うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。

古森きり【Twitter@2kag5fb1】

お嬢様とマリアンヌ姫生誕祭【後編】



夜。
逃げる事もままならん貴族たちと、アミューリア学園の生徒だからという理由で俺も…正装で城へと上った。

「…今からでも燕尾服に着替えたいです…」

使用人に溶け込みたい。

「心配しなくても貴方は挨拶しなくていいわ。姫も興味ないでしょう」
「だと良いのですが…」
「あら?」
「?」

入場後、アミューリアの生徒だけではなく、かなり多くの有力者たちが来場しているのにより鬱々とした気分になる。
成る程…。

「こんばんは、ディリエアス公爵様、公爵夫人様。お久しぶりでございます」
「おお! ローナ嬢…! これはまた、大変にお美しくなられたなぁ!」
「まあ、本当…! …今夜はまたごめんなさいね…。急にお腹が痛いと言い出して…あの子…」
「いえ、気にしておりません」

…姫の誕生日パーティーだというのにエディンの奴が居ないのは、両親を代わりに来させたからか。
せこい…!
せこい上に最低か!
…今日も一応舞踏会形式…そう、本来ならばお嬢様は婚約者にエスコートされるべき!
またもバックれやがったのだ、あのクズは!

「…あら? そちらは? もしかして貴方が弟君のケリー様?」
「いえ、わたくしはローナお嬢様の執事を務めさせて頂いております、ヴィンセントと申します。たまたまわたくしにも『記憶』がございまして、現在はアミューリアに通わせていただいているのです」
「まあ! そうなの⁉︎ …では、息子と同級生? …あ、あの子は、学園でちゃんとしているかしら…?」

おっと、なんという難易度の高い質問!
心配そうなディリエアス夫人。
ハンカチを握り締めて、すでに目許には涙まで!
…………クッ…。

「はい、授業は(まあ、だいたい)出ておられますし…(主に女性の)同級生の方々とも親しくされておられるのをお見かけいたします」
「…そ、そう…よ、良かったわ…」

恐ろしく盛大に安堵の溜息を吐かれる夫人。
その為か、よろけて公爵に支えられる。
…こんな倒れそうなほど心配しているご婦人に、真実を告げる勇気は俺にはない。
おのれ、エディン・ディリエアス…!
父親どころか母親にまでこんなに心配を掛けて…!

「あの子は小さい頃、とても体が弱くてね…部屋から出られなかったの…っ」

あれ、俺がレオハールに聞いた話と違うぜ?
レオハールは「エディンはよくお城に忍び込んで僕と遊んでくれたんだよ」…と。

「今もよく、お腹が痛い、頭が痛いと言って…寝込むのよ…! 今夜も…っ。うっうっ…」

100パー仮病です奥様。
昨日ピンピンしてましたから。

「何か重い病気なんじゃないかと、国中の医者に診せたのに…あの子が体調を崩す理由はわからないままなの…!」

でしょうね。

「代われるものなら代わってあげたい…! う、ううう! ううっ…可哀想なエディン…っ」
「ああ、お前…姫の誕生日パーティーだというのに…。奥の部屋を借りて休みなさい」
「…うっ…すみません、旦那様…ううっ」

…城の使用人に奥方を任せて、深々とため息をつきながら汗を拭うディリエアス公。
なんと痛々しいお姿…。

「と、妻はすっかり愚息の仮病を信じ込んでいてね…」
「心中お察しいたしますわ」
「…や、やはり君からエディンに注意しても…変わらんかね…?」
「…学園内でも盛大に避けられておりまして…。小言ばかりですと慣れて効果もありません」
「…はあ…」

公、パーティー、今パーティーです。
貴方まで倒れそうにならないでください。
…おのれエディン…!
こんなにご両親を苦しめて…!
今のこのお姿を見せてやりてぇ!

「どうしたらいいのか…。我が家にはあの子しか跡取りがいないのに…。跡取りの為に養子を迎えるなんて言ったら、妻が駄目になってしまいそうだし…はぁ…」
「…一度きちんとエディン様とお話をなさってはいかがでしょうか」
「う、うん…それが一番なのは分かっているんだが……どう声をかければいいか分からなくて…」

……。
なんでお嬢様が子育て相談に乗ってるんだろう?
ああ、でも分かるな〜…俺もエディンくらいの歳の頃は親父となに話していいかわかんなかったもんな〜…。
兄貴とばっかり話してて、親父と喋った記憶がねぇや。
それからは成人して、酒を一緒に飲んで…ようやく打ち解けたんだよな…。
………親子関係が難しいのって異世界でも変わらないんだな…。

「ヴィニー」
「え?」

トン、と背中を突かれる。
それに、俺の愛称。
これを呼ぶのはお嬢様と…。

「え? ケリー様?」
「ヨッ、約1ヶ月ぶり」

え、ケリー⁉︎
なんでここに…!

「どうしてこちらに…」
「招待状が来ててな。義姉様とお前を驚かせようと黙ってた」
「………………」

この悪戯小僧め…。
中身はほんっと成長しねーな!
というか…。

「ケリー様が来るのを知っていれば、お嬢様を一人で入場させずに済んだのですが?」
「は?」

一応、俺も今日は来客の扱いなので俺がエスコートさせていただいたけれど!
お嬢様が本来ならかく必要もない恥は最低限回避できたものの…執事見習いにエスコートなんていくらアミューリアの生徒とはいえグレーはグレー。
疲れまくった顔のディリエアス公の側でこの話はできない。
ケリーの腕を掴み、少し離れたところで事情を話す。
みるみる歪むイケメン顔。

「………まだボコってねーのかよ?」
「成績では叩き潰したんだが…それで改善されるような性格してなかったんだよ」
「ディリエアス公爵はいい人なのにな…」
「ああ…」

ケリーが俺の肩に腕を回し、顔を近づけて話す。
…癪だが、こいつまた背が伸びたな…。
顔立ちもますます端正なイケメン顔になってきた。
顔はやや野生味が残るが、しかし、お嬢様の躾の賜物で外面は徹底して紳士。
趣味は乗馬などのアウトドア。
家柄も国では一番の伯爵家。
…これは、モテるな。
というか…招待状ってとは…。

「そんな事よりどうして招待に応じたんだ? 意味がわからないわけじゃなかったんだろう?」
「まぁな。でも義姉様に会いたかったし」
「このシスコン…」
「うるせー、お嬢様馬鹿」
「褒め言葉だな」
「俺もだ」

「ケリー? 貴方、ケリーではなくて?」

振り返る。
ディリエアス公への臨時育児相談会は終わったらしい。
無表情だが義弟が来ていることに驚いているのは分かる。

「…どうしてここに?」
「招待状を頂きましたので。義姉様とヴィニーにも会いたかったから来てしまいました」
「…まあ…」

あの無表情のお嬢様が眉を寄せた!
頰に手を当てて…これは本格的に困ってるやつ!
それに気付いたケリーも頰を掻く。
まさか、こんなに困らせるとは思わなかったんだろう。

「…貴方はリース家の跡取りですのに…」
「ご挨拶だけで留めますよ」
「貴方にその気がなくとも、姫がその気になったらどうするのですか」
「…心配しすぎですよ、義姉様」
「…………」

分かる。
分かりますよ、お嬢様…。
そうですよね、こいつ、分かってませんよね、自分の容姿とスペックの高さ。
乙女ゲーのメイン攻略キャラなんだぜ?
普通に一定レベル超えとるわ。

「それにさっき四方地区の公爵子息も見かけましたよ。候補としてはあっちの方が上でしょう」
「!」

ライナスは知ってる。
アミューリアにすでに入学しているから、強制参加だ。
だが、ケリー同様他の公爵子息…ハミュエラ、アルト、ラスティは入学前のはずなのに…。
成る程、姫の誕生日にかこつけて呼び出したのか…。
地方区の公爵子息はこんな時でないとなかなかセントラルまで来れないからな…。
だが丁度いい、こっちは後輩と接点を作っておきたいと思っていたんだ。

「ケリー様、お嬢様、それは是非ご挨拶しておいてはいかがでしょう? 特にケリー様は、来年級友となられる方々でしょう?」
「…あー…」
「そうね、今のうちに顔を覚えていただくのも良いと思うわ。けれど、まず先に姫様へご挨拶よ」
「「はーい」」

ですよねー、分かってまーす。
お嬢様はたまたま入り口でディリエアス公とお会いしたから、挨拶しないわけにはいかなかったんですもんね。
だが、通常ならまず主催にご挨拶だ。
特に今回は誕生日パーティーだからな。
…ただ、でも、なんだろう…スッゲーモヤモヤする。


ーーーー『いいなぁ、お城でパーティ〜。私もいつかお城に入ってみてぇさ』


豪華なシャンデリア、豪華な食事や、煌びやかなこの空間。
祝福も、祝福の言葉も、国中から贈られるプレゼントも…全部、全部本当ならあいつが受け取るべきものなのにな。
それをさも当然のように享受する一人の少女。
宰相とレオハールを両脇に控えさせ、踏ん反り返る…………うげぇ…。

「うわ、なにあれ…ないわ」
「ケリー」
「ごめんなさい」

藍色の髪と瞳。
その髪をゴリゴリに盛り上げ、ありとあらゆる髪飾りを装着。
その姿はまるで数世代前のキャバ嬢。
派手で歳不相応な化粧。
その化粧でも隠しきれないそばかす。
ゴテゴテの装飾品を全身に纏い、指輪は全ての指にデカめの宝石が付いたものをはめている。
レオハールが俺たちと買い物に行った日に発注した靴やドレス、装飾品は一つも付けていない。
ドレスは最早俺の元いた世界で年末民放で放送される歌合戦最後の辺りに出てくる大御所レベルの物凄いやつ着てる。
え? なにあの子、あのまま浮くの?
誰も止めなかったのか?
レオハール…はいつも通り笑顔。
…あ…なんかもう笑うしかないっていう笑顔だ、アレ。

「こんばんは、マリアンヌ姫様。私はリース家のケリーです。本日はお誕生日おめでとうございます」
「ええ、ありがとう」
「同じくリース家のローナです。お誕生日、心よりお祝い申し上げます」
「ええ」
「リース伯爵家にお仕えしておりますヴィンセントと申します。本日はお誕生日まことにおめでとうございます」
「ええ………、……え? 使用人?」
「ああ、彼は珍しい平民出の『記憶持ち』なんだよ。僕の同級生なんだ」
「…ふーん」

レオハールが付け足してくれたおかげで、お姫様は納得したらしい。
王族の誕生日の挨拶は流れ作業。
終わったならすぐに後ろの方へと譲るのが一般的。
俺たちの後ろにも数人の若い貴族。
やはり。

「あードキドキした。アレに見初められたらどうしようかと思った」
「ケリー」
「ごめんなさい」

一言多いんだよなぁ、ケリー。

「分かるー。俺っちも挨拶ん時ビクビクしちったんもん〜」
「!」

ケリーの不躾な本音に便乗してくる第三者。
金髪の髪をこれまた一昔前のホストのような髪型に整えた、金眼の男の子。
その後ろには毛先が赤みがかった紺の髪の美少年。
ただし、こっちは不機嫌丸出しで隠しもしない。…こ、このキャラの濃さは…まさか…。

「ええと…」
「あ、ごめんご。俺っちウエスト区のハミュエラ・ダモンズ! あっちは〜」
「黙れ」
「コラ! ハミュエラ! アルト! 話はまだ終わっていないぞ! …む!」

ずんずん、人をかき分けてやってきたのはライナスだ。
あー、やっぱりな…。

「ローナ嬢…」
「こんばんは、ライナス様」

ササっと頭を下げ、軽い挨拶を交わすお嬢様とライナス。
昼間も会った上、流石に場慣れしている感の二人。
だが、場慣れならうちのケリーも負けていない。

「こんばんは、ご無沙汰しておりますライナス様。義姉がいつもお世話になっております」
「ん? ああ! ケリー君か! 半年ぶりくらいか? 久方ぶりだな!」
「…あの、そちらの方々は…ご兄弟ですか?」
「あ、いや…従兄弟だ」

ん⁉︎

「ウエスト区公爵子息、ハミュエラ・ダモンズと」
「よろでーす」
「イースト区公爵子息、アルト・フェフトリー」
「…………」
「サウス区公爵子息、ラスティ・ハワードだ」
「は、はじめまして、ラスティ・ハワードと言います」
「初めまして、ケリー・リースと申します」


ンンンンンっ⁉︎
いっ…、

「従兄弟?」
「ああ、俺の母は四姉妹でな…東と西と南に母の姉妹が嫁入りしたんだ」

ええええええええーーーー!
なにそれ俺知らねぇぇ!
そ、そんな設定あったのか⁉︎
ネタバレにも攻略サイトにも書いてなかった!

「まあ、そうですの…。ですが、良かったですわ…ケリーと級友となられる方々には是非ご挨拶をと思っていたところですの」
「オネーサマめちゃ美人さんですねー! ライナスにいにの婚約者さんとかですか〜?」
「ハミュエラ、礼儀正しくしろっ! ローナ嬢はリース伯爵家のご令嬢だぞっ!」
「ローナ・リースです。初めまして」
「初めましてヨロですー」

…………こんな奴だったのか…!
名前は知っていたし、攻略サイトでネタバレを見ていたが…想像してたのと違う!

ハミュエラ・ダモンズ。
ウエスト区の公爵家子息。
スポーツ万能で活発な性格。
反面勉強は苦手で、頭は悪くないのに文字や数字を見るなり寝てしまう特殊体質。
魔力適性は中。
乙女ゲーム『フィリシティ・カラー』の攻略対象の一人。2周目クリア後ラスティ・ハワードと共に攻略キャラに追加される。
…でも活発っつーか、陽気というか…ただのチャラ男じゃね?

「…アルト、お前も黙っていないできちんとご挨拶しないか」
「チッ…。…アルト・フェフトリー、です」
「初めまして、ローナ・リースと申します」
「私はケリー・リースです。以後お見知り置きを、ハミュエラ様、アルト様」

た、態度悪ぃ…。
…こいつが、アルト・フェフトリー。
イースト区の公爵家子息。
宗教学に興味を持つ毒舌変人。
人嫌いでヒロインにも最初は特に厳しい、ど定番のツンデレキャラ…。
魔力適性は中。
乙女ゲーム『フィリシティ・カラー』の攻略対象の一人。3周目クリア後例の変態教師ミケーレと共に攻略キャラに追加される。
ちなみに1周目クリア後に追加されるのがスティーブンとライナスだ。

「ケリー君は今年15歳だったか?」
「いえ、私は来年3月で15になります」

そっかー、ケリーももう15かぁ。
早いな〜…あの木登りが得意で馬に振り落とされそうになりながらも大爆笑していた悪ガキが15歳………俺と変わらん身長とこの大人っぽさで15?
洋風キャラ恐るべし…‼︎

「ではアルトとハミュエラと同い年か………さすがローナ嬢の弟君…うちの従兄弟とこんなにも違うとは…」
「えー、ケリーもかぶってるだけっしょ? そうなんでしょ?」
「なんのことでしょう?」

笑顔対応のケリーだが内心絶対イラついてる。
俺はハミュエラやアルトが登場する程周回してないから、ケリーがこいつらとどう学園生活を送っていたのか知らないんだよな…。
ただ、ケリーとこいつらは相性が悪い。
猫被ってる時にハミュエラの相手はかなり疲れそうだ。
や、やばい…なんか急にすごく心配になってきた…。

「あら? ではラスティ様は…」
「ラスティはその一つ下、だな?」
「は、はい…」

オレンジ色の髪に緑の瞳。
それを覆い隠すような眼鏡。
…成る程、定番眼鏡キャラ。
俺も嫌いじゃない、眼鏡キャラ。

「ラスティはタキシードすっごい似合わないよね!」
「うっ!」
「ハミュエラっ」
「ライナス兄さん、もう帰っていいか? 騒がしいところは嫌いなんだ」
「ひゅー、アルトの引きこもり〜」
「ハミュエラっ!」
「お前うるさいハミュエラ」

なんという自由人。
ライナスが完全に振り回されている。
でも、この年頃の男子ってこんな感じだよな…。

「お前たち、もう少し大人しくできないのか! 特にハミュエラ! …せっかくセントラルに来ているんだ、色々な方と話をしてくれば…あ、いや、ハミュエラとアルトは俺と一緒に行動しろ! おば様たちに言付かっている!」
「ど、どうせぼくはタキシードなんて似合いませんよ…こ、こういう場にいるのも烏滸がましい虫けらなんですから…そ、そんなのわかってるんです…ぼくだって来たくて来たわけじゃ…」
「ラスティ、しっかりしろ! ハミュエラの言動をまともに受け止めるな! いや、真面目なのはいいことだと思うけどな?」
「アルトアルト〜、あっちのタルト食べに行こー」
「一人で行けば」
「んも〜、そこは俺の名前をタルトみたいに言うな〜って突っ込まなきゃ〜。アルトノリわるーい」
「お前ほんとうるさい」

…………。

「……あの、ライナス様…その、それでは、わたくしたちはここで失礼いたしますわ、ね?」
「あ、ああ! また明後日学園で!」

明日は振替休日なのだ。
学園は明後日から。
…だから…明日はゆっくり休んでくれ、ライナス様…!





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