、登校日。
入学から1ヶ月という、その日だ。

「おはようございます、ヴィンセント」
「おは、……………おはようございます…?」

男子寮の食堂は大変なことになっていた。
というか、なった。
俺は誰よりも先に起き、まず使用人宿舎で自分の朝食とマーシャ、お嬢様の朝食、弁当を作り、仲良くなったメイドさんにお嬢様の食事を女子寮へと持って行ってもらう。
マーシャのは置きっ放しにして、男子寮に戻ると朝食を食べる。
そういう生活が形成されつつあった。
しかし、その日は朝っぱらから事件が起きていた。
男子寮に絶世の美少女が舞い降りたのだ。

うん、どうしてこうなった?


「…………スティーブン様、その…スティーブン様ですよね?」
「はい」
「何故女生徒の制服を着ておられるのですか?」

そして頭には華やかなカチューシャ。
メイクもナチュラルだが施されておられる。
ああ、まごう事なき美少女だ。
食堂に来た男子生徒という貴族のお坊ちゃまたちが壁際に寄り集まるのがよくわかるレベルの輝く美少女だ。
どういう事だ。
どうしてこうなった?
俺の疑問は満面の微笑みで「はい、これが私の答えです」という返答にて完結した。

「女の子にも男らしくもなれないなら、私らしくなろうと決めました。もう、着たいものや、やりたいことを我慢しないことにします!」
「…………。成る程。…………。いいと思います」

うん、まあ、いいんじゃん?
びっくりはしたけど。
要するにスティーブン様はあれだろう?

男の娘にジョブチェンジしたんだな?

「…朝食、お作りしますか?」
「わあ、いいんですか? 嬉しいです、ヴィンセントの料理を朝から食べられるなんて…!」



…『スティーブンルート』…意図せず破壊終了。
お嬢様の救済には、特に変化なし…。

だが、当然スティーブン様の変化は嵐を起こす。


「…………」
「…………」
「おはようございます、エディン、ライナス様、ローナ様」
「おはようございます、スティーブン様。…今日は随分お可愛らしいお姿ですわね」
「はい、もう我慢しないことにいたしました! 私…実は前世が女性で…男として生きるのが辛かったのです。でも、もう吹っ切れました。今後は我慢いたしません。お父様も良いよって言ってくださいましたし!」
「まあ、そうでしたの。良いと思いますわ。とてもよくお似合いですもの」
「ありがとうございます、ローナ様!」

…………さすがお嬢様である。
だが、その後ろでは変わり果てた幼馴染に石のように固まるエディンと、顔を真っ赤にしてスティーブン様に見惚れるライナス様がいる事を我々は忘れてはならない。
…さ、流石の俺もスティーブン様のこの変化を目の当たりにしたエディンの気持ちを思うと居た堪れないな…。
幼馴染ということで言うならレオハールもだ…。
レオハールは、大丈夫か?
今から不安しかない。

「はーい、みなさん席についてください」

教師の声に呆然としていたクラスが慌てて各々席につく。
だが、席についたは良いものの…これもまた予想だにしない事態。
担任教師じゃない教師が教壇に現れた。
しかも、そいつは…!

「おはようございます。このクラスの担任の先生がおめでたとなりましたので、本日からわたくし、ミケーレ・キャクストンが代理担任となりました。よろしくお願いいたします」

ほ、ほわぁぁぁ????

「それでは出席を確認しますね…」

…おめでた?
今おめでたって言ったか?
う ち の 担 任 は 男 だ ぞ ?
もう少しまともな嘘つけねーのか… ︎

「ふふ、ヴィンセント・セレナードクン」
「…は、はい…」

なんで出席の確認で含み笑いが入る?
しかも俺の時だけ!
…あと、視線!
視線が俺を一直線過ぎる!
他の生徒の時まで俺ばっかり嬉しそうにガン見してくるなキモい!
いくら顔が良くても下心…否、野心ダダ漏れすぎるだろう ︎

にこ!

笑いかけるなぁぁ!
せ、背筋が! 背筋に悪寒が…!

「随分お顔が整っている教師ね…」
「素敵…」
「私たち、ラッキーじゃありません?」

おおおおい!
騙されてる! ご令嬢たちが騙されてるーー!
確かに隠れ攻略対象としてウェンディールキャラでは最年長の大人の色気ムンムンイケメンだと思うけど、中身はただの研究オタクでしかも方向性が危険度マックスだぞー!
…クッ…大人の色気でクラスの女子は騙せても俺は騙されない。
なにしろさっきから……一度も俺から視線が外れないんだからなー!

『極高』

…………絶対、あいつの狙いは…俺だ…!







********



カーン、カーン。
二時間目が始まる少し前、レオハールが登校してきた。
ガヤガヤとしていた教室内は、レオハールが入ってくるなり異様な静けさに変わる。

「おは、え、なに?」

その空気に、レオハールが怯えつつ自分の席へと鞄を置く。
さて、どんな反応をするんだろう…スティーブン様が近づいた。

「おはようございます、レオ様」
「……。…おはようスティーブ。うん、いいんじゃない? とてもかわいいよ」
「えへへ…ありがとうございます」

…………さすが王子…。

「ま、待てレオそれだけか? 他に言うことあるんじゃないのか… ︎」

同じ幼馴染でもこの反応の差。
エディンが立ち上がって詰め寄るが、レオハールはいつもの笑顔。

「え〜、別にないな〜。僕はスティーブが前世女性だったの知ってたし」
「は、はあ ︎」
「エディンはそういう繊細な事がわからないから、私はレオ様にしかお話ししてなかったんですぅ〜」
「おまっ! せ、性格も変わりすぎだろ ︎」
「散々男の汚い部分を見せておきながら、優しくしてもらおうというのは虫がいいよエディン…」
「うっ」

ご、ごもっとも…。

「そうだ、レオ様! なんだか、今日から担任の先生がミケーレ先生という方に変わりましたよ。前の先生はおめでただそうです」
「? え? うちの担任男じゃなかった? 想像妊娠?」
「…………。い、言われてみれば…!」
「今気付いたのかよ…」

あ、良かった…あの下手な言い訳が通用したのはスティーブン様だけだったか…。
…通用するのもどうかと思うけど。

「あの教師、ずっと貴方を見ていたわよね」
「う…は、はい…」

お嬢様も気が付いていたのか。
まあ、俺の前の席はお嬢様だからそりゃ気付くよな。

「ローナ嬢、ヴィンセント、ちょっといいか?」
「はい、ライナス様」
「どうかなさいましたか?」
「………どちらか…せ、席を代わってもらえないだろうか…」
「「??」」

え?
席を替える?
いや、一応実力テスト順だぞ?
レオハールの真後ろの席はクラス2位。
誉れ高い席のはずだ。
それを変えろって…。

「リ、リセッタの視線が気になって集中出来ん…! 別に俺を見ているわけではないと分かっているんだが…! い、息遣いや布ズレの音まで気になってしまって! 俺は、一体どうしてしまったんだろう ︎」
「…まあ、ライナス様…それはきっと恋ですわ」
「お嬢様 ︎」
「こ、恋 ︎」

なにを言いだされるんですか ︎
確かにそんな気はしていたし、あのスティーブン様では道を踏み外す者が出てもおかしくはないと思っていたけれど!
そんな積極的に禁断の扉に誘ってしまうのはいかがなものかと ︎

「わたくしの席はスティーブン様の真後ろ…そんな状態でスティーブン様の真後ろに座っては悪化します。ヴィニー、貴方が代わってあげなさい」
「え、嫌です。お嬢様の前に座るなど執事としてあるまじき反逆。死んでもお断りします」
「…そ、そんな! 頼むヴィンセントっ!」
「…………。ではこうしてはどうでしょう? お嬢様がライナス様と交換し、ライナス様が私と交換…そうすればライナス様は一番後ろのお席になりますが、スティーブン様の真後ろは避けられます」
「それで頼む!」

実力テストの席替えの意味がねぇな。
と、思わないでもないが…。

「……………………」

真っ赤な顔で狼狽えまくるライナス様を見ていると可哀想になる。
確かにこのままではライナス様が道を盛大に踏み外してしまう気が…!

「え? ローナがライナスと席替えしたのかい?」
「はい、わたくしの身長では黒板が見えづらく…」
「それなら僕とも交換する?」
「大丈夫ですわ、角度的に問題なさそうです」

…それにレオハールとお嬢様を物理的に近付けられたしな…。
…………エディンのやつとも近づいてしまったが…。

「ヴィンセントはローナ様とお席を交換したんですか?」
「はい、ライナス様は私よりも背が高いので僭越ながらお願いいたしました」
「……ヴィンセントが私の後ろの席だなんて、少し緊張してしまいます…。でも、すごく嬉しい…! よろしくお願いしますね」
「はい」

……そうか、俺の前の席がスティーブン様になるのか…………そうか…………気を引き締めねば…。

「…あ、そういえばヴィンセントはクラスで成績が5位ですよね」
「え? ああ、そうでしたね」
「生徒会への立候補はどうするんですか? 私はお父様の跡を継ぐつもりなので、入るつもりなのですが…」
「生徒会…、……そういえばそんな話もしていましたね…」

しかし具体的にどういうものなのかがわからないんだよな。
出世街道というのは分かったんだが、貴族の出世街道に俺は一切興味ないし。

「ローナ様は、勿論立候補されるのですよね?」

と、前の席に話を振るスティーブン様。
お嬢様は女子で成績1位。
クラス内では4位。
…もう一度言うぞ、女子で1位。
スティーブン様があまりにも女子過ぎて自分で確認して変な感じになるけど。

「まだ考えておりますの。国のお仕事にはあまり興味がなくて…」
「そうなのですか? エディンなんかと結婚して家庭に入られるより、エディンとの婚約を解消して研究者などになられた方がローナ様とこの国に有益であるよう感じます」
「おい」

エディンが思わず突っ込む。
スティーブン様、容赦がなくなった。
だが、確かにお嬢様にはその方が向いている気もするな…。
なによりエディンと婚約解消。

「素晴らしいお考えですスティーブン様」
「ほら、ヴィンセントもこのように仰っておりますし」
「ですが女生徒は生徒会に歓迎されないとも聞きますわ」
「そうですね…その傾向があると聞きますけれど…、…でもローナ様と一緒だと心強いですし…」
「…………」

あのお嬢様が返答に困惑して黙り込んだ。
き、気持ちはわかりますすごく。

「ローナ嬢もそうだが、お前はどうするんだ? ヴィンセント」

真後ろの席となったライナス様から冷静な突っ込み。
そうだ、俺も権利があるんだっけ。
むしろお嬢様より平民出の俺の方が相応しくないな。
つーか、興味ねぇし。

「ライナス様はやはり入られるのですか?」
「無論だ。公爵家子息としてむしろ必須条件だな」
「成る程」

…………因みに俺が5位に食い込んだことにより弾かれたエディンはクラス内6位である。
まぁ、あいつはいいか。

「具体的にどのような作業があるのでしょうか」
「恐らく一年のうちは雑務だろう。俺も詳しくは知らないが、アミューリアの生徒会は一つの組織として確立していて国の一部扱いだそうた。学園とこの間行ったプリンシパル区はアミューリア学園生徒会で運営管理が行われていると聞くぞ」
「そうなのですか…」

想像以上に大きいなそりゃ…。
そりゃ各クラスから五人も候補を立てるわけか。

「…私はご遠慮願いたいですね…お嬢様が入られるのならお嬢様の犬…執事としてお仕事をお手伝いさせて頂ければとは思いますが」
「そうか? お前が辞退すると次席のエディンに権利が移動するが…」
「……それはまた悩ましいですね…」

というか、そもそもゲームの時に生徒会云々なんて一文字も出なかったよな?
キャラのルートに入っていたらそうでもなかったのか?
でも攻略サイトにもそんな事書いていなかったような…。
しかし、何がお嬢様の破滅エンドに影響するかわからないしなー…。
…因みにお嬢様は…。

「入りましょう、ローナ様」
「ローナが一緒だと僕も嬉しいな〜」
「……はぁ、分かりましたわ…」

……前後からスティーブン様とレオハールにお願いされたらそりゃ逆らえないよな。
これでレオハールとお嬢様の距離がもう少し近付けばいいんだが…。
というか、レオハールがこれでお嬢様に対する気持ちをもう少し恋愛方面に成長してくれればいい。
あいつ、まだまだ無意識的にブレーキかけてる感あるからな。

「…………」
「…………」

レオハールとお嬢様の関係を進めるにも、そういえばもう一つ障害があったな。
エディン・ディリエアス。
じとりと俺を睨んで、なにか言いたけだ。
いや、言いたいことはよく分かる。
俺に成績を抜かされたことが今更ながらに響いて来たんだ。
ふ……いいだろう。
立ち上がり、エディンの横まで歩いていく。

そして

「エディン様、お嬢様との婚約解消…生徒会権利でどうですか」
「お前、人を散々クズ呼ばわりしてるがやってることと言ってること相当ゲスいぞ」





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